ジョジョの奇妙な冒険×推しの子   |黄金を継ぐ者《イレーデ・デ・ローロ》   作:春雨シオン

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 運命のカード、タロットだ……。これは君の運命の暗示でもあり、能力の暗示でもある。


 星のカード!


 名づけよう! 君のスタンドは――――



 『星』は閃き、憧れ、そして希望を暗示する、運命のカード





水淵神社 ―――その4―――

 アイが2人を隠してから少しした時。山小屋の中のアクアは、承太郎に電話をかけていた。

 

 

『もしもし?』

 

 

「出た! 承太郎さんか!?」

 

 

『ああ。お前は確か……。』

 

 

「アクアマリンだ! 星野アイの息子!! 頼む、助けてくれ!」

 

 

『今どこにいる?』

 

 

「M県S市、杜王町外れの泉ヶ岳の『水淵神社』だッ!」

 

 

……こえたな? すぐに……

 

 

「おい!? 何て言ってるんだ!?」

 

 

『ちょうど我々も杜王町にいる。すぐに向かうからそこを動くな!』

 

 

「ッ、早く来てくれッ!! 岸辺露伴と、それにアイが危ないんだッ!!」

 

 

 アクアの叫びはすでに切られた電話の向こうに繋がっているのかどうかはわからなかった。

 

 

「ッ、クソッ!! ちゃんと届いたんだろうな!?」

 

 

「……だ、大丈夫だよね? 承太郎さん、すぐ来てくれるって言ってたよね!?」

 

 

 

 ルビーは、アクアの顔を不安そうにのぞき込む。その疑問に答えるように、アクアの携帯にメッセージが届いた通知音が響いた。

 

 

 

『お前たちの居場所は上空から大体の位置までしかわからない。もし可能なら―――』

 

 

 

 届いた指令を一緒に読んだ兄妹は顔を見合わせ頷きあい、各々の携帯を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 『恐怖』を乗り越えることこそ『勇気』。露伴の記憶を読んだ中でも、この言葉には感銘を受けた。人間たちから集めたストーリーの力により、私はかくも強大な姿を得た。この山にいるどんな生物よりも頑強な巨躯。無数の蜘蛛たちの視界を集めた情報収集能力。私はもはや、この地においてあらゆる恐怖を克服したと言える。

 

 

 

 そんな中、『星野アイ』。お前という脅威は、なによりもの『恐怖』だった。『未知』にして『強大』な能力。恐怖を感じながらも、ひるまない精神。一時は負けるかもしれないと思った。殺されるのではないかと思った。

 

 

 

「だがッ! お前さえも私は克服したッ!! お前はもう詰んでいるのだッ!!」

 

 

 

 岸辺露伴がアイに手を伸ばしているが、もはや間に合わない。スタンドを封じられたアイはもはや脅威にならない。あとはただ、完全なるとどめを刺すのみ。

 

 

 

「死ねッ!! 星野アイィィーーーーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 一瞬ッ!! ほんの一瞬の出来事だったッ!! 振り下ろされた大蜘蛛の脚が星野アイの白く細い首を捉えようとしたその瞬間ッ!!

 

 

 

 スタンドの拳が、大蜘蛛の顔面にめり込んだッ!!

 

 

 

「……ぃ? ぃ、い、いったい……な……なに、が……?」

 

 

 

 スタンドの拳ッ!! その持ち主はッ!!

 

 

 

「LOVEマシーン……Stage2……。」

 

 

 

 星野アイッ!! ただのアイドルであった彼女がッ!! 鉄火場など潜ったことのない彼女がッ!! 腹と脚とに風穴を開けた彼女がッ!! 渾身の一撃を叩き込んだッ!!

 

 

 

「スタンドは、ふ、封じたはずッ!! ふ、動けるはずがないッ!!」

 

 

「そうだね……。でも現実はこれだよ? ほら、あなたに開けられた穴もこんなふうに……。」

 

 

 

 スタンドはあっという間に腹部と左足とに開けられた穴に触れ、カードを張り付けて塞ぐ。そのカードもすぐに同化し見えなくなってしまう。

 

 

 

「な……何故……?」

 

 

「―――あなたが言ってた、『恐怖を克服すること』ってやつ。それは戦いの思考()()()でしょ? でもね、私はそれより、『その1』の方がいいなあって思ったんだ。」

 

 

「戦いの思考、その1―――『相手の立場に身を置く思考』ッ!! もし自分が相手ならどうするって奴だよ。」

 

 

 

 星野アイは話しながら微笑を浮かべてさえいる。いかに傷を塞いだとはいえ、失った血液までは戻らない。彼女の小柄な体格では、貧血寸前であるに違いないのに。痛み迄は消せないせいで、今も彼女には激痛が走っているはずなのに。その笑顔には神々しささえ感じられた。まるで宗教画に描かれた、聖母マリアのようなッ!

 

 

 

「私にとってそれは、一番の得意分野でしょ? 私がそうしたい姿じゃなくて、周りが好きになってくれるような姿を演じ続けた私にとって、こうすれば相手はこう思うなんて、息するのとほとんど同じだよ。」

 

 

「だから私は考えた……。『もし私があなただったら、私の能力を使えないようにするはず』って。」

 

 

「露伴先生の能力をあなたが学んだっていうんなら、それはきっと出来る。なら、どんな命令をすればいい?」

 

 

「露伴先生のスタンドは『記憶』をいじる能力なんでしょ? あなたもそれと一緒なら、私の記憶に干渉してくるはずだって。」

 

 

「要するに……スタンドが使えなくなるのは、スタンドそのものを使えなくしてるんじゃない。スタンドを使おうとしないよう、()()()()使()()()()()()()()()()。」

 

 

「ッ!」

 

 

 

 大蜘蛛の顔面は既に高速道路で事故を起こした軽自動車のように醜く歪んでいたが、その顔がさらに驚愕に歪んだッ! 星野アイの推測は図星であったからだッ!!

 

 

 

「なら、最初から……私が隠してしまえばいいんだって。私が『あなたを攻撃するという意思』をッ! 奪われないように、隠して守ってしまえばいいッ!!」

 

 

「今まであなたを殴ったり蹴ったりしてきたのはただの『反射』……。あなたが襲い掛かってきたから、勝手に体が動いただけ。あの時―――あなたを最初に殴り飛ばして、とどめを刺さなかったときも同じ。私から攻撃するって意志はあっても、それは絶対に実行できなかったッ!」

 

 

 

「ぁッ! ァァ……ッ。」

 

 

 

 大蜘蛛の脳裏に浮かぶのは、あの夕暮れの中の戦いだったッ! とどめを刺しに来なかったのは、大蜘蛛が影の中にいるためだと思っていたッ! 十分な光量が確保できない影の中に入れば、アイの腹の傷を塞ぐカードが剥がれるためだと勘違いしていたのだッ!!

 

 

 

「今はもう、露伴先生のおかげで十分明るい……。やっぱりアイドルだからさ、光の中じゃないとモチベ上がらないんだよね。傷を塞ぐこのカードも、あなたの顔に貼りついて、『視界』を隠しているそのカードも、あと30分はそのままだよ。」

 

 

「お……俺を、どうする、つもりだ?」

 

 

 

 アイの顔から笑顔が消えた。だがそれは恐ろしさを感じる強面というよりも、どこか悲しみを帯びた顔だった。

 

 

 

「―――私は、あなたのことも愛したかった。だから、とどめをさせない理由も嘘をついた。嘘はとびっきりの愛だから。」

 

 

「『あなたを攻撃する』って意志も……自分から封印したんだ。あなたの能力に対する保険でもあったけど、それを解いたのはあなた。あなたが私を攻撃しなければ、私はあなたを攻撃できなかった。私にこうして、あなたを殴らせたのは――――あなた自身だよ。」

 

 

「私はもう学んだんだ……。『愛する相手は、自分のことも大切にしてくれる相手じゃなきゃ駄目なんだ』って。あ、もちろんアイドルの仕事の時は、ちゃんと嘘をつくよ? ファンの皆は、私たちのこと応援してくれるから。」

 

 

く……クソ……ッ

 

 

「いいよ? 来ていいよ。でも最後に、私のスタンドがウサギ耳してる理由、教えてあげる。」

 

 

「こ……この……鼠のクソにも劣る矮小な存在がッ!! か、神にッ!!! ありえないッ!! ありえてはならないのだァーーーーーーッ!!!!」

 

 

 

 大蜘蛛は前に踏み込みながら、闇雲に脚を振り回す。だが拳を握りしめたスタンドの方がずっと速い。力を振り絞って、アイは叫びながらスタンドのラッシュを繰り出した。

 

 

 

(そのウサギ耳……何?)

 

 

(……コレハ……)

 

 

 

LOOOOOVEYYYYYYYYYYYYYYY(ラーーーーヴィーーーーーーーッ!!!)

 

 

 

 マシンガンの発砲音のような音を響かせながら、無数の拳が刹那の間に大蜘蛛の体に叩き込まれる。殴られた場所が次々とひしゃげていき、飛び出したカードが貼りついて行く。

 

 

 

「ぶっげェェーーーーーッ!!」

 

 

 

 吹き飛ばされた大蜘蛛を見据えながら、膝をついたアイは息もたえだえながら呟いた。

 

 

 

「『Love it(大好き)』と『ラビット』が似てるから……なんて。あはは、やっぱり面白くないや。」

 

 

 

 意識をとばしかけながらも、大蜘蛛からは目を離さない。その大蜘蛛の方は、だんだんと体が小さくなっていく。

 

 

 

「な……何だッこれはッ!? き……記憶がッ!! 記憶が、消えていくッ!?」

 

 

 必死にもがくがどうしようもない。カードは見えも触れもしないのだから。

 

 

「一時的にだけど、『隠された』ものは完全にこの世から消える……。誰にも知られてないものは、消えてしまうだけから。」

 

 

「あなたのエネルギー……人から奪った()()()()()。それをStage2は隠した。」

 

 

 

 

 

「―――さあ、どうなると思う?」

 

 

 

 

 

 とうとうブスブスと煙を上げ始めた。それは天に昇っていき、消えていく。

 

 

 

「き、消える……ッ! 私の、私の知性そのものがッ!! ただのちっぽけな蜘蛛になる、というのかッ!? この『神』がッ!!」

 

 

 

 違和感に最初に気づいたのは、またしても露伴だった。漫画家としての観察眼と、いくつもの戦いを経た経験がそれに気づかせた。

 

 

 

「……ヤバいッ! 何かわからないがヤバい予感がするッ!!」

 

 

「おのれッ!! 絶対にィ逃がしはしないッ!! この人間どもがあぁぁぁーーーッ!!!」

 

 

 

 その瞬間ッ! 露伴とアイは突然、木の葉が自然にざわめいたのだと感じたッ! 突如響いたざわざわという音はそのために起こるのだとッ!

 

 

 しかしッ!!

 

 

 

「く……蜘蛛ッ!? 大量の蜘蛛が、あのデカい奴に……!」

 

 

 

 これほど大量の蜘蛛が、一体どこに隠れていたというのか? 大蜘蛛の体を覆いつくし、ざわざわと音をたてるそれは、アイの全身を怖気だたせた。露伴でさえもその光景から目が離せず、それでいて足を動かせなかった。

 

 

 

「ォォォォおおお前らにぃいぃぃぃいーーーッ!! 最後の戦いをぉおぉぉぉおぉぉおおおおーーーーッ!!!」

 

 

 

「まさか……()()()()()()()()()のかッ!? 自分の体を蜘蛛たちにバラバラにさせッ! カードの能力から逃れようとしているッ!!」

 

 

 

 何という執念。何という殺意。露伴はすぐに、鳥やなにかしらの動物に命令を書き込み、蜘蛛たちを捕食させようと試みるが、その異様すぎる光景に怯えているのか、『天国の扉(ヘブンズ・ドアー)』の射程距離内にそれが可能な動物はいなかった。

 

 

 

「……露伴先生。足、動く?」

 

 

「……あぁ、クソッ。最後まで見てたい気持ちはあるが、やるしかないみたいだな。」

 

 

 アイの脳は、承太郎と初めて会った日のことを自然と思い出していた。自分の左肩にずっと存在していた星型の痣。それが指し示す、誇り高き一族との決して切れない『縁』。

 

 

 

『そしてお前のために、俺たち一族に代々伝わる戦法を教えておくぜ。』

 

 

『戦い方ってこと?』

 

 

『そうだ。それは――――』

 

 

 

「それは―――」

 

 

 

 『逃げる』

 

 

 

 

「走って! 急いで露伴先生!!」

 

 

「こっちだッ! こっちが麓の方だ、急げッ!!」

 

 

 

 カードで傷を塞いでも、傷の痛みやダメージ自体が消えるわけじゃない。重い体を引き摺りながら、何とかフラフラになりながら走る。

 

 

 考えてみたら、ここに来てから本当に散々な目にばかりあってる。お腹と左足にはおっきな穴をあけられるし、きちんとセットした髪も、動きやすいようにと買った新しい服も靴もボロボロだし。その上今は、こうして命がけの追いかけっこ。

 

 

 どうしてこうなっちゃうかなあ……。私だって本気で、あの人に会えると思ったわけじゃない。アクアとルビーと、家族で山登り出来たらいいなって思っただけだったのに。2人に買った新しい服もすごく似合ってた。写真いっぱい撮りまくるつもりだったんだけど。

 

 

 

「……ッ、やば。」

 

 

「ッ、おい星野アイッ!?」

 

 

 

 多分、木の根っこ?だと思う。躓いて、踏ん張る力も残ってなかったのかへたりこんでしまう。露伴先生が驚いた顔で振り向いたけど、その視線はこっちに向いていない。ってことは、そっか。そんなに近くまで来てたんだ。

 

 

 

「コ……コロ……ココロコスロロコココロ……」

 

 

「……あはは。ひどい恰好だね。お互い様だけど。」

 

 

 

 全身を食いちぎられ、子供が粘土で作った怪獣みたいな姿になった大蜘蛛が、8つの目で私を見据えていた。もう言葉をまともに喋れないくらい知能はなくしたみたいだ。

 

 

 

「……アクア、ルビー、ごめん―――」

 

 

「諦めてるんじゃあないッ!! 天国への扉(ヘブンズ・ドアー)!!!」

 

 

 

 

『自分の体は背後に吹っ飛び、立ち上がって走り出す!!』

 

 

 

 

「えっ、なっ、せ、先生!!」

 

 

「行けッ、行けッ!! 奴の狙いはお前だッ!! 走れェェェーーーーッ!!!」

 

 

 

 目の前に振り下ろされた蜘蛛の脚を、私は後ろに吹っ飛ばされたことでギリギリで躱した。私にその命令を書き込んだ露伴先生は力を使い果たしたみたいで倒れてるけど、それでも大声を出して私を急がせた。その言葉通り、大蜘蛛は倒れてる先生の方には目もくれず、こっちに向かって全速力で向かってくる。

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

 涙をこらえながら、足に残った力を全部込める。さっきまで前を走ってくれていた露伴先生がいなくなって、私はひとりぼっちになった。どうすればいいのか、まったくわからないけど必死に走る。一体どっちが、麓の方なんだろうか。どっちに向かえばいいんだろうか。

 

 

 

 

『君たちには――――』

 

 

 

「――――!」

 

 

 

 

 

 

『ねえ、ルビー。あの後、あの人には会えたの?』

 

 

『うん! あの人ね、ママに―――』

 

 

 

 

「明るい、方に――――。」

 

 

 

 

 

 ――――光だ。二つの光が、ふらふらと動いているのが微かに見える。

 

 

 

 

「ママ!!」

 

「アイ!!」

 

 

 

 

「アクア……! ルビー……!」

 

 

 

 二人の顔を見た時、困惑よりも幸せが押し寄せてきた。今すぐ行って、2人を抱きしめたかった。

 

 

 

 でも。でも―――。

 

 

 

 無理矢理足を止め、心に大きな傷が出来るのを感じながら振り返った。こっちに向かってくるアイツは、私だけが狙いのはず。2人に、絶対に手は出させない。

 

 

 

「ッ、こ――――」

 

 

「『スタープラチナ・ザワールド』!!」

 

 

 

 

 来い。それだけの言葉を叫び終わるより早く、大蜘蛛は私の目の前から吹っ飛んでいく。声にならない悲鳴を上げながら吹っ飛んだそいつは、とうとうピクリとも動かなくなった。

 

 

 

「え――――?」

 

 

「―――尊敬するぜ。成長したな、アイ。」

 

 

 

 私の前には、とつぜん大きな背中が現れた。何を言ってるのかわからないと思うけど、本当にこういうしかなかった。この場所にいるはずのない人がいて、しかもそれがいきなり自分の前に立っている。混乱してもしょうがないでしょ?

 

 

 ―――でも、その背中はとても大きくて、安心できて……私はそのまま、意識を手放した。遠くから私を呼ぶ声がしたけど、ごめんね。今はちょっと、休ませて――――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、知らない天井だった。蛍光灯の白い光が目に痛い。しょぼしょぼする目とぼんやりした頭でしばらく天井を見ていると、2人の子供の顔が頭に浮かんで跳ね起きる。

 

 

 

「アクア!! ルビー!!」

 

 

「うおおっ!? あ、目ぇ覚めたんスか?」

 

 

 

 跳ね起きた私の目に、昔のヤンキー漫画から飛び出してきたみたいな男の子が椅子から転げ落ちた姿が目に入る。尻餅をついたその子の首筋には、私と同じ星型の痣が見える。

 

 

 

「え……! あ、あなた、誰?」

 

 

「俺は『東方仗助』つって……まぁ、承太郎さんの親戚ッス。それより体調は大丈夫なんスか? “クレイジーダイヤモンド”は完ペキに傷を治したはずッスけど……。」

 

 

「傷……? あ、あれ?」

 

 

 言われて足に触ってみると、あんなに大きく開けられたはずの傷穴がない。慌ててお腹も触ってみたけど、穴どころかへこみすらない。いやこう言ったら私がお腹出てるみたいになっちゃうけど、本当に何も起きなかったみたいに傷跡すらなく治っている。

 

 

「そ、そうだ! そんなことよりアクアとルビーに会わせて! 二人は何であんなところに―――」

 

 

「今二人はベッドに寝かせている。ついさっきまでは、お前が心配だと起きていたがな。」

 

 

「承太郎さん! あ、あの子たちは怪我とかしてなかった!?」

 

 

「問題ない。SPW財団の医療チームの見立てでも、単に疲れが溜まっているだけだろうとのことだった。」

 

 

「ああそれから、露伴のヤローも無事ッスよ。まああいつに関しては、起きたらめんどくせーことになりそうだからしばらく寝ててほしいんスけどねェ~~。」

 

 

「よかった……。」

 

 

 それを聞いたら、急に安心しちゃって力が抜けた。ベッドにもう一度身を預け、天井を見上げる。ポスリと何かが置かれたような音を聞いて横を見ると、承太郎さんが缶コーヒーを手渡してくれた。

 

 

「ありがと……。あぁ~~、承太郎さん? これひょっとしてブラック?」

 

 

「あぁ。」

 

 

「あたし、あんまりブラックは好きじゃ無いからさ。次からはココアとかにしてね。」

 

 

「……やれやれだぜ。」

 

 

 誰かにワガママを言うっていうのは……まぁ、社長に散々言ってきたような気もするけど……それが身内にってのは新鮮な気がした。なんか、甘えたくなる。そう思いながら苦いコーヒーを飲んでると、仗助って言ってた人が、緊張気味に話しかけてきた。

 

 

「し、失礼しますッ! あの、よかったらサインとかしてもらえないッスか!?」

 

 

 横を見ると、色紙が3枚とサインペンが差し出されていた。よく見たら細かくプルプルと震えてる。それがなんだか妙におかしくて、ちょっと意地悪したくなる。

 

 

「……えぇ~~~? どうしよっかなァ~~~~?」

 

 

「お願いします! そこを何とか!」

 

 

「……おい、仗助。」

 

 

「いぃひっ!? じょ、承太郎さん、ここは多めに見てくださいよォ~~! せっかくついてきたんだから、俺もちょっとくらいオイシイ思いしてもいいじゃないッスかァ~~~ッ!」

 

 

「ふ、ふふふ……。あはははは!」

 

 

 あぁ、何と言うか、楽しい! 初めて会ったけど、まるでお父さんと弟が一辺に出来たみたいだ。笑わせてもらったお礼に、サインするくらいはいいかな。それに私も助けてもらったみたいだし。

 

 

「ほら、色紙ちょうだい? 宛名書いた方がいい?」

 

 

「あ、ありがとうございますッ!! えっと、そうッスね、なら『東方仗助』『虹村億泰』『広瀬康一』で……!」

 

 

「はいは~い。あ、そうだ。承太郎さんも書いてあげよっか? なんなら、その真っ白なコートにでもいいよ?」

 

 

「……フン。それより、大事な話がある。お前の『スタンド』についてだ。」

 

 

 スラスラとサインペンを走らせる手がぴたりと止まる。顔を上げると、いつの間にか承太郎さんの横に紫色の筋肉ムキムキの男の人が立っていた。本当なら声を上げて驚くところなんだろうけど、今の私ならそれが何かすぐに理解できた。

 

 

「……そっか。それが承太郎さんのスタンド?」

 

 

「そうだ。本来ならあの日、俺はお前のスタンドを調べるためにお前と会った。その時にはスタンドの気配は感じられなかったが……。」

 

 

「……。」

 

 

「……結局は、お前もジョースター家の人間だったということか。」

 

 

「……かもね。」

 

 

「出してみな。お前のスタンドを。」

 

 

 ゆっくりと目を閉じ、その名前を心の中で呼ぶ。再び目を開けるとそこには、ついさっきまで一緒に戦っていた私の『スタンド』がいた。

 

 

「これがあたしのスタンド。名前は既につけてる……。『Loveマシーン』。」

 

 

「能力は?」

 

 

「この手から出るカードが貼りついて……そこから何かを『隠す』。」

 

 

 言いながら『Loveマシーン』が、仗助くんの持ってる色紙にカードを落とす。カードが色紙にぴったりとはりついたかと思ったら、色紙がまっさらな状態になる。

 

 

「お、俺のサインがぁ~~~ッ!!」

 

 

「そして、剥がしたら再び現れる……。先送りにしかできない。

 

 

 ひらひらとカードを見せびらかす。あっという間に白紙だった色紙に、再びサインが出現する。星型が刻印されたカードを見て、承太郎さんが少しだけ目を細めたように見えた。

 

 

「……どうしたの? このカードに、何かあった?」

 

 

「……いや、何もない。ただ『星のカード』……懐かしいものを見ただけだ。」

 

 

「だがこれでわかった。少なくとも、ヤツの影響は受けていないらしいな。」

 

 

 承太郎さんのスタンドが煙みたいに消えて、ようやく私は息をつくことが出来た。何がどうなったのかは知らないけれど、とにかく許されたみたいだ。

 

 

「ったく、承太郎はむやみやたらに脅かしすぎッスよォ~~~。俺までビビりあがっちまいそうだったもんなァ~~~~。」

 

 

 仗助……くん?は妙に陽気な声を出す。今の私ならわかるけど、空気を和ませてくれようとしてるんだろう。それなのに承太郎は空気を読まず、あくまで真剣な声色で話す。仗助くんに乗っかろうかとも思ったけど、あの綺麗な目に見すくめられてしまった。

 

 

「……アイ。お前はこれから、奇妙な運命に巻き込まれていくかもしれない。スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う……。それにお前の血筋は特別だ。ジョースター家。DIOの残党。どこの誰が、お前を狙っているかわからない。」

 

 

「……うん。」

 

 

「だが必ず……お前も、お前の子供たちも、俺たちが守る。お前のスタンドは多分……そのための能力だ。敵から、運命から……お前たちを隠して守ってくれる。」

 

 

「うん。」

 

 

「ひとまず、お前には引っ越しをしてもらう。東京だ。」

 

 

「うん! ……うん?」

 

 

「ちょ、承太郎さん! せっかく徐倫さんに言われてコミュ障改善したかと思ってたのに、全然じゃないッスか!」

 

 

「……そうか。ならお前が話せ。」

 

 

「け、結局こうなんのかよォ~~……。」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……アイ。本当に大丈夫なのか?」

 

 

「まだ心配してるの? アクア。」

 

 

「当たり前だろ! ストーカーに殺されかけて、その次は蜘蛛の化け物に襲われて……本当に、何回死んでるかわからないんだぞ!?」

 

 

 某日、東京のどこか。キャップにサングラスで変装した星野アイと、その二人の子供たちはとあるマンションの一室に来ていた。今日から三人の家族は、ここで暮らすことになる。

 

 

「大丈夫だよ~。その証拠にほら、堂々と歩いてても誰にもバレなかったでしょ?」

 

 

 それにこれから、人に会わないといけないから―――と、二人の体からカードがはらりと落ちる。SPW財団が派遣した引っ越し屋が既に荷物をすっかり運び込んでくれている部屋を出て、すぐ右隣の呼び鈴を鳴らす。

 

 

 ―――扉を開け、中から現れたのは、外国風の夫婦だった。妻の方の左肩には、燦然と輝く星型の痣が見える。

 

 

「あぁ、父さんから聞いてるわ。あなたが私の……えっと、父さんの爺さんの父さんの……娘ってことは……まぁいいわ。とにかく、私の血縁ってことでいいのよね?」

 

 

「……うん! 私の名前は星野アイ。こっちがルビーで、こっちがアクアマリン。」

 

 

 アイは、二人の子供を力いっぱい抱きしめて言った。

 

 

「これから奇妙なことばっかり、起きるかもだけど……子供たちともども、よろしくね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……とまあ、これが結末ってわけだ。どうだい? 僕がわざわざ、ドロドロのブラックコーヒーを入れてやったことに感謝したくなった頃だろう? 当然だ、『入れてもらって悪いけど苦いナァ~~~~~』と、顔に書いてあったのが、スタンド無しでも読めたからな。

 

 

 例の大蜘蛛は、SPW財団の調査に僕も同行させてもらった。ヤツが潜んでいたあのさびれた神社はもともと、縁結びの御利益があると有名だったらしい。だがあそこにあったのはもはや……『祈り』というより、『呪い』だったな。髪の毛だの、血だの爪だの……そういう呪いが蓄積して、縁結びの神を歪めていったというところだろうな。

 

 

 だがなァ~~~~、クソッ!! あのスタンドだけは気に喰わないッ!! あれで隠された記憶は、僕の『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』でも読めなかったんだぞッ! これじゃあまるで、ヤツに僕が敗北したみたいじゃあないかッ!! 腹いせに何かしら命令を書き込んでやろうとしたら、ボディガードに止められてしまった。まあ、『糸が固まって立体になる』という『概念』をこの身で理解できたのは収穫だったがね。

 

 

 

 

 ……一息に喋って、岸辺露伴はグイィーーッとコーヒーを飲み干した。自分ももう一度、苦くてしょうがなかったコーヒーを口に運ぶ。苦みの中に酸味を感じる、いい豆を使っていると感じるブラックコーヒー。彼の言う通り、最初は苦手だったが……今はこの苦みがちょうどいい。

 

 

 露伴にならい、自分もカップを空にする。そして今度は自分からおかわりを要求すると、彼は微笑を浮かべながらまた黒々とした珈琲を注いでくれた。そう、せっかくなら――――

 

 

 

 ……『乾杯』? オイオイオイオイオイオイオイオイオイ。僕も人付き合いが好きな方じゃあないが、仕事上それなりに飲まなきゃあならないって場に出ることだってある! その時のために、きっちりマナーは身に着けているつもりだッ! それが何だい、既に口をつけているカップで『乾杯』だって? そんなマナーは聞いたことがないッ!! 例えそうじゃなくたって、人が口をつけたものどうしを触れさせるってのは衛生的に愉快なものじゃあない!!

 

 

 

 

 ――――ただ、彼女ら三人の旅路に。『乾杯』をしよう。

 

 

 

 

 だから気に入った

 

 

 

 

 

 二人のカップがぶつかりあい、小さく高い音を上げる。窓から覗く空は青く、どこまでも青く澄み渡っていた。

 







 嘘、即ち(ラブ)ッ!


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