逃げられない呪い   作:布団は友達

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 懸賞金三千万円を狙って中坊を狙いに来たは良いが。

 

「お?」

 

 礼拝堂から走り去っていく影を見つける。

 術式で三人に分身し、各方向から接近して逃げられる隙を潰していたが、どうやら先手を打たれたらしい。

 でも、充分に追いつける。

 あの高専の制服を着た白髪のガキとターゲットの方に散開してた分身全員を集結させれば良い。

 そう考えて踏み出した時、背後から呪力の気配を感じた。

 

「あ?――おわっ!?」

 

 振り返る暇も無く、襟を掴まれて礼拝堂の裏側へと引きずり込まれた。

 慌てて振り払い、拳を構えて敵を睨み…………。

 

 俺は自分の目を疑った。

 

 職業柄、奇っ怪な形の呪霊や血腥い光景なんかは見慣れちまってる。

 だが、血で塗り固められた常識が備わって尚、俺の感性が異常だと判断するモノが目の前にいた。

 首の無い体が動いていやがる。

 しかも、その首を脇に抱えながら片手に短刀を携えていた。

 驚く事に、式神だったり誰かの呪力で操作されてる気配どころか幻でもなく、本物の肉体……首の無い状態で生きてやがる。血塗れだが、まるで時でも止まったみたいに流血は鮮やかな色のまま止まっている。

 しかも、コイツが立つ位置から前方へと半円形状に足元の雑草が伸びては枯れていった。

 

「な、何なんだオマエ!?」

「また一匹」

 

 脇に抱えられた頭が喋った瞬間、俺の頸動脈を閃いた短刀の刃が切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ×    ×    ×     ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天内を礼拝堂から連れ出し、道すがらで襲ってきた分身術式の呪詛師も撃退して一息ついていた。

 ところが、間髪入れずに今度は黒井さんが誘拐される目に遭って、敵から来た連絡で沖縄にて黒井さんと天内で人質交換を要求されるとか……まー次から次へと忙しい!

 おまけに、天内は敢えて人質交換の交渉現場に来るつもりだし、言っても聞かない様子だからコイツごと連れて行かなければならない。

 現在、天内には何故か呪詛師御用達の闇サイトで三千万円の懸賞金が懸けられており、呪詛師が躍起になって襲ってきている。

 沖縄まで守りながら……か。

 俺――五条悟は、合流した夏油と共に次なる作戦を立てていた。

 四人分のチケットを用意して、それから……。

 

「悟、茈苑と連絡が付かない」

「はあ?アイツ寝てんじゃねえの?」

「あの子は真面目だ。……何かあったのか?」

「俺と傑以外でアイツをどうこうできる術師なんざそういないだろ」

「そのレベルが来ていたら拙いだろう。……少し私が見てくる」

 

 傑が即座にその場から学校へ向けて駆けていく。

 オイオイ、護衛対象はこちらですよー。

 傑のヤツ、去年の暮からそうだがヤケに茈苑に対して過保護な気がする。アイツがおいそれと死ぬワケが無い、反転術式もあるから多少の傷だって治癒可能だろう。

 俺は別に心配じゃない。

 

「茈苑は、大丈夫なのじゃろ?」

「あ?そうだって言ってるだろ」

「その割には心配そうな顔じゃ」

「オマエは黒井さんの心配だけしてろ」

「そ、それはそうだけど!……でも、妾の所為でオマエらの友達が死ぬのも……」

「任務なんだから仕方ねえ」

 

 でも、内心では天内の言う通り焦っている自分がいるのは分かっていた。

 生きてさえいれば良い。

 そうなれば、まだ予定通りに事は進める。

 最悪、負傷でアイツが高専に撤退するならそれもそれで問題ない。元々、今回は傑と俺だけでも充分に全うできる内容だしな。

 

「アイツなら無事だろ」

「……!」

「いつも無愛想な面しときながら、その裏では俺が寝てる間にこっそりシャツを捲って撮った俺の腹筋を待ち受け画像にして平然と何もしてませんって顔で生活できてんだぞ」

「え、え、え?」

「あの図太さならどんな状況でも生き残るっつの」

 

 そう、忘れもしない。

 俺がアイツの部屋で漫画を読み、そのまま寝落ちしていたらバレてないと思ったのか茈苑が密かに俺のシャツを捲り始め、数分間の肉体観察の後に堂々と撮影までしやがった。

 その時、既に起きていて近付くアイツに対して咄嗟に寝ているフリをしたが、驚き過ぎてやり過ごすか起きて誂うか悩んだ。

 結局、好きなようにさせたけど。

 ふ、アイツが俺の筋肉にそこまで惚れ込んでいたとは思いもしなかった……割とそこから筋トレを必要以上に頑張ったぜ。

 筋肉が成長する度に俺は寝たフリをして、居合わせたアイツがまた撮影して待ち受け画像を更新する。

 

「茈苑は、あの顔でムッツリなのか……!」

「ああいうのが一番変態なんだよ。そんでもって強かだからな」

「そうか、なら、安心じゃな!?」

 

 二人で会話していると、傑が戻ってきた。

 

 

 

「ごめん、お待たせ」

 

 

 

 その後ろには――茈苑もいた。

 何故か傑の上着を羽織っており、圧倒的にサイズが不相応で袖から先も手が出ていない。護衛舐めてんのかって格好に思わず俺も顔が引き攣った。

 でも、何で上着なんて借りてる?

 もしかして、俺らが真面目に呪詛師を撃退している時に学校で水遊びでもしてたんじゃねえだろうな……?

 

「茈苑、本当に大丈夫かい?」

「うん。平気……ちょっと服を斬られて、返り血浴びただけ」

「斬られた……?」

 

 俺はその言葉が引っかかって、茈苑に近寄る。

 そのまま閉じられた前身頃を思いきり引き裂くように開いた。ボタンが弾け飛んだが気にしない、傑の物だけど気にしない!

 

 俺が開くと、そこに血塗れのシャツがあった。

 

 袈裟に裂けており、その付近は真っ赤に染まっている。ただ切れ間から覗く膚に傷は見えなかった。

 まさか、コイツ……マジで斬られたんじゃ?

 反転術式による治癒が可能であるのを傑や硝子延いては呪術界に隠しているから、傑に対しても服が切られたと誤魔化したのかもしれない。

 俺は茈苑にだけ聞こえるよう耳元に口を寄せる。

 

「オマエ、マジで斬られたのか」

「……うん」

「ここだけか?」

「首も切断された」

「……何で生きてんだよ」

 

 俺が体を離しながら睨むが、茈苑は平気そうにというか寧ろ切断されたと宣う首を痒いというように撫でている。

 首を刎ねられて生きていられるワケが無い。

 それこそ、致命傷を無かった事にする概念的な作用か、それとも傷を受けた時点で状態の時間を止めでもしないと……。

 そこまで考えて、一つの可能性に思い至る。

 

 ……術式反転か?

 

 以前から聞き及んでいたのだ。

 反転術式の修得と同時に、術式反転もまた行使可能になったと俺に自慢して、その日の体術訓練でもコテンパンにしてやったから忘れてた。

 

 順転の場合は『自らが完成体へと成る』。

 反転の場合は『自ら未完成体を演じる』。

 

 前者だと、それ以外を『未完成』の概念に堕とし込んで無力化する。

 逆に後者だと、自身以外を『完成』させる事。

 説明を受けた時点では、そんな感じだった。

 だが、今回の事に当てはめると術式反転の方では『他の完成』以外にもう一つ効果があるのかもしれない。

 

 自分を『未完成』にする。

 

 つまり、自分の活動状態を完成させず、止める事ができるとしたら。

 首を刎ねられはしたが、『未完成』にする事で状態としては『死と傷を未完成にした』って事か。

 無論、概念的な話で物理的には首と胴が泣き分かれた状態で固定されたに過ぎず、おそらくコイツはそのまま自分の首を拾って傷口と接着、反転術式で治癒して術式を解除……というワケか。

 うげー。

 よく見れば顔に鼻血の痕もある。

 普段から脳の治癒に回してる反転術式を肉体の修復に全振りして、しかも術式反転も併用したお蔭でかなり負担をかけたんだろう。

 また……俺との何かを忘れてないだろうな?

 

「オエ゛ー……力技にも程があんだろ」

「うん」

「でも、オマエの術式って対象を視界内に収めるのが前提だろ。首が落ちた時にちゃんと術式発動したのかよ」

「『完成』させるのは何でもいい」

「……何視たんだよ」

「そこら辺の雑草……一面が枯れちゃったけど」

「死こそ完成、ね。怖っ」

 

 現場にいなくて良かったぜ。

 コイツが自分の首を拾ってせっせこ接着作業してる所なんて見たら夢にまで出てきそうだ。

 傑はコソコソと話す俺と茈苑を怪訝な顔で見ていた。

 ……取り敢えず、無事ならそれで良い。

 

「んで、誰にやられた?」

「……分からない」

「んだそれ」

「呪力反応も無かった。非術師……でもボクよりも速く動く。呪具で武装もしてた」

「んな非術師(パンピー)がいるワケねえだろ」

「ボクが伏倉家の人間だって知ってたみたい」

「は……?」

 

 伏倉家の人間だと知った上での攻撃。

 もしかして、また五条家(俺んち)の差し金か?

 護衛任務だから、死んでも不思議ではないから殺すには丁度いいタイミングだと思って……いや、俺が色々と言っておいたから流石に無い、のか。

 それにしたって、茈苑の不覚を取って首を刎ねられる非術師……有り得ねえ。

 

「でも、俺たちが戦った相手にそんなのはいなかったぞ」

「……ボクは別行動、一旦高専に戻る」

「あ?」

「もし、またその敵が来た時ボクが死んでいる、もしくは行動不能って思わせた方が良い」

「………」

「ボクがいたら、警戒心が高まるだろうから」

 

 茈苑の言う事は尤もだった。

 伏倉家の茈苑だと知った上で襲った人間は、コイツを呆気なく一度は殺せた辺りから推察するに、術式対象にならないよう背後から襲ったんだ。

 術式の弱点を把握した上で気配を悟らせず接近するなをて用心深すぎるソイツが茈苑個人か星漿体のどちらを狙ってるかは分からずとも、任務的に考えれば離れた方が良いのは確かである。

 茈苑個人なら、天内が巻き添えを食らわない。

 天内狙いなら、死んだと思わせて茈苑が不意打ちを食らわせる手もある。

 

「分かった。俺らはこれから沖縄に行く」

「分かった。お土産期待してる」

「遊びじゃねえっつの。ちゃちゃっと黒井さん助けて来るから、それまでオマエもサボらず俺らが東京戻って来た時の準備しろよ」

「うん」

 

 道の途中で傑から黒井さんの件を聞いているのか、直ぐに頷いた。

 

「茈苑、一応硝子に診て貰うんだ」

「う、うん。……理子ちゃん」

「な、何じゃ?」

「黒井さんはきっと大丈夫。二人なら助けられる」

「……茈苑」

 

 茈苑はそれだけ言うと、傑の上着を返しながら至急迎えに来れる補助監督の人間へと連絡し、俺たちを見送った。

 不意打ちでも茈苑を殺れる非術師か……。

 本当にいるのか、そんなヤツ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ×    ×    ×    ×

 

 

 

 

 

 

「ちっ……嫌な予感が当たっちまったなぁ」

 

 メイドを捕獲した後、ついでに殺した伏倉の術師の様子を見に来たが、死体がそこには無かった。

 現場から動いた痕跡がある。

 だが、心臓も裂いて致命傷を与えた。

 用心して『釈魂刀』で首も刎ねた筈なんだが、その状態で生存可能なんざ有り得ねえ。

 

「反転術式……か」

 

 しくった。

 そこまで伏倉のガキが成長してるとは思わなかった。

 俺が斬るべきは首じゃなくて頭だったか。

 いや、どちらにしろ斬られて無事で済んでるって事は『釈魂刀』の術式を直前で打ち消してたんだな。

 五条だけでも一苦労だってのに。

 

「こりゃ報酬も弾んで貰わねえとな」

 

 伏倉の相伝『画竜点睛』については把握してる。

 大昔、五条と禪院の当主同士が御前試合で殺し合いをした時にいよいよ相討ちになるって瞬間を止めた功績から呪術界でも一目置かれてる術式だ。

 最近は五条悟暗殺目的で使われてるってのを風の噂で聞いてたんだが、あの様子じゃ同士討ちなんて期待できねえ。

 ま、俺には関係無いか。

 今回、致命傷を凌いだのは術式反転による傷や死の未完成化……だな。

 これは殺し方を工夫しなくちゃならねえ。

 

「次は念入りに殺す」

 

 五条の坊は計画通りに。

 その周りの術師も別に警戒するレベルじゃねえ。

 伏倉のガキも術式を発動しようが問答無用で『天逆鉾』で仕留めるか、それとも目を潰して術式自体を殺してから処理する。

 視界に入らなきゃ造作も無え。

 呪詛師との戦闘を見るに、基礎体術も強化術も技量が並外れちゃいるが俺の速度ならアイツの動体視力も振り切れる。

 

 くく、去年は伏倉暗殺の依頼が呪詛師界隈に回ってたが、御三家……しかもあのクソ五条家の依頼って分かってたから無視したが、コレは殺しておくべきだったか?

 

 いや、タラレバはどうでもいい。

 取り敢えず、連中はメイド救出で沖縄に向かった。

 助かる筈も無いが、コレでまた五条の精神は削れるだろう。

 むしろ、伏倉のガキが生き残っていたのは良い効果になる。

 同じ護衛の伏倉が正体不明の敵の手で致命傷を負って自分たちや星漿体にも襲い掛かるか分からない、後はタイムリミットを設けた懸賞金を手にすべく躍起になった呪詛師共の襲撃……これで術式防御もそうそう解けないだろ。

 

 削る、とにかく削る。

 

 意識も、呪力も、体力も何もかも。

 そして護衛を見事全うしたと安心しきったところで――。

 

 

「王手だな」

 

 

 俺はその場から去りつつ、溢れる笑みを手で隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きな地獄を選んでよ。

  • 夏油傑
  • 家入硝子
  • 五条悟
  • 夜蛾先生
  • 冥冥
  • 歌姫
  • 伏黒甚爾
  • 伏黒恵
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