逃げられない呪い   作:布団は友達

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次回からキャラ視点になります。




 

 

 

 

 

少女(ガキんちょ)の護衛と抹消?」

 

 独特な言い回しで告げられた天元様からの依頼に五条が眉を顰める。

 依頼主の事もあって、夏油はやや思案顔だった。

 

「ついにボケたか」

「春だしね。次期学長ってんで浮かれてるのさ」

「先生、おめでとう」

 

 余計な反応しか返さない二名を睨み、夜蛾は握りしめた拳固を教壇の机にゆっくりと下ろす。一名の純粋なリアクションが無ければ、指導の拳骨が下りていたかもしれない。

 生徒の失礼な態度の矯正よりも、まず任務内容の伝達こそ優先順位だと己を律する。

 夏油もその気配りを察して真剣な面持ちになる。

 

「冗談はさておき、依頼というのは天元様の術式の初期化ですか?」

「……何それ?」

「冗談で済ますかは俺が決めるからな。……なぜ悟は知らんのだ。オマエは御三家出身なのだから知っていて当然だろう」

「いや、聞いた気がすんだけど……茈苑も知らねえだろ?」

「知ってる」

「仲間外れかよ」

 

 あの茈苑からですら「オマエは知っていて当然だろ」という空気を感じて五条は拗ねた。

 夜蛾は呆れながらも親切に説明を始める。

 

 天元様の術式は、『不死』である。

 寿命に縛られない故に、何百年と生き存える事で呪術界を支える事を可能にした。

 ただ、不死であっても不変ではない。

 つまり、老いるのである。

 単純な加齢ならば寿命を迎える事になるが、不死という力によってその枠組から解き放たれ、老化が続くだけの状態はもはや人の体から外れた者への変化となっていく。

 それが五百年で一定以上の老化を迎え、肉体を『進化』させる。

 肉体を必要としない高次の存在。

 天や地、普く所に自我を行き渡らせた生命を超えた新しい形である。

 ただ、その状態は自我が無いにも等しく、場合によっては人類にとって有害になるかもしれない可能性があるため、進化を阻止すべく、『星漿体』と呼ばれる天元様への適合者と同化させ、肉体情報を一新し、術式効果を振り出しへと戻す五百年に一度の砌が始まる。

 

 説明を受けた五条は、なるほどと頷いた。

 

「成る程。メタルグレイモンになる分には良いけど、スカルグレイモンになるのは困る……だからコロモンからやり直す、ってことね」

「ボク、スカルグレイモンの方が良い」

「えぇ……まあいいや、それで」

 

 五条流の解釈に、夏油は概ね合っている……気はするのでスルーした。

 隣では、天元様などそっちのけで「メタルグレイモンだろ!」とか「スカルグレイモンの造形美」等というここにおいては無益な論争が始まろうとしている。

 夏油からすれば、この両名が任務で共に背中を預ける事になる相手とあって不安になりつつあった。

 

「そこで問題だが、星漿体の少女の所在が漏洩してしまった」

「呪詛師に狙われてるんですか?」

「そう。中でも主に少女を狙う勢力は二つ。天元様の暴走による呪術界転覆を目論む呪詛師集団『Q』。天元様を崇拝する宗教団体の盤星教『時の器の会』」

 

 この二つが脅威だと夜蛾は強調した。

 天元様の肉体の変化で如何に呪術界が影響を受けるかを説き、責任が重大である事を理解させる言い回しに、さしもの茈苑も気を引き締め始める。

 五条も自らが重要な役割を任されたという自覚が芽生え、これからの任務に興味を示し始めていた。

 

 

「天元様と星漿体の同化は二日後の満月!!オマエたちの任務は、それまで少女を護衛し、天元様の下まで送り届けるのだ!失敗すればその影響は一般社会にまで及ぶ――心してかかれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 説明から数時間後。

 三人は星漿体と合流すべく、指定されたホテルへと向かう事になった。

 五条と夏油、そして茈苑。

 術師としては、近年でも最も注目されている三名という点から、途轍もなく慎重を期しているという天元様の警戒心が窺い知れる人選だと誰もが察せる。

 三人でなければ対処不可能な強さの敵勢力か。

 それとも、盤石を期して如何なる襲撃にも堪える為か。

 仮に前者なら死者が出るかも知れない。

 その第一の犠牲者として考えられるのが茈苑だと同期の三人が一斉に考えた。

 

「茈苑、無茶だけはするなよ」

「うん。あの、硝子」

「手足が欠けたって生きてればそれで良い。でもさ」

「硝子、そろそろ放し」

「私の前から消える事だけは許さないからな?」

「ぁう……ん」

 

 高専入り口まで見送りに来た硝子に手を握られる。

 少し先で出発を促す二人の視線に気付いた茈苑が動こうとするが、硝子は指が食い込むほどの力で止めてひたすら同じ言葉を繰り返していた。

 かれこれ、十四回目。

 最初は心配してくれているのだと真剣に聞いていた茈苑だが、次第に冗談では済まない硝子の心配と勢いに気圧されてじわじわと恐怖に染まりつつある。

 いよいよ助けを求めて夏油の方を振り返った顔面が硝子に掴まれて口付けを受ける事により、ようやく解放された。

 

「はは、硝子も強引だな」

「ボクは、どうすればいい」

「原因は君が怒らせてる事だから、こればかりはフォローのしようもないな」

「傑……?」

「今回の任務、ちゃんと君の事を守るからね」

「ボクじゃなくて、星漿体……」

「ああ、そうだったね」

 

 夏油からも異様な迫力を感じて茈苑は後退りしそうになる。

 

「んな事より任務の話しよーぜ」

「悟。君はまた茈苑に忘れられても良いのか?」

「あ?……あー、また忘れられて一から関係教える手間が既にメンドくせえけど俺には特に問題ない」

 

 五条の言葉に、茈苑は味方を得たかのように安堵する。

 本当の友だちではないから忘れられても傷つかないと思ったからだ。

 普段から五条も言っているので、茈苑も心底から彼の言葉を信用している。

 だが、そんな彼の内心は。

 

 ――だって、忘れようが忘れまいが少しすれば俺しか見えない環境にいるだろうから。

 

 と思っている。

 実際に口にしていれば、茈苑の絶望はより深かっただろう。

 無論、強かな五条がここで本音を口にして茈苑を萎縮させて心象が悪くなるのを理解しているからこそ、声に出さない事を選んでいる。

 

「それより先生が言ってた敵」

「呪詛師集団『Q』だろ?いや、ソイツらは何となく分かるけど、盤星教の方はなんでガキんちょ殺したいワケ?」

「崇拝しているのは純粋な天元様だ。星漿体、つまり不純物が混じるのは許せないのさ」

「盤星教って術師いるの?」

「いや、非術師の集団だ。特段気にする必要はない。警戒すべきはやはり『Q』」

 

 事前の情報では、幹部になるほど手強いと聞く。

 尤も、最強を自称する二人に通じるか否かは茈苑の中でも疑わしく思っている。

 実際、二人に気後れした様子はない。

 

「まあ、大丈夫でしょ。俺達最強だし。だから天元様も俺達を指名したんでしょ」

「ボクも?」

「俺に勝った事無いヤツは違いまーす」

「………」

「何だよ、傑」

「いや、前から言おうと思ってたんだが……。悟、一人称「俺」はやめた方が良い」

 

 脈絡も無い一人称変更の要求に五条の顔が険しくなる。

 誰かに指図されるのが嫌いな彼は誰かに何を言われても何処吹く風だが、同等と認めている傑の忠告には一応耳を傾ける。

 

「特に目上の人にはね。天元様にも会うかもだし、「私」、最低でも「僕」にしな……茈苑や歳下にも怖がられにくいから」

「五条くん、「私」にして」

「あ゛?」

「ボクと被るから」

「どっちもやなこった――お?」

 

 会話をしながら、目的のホテルが見えてきていた。

 三人で合流する予定の部屋があるであろう上階の方を見ていると、その一部が黒煙を噴いて爆発した。

 絶句する茈苑の両隣で、二人の呪力が膨らむ。

 

「あれ、星漿体の部屋か?」

「だろうね」

「これでガキんちょ死んでたら俺らのせい?」

「あれは」

 

 崩落する壁の瓦礫と共に、黒煙の中から落ちる物体があった。

 

「――あ、アレじゃね?」

「っ、止める!」

 

 目を凝らせば、人の形をしている。

 二人の反応から察した茈苑が目を見開いて落下する人影にピントを合わせ、術式を発動した。

 すると、人影が中空で静止する。

 落下運動を『完遂させない』。

 驚く夏油の肩を五条がニヤニヤとしながら叩く。

 

「傑、行こうぜ」

「……ああ、そうだね。悪いが茈苑、私が回収するまで『固定』頼む」

「うん。でも遠くて制御難しい……急いで」

 

 夏油の手中で黒い渦が発生し、内部から巨大なエイ型の呪霊が飛び出す。

 即座にその背中に飛び乗り、星漿体の方へと飛行していった。その間も茈苑はひたすら星漿体の落下運動の阻止を続けるのに集中する。

 既に襲撃は始まっていたのだ。

 予想していた通りなら敵は『Q』だが、爆発の原因は呪術とは無縁の爆弾。非術師である盤星教でも用意できる物なので、まだどちらとも判別が付かない。

 

「傑も硝子も心配性だよなー」

「心配してくれるのは嬉しい」

「オマエもそろそろ言ったら?反転術式で逐一脳の修復もしてるって」

「本当の事を報告したら、また五条家から刺客が来る」

「ここに次期当主いるんだぜ?何とでもなるだろ」

 

 茈苑の実力は同期でも五条しか知らない。

 術式や体術も強力だが二人ほどではない。

 呪力総量も五条に劣る。

 反転術式だって硝子ほど精巧さはない。

 常に二番手――だが、唯一の突出した点といえば器用さが三人以上である事だ。拡張術式、反転術式、領域等の技術の修得速度、そして六眼無しでありながら呪力行使におけるロス呪力(エネルギー)がほぼゼロである呪力効率の良さも含めて他の術師からすれば異常と称される才能だった。

 呪術師としては喧伝しても問題ない優秀さ。

 ただ、それをよく思わない人間がいる。

 特に五条家に至っては、自身らが将来を嘱望した優秀な次期当主への刺客の成長など毛ほども嬉しくないだろう。

 伝わればまた五条の忠告で止められた襲撃が再開される可能性があるので、本当の事は身近な夏油たちにですら口を噤んでいる。

 

「五条くんは信用できても五条家は無理」

「…………」

「何?」

「いや別に――っと、危ねー」

「……今揺らさないで」

「あ?攻撃から守ってやっただけだろ」

 

 星漿体に集中して無防備な茈苑の肩を五条が掴む。

 視線が外せない茈苑は眉根を寄せて不満を露わにするが、実際にその背後は無数の刃物が二人に触れる寸前で停止していた。

 五条の術式――無下限呪術。

 無下限の防護の中に入れられた二人に攻撃は届かない。

 そんな光景に刃物を操る主が手を叩きながら歩み寄ってきた。

 軍服に似た装いと黒いマスクをした長髪の男だった。

 

「素晴らしい。君、五条悟だろ。有名人だ、強いんだってね?噂が本当か確かめさせてくれよ」

「いいけど、ルールを決めよう。やりすぎて怒られたくないからね……泣いて謝れば殺さないであげるよ」

「……!」

「これがルールね」

「クソガキが!!」

 

 二人の険悪な会話の傍らで、星漿体を無事保護した夏油からようやく茈苑は視線を外す。

 そして、資料通りの格好をした呪詛師集団『Q』の人間の姿に目を眇めた。

 

「やっぱり、カッコいい……」

「え゛ー……趣味悪っ。だから服買う時、硝子に服選ばしてもらえないんだろ」

「ボク、軍服とかマント欲しい」

「ふ、そっちの女は分かってるな。……まあ、無表情で全く可愛くもないから褒められても嬉しくないが――あ!?」

 

 意気揚々と語っていた『Q』の男だったが、突如として発生した引力によって五条の至近距離に意思と関係なく立たされ、凄まじい威力の拳打の雨を食らう。

 行動不能になるまで、ひたすらに打たれる。

 最後の一撃で下顎骨の砕ける音と共に目は裏返り、吹き飛ばされて街路樹の幹に叩きつけられた。

 ずるずると崩れ落ちる男に、茈苑は唖然とする。

 

「コイツをブスって言っていいの俺だけだからな」

「嫌い。大嫌い。死ねばいいのに」

「オイ感謝しろよ」

 

 その場でゴミを見る目の茈苑と五条の喧嘩が始まった。

 眼の前の相手を罵倒しながらも、冷静な思考で現状を頭の中にて整理し始める。

 襲撃した勢力は『Q』。

 やはり夏油の読み通りで、これから彼らへの対策に集中しなくてはならないと考えたけど。

 

 しかし……この時の二人は知る由も無い。

 

 今撃退した男こそ『Q』の最高戦力とされる術師バイエルであり、彼の敗北によって組織が瓦解する事を。

 

 

 

 

 真の脅威となる者が、離れた場所から自分たちを見ている事も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きな地獄を選んでよ。

  • 夏油傑
  • 家入硝子
  • 五条悟
  • 夜蛾先生
  • 冥冥
  • 歌姫
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