高校進学→ブルーロック勝ち抜き→ネオエゴ(いまここ)
男主のデフォ名→鈎倫也(まがり ともや)
なおカイザーは堂々とよいちゃんの前で「もう“あーん”はしてくれないのか?」とニヤニヤしながら全力でからかってきます。
「ん、何だあれ?」
練習試合が終わり、一足早く着替えを済ませた潔は視界の端に何かを捉えて足を止めた。汗を拭ったタオルと水分補給用のボトルを片手に持ち直し、屈んでそれを拾い上げる。
人の視野から逸れるように床に落ちていたのは、男の手には少し小さく感じる縦開きの小箱。シンプルなデザインだが手触りに高級感が現れている。昔見せてもらった両親の婚約指輪が丁度コレくらいのケースに入っていたのを思い出した。
「誰かの落とし物か? でも名前書いてないし……」
「何をしている、世一」
「うわっ!?」
背後から急に声をかけられ、驚きのあまりに手に持っていた箱を落としそうになってしまう。しまった、と続く落下音に身構えるが、小箱が床に落ちる音はしなかった。
よく見ると自分より素早く手を伸ばしたらしいカイザーの手に小箱はしっかりと収まっており、動きを見切れなかった事に一筋の悔しさが滲む。
「…………」
「お、おい?」
カイザーは潔の呼びかけには応じず、淡々と箱を開けて中を確認している。どうやら中身は無事だったらしく、数秒後にはパタンと蓋が閉じられた。表情にはあまり変化がなかったが、どこか安心しているように見えた。
「えっと、その箱お前の? そこに落ちてたんだけど」
「……ああ。探していたところだ」
それだけ言うと、カイザーは小箱を片手に用はないと言わんばかりに立ち去った。拾い主にありがとうも言えないのかあの野郎は、と苛立ちもしたが、それ以上に潔の脳裏には疑問符が浮かんでいた。
「(錆びたコイン……? なんでカイザーがそんなの持ち歩いてんだ?)」
「よいちゃん、どうした?」
「うおっ!? な、なんだ倫也か」
「俺で悪かったな。何、またガキンチョの難癖?」
「……そんなとこ」
今日は何かと背後から声をかけられる。心臓に悪いのでやめてほしい。
鈎は眉を顰めて潔を労わるよう肩に手を置いた。あのカイザーを“ガキンチョ”呼ばわりできるのは
鈎と足並みを揃え、潔は再び歩みを進める。移動の最中で先ほど起こった出来事を軽く説明すると、小箱には何が入っていたのか尋ねられた。
潔はその問いかけに対し、目視だが随分古そうな硬貨が一枚見えた事や、当然だが日本円には見えなかった事を伝えた。
すると鈎はしばし黙り、軽く微笑み人差し指をピンと立てた。悪戯が成功したような無邪気な笑みだ。
「そりゃあきっと、年代物のお守りだな」
例えば、初めての
Wiedervereinigung
「___んで、何だよ要件って?」
「そう急ぐな。お互い積もる話ならあるだろう」
先に言っとくがお前には下らないからな、と鈎が宣言するとそんな事はどうでもいい、と意外にあっさり切り捨てられる。あり得ない話だが、鈎は例え潔が翌日にハムスターに変身しても味方につく心づもりだったので、先に向こうから断ってくれて少し安心した。
ほんの数分前、いきなりカイザーに声をかけられ「話したい事がある」と呼び出され今に至る。やけにバスローブが似合う身長差を恨めしく思っていると、ふとカイザーは椅子の肘置きにもたれかかるように肩の力を抜いた。
「こうして話すのは久しいな。14年ぶりか?」
「は……?」
14年。
突然その数字を持ちかけられ、鈎は少し身じろいだ。
「……いや俺、ドイツのサッカー選手に会うのブルーロックが初めてだけど。日本の知り合いに似てた?」
「すっとぼけてんじゃねぇよ」
こちらの返答にカイザーは酷く不快と言いたそうな形相で、声のトーンを一段下げる。
「覚えてるか? 俺が世一のボールにシュートを当てた瞬間、お前は異国の言語で話す俺達を見ても眉一つ動かさなかった。飛び交う会話に思考を巡らせる様子もな。
「……それがお前の思い違いであるという可能性は考慮に入れないんだな? ガキンチョ」
「ああ。入れる必要が無い」
随分頭ごなしな言動に文句の一つでも言ってやろうかと、用意されていた椅子から身を乗り上げ席を立つ。
「…………随分待ちくたびれたぞ」
しかし、直後に続くカイザーの声が、平常に比べて悲壮感に満ちたものだったからか。そのまま退室するのは何故か憚られ、結局のところ声も出ないままだった。
「あの日お前に貰った金のおかげで、俺は初めてパン屋のクソ店員に嫌な顔をされながらも受け入れられたよ。死に損ねたお陰で今も現役だ。感謝はしてる。だが約束を破った事は別だ」
「……なぁ、ガキンチョ」
カイザーはつらつらと流暢に言葉を紡ぐ。その双眸は14年前に出会った頃と同様、光を灯さないものだった。
「“アンタ”はあの日以降、俺の前に二度と姿を現さなかった。当然だよな。アンタはクソボロい石造りの壁に飛んだ染みに変わり果てちまってたんだから。キウイ入りのフルーツサンドなんざ、買いたくても買えなかったよなぁ?」
「おい、カイザー……」
一旦落ち着け、という台詞は物理的にかき消された。カイザーが鈎の胸ぐらを掴み引き寄せたためだ。勢いのままに気道が軽く締まり、視線が絡み合う。
「想像しろ。14年……お前が平和ボケしたこの国で義務教育に勤しみサッカーを嗜む傍らで、俺がたった一枚きりの忘形見をどんな思いで手放せなかったか。……何も持たねぇスラムのガキが、コイツを間違っても無くさねぇよう握り締めながら、どんな思いで眠りについたか」
次にカイザーが視線をやったのは卓上に置かれたシンプルな小箱。潔が以前拾ったというのはこれの事か。持ち主を見るに、お守りどころかとんだ呪物らしいが。
「もう一度だけ聞く。本当に心当たりが全く無いなら今度はもっとハッキリ否定しろ。……もう流石に、お前に面影を探し続けるのも疲れてきた頃だ」
インタビューでのキウイが嫌いという発言。コート上の殺し屋という渾名。今も首元への圧迫を嫌い、何より自分を“ガキンチョ”と呼んで憚らないその目。
カイザーは時折ふと、例え小箱に入った古いユーロ硬貨の紋章を指でなぞる時すら、14年前の出来事は全て夢だったのではないかと感じる時があった。
記憶が薄れゆく度に、恐怖に近い感情を抱いていた。年月とは実に残酷なものだ。
沈黙の後、溜息を吐いた鈎はカイザーの耳から同時翻訳イヤホンをそっと外し、幼い子供に言い聞かせるように呟いた。
「……nimm deine Hände weg. Ich kann in diesem Zustand nicht sprechen」
「…………!」
次の瞬間、胸ぐらを掴む手が離され鈎は椅子に逆戻る。少し咳き込んだ後、射殺すような視線とともに次の言葉が発せられた。
「|Nur der Körper ist groß, scheiß Kid《図体だけは一丁前にデカくなりやがって、クソガキ》」
「……
「冗談じゃねぇよ、テメェが聞いたんだろ。話終わったんなら帰るぞ」
よれて皺の付いた襟元を直しながら、鈎は野良犬に噛まれたような顔で部屋を出て行こうとする。しかし歩みはまたも止められた。今度は肩をもの凄い勢いで引っ張られたからだ。あまりの威力にぐぇ、と声が漏れる。
「おい離せよっ、力強ぇな…!?」
「待て、行くな。もっと俺と話せ。機械越しよりも肉声の方が余程聴き心地が良い」
「よいちゃんヘルプ!!!」
嬉々としてこちらのイヤホンを外しにかかるカイザーに、鈎はとんでもない面倒臭さを察知したが時すでに遅かった。なんせ14年分もツケが残っている。
会えなかった日々の分まで、洗いざらい何を吐かされるのだろうか。
ご読了感謝です!
海外だとコインをペンダントや指輪に加工できる国もあるようですが、報酬にくれた1€硬貨を当時のまま持ち歩いてる律儀なカイザーを書きたくて執筆しました。
カイザー→前世夢主への思いは恩義と同時に、幼少期に出会ったその日に死別した事から若干重めの崇拝が含まれてるイメージです。
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