どうか忘れないで欲しい。少年兵は光であり──   作:ダイス小説部部長

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青春の風たなびくIS学園

 学園の正面ゲートで出迎えてくれたのは作業着に身を包んだ初老の男だった。僕は日本作法に倣って頭を下げ会釈というものを行う。

 

「ディチャン・ノーヴェ。19番です。お迎えありがとうございます」

 

「用務員の轡木十蔵です。ようこそ、お待ちしてましたよ」

 

 互いの挨拶が済んだところで、電子的な鐘の音が遠くから聞こえた。一定の上下するリズム、4度の音から間が空いて同じ4度の音。噂に聞く始業チャイムだ。

 

「HRは丁度始まってしまいましたね。私達も急ぎましょう」

 

 十蔵さんに案内され、学園の敷地内を歩きだす。授業中、ということで敷地内は閑散としており、時折用務員さんと同じ格好をした大人が何らかの作業をしており、挨拶される度手を振って返した。そうして移動は数分、いくつかの建物を通過したもののどれも目的地では無いようだ。

 

「ずいぶん広いのですね」

 

「ええ、世界中の生徒を預かる場所ですから、人工島を丸々一つ使ってるんです」

 

 広大な島が一つ丸ごと、僕はその言葉に眩みそうになった。ここに来る前はせいぜいビル一つ程度の敷地で生活していたのだから、文字通り世界が広がったという事である。そんな環境の変化に、これからの新生活、青春に僕の心は不安よりも期待が勝っていた。

 

「ノーヴェ君、学校は楽しみかい?」

 

「ええ、もちろん……あれ、どうして分かったんですか?」

 

 世間話の延長で聞かれた事に答えたところで、疑問が浮かび尋ねる。ここまでの会話は当たり障りのない会話だったはずだし、感情が顔に出るような自分でもない。ではどうして分かったのだろうか? その質問に十蔵さんは答える。

 

「細かい変化には良く気付くんですよ。表情が変わってなくても、その弾んだ声で分かってしまいます」

 

 判断した正体は声。指摘されて僕は喉に手を置いて驚いた。そんなに嬉しそうな声だったのか。感情が露呈する程だったのか。そんなミスをかき消すように咳払いして、出来る限り淡白な声音で会話を繋げる。

 

「え……んん、コホン。そんな、嬉しそうに聞こえてたのですか?」

 

「ええ、それはもう……ああ、恥ずかしがる必要はありません。もう少し歩きましすし、良ければ何が楽しみか聞かせて下さいな」

 

「……学園に通うの、夢だったんですよ。放課後に友人と買い食いしたり、休みの日はゲーセンで盛り上がったり。変な名前の部活を立てて、学園祭はバンド演奏を披露して。そういう生活、憧れだったんです」

 

 十蔵さんに促され、僕は少し控えめに話し出す。ずっと愛読していたラノベに書いてあることそのままだがそれこそが憧れだった。友達と意味の無い会話をして、くだらない話題で盛り上がり、何の変哲もない事で本気になり、そして下駄箱の手紙に右往左往する。イタリアにいたままでは得られないものだ。

 

「それは、楽しそうですね。でもISの特訓も忘れては行けませんよ」

 

「分かっていますよ。ここに来られたのは、これのおかげですから」

 

 十蔵さんに忠告され、僕は右手首に巻かれた腕時計を──いいやISの待機形態を見せてみた。所謂男性操縦者、というものである。

 ISが男でも動かせる、というのが発覚したのは3月の中旬のことだった。日本の某所で確認されたそれは、すぐさま大規模調査という社会現象を巻き起こした。曰く男性復権の神輿、曰くアドバンテージ獲得、曰く魔物狩り。様々な思惑の抱えた調査の波は当然祖国イタリアにも届き、全く期待されてなかった検査で僕が該当者となった。そのお陰で大変な事態になってしまったのは今は思い出さないでおく。

 兎も角、該当者となったあとはトントン拍子に話が進んだようで、一週間経った頃には日本の地に降り立っていた。

 

 閑話休題。十蔵さんが足を止めて、続いて僕も立ち止まる。正面に四角い建物、恐らくはここが校舎だろう。僕はこの校舎を、新日常の象徴を記憶に刻む気で見つめる。

 

「案内できるのは、ここまでです。1年生の教室は三階、一組なら階段登ってすぐです」

 

 僕は今まで案内してくれた十蔵さんに向き直り、お辞儀をする。これだけで感謝の意が伝えられるのは便利だなと思いつつも、足りない思いの丈を言葉にする。

 

「Grazie。案内してくれて、ありがとうございます」

 

「礼には及びませんよ。学園生活、楽しんでくださいね」

 

「……はい!」

 

 十蔵さんの言葉に大きく返事をし、見送られながら僕は校舎の中へ入った。外靴から上履きに履き替え、階段を二足飛びで駆け上がる。4回ほど折り返して三階に着くと、そこで息をついた。目の前には引き戸の扉、上部に一年一組の看板が下げられている。間違いない、ここが目的の教室だ。

 中は何やら騒がしいが会話の内容はイマイチ聞き取れない。だがいかにも楽しそうなのは雰囲気で感じ取れた。僕は一度深呼吸をすると手の甲で二度、扉をノックした。

 

「二人目だな。入って良いぞ」

 

 聞き覚えのある鋭利な声に背筋が伸びるが、入室許可が降り期待を込めて扉を開け入る。教室には少女のような大人の女性とスーツを着た女性、そしてたんこぶを作って蹲る男性の姿があった。正しく想像した学園の光景がそこにあった。




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