往生堂狂詩曲   作:まっしゅポテト

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先行き不安

 

 案じていた通り、燐の古物管理の杜撰さは帝く……鍾離に即刻バレ、燐がひいひい言いながら修復にひと段落つけたのは面接から10日後の事だった。

 久しぶりにまともな料理を食べようと万民堂を覗くと、普段は人で溢れかえっているはずが空っぽである。考えてみれば璃月市街の人通りもまばらであった。

 何か悪い事でも起きたのか?少し顔を顰めた燐だったが、店奥で茶出しを傾ける鍾離の姿を見つける。近づくと鍾離は湯呑みを片手に相席を促した。どうやら食後に茶をしばいていたようである。

 

「修復作業は終わったのか?」

「まあ大体終わったよ。あとは防虫処理すれば往生堂に戻せるところ」

「そうか。今回の事はしっかり反省し、年に一度の確認作業を怠らないように」

「はい……」

「前から思っていたが燐殿は往生堂の仕事に対してーー」

 

 お小言を受けつつ、看板娘の香菱に注文をする。「はーい」と返事が聞こえるが、心なしかいつもより元気がない。やはり璃月に何かあったようである。少し不安になりつつ鍾離の茶を自分用に注ごうとすると、がっしりとした黒い手が燐の手を掴んだ。

 

「そうだ。5日前の迎仙儀式にて岩王帝君が崩御なされた」

「目の前におるやんけ」

 

 握られる力が強くなった気がする。

 

「そのため璃月は現在喪に服しており、往生堂では俺主導で送仙儀式の準備を進めている」

「本人主導の葬式は流石に対応致しかねますが……」

 

 手の力が更に強くなった。表情とは裏腹に熱い気持ちが手から伝わってきそうだ。

 

「しかしあまりの突然死であったため、水面下では暗殺では無いかと七星が探っているようだ」

「大陸一の武神を暗殺できるやつがいるわけ、あー痛い痛い痛い!」

 

 手からギチギチと音が鳴っている。反射的に燐は手を引き抜いて冷ますようにプラプラと振った。

 

「ともかく俺たちの仕事は送仙儀式をつつがなく終わらせる事だ。送仙儀式はここ百年は行われていないため、胡堂主も心細い事だろう」

「こ、こころぼそい?むしろノリノリでやりそうだけど……」

 

 頭の中の胡桃が肩に棺を乗せダンスを始める。これが新しい送仙儀式だウェイ!

 ダメだ。そんなことしたら民衆と仙人達の怒りによって長年積み上げた往生堂のブランドイメージと俺の首が飛ぶ。

 

「だが幸運なことに全ての手順を知る俺がいるため心配はいらない。準備も今のところ順調だ。それに予算もファデュイから融通してもらえるため、商売としても良い仕事と言えるだろう」

 

 少し不安な要素があったように思えたが、安心した燐は特に追求せず用意された食事を口にする。

 

「そもそもどうしてこんな事をしたわけ?俗世で生活するにしても偽装死までする必要は無いだろ?」

「ああ、それはーー」

 

 鍾離が理由を語る。

 意外と単純であったそれに少し驚きもあるが、仙人魔神といえど心は凡人と変わらないのだ。燐はなるほどなあと頷いた。

 

「まあ長い間お疲れ様でした。他の仙人連中は五百年前に隠居してたし、むしろ遅いくらいだと思うよ。これからは人の時代ってやつかねえ」

 

 魔神戦争から仙魔大戦、災厄や恩人の死など辛いことも多かったが、全てを越えて今の璃月があると思うと感慨深い。

 

「お前にそう言われるのは誇らしいな。ありがとう」

「他の仙人達だって同じようなこと言っただろう。儀式が終わったら久しぶりに集まるのも良いんじゃないか?」

「ああ、そうだ」

 

 燐と同じように過去を懐かしみニコニコしていた鍾離(当社比)だったが、思い出したように声を出した。

 

「お前にしか言ってないんだ」

「エ……」

 

 仙人達は程度に差あれど例外なく岩王帝君を慕い、その命令には絶対に従うほどの忠誠心を持っている。例えば七星秘書の甘雨は何かあれば「岩王帝君はすごいです」が口癖であり、削月築陽真君は岩王帝君の直弟子、護法夜叉の魈はずっと降魔の契約を守り続けている。燐でさえ往生堂の墓守というちんまい窓際職ではあるが、契約を辞める事は考えたこともない。嘘である。退職願めっちゃ出してる。

 

 仙人達は人間嫌いだが、人間を守っている者が多い。それはひとえに岩王帝君との契約によるもので、仙人達が自主的に守っているわけではない。

 2つを繋ぐ橋でもあり鎖でもあった岩王帝君が急死すればどうなるか。

 

「これは仙人と人に対する試練でもある。岩王帝君が消えても璃月は仙と人の国であり続けられるか。丹山隠者、お前にも協力してもらうぞ」

「やっぱり面接落としときゃよかった」

 

 燐は後悔し、先行きを憂うのであった。

 

「鍾離先生、お代は?」

「いつも通り、往生堂につけて置いてくれ」

「あいよ」

 

 燐は心底後悔し、先行きを憂うのであった。

 

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