逃げられない呪い   作:布団は友達

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プロローグで■■となってた意味のカミングアウト回。
次回、玉折編です。

今後の予定

玉折編(一話か二話)→百鬼夜行編→個別ルート

ここから悟は教師になれるような真人間?になり、夏油は原作以上に猿嫌いになり、硝子は強くなり、夜蛾はより困らされる事になります。





悟の呪い②

 

 

 

 

 

 俺は教室で、カメラを片手にしていた。

 保存されている映像を再生する。

 

 

「コイツが……」

 

 

 俺は茈苑の相手の男を探った。

 有り得るのは禪院関係の人間である。

 そこを重点的に、茈苑個人がここ二ヶ月間で接触した人間についても調査を依頼した。

 だが、結果的に何処とも茈苑と疑わしき繋がりは見つからなかった。

 そう――呪術界においては。

 

 俺は調査内容の一つに注目した。

 

 アイツは任務帰り、高専ではない場所でよく送迎の車を停めさせるそうだ。そこからは個人の用だから自身の足で帰ると伝えて別れるが、いつも同じ地点で同じ事をするらしい。

 明らかに怪しい。

 誰かと密会しているのかもしれない。

 それから茈苑の動向を探るべく尾行も付けた。

 なまじ俺を殺す為に鍛えられただけあって察知能力が高いから周辺に済む窓の人間を雇い、目撃情報を集めて……やっとアイツが何度も通う地点を探し出せた。

 

 そして、やっと相手と思しき男を見つけた。

 

 男は必ずその時間、そこにいた。

 高専敷地からもやや離れた喫茶店である。

 路地裏に建つ店には、外回りをした後と思われる大人たちが息抜きしている。シックな内装でやや会話も盛り上がり、賑やかとも静かとも言えない。

 俺は窓から送られた映像を確認し、店内に件の男を発見する。

 外見は三十代ぐらいか。

 少し髭を生やしたスーツを着こなす男は、夏が近づくとあって襟元を緩めて扇ぎながら、腕時計を頻りに確認している。

 やがて、そこにアイツは現れた。

 

時雨(シウ)さん』

『ん。来たか』

『おい、あんま走んな』

 

 駆け寄る茈苑に男――時雨は片手を挙げて応える。

 喚ばれた名前からして韓国人だろう。

 

『オマエ、制服で来るのやめろって』

『……?』

『事案なんだよ。俺が子供誑かしてる悪い大人に見えるだろ』

『実際そう』

『……言い訳できないのが世も末だな』

 

 時雨が遠慮も無く茈苑の頭を撫でる。

 二人の声音や態度から、かなり親しげに見えた。

 交流の長さがいつからなのかは分からないが、明らかに俺や硝子、傑でも把握していない関係だと察せる。こうして補助監督にも少し離れた場所で別れて足を運ぶぐらいには、周囲に隠すつもりの気配りをしているのだから。

 時雨は手を伸ばし、茈苑の腹部を撫でる。

 それから引き戻した手で頭の後ろを乱暴にガリガリと掻いた。

 

『あー、その、経過はどうだ?』

『順調』

『産休取れるまで裏方の仕事に回れねえのか』

『万年人手不足だから』

『……体、大事にしろよ。オマエをそんなにさせた俺が言える口じゃないが』

『うん』

 

 会話から読み取れた。

 やはり、この男が……コイツが茈苑の相手の男だ。

 ぎりぎりと無意識に握り込んでいた拳から血が滴る。許されるってんなら、ここで思い切り呪力を解き放っていたところだ。

 この忌々しい映像だって、消去するよりカメラ諸共に消し飛ばしてやりたい気持ちがある。

 だが、それでは調べた意味が無くなる。

 

『昔から面倒見てるガキ相手になぁ。……アイツが死んで、案外俺も弱ってたのか』

『アイツ?』

『腐れ縁だよ。仕事仲介してやってたヤツだ』

『ボクのこと後悔してる?』

『人間、一回ボーダーラインを超えちまうと感覚が鈍くなんだよ。後悔してねえのが寧ろ不思議なくらいだ』

 

 男は涼しい顔で言ってのけた。

 

『時雨が責任ある大人で良かった』

『何だソレ』

『硝……友だちが男はクズばっかりって言ってたから』

『オマエとガキ一人養うくらいには生きていける余裕があるから認知できただけだっつの』

『実家の方は何とかする。妊娠しても先生が在籍できるようにしてくれたから、卒業したら』

『……三人住める家を借りる』

『ありがと』

『……ホント、昔とは大違いだなオマエ』

 

 呑気な会話は続いていく。

 夜蛾センなんて、妊娠の話を聞いた時にはぶっ倒れて三日も現場に復帰できなかったってのに。硝子や傑なんて相手の男が判ったら殺しに行く勢いだぞ。

 俺だって、可能ならそうしたい。

 だが、これも『手札』だ。

 単純に男を殺すだけでは何も手に入らない。

 

 だから、堪える。

 

 俺は映像を止めて、カメラを机の上に置いた。

 深呼吸して、感情を整える。

 だが、精神統一を図った俺の邪魔をするように教室の扉が開けられた。

 

「悟、休校なのに何してるの」

「ん、オマエは任務帰りかよ」

「硝子、いるかなって」

 

 茈苑が俺の隣の席に腰を下ろす。

 

「硝子の所、行かねーの?」

「悟が弱ってるから見てる」

「弱ってる?元気ピンピンですけど〜?」

 

 気丈に振る舞ってみせるが、相手の変化に敏感な茈苑はお見通しのようで、俺の方に黙って顔を向けている。

 俺を気遣っているらしい。

 ああ、ホントに腹立つなコイツ。

 俺は机の上のカメラの映像を再生した状態で、茈苑へと渡す。茈苑が訝しみながらも受け取り、再生された音声を聞いた。

 そして――アイツの顔から血の気が引いていく。

 

「コイツ、誰?」

「っ……ぁ……」

「言えよ」

「……し、時雨、さん」

「コイツとはいつからの付き合い?」

「……」

「話せよ」

 

 俺が低い声で脅せば、震えながら茈苑が口を開く。

 

 この男は(コン)時雨(シウ)

 仲介業者をやっている男で、裏の業界に携わって活動しており、茈苑とは十年来の知り合い。伏倉家が茈苑に術師暗殺の訓練と称して呪詛師紛いな事をさせていた時に関わっていたらしい。

 何なら夜蛾センと同じくらいの付き合いだとか。

 裏の人間にしては珍しく茈苑を対等な人間として接する貴重な人物で、恩を感じてからは高専に入ってからも度々連絡を取り合っては会っていた。

 そして、つい一ヶ月前。

 縁談の話や実家、禪院家の圧力、夢見ていた将来の夢が実現不可能だという悲しみ、その他諸々で精神的に参っていた時に時雨に励まされ、そこでより深い関係を持ったという。

 

 俺はそこまで聞いて頭痛を覚えた。

 本当に辛かった……?

 そんな素振りを俺には見せなかったくせに。

 苦痛から逃れる為に外部のおっさんとデキてましたなんて、俺たちへの嫌がらせかとしか思えない。

 

「し、時雨さんは悪くない。ボクが、甘えただけ」

「あのさ」

「っ……!」

「じゃあ、約束しろよ」

「約束?」

「俺が縁談潰したり色々してやってんのに、裏でこれだけ勝手やってんだからな」

 

 俺はカメラを指差した。

 茈苑はそれに何か反論しようとしたが、結局俺が正しいと思ったのか口を噤んだ。

 そうだ、こんな勝手許されない。

 何より、オマエを逃がすと思うか?

 呪術界が、傑と硝子が、そして――俺が。

 どんな手練手管でここまで人を誑し込んだのかは知らねえ。その目できっと、傑も硝子も惑わされてきたんだろ。

 とんだ呪いだよ、オマエ。

 いつの間にか俺たちもオマエから逃げられない。

 

 だから、俺たちも逃がしてやらないんだ。

 

 

「子供とオマエ、一緒に面倒見てやる。――代わりに、俺には絶対逆らうなよ」

 

 

 俺の一言に、茈苑が青褪めた。

 反応が一々苛つく。

 

「じゃあ、早速だけどその時雨にもう会えないって連絡しとけ。必要なら詳細伝えて良いから」

「い、嫌だ……」

「は?」

「ぼ、ボク……ひっ!?」

 

 この期に及んで抵抗しようとするから、俺もつい憤りのままに拳を机に打ち付けた。無意識に呪力による強化を施していた威力で、木っ端微塵に砕け散る。

 ほらな。

 オマエが俺を視てないと、力が制御できなくなる。

 このままだと、何を仕出かすか分からないだろ?

 

「ソイツ、死ぬけど良いの?」

「……ごめん、なさい」

「オーケーな?じゃ、後は出産まで無茶はするな……今のところは、これで以上」

 

 清々して俺が立ち上がるが、茈苑は未だに椅子の上で固まっている。

 俯いてる顔を掴んで俺の方に向けさせると、反射的になのか茈苑が目を開いて俺を視た。

 

 その瞳は――恐怖一色に染まっている。

 

 

 

 

 

「ククク、良いじゃん。もっと視ろよ、その眼で」

 

 

 

 

 

 

 俺は甘い痺れに背筋を震わせながら、茈苑に呪いを吐いた。

 

 

 

 

 

 

 俺一人だけを視るように。

 こうしてアイツ自ら拵えてくれた『手札』と予て用意していた全てを総動員し、その目が俺以外に向かない環境が整った。

 卒業後、術師は辞めさせる。

 縁談が厄介なのは、次期当主の俺も同じ。

 その時雨との甘い将来を夢見たように、俺との間にも出来ればもう俺しか見なくなるだろ。

 卒業後には、俺が仕込む。

 

 その企みを腹に隠し、俺は変わらずアイツと高専生活を続けた。

 

 もう呪いで俺に縛られたアイツは逃げられない。

 茈苑は俺を見ると、絶望に染まる事は無いが何処か諦めたような顔をするようになった。

 また無抵抗に俺を受け容れる姿勢。

 茈苑に付く補助監督には、俺からしっかり無茶しないよう監視しておくお願いをすれば、変に勘繰って勝手に俺との子を妊娠してるんだと勘違いした補助監督が躍起になってくれる。

 これで外堀は埋まった。

 

 後は卒業までが楽しみだ――そう考えていたが、この時に俺は見誤っていた。

 

 何も茈苑に執着していたのは俺だけじゃない。

 傑も硝子も、何なら俺に劣らない熱量でアイツを呪っていた。

 重すぎる三重の呪い。

 これで、茈苑が無事に卒業を迎えられるワケも無かった。

 

 

 

 結果、ある初夏の日に茈苑は死んだ。

 非術師に嬲り殺しにされ、殺される寸前に補助監督から連絡が来ていた俺は現場に急行したが、間に合わなかった。

 手に入る筈だった物が無くなった。

 虚無感に一時期はやる気が削がれたが、不思議と不快感は無かった。

 何故なら、死に際には立ち会えたから。

 そして最後にアイツが視たのが、俺だったから。

 

「あー……ウケる」

 

 アイツが死んで迎えた2007年の9月。

 伏倉家は呪霊となって帰って来たアイツの手で全滅したので、去年の冬から続いた努力は何もかも帳消し(パー)になった。

 アイツが死んだ時点で俺にとっては白紙になったも等しいが、伏倉家の根絶は御三家にとってもかなりの痛手だとか……もう知らんわ。

 任務から帰った後、傑の呪霊としてアイツは飼われている。

 

 そんな滑稽な現状に俺は墓の前で笑う。

 墓石に刻まれた名は、『伏倉(しくら)翆恋(すいれん)』。

 伏倉家に生まれた茈苑の双子の姉。

 俺はそっと翆恋の名をなぞる。

 

「ホント、オマエは俺をバカにしてるよな」

 

 俺は舌打ちし、ため息をつく。

 元々、疑問だった。

 術式『画竜点睛』は己を完成体にし、他を悉く未完成化させる。

 発動の前提として己が完全体でなくてはならない。

 だが、アイツが妊娠した時に疑問を覚えた。

 体内の子が術式条件にまで効果を及ぼすなら、そもそも『双子』なんて元から呪術的にも不吉の象徴且つ『二人を合わせて漸く一人前』みたいな状態で術式が効果を発揮する筈も無い。

 なのに、アイツは術式を発動できた。

 それは姉が死んだから……そうではない。

 

 完成体としての条件は、『一つになる』事だ。

 

 アイツの術式の為に、『一つになる』事を強要した伏倉家が取った方策は、なるほど判断としては的確だったと言える。

 死んだ姉と、妹を一つにする方法。

 それが――名前だ。

 

 

 

 後の調査で判明したが――今まで俺たちが茈苑と呼んでいた人間の本名が、『翆恋』である。

 

 

 

 伏倉家は、翆恋に茈苑を名乗らせて『一つ』にした。

 たしかに、アイツは俺たちの前では頑なに姉の事を『姉さん』としか呼ばず、名を俺に対しても口にした事は無い。

 実際、姉の安否を調査した時も姉が翆恋として俺には報告が届いた。

 

 だが、伏倉家の蔵書を漁って『画竜点睛』について調べていく内に理解した。

 

 その術式を持つ者は『双子』の片割れ。

 術式を有する方へ、魂の繋がる片割れが名を命と共に譲る事で発動可能になる『縛り』の上で成り立つ術式。

 それが伏倉家に保存された記録による真実だった。

 他家はおろか呪術界の総監部、御三家にすら伝わらず隠然と伏倉家の内部のみで執り行われる秘儀。

 妹を想った姉の自殺も、伏倉家にとっては都合のいい事でしか無かったのだ。弱点として本名が知れた相手には術式が効かないから一族内で秘密裏に『命の名』の譲渡が行われる。

 

「何も報われてないんだな、オマエ」

『何ガ?』

 

 俺の独り言に反応する声があった。

 黒い巫女装束で俺の傍へとアイツが歩んで来る。

 

「傑は?」

『これから任務。結界入口で待ってる』

「オマエ一人で出歩いて大丈夫なのかよ」

『うん』

「何か結構僻地まで行くから帰りが遅くなるんだっけ」

『呪霊になってから一回も来てなかった。だから、いってきますだけでもって傑許してくれた』

 

 アイツは隣に立って――翆恋の墓に手を合わせる。

 

「オマエが翆恋なのにな」

 

 俺の独り言に、アイツが勢いよく振り返った。

 見開かれた目は、どうしてと訴えている。

 

「残念だな。オマエが茈苑じゃないって認識してる俺に、オマエの術式はもう効かないぜ?」

『…………』

「だろ、翆恋」

『やめて』

「やめねえから」

 

 俺は茈苑の首に向かって手を伸ばす。

 アイツの呪力が瞳で燃えるが――しかし、俺の挙動は止まらない。

 細い首を呪力を込めた手で握り込む。

 アイツの顔が苦しげに歪んだ。

 

「戻って来ても、俺はオマエを許さないからな」

『……!』

「俺以外を視て、俺以外の物になったオマエを、いつか必ず消してやる」

『ぅ、あ……!』

 

 俺たちは友だちじゃない。

 恋人でもない。

 家族でもない。

 最初から、決まっていた事だ。

 ただ、色々と遠回りして……会った時と同じ関係に落ち着いただけ。

 

 

 

 

 

「良いか、憶えとけ。――いつかオマエは俺が絶対に祓うから」

 

 

 

 

 

 今だけ、俺を視て怯える瞳に俺は笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




真希と真依のアレコレを見ていてやりたかった事が出来た……これぞ不幸。
孔時雨さんは、お察しの通りこの後の夏油との展開でドロッドロ……

第二回、曇らせ度は誰が一番高い?

  • 夏油傑
  • 家入硝子
  • 五条悟
  • 夜蛾正道
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