逃げられない呪い   作:布団は友達

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ifですが、読んでも読まなくても良い内容です。


IF『ロクでなしな大人たち』

 

 

 

 

 

 交流会も近く、停学で参加不可になった二年上の先輩の代わりとして出る事になった俺――伏黒恵は、一つ上の先輩たちとの連携確認やその他諸々の為の訓練を毎日行っていた。

 同級生――虎杖悠仁の死からまだ日は経っていないが、アイツの死からより自身に求められるのは力なのだと痛感させられた。

 あんな善人が理不尽に命を奪われるのは世の常。

 だけど、俺は手の届く距離にいた。

 助けられる距離で、助けられる力が無かった。

 だから、同じ轍を踏まないよう……今度は必ず救えるように鍛える。

 五条先生は最近忙しい。

 先輩たちに俺たちを任せて、高専に帰って来る事も珍しかった。後は専ら任務でその僅かな隙間すら埋まっているらしく、最近は話せても少しだけだ。

 まあ、俺としては五条先生よりも修行に付き合って欲しい人はいるんだが。

 

 

「茈苑さん、暇ですか」

「恵くん」

 

 

 寮の談話室で寛ぐ人を見つける。

 茈苑さん――数少ない高専所属の特級術師。

 黒い巫女服を着た小柄な女性で、短い黒髪と童顔な事もあってかなり幼い印象を受けるが、その戦闘力はバカにはできない。

 

 昔、俺の術式である十種影法術にて歴代の術者が唯一調伏できなかった最強の式神――略称魔虚羅(まこら)を五条先生立ち会いの下で顕現させた。

 調伏の儀を行うのは、俺と茈苑さん。

 本来ならこれで勝とうとも完全に調伏した事にはならないし、況してや相手はあの魔虚羅……できる筈もない。

 ただ、五条先生がやれると言ったので呼び寄せた。

 後はもう……どう語って良いのやら。

 あらゆる攻撃への適応能力を有する性質といった規格外の力を発揮する式神は、茈苑さんが高速で繰り出す連続の蹴りで十分割以上の肉片にされ、最後は彼女が編み出した高出力の拡張術式で葬られた。

 その間の俺は木偶の坊。

 訓練場は更地になったし、後処理も大変だった。

 茈苑さんへの評価は、ただの優しく頼れる術師から、やっぱりイカれてる術師に変わった瞬間でもある。

 

『茈苑の戦い方は恵寄りだから参考にするといい』

『五条先生より強いんですか?』

『状況に依ってはね。戦績的には僕が勝ち越してるけど、アイツのは呪術の天敵ってレベルだから』

『はあ』

『おっかない女って事。あんま近付いちゃ駄目だよ?』

 

 彼女とは、俺が五条先生に目を付けられると同時期に交流が始まった人でもあり、正直に言って先生より多くを学ばせて貰ってる相手だ。

 それに、思考は五条先生よりは常識人寄り。

 土壇場で判断を仰いでも無茶を強要しないし、鍛錬と称して意地悪にも格上の敵とマッチングさせるなんて理不尽な真似はしない。

 

「暇だよ」

「特級呪術師ですよね」

「でもボクの仕事、大抵は悟に回される」

「……あの人、一年の担任ですよね。副担任の茈苑さんの仕事量、もう担任名乗って良いんじゃないですか?」

「たしかに」

 

 茈苑さんの前に腰を下ろす。

 五条先生は、妙に茈苑さんに気を遣う。

 気を遣う?いや……束縛だな、現に茈苑さんは今も彼にゴリ押しされて仕方なく彼が去年まで使用していた目隠しの包帯で目元を縛っていた。

 術式の初動を阻害するからと嫌がる彼女をもう途中から屁理屈とも言えない感情論で説き伏せた時は、その必死さが逆に気味悪いとも思ったな。

 

「暇なら、鍛錬付き合って下さい」

「恵くんの?」

「はい」

「最近は自分一人でやれる、って自信満々だったのに」

「自信が持てた事はありません。ただ……最近は余計に自分の力が無いと思わされる事があったので」

「……同級生のこと?」

 

 指摘された事が図星だから何も言えない。

 沈黙は肯定だと受け取った茈苑さんが飲んでいた紅茶のカップを卓上に置く。

 同級生――虎杖の事は報告で聞いているんだろう。

 呪術全盛の時代に呪いの王と呼ばれた怪物とされる両面宿儺の魂を切り分けた呪物を取り込み、『器』となった。

 秘匿死刑が一度は決まるけど、五条先生のワガママで猶予が与えられ、その間だけでもと呪術師として活動を開始……その矢先に特級案件で死んだ。

 

「二度も御免です。あんな目に遭うのは」

「恵くんは相変わらず優しいね」

「……茈苑さんも、同い年(タメ)が亡くなった経験ってあるんですか?」

「去年が初めてだった。だから、辛いのも分かる」

 

 彼は呪詛師だったけど、と寂しげに呟いた。

 

「鍛錬……何する?体術?術式?」

「どちらも。……ただ後者の強化が望ましいです」

「式神って今幾つ使える?」

 

 茈苑さんに言われて俺は自身の手札を思い返す。

 玉犬・渾、鵺、蝦蟇、満象、脱兎……玉犬・白と大蛇は破壊されてしまったので、今のところはこれくらいである。

 魔虚羅は実力的に論外として、残る式神もまた強力なのでどれなら可能、と強くは断言できない。

 ただ、課題として優先的に調伏したい物はいる。

 茈苑さんは御三家御用達の術師家系――しかも今代に至っては、禪院家と深く繋がっていた時期もあってか俺の術式についても詳しい。

 俺の意を汲み取った上で意見を述べてくれるだろう。

 それを伝えると。

 

「拡張術式は?」

「鵺と蝦蟇の混成があります」

「そうなんだ。鵺は蝦蟇以外と併せたりしない?」

「何と合わせるか、ですけどね」

「でも、出来たら強そう」

 

 新しい拡張術式。

 俺で言うならば、混成させた式神の顕現だ。

 二種の式神の混合で、能力的にも応用が利く。……ただ、俺が使う既存の拡張術式は『不知井底(せいていしらず)』は鵺と蝦蟇の併用であり、それら単体よりも戦略的出力は落ちる。

 次は攻撃力の高い手段が欲しい。

 

「取り敢えず、術式有りの組手しよ」

「手加減は……しない方向で」

「うん、それで」

「はい」

「恵くんの守れる物、増えるといいね」

「……ありがとうございます」

 

 二人で早速鍛錬を始めようと立ち上がった――その瞬間に、茈苑さんが背後へと素早く短刀を投擲した。

 擲った先で、知らぬ間にいた五条先生が仰け反る。

 目隠しを裂いて壁に突き立った短刀を見るや、あの人は茈苑さんに詰め寄った。

 

「ちょっと!当たってたらどうすんの!?」

「無下限なら大丈夫」

「余裕で当たるの!その証拠に『展延』張ってた短刀だから目隠しが切れたんでしょーが。てか、何で手を離れた物にも『展延』施せんのさ。殺す気?」

「……死ねばよかったのに」

「あ゛ぁん!!?」

 

 二人の仲は、良いのか悪いのか分からない。

 ただ、一方通行であるのは確かだ。

 五条先生は怒鳴り散らしてはいるが然りげ無く茈苑さんの腰を抱くように手を添えている。距離が近すぎるからか、嫌そうに茈苑さんは上体を反らしているけど。

 いつもこうだ。

 茈苑さんに対してのセクハラが凄まじい。

 俺が高専入学した祝いで茈苑さんが祝いの品を持ってきてくれたが、そこで何故か五条先生が思いっきり彼女の臀部を鷲掴みにし、本気の殺し合いが始まった。

 お互い血塗れになってたし、以降も五条先生は懲りずにちょっかいをかけている。

 俺は何を見せられてるんだ。

 ただ、ツッコむのも面倒臭いので黙っていると延々と続いてしまう。

 

「僕も余裕できたし、恵の面倒は僕が見るよ」

「頼まれたのはボク。悟がボクの任務いつも盗るから暇」

「だってオマエに傷ついて欲しくないんだもんっ」

「……気持ち悪……」

「オマエって本当に冗談通じないよね」

「悟の冗談が生理的に無理」

「第一、オマエは紫月の修行に付き合ってあげなよ!」

「紫月……停学になってから連絡くれない。秤たちと何処かに行ってそれっきり……ボク絶対嫌われた」

「好かれる要素が少ないしね」

「ん゛ッッ!!」

「ぶばっ!?」

 

 茈苑さんの渾身の拳が炸裂した。

 五条先生が吹っ飛んで壁に激突し、そのままズルズルと床に崩れ落ちる。……一瞬の出来事だったが、地味にいま顎と腹の二撃じゃなかったか?

 やられた五条先生は一向に起きる気配が無い。

 何でポンポンあの人殴れるんだ茈苑さんも。

 

「俺にも後で『領域展延』教えて下さい」

「必要?」

「俺もいつか殴りたいので」

「『領域展開』より簡単だけど、悟を懲らしめる以外に用途無いよ」

 

 相手の術式攻撃を中和する防御になるので十分に強力だ。単に茈苑さんが五条先生を殴る以外に使う機会が少ないだけだと思う。

 

「うん。じゃあ、改めて鍛錬行こ」

「はい。お願いします」

「ボクも張り切って相手す――」

「隙ありィっ!!」

 

 復活した五条先生の急襲。

 背後から茈苑さんの胸部を両手で鷲掴みにした。

 

「み゜ゃあっ!?――んん゛ッッ!!」

「っお、危な!……ふ、当たるわけ、な、ちょ、ま、当たるまで殴りに来るのやめな!?」

「硝子も、悟も、何で、何でそうやって変なとこ触るの!!変態!!」

「は?何キレてんの?触りたくなるオマエの体が悪いんじゃん。僕だけじゃなくて硝子もディスるわけ?だったら触りたくなくなる体になってこいよ」

「死ね。死ね。死んじゃえ。死ね。死ね」

「茈苑さん先行ってますね」

 

 キリが無いので先に訓練場へ向かう。

 冗談ではない呪力出力を後ろから感じるので、巻き込まれないよう駆け足だ。茈苑さんには悪いが、付き合ってられない。

 談話室から逃げて通路に出ると、そこで家入さんに遭遇した。

 

「家入さん」

「伏黒くん。茈苑は?」

「談話室ですけど、五条先生と喧嘩中です」

「そうか……なら終わるまで待とう」

「……茈苑さんには何の用で?」

「いや。急患が多かったから、少し休憩したくて」

 

 家入さんが神妙な面持ちでワキワキと胸前に持ち上げた両手の指を動かしている。……要は五条先生と同じか。

 昔から思うが、この人たちのセクハラは度が過ぎてる。

 茈苑さんが涙声になる時なんて大抵二人に何かされた場合だけだ。特級呪術師に非礼を働いてここまで堂々としていられる人間はそういない。

 茈苑さんが人に当たり散らかす事は無いが、ストレスが溜まった分が何かの拍子に俺との修行で暴発しないか不安にさせられる。

 

「……今かなりキレてるし、俺の修行もあるんで程々にして下さい」

「五条はどっちだった?」

「は?」

「上と下、どっちだった?」

「……上、です。何言わせるんですか」

「なら下か……揉むのは四回までがセーフだよな」

「知りません」

 

 もう嫌だ、この人たち。

 この二人は、普段はセクハラで収めているが理性が消えると茈苑さんの手足を平気で切除しようとし始める。

 五条先生は卒業前に茈苑さんに婚約しようと言って断られた時は手足を無下限呪術『蒼』でへし折って屋敷に持ち帰ろうとしたらしいし、家入さんは茈苑さんが寝ているのを良いことに麻酔を投与しながら体を手術台に運んでそのまま子宮の摘出手術を実行しようとしたとか。

 何故俺がそんな事を知っているのかなど語るまでもない。毎回愚痴に付き合わされる俺の身になって欲しい。

 尊敬させてくれる大人が極端に少ない。

 

「私や悟が異常、みたいな顔はしないでくれ」

「はあ……」

「あの七海だって、茈苑を前にすると理性を失うんだ」

「七海さんが?」

「忙しい時は、茈苑の首筋で三回深呼吸しないと気分が晴れないらしい。私もやったから効果は共感できる」

「やめてあげて下さい」

「そんな風に言うが、伏黒くんは何もしてないのか?」

「しませんよ。嫌がってるの毎回見てますし」

 

 俺がため息をつくと、いつの間にか静かになった談話室の扉が開く。

 肩で息をしている茈苑さんは、頬についた血を手の甲で拭いながら俺の方を向いた。

 やめてくれ。

 談話室を事故部屋にしてないだろうな。特級呪術師が殺し合いをした談話室なんて、次から誰が使いたくなるんだ。

 

「恵くん、おまたせ」

「五条先生は?」

「知らない。早く行こ――し、硝子」

 

 茈苑さんが家入さんの存在に固まる。

 五条先生との用が終わった後にまた厄介なのが現れたと悟ったんだろう。その直感は正しい、遺憾ながら俺がその下卑た欲望をここで足止めしていた。

 青褪める茈苑さんに家入さんが穏やかな笑みを浮かべる。

 本当に綺麗な笑顔だが、何も安心できない。

 待ちに待った瞬間だと期待で目を妖しく光らせる家入さんの視線から逃れるように、茈苑さんは俺の後ろへと隠れた。

 俺を挟んで二人で変な空気を作らないでくれ。

 

「茈苑、後生の頼みだ。いつものやつ」

「ほ、他に何か無いの?」

「悟には触らせて、私には無いのか」

「悟も許したわけじゃない。あの……肩とか」

「そんなんで満足すると思ってんの?」

 

 頼むから俺を挟んでそんな会話をしないでくれ。

 

 その後、血塗れで談話室から出てきた五条先生による奇襲を受け、羽交い締めにされた茈苑さんに家入さんが躙り寄って来た辺りで俺はその場を離脱した。……強くなっても、こんな呪術師……大人にはならないと強く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰のルートが見たい?

  • 夢を叶えた夏油
  • 計画を完遂した五条
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