逃げられない呪い   作:布団は友達

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バンドリ面白……。


賽は投げられた

 

 

 

 

 

 

 初の実習を終えた真希と憂太を病院に連れ、後者と会話をしていた時だった。

 付き添いをした時に感じた『折本里香』の顕現は、六眼で視た限りでも莫大な呪いを有していた。生前からどれだけ乙骨憂太に対しての想いを抱いていたのか計り知れない。

 だが、優しい憂太は彼女を恨んではいなかった。

 状況から見れば憂太も少なからず被害者ではある。

 大きな呪いに憑かれ、意図せず周囲に災いを齎してしまうともなれば、心労も人一倍ある。

 それなのに、彼には怨恨が無かった。

 まるでアイツのようだ。

 

 

『愛ほど歪んだ呪いは無いよ』

 

 

 乙骨憂太は、想い人に呪われている。

 僕はそんな境遇に久しく親近感を抱いていた。

 でも、決定的に違う部分が存在しているのに似ているだなんてお門違いなのは確かだ。

 憂太の呪いは、愛に端を発している。

 僕らのは、きっと違う。

 しかも、呪った側と呪われた側が逆転している。

 アイツの場合は、僕らのは想いを受け止めようとしたが故に呪霊になってしまった。

 むしろ、憂太と茈苑こそ同じだ。

 呪われた側なのに、相手に悪感情を抱かない。

 茈苑は僕にこそ当初から殺意もあったし、失言に対して「死ね」なんて冗談の域を超えた感情を乗せた言葉を放ってくる時もあるが、誤解……というか姉の一件について決着がついた後は基本的に僕を強く恨んだりなんてしなかった。

 

 憂太は同じ目に遭わせない。

 

 僕らのような訣別も無く、『折本里香』と憂太が納得のいく解呪(こたえ)を目指す。

 そう、憂太と『折本里香』はそれでいい。

 僕らは……一度間違えたから、もう真っ当な終わりなんて望んじゃいない。

 見つけたら殺すか、永久に縛る。

 憂太とその呪いを視て、改めて固く誓った。

 

 だから、憂太と棘が向かった任務先を僕が訪問した際にある残穢を視て――思わず笑みが溢れたんだ。

 

 棘と憂太は、三級以下の呪霊討伐に向かった。

 だが、現場で祓除が完了しても『帳』が上がらずに隔離されてしまい、結界内で予定にない準一級呪霊と交戦する羽目になったとか。

 報告を聞いて不審に思ったから確認に赴いたけど、焦臭(きなくさ)いと感じた通りだった。

 絡繰は至ってシンプルだ。

 現場担当の補助監督の伊地知が下ろした『帳』に対して、上から二重に『帳』を下ろした上で六眼でしか見破れないような『呪力を知覚できない結界』の『完成化』が施されていた。

 だから現場の高専関係者が誰も気付けなかった。

 あの場には間違いなく茈苑がいて、アイツを一人にさせる筈のない傑も同伴していたに違いない。

 

 

 

 

「硝子。久しぶりに茈苑の足取りが掴めた」

 

 報告すると、硝子の顔色が変わった。

 解剖室で休憩していた彼女は、目元の隈も相俟って眼光が鋭い時は僕ですら触れがたい迫力がある。

 茈苑との再会を切望する身として、僕の報告にはリアクションせざるを得ないだろう。近年の急増する呪詛師について、硝子は高専に回収された呪詛師の遺体を解剖する時に理解してしまうのだ。

 非術師から術師へと『完成』させられた痕跡。

 資質はあるが身体的な問題で未覚醒になっている状態を無理やり叩き起こした力の爪痕から、硝子は茈苑の仕業だと断定していつも心を乱している。

 伊地知の報告で呪霊の発生率が下がっているっていうのも、傑が高専が確認する前に回収・調伏しているからだ。

 アイツらの行動は活発だ。

 でも、捉えるには至らない。

 逃がす度に僕も硝子も焦慮に駆られる。

 

「でも、また逃がしたんだろ」

「そりゃ仕方無いよ。じゃなきゃ派手に動いときながら十年も潜伏できるワケないじゃん」

「はあ……」

「でも、ここ最近は例年よりも動きが多い。特に憂太周辺ではね」

「乙骨くんを狙ってるってことか」

「若しくは、アイツの術式的に『折本里香』だろうね」

「茈苑がいるのに、戦力的にまだ足りないか」

「茈苑は論外なんだよ。アイツは戦力的手段として茈苑を認識してない。命の瀬戸際まで追い詰めたら流石に出すかもだけどさ」

「追い詰められんの?」

「そりゃ勿論。僕は最強だよ?」

 

 流石に茈苑を出されたら拙いけどさ。

 傑の圧倒的手数と茈苑の術師特攻。

 その二つが合わさると凶悪的な威力があるから、真正面から戦り合うとなるとしんどい。……勝てないワケではないけどね。

 

「硝子はさ、茈苑が帰って来たらどうする?」

「その前に、五条が主従関係築いて縛り付けるでしょ」

「…………」

「現場に行けない私じゃ、どうやっても順番的に不利だ。手に入るなら、私以外の目が届かない所に匿うけど。……五条、手に入ったなら必ず一度だけでも私に会わせろ」

「僕がアイツを祓わない前提で話すじゃん」

「祓わないだろ。何の為に人形(あんなの)まで用意したと思ってるんだ?学長なんて、アレに封じ込めたら二度と離れられない特級相当の技術まで使ってるんだからな」

 

 そうそう。

 あの人形――茈苑を封じ込める依代の事である。

 制作時に、一番この手の事で頼りになる学長に話を持ちかけた時になんか、何なら僕や硝子よりも計画に乗り気だったからな。

 しかも、仮に人形が破壊されてしまうなんて不祥事や、アイツが人形の術式を無効化した場合の対策にとか言って、僕が持っている人形以外にも複数体寸分違わず同じの物を用意している。……学長の趣味かは知らないけど、僕や硝子や傑と会う以前の幼いアイツを模した姿の人形まであったっけ。

 

『学長、作り過ぎじゃありません?』

『不満か』

『いや、予想以上の慎重さに呆れてるだけ』

『……悟、私は昔からあの子を知っている。そして理解してしまった』

『はい?』

『見ない内に暗殺の任を受けて精神を擦り減らし、また目を離した隙に何処の馬の骨とも知れない男の子を孕み、そして死んだ。もう目の離れた位置にあの子を置いてはならないんだ』

『……そっすね』

『私か、おまえか硝子が生きている限りは常に監理しなくてはならない』

 

 学長の必死さに僕は納得してしまった。

 これ、呪ってるのは僕ら三人だけじゃなくて学長もなんだなーって。

 人形見た時、学長にもどう思われてたかってなった時のアイツの表情が中々に楽しみだ。

 

「んじゃ、僕は学長の所に行ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ×     ×     ×     ×

 

 

 

 

 

 

 

 私――夏油傑は高専敷地内に鳥獣の呪霊と共に降り立つ。

 懐かしい景色に感動を通り越して呆れた。

 あれから全く変わっていない。

 ここら辺で昔、硝子とお出かけだとか張り切っていた茈苑の服に驚いた私と悟が持ち帰ったジュースを吹き、彼女の全身を汚した事で一週間口を利いて貰えなかった事件を思い出す。……硝子はその後で一緒に風呂に入ったとかでやたら顔がツヤツヤとしていたのは気掛りだが。

 隣の茈苑も同じ事を想起したのか、私が肩に置いた手を払われた……うん、ごめんよ。

 

「変わらないね呪術高専(ここ)は」

『うん。傑と悟が壊してから全く変わらない』

「改築の手伝いだよ」

 

 そんな軽口を交わしながら、指示した呪霊が口を開くと次々に『家族(なかま)』が降り立つ。

 

「うぇ〜、夏油様ァここ本当に東京?田舎くさ……って茈苑様久しぶりじゃん!!」

「菜々子、燥がない」

「んもう!さっさと降りなさい、貴女たち!」

 

 家族達の団欒を他所に、私は丁度着陸地点にいた高専の学生たちに目を向ける。

 一人は、この前見た呪言師の少年。

 次にアレは……噂の学長の呪骸かな。

 もう一人は、全く呪力を感じない……なるほどね。

 そして、最後に。

 

「初めまして、君が乙骨君。私は夏油傑」

「えっあっはじめまして」

 

 私は感動のあまり、乙骨憂太に飛びついてその両手を握る。

 武器を構えて私を追い払おうと、乙骨の傍にいた三人が動こうとしたが、すぐ後ろで感じた茈苑の膨らんだ呪力反応と共にぴたりと中途半端な体勢で静止した。私の術式命令も無いのに私の意図を汲んでくれる……これぞ絆だね。

 

「君はとても素晴らしい力を持っているね」

「……は、はあ」

「私はね、大いなる力は大いなる目的の為に使うべきだと考えている。――今の世界に疑問は無いかい?一般社会の安寧のために術師が暗躍する現状さ」

「……?……??」

「つまりね、強者が弱者に適応する矛盾が成立したんだ。なんって嘆かわしい!!」

「え、は、はあ」

「後ろの彼女なんて、特にそうさ。そんな呪術界に使い潰された事で、呪霊と化してしまったんだ」

「えっ……」

 

 乙骨君の視線が茈苑に向いた。

 きっと、外見もそうだが呪力感知も未熟だから気配では呪霊だとまだ分からなかったのかもしれない。

 

「そう。万物の霊長が自ら進化の歩みを止めているのさ!ナンセンス!!……そろそろ人類も生存戦略を見直すべきだよ」

「セイゾンセンリャク」

「だからね、君にも手伝って欲しいんだ」

「な、何をですか?」

 

 初対面で一方的に話しかけている自覚はあるが、それでも素直に耳を傾けてくれる辺り、情報通りの気優しい少年のようだ。

 そして、自分を愛する者に呪われている。

 まるで、あの子のようだ……だからこそ使い潰されないように導かなくては。

 

 

「――非術師を皆殺しにして呪術師だけの世界を作るんだよ」

 

 

 私の目的を告げると、乙骨君が瞠目する。

 うーん……初対面の人間から告げられたにしては刺激的すぎたかな?

 乙骨君の答えを待って、その顔を覗き込んでいると私の肩をとんとんと茈苑が軽く叩く。振り返ると、彼女はこちらを向いていなかった。

 私だけを視るべき瞳は、悲しい事に私以外の方へと見開かれている。

 ……ああ、こうなってしまったか。

 私が彼女の視線の先を見れば、そこに懐かしい男が立っていた。

 

「僕の生徒にイカれた思想を吹き込まないでもらおうか」

 

 以前よりよ少し伸びた長身と、やや柔らかくなった口調に加えて変更された一人称。……いつかの私の忠告を聞いてくれたって事かな。サングラスをやめたのはいいけど、包帯……うん、ちょっと不気味だけど良いんじゃないかな。

 少し嬉しくなって緊張すべき状況なのに笑みが溢れる。

 

「悟ー!久しいねー!」

「まずその子達から離れろ。傑、茈苑」

 

 悟の背後から、続々と術師が姿を見せる。

 呪力と隙の無い立ち居姿から察するに、ほとんどが準一級以上というところか。大した脅威ではないけど、時機を選んで訪れたのもあるが中々多く集まったものだ。

 夜蛾先生――たしか今は学長だったか――も拳の骨を鳴らしながら、サングラス越しにこっちを睨んでいる。ふふ、視線はこっちだけど茈苑が気になって仕方ないのはバレバレだ。

 

「茈苑」

『大丈夫。悟から目は離さない』

「そういうのは生きてる内に言って欲しかったよ」

「ふふ。それにしても君が教師か……今年は粒揃いと聞いたけど、まさか君の受け持ちとはね。呪言師の末裔、突然変異呪骸、特級被呪者……そして、禪院家の落ち――むぐ」

『傑。用事は早く済まそう』

「……そうだね」

 

 茈苑に口を手で押さえて遮られた。

 あんな呪術も扱えない『猿』を庇う必要は無い、君はそういう優しさを必要以外の者にも振り撒くから死んでしまったのに。

 少し不満だったが、口元にある彼女の手を握りながら言う通りに用事を済ませる事にした。

 茈苑の発言に、悟も眉を顰める。

 

「用事?……じゃあ、一体何のつもりでここに来た?」

「――宣戦布告だよ」

 

 私の言葉に、その場の一同が身構えた。

 

 

「お集まりの皆々様!!耳の穴かっぽじってよく聞いて頂こう!

 来たる12月24日!!日没と同時に、我々は百鬼夜行を行う!!」

『……え?』

「あれ、言ってなかったっけ?」

『ちゃんと相談して』

「ごめんごめん。……こほん、気を取り直して、と」

 

 私は咳払いを挟んで、宣戦布告の文句を続ける。

 

 

「百鬼夜行、場所は呪いの坩堝――東京・新宿!呪術の聖地――京都!各地に二千の呪いを放つ!下す命令は勿論……鏖殺だ。地獄絵図を描きたくなければ死力を尽くして止めに来い。

 

 

 

 

 思う存分――呪い合おうじゃないか」

 

 

 

 その場の空気の緊張は最高潮に高まった。

 一触即発、後方に控えた術師たちもが攻撃の姿勢を取る者さえいる。迂闊に私を攻撃すれば、それこそここが戦場になると弁えた上で……少し刺激しすぎたかな?

 私と彼らで睨み合いが続き、どうしようかと次の動きを推し量っていると――。

 

「あー!!!夏油様お店閉まっちゃう!」

「あ、もうそんな時間か。……すまないね悟。彼女たちが竹下通りのクレープを食べたいと聞かなくてね。ここでお暇させてもらうよ」

『クレープ……いいな』

「駄目だよ。これでもかなり我慢してるんだ、私以外の目にもう映すのは今日はこれで限界だ」

『クレープ……』

「駄目だ」

『クレープ……』

「……ちょっとだけだよ」

 

 く、根負けしてしまう。

 悟の事も忘れて、一心に私を見つめる茈苑の眼差しに弱ってしまう。クレープなんて非術師が作ったであろう物に、今まで興味を抱かれると悲しくなってしまうよ……。――と思ってると、背後で漲る呪力を感じた。

 

「このまま行かせるとでも――!?」

 

 悟が動き出したようだ。

 だが、それより先に茈苑が駆けた。

 刃物よりも鋭い蹴りで、悟を防御した腕ごと後ろへと弾き飛ばす。相変わらず惚れ惚れする威力とキレだ。

 呪霊操術の支配下に茈苑を置いた後、彼女本人から悟の禍根の詳細については聞き及んでいる。そして、術式有りでの殺し合いなら五分五分である事も。

 それもあってか、あまりの速さに戦いたのか、彼が即座に反撃に転ずる動きは見せない。……いや察したのか。

 私の術式が既に発動し、周囲を固めている事に。

 

「やめとけよ。――可愛い生徒が私の間合いだよ」

 

 乙骨たちや術師を包囲するように、私は十数体の呪霊を顕現させていた。

 

 いずれも耐久力と拘束力を重視した手駒。

 失っても問題無いが、それなりに強力だから足止めには丁度いい。実際、もう私どころではなくなって術師たちも慌てている。

 さて、潮時か。

 再び鳥獣呪霊の喉嚢に家族達が入ったのを見届けてから、私も片腕に茈苑を抱いて呪霊の脚に掴まる。

 

 

「それでは皆さん、戦場で」

 

 

 手を振って、その場を飛び去った。

 悟や学長が眼下で歯噛みしているのが見えて、少しだけいい気分になってしまう。

 すまないね、二人とも……そして見えない硝子も。

 

「でも少しだけヒヤッとしたね」

『傑。やり過ぎてた』

「茈苑もすまないね。久しぶりに会ったのに、あんな剣呑な感じにしてしまって」

『……それは傑が高専を出た時から覚悟してた。別にいい』

「……」

『乙骨君、どうだった?』

「うん。……あの感じだと、私の仲間にっていうのは無理そうだったから宣戦布告したんだよ」

 

 ここに来る前に茈苑と話していた。

 私の目的は『折本里香』だ。

 だが、彼女は過呪怨霊……基本的に乙骨から離れることは決して無い。だから、私の戦力として取り入れるのだとしたら方法は二つに限られる。

 一つは、乙骨ごと引き抜くこと。

 もう一つが、『折本里香』を奪うこと。

 茈苑からの提言で勧誘を最優先にし、失敗した場合に二つ目にしようと話し合いは済んだが、乙骨君の様子から見ても非術師を見捨てきれない優しさがあると分かった。

 こうなれば、仕方がない。

 乙骨には悪いが、『折本里香』を奪うまでだ。

 

『……可哀想だね』

「嫌かい?」

『ボクからすれば、傑を失うのと同じだから』

「…………心臓に悪い言い方だ」

 

 危うく食べたくなるような台詞だよ。

 

「とにかく、賽は投げられた。――決行だ」

『うん』

 




おまけ


入学当初の洗脳

その1

茈苑「硝子。友だちってお風呂って一緒に入るの?」

硝子「そうだよ」

その2

茈苑「硝子。友だちって一緒に寝るの?」

硝子「そうだよ」

その3

茈苑「硝子。友だちってキスするの?」

硝子「当たり前だろ」


 数カ月後。


硝子「茈苑。ほら、キス(いつもの)だ」

茈苑「………」

硝子「茈苑?どうした」

茈苑「最近夏油くんと友だちになれたんだけど、男の子って何か……こう……緊張するね。だからまだできてないけど」

硝子「―――」


 己の失策を悟って、嘘付いた事を白状した。
 その日の煙草は、いつもより苦かったという。





誰のルートが見たい?

  • 夢を叶えた夏油
  • 計画を完遂した五条
  • 傷を刻んだ家入
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