どうか忘れないで欲しい。少年兵は光であり──   作:ダイス小説部部長

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それはそれで、これはこれで

 放課後、僕は呼び止める一夏を放置して受付に赴いた。訓練を積むためである。同じ舞台と啖呵をきったものの稼働時間で見れば圧倒的に格下、経験は少しでも欲しいところである。

 幸いにも奇跡的に今日この後に空いているアリーナがあった。すぐに予約を入れる。僕は受付のお姉さんに礼を言ってからアリーナへと向かった。時間は僅かでも無駄にはできない、まだ人の気配の少ない敷地内を早足で歩く。

 

「はぁい☆」

 

 途中、後方4時の方向から声をかけられた。振り返ってみると、水色の髪をした女子が扇子を口許に寄せていた。

 

「……どちら様で?」

 

「生徒会長の更識楯無よ!」

 

 目の前の彼女は名乗ると笑みを深めてウインクした。そういえば学園のパンフレットで見た気がしたなと思い出す。生徒会長とあればやりたい放題の代名詞、是非仲良くしたいと思うが生憎急いでいるのだ。要件を手短に尋ねる。

 

「生徒会長、そんな人がどうしてここに?」

 

「自室の鍵を渡すついで、噂を聞きつけて来たのよ。貴方、決闘するんですって?」

 

 なるほどその件か。学園の長、流石情報が早い。彼女が出した鍵を受け取りながら何が聞きたい事なのか続きを促す。

 

「ええ、まあ」

 

「ふぅん、どうして決闘することになったのかしら」

 

 扇子が一度閉じられて、また開くとそこには『興味津々』という文字が書かれていた。よく居る心情を代弁するタイプの変人なのだろう。僕は隠すことでもないと判断して正直に話すことにした。

 

「立候補が複数いたから、なのですけどセシリアを怒らせてしまって。柄にもなく『劣ってない』なんて叫んでしまったのですよ」

 

「それで決闘になったわけね……」

 

 扇子を閉じた生徒会長さんの締めの句に僕は頷く。すると彼女は少し困ったような、それでいて安心しているような表情を見せた。

 

「……貴方も大変ね。困った時には何時でも相談して頂戴」

 

 なんとも頼れる言葉だ。僕は大きくお辞儀をして感謝を示すと、生徒会長さんは仕事があるみたいで去ってしまった。僕もアリーナへ向かう。

 アリーナに到着すると丁度いい時間だったようで、直ぐに使用することができるみたいだ。更衣室で着替えを終えて、ピットへ赴く。

 

「さて、行くとしようか」

 

 ISを装着するとカタパルトに立ち、射出と同時にスラスターを点火させ一気に加速する。そのまま空中へと躍り出た。上空から見渡すアリーナの光景は中々壮観であり、遮蔽物のない広大な空間が視界いっぱいに広がる。そこで初めて自分の駆るISの情報を見た。

 

 機体名、華御。元々は打鉄のプロトタイプとなった二世代機。後付装備(イコライザ)によるマルチロール化の実証機して、十二枠というラファール・リヴァイヴ(第二世代の限界値)と同等の拡張性を有した。

 しかし、武装以外も換装可能な技術『パッケージ』の登場でより高い汎用性を生み出せるようになった為、パッケージに対応しない本機は旧式となり正式量産型となる事は叶わなかった。専用機として戴いたのはフレームだけ残っていたものに自由に動ける技術者三名で調整したもの、というのは倉持技研技術者の説明である。

 

 まずは武装を確認する。刀二本、パイルバンカー、ワイヤー搭載のクロウ、ライフル、ミサイルランチャー、サブマシンガン、撹乱用のスモークグレネード2つ、そして補給用のエネルギーパック。流石マルチロール実証機、あらゆる距離に対応出来る装備ラインナップだ。次に、システムのチェックを行う。技研の人たちも開発当時そのままでは性能不足と判断したのか、実験的なシステムを搭載させたらしい。その名も『全自動攻撃照準システム(Automatic Attack Aiming system)

 起動するとエネルギーを犠牲に高度な演算を行い敵機の予想地点に照準を合わせるよう姿勢制御を行うシステム。実験時は命中率100%を誇っていたらしいがどれほどの力か、試してみることにした。練習用の的を7つ、軌道はAI使用の最高難度。

 結果は予想より遥かに早く出た。システムの追尾完了アナウンスに合わせて引き金を引くだけで面白いように命中する。7つ全てに命中するのに3分もかからなかった。もちろん命中率は100%である。加えてエネルギーの消費も見てみるとかなり小さい。30分も使い続けるような状況にならない限り問題ないだろう。その前に決着着くだろうし。

 不安であった射撃戦は大丈夫と安心して帰還、ISを解除して服装を制服に戻せば時刻は6時。夕食に丁度良い時間であり、食堂に向かうことにした。

 

 しかし困ったことに食堂が見つからない。道に迷った上に地図も無い。仕方ないので通りかかった誰かに聞こう。そんな折、セシリアが道の隅っこを歩いているのを見つけた。僕は手を振って声をかける。

 

「セシリアさん! ……ちょうど良かった。食堂の場所教えてくれない?」

 

「……まさか、何かするつもりですわね!?」

 

 しかし、僕の顔を見るやセシリアの表情は強ばり離れようとするでは無いか。逃げられたら今度こそ立ち往生だ。なんとか引き止めようと説得を試みる。

 

「待って! 道が分かんなくて困ってるの! セシリアだけが頼りなの!」

 

 説得が功を奏したのか、セシリアは足を止めて再びこちらを見る。暫く僕の顔を見つめ一歩、二歩と近寄ると、緊張が抜けたのか表情が緩くなり、小走りしてこちらに近付く。その様子はなんだか小動物みたいだった。

 

「そ、そうですの……ごめんなさい。勝手に勘違いしてしまいまして。場所はここですわよ」

 

 隣一歩半まで近付いたセシリア地図を取り出して自分たちのいる場所と食堂を交互に指さした。僕は指さされた位置を覚え、経路を頭の中で構築する。

 

「では、わたくしはこれで……」

 

「ま、待って」

 

 食堂の場所を教えてくれたセシリアにはお礼に夕食を奢ろうか、ちゃんと会話する良い機会だと考えてたところ、セシリアは役目を終えたと言わんばかりに離れようとしていた。僕はその動きに作為的なものを感じて呼び止める。

 

「何か、ありまして?」

 

「教えてくれたお礼。食事、一緒に行かない?」

 

 口にした瞬間、空気が処理落ちでもしたかのような硬直を感じた。セシリアの目が大きく開かれ、僕の顔をじっと見つめている。僕はセシリアの表情を見て、失敗したかなと思いつつも彼女の返事を待った。

 

「嫌味を言われると思いましたわ……」

 

 セシリアの口から出てきたのは了承でも拒否でもなく安堵だった。礼を言われるなら分かるが嫌味を言われる? 僕は首を傾げつつ疑問を口に出す。

 

「どうして?」

 

「だって、私は貴方を傷つけ侮辱しましたのよ。それを今更……そもそも、貴方プライドは無いんですの!?」

 

 セシリアは少し怒ったような口調で捲し立てる。確かに対立して決闘まで決めてしまったが、それは自分が戦力での意地を張った結果であり、それが関係ない今は全く気にしていない。

 

「無いわけじゃないけど、クラスメイトなら仲良くする方が大事でしょう?」

 

 僕が一般的礼節(ラノベ知識)を復唱するとセシリアは呆れたようにため息をつく。

 やっぱりダメだったかと内心諦めかけていたところ、予想外の呆れ声が返ってきた。

 

「そこまで言うのであれば、仕方ありませんわね」

 

 セシリアは腕を組み、僕から視線を外すとぶっきらぼうに答えた。

 

「いいですわ、貴方の誘いに乗ってあげます」

 

 セシリアの態度は相変わらずだが、こうして無事に約束を取り付けることが出来た。後は食堂に到着するまで他愛のない話をする。内容はお互いの趣味や好きなものなど、取り留めの無いものだった。

 

 そうして到着した食堂は多数の生徒で賑わっていた。時計を見ると午後七時、大多数の生徒が夕食を取るだろう時間帯だ。ちゃんと座って食べれるだろうか一抹の不安を抱えながら食券を購入する。セシリアはサンドイッチ、僕は日替わりパスタだ。本日のパスタはペンネ・ボロネーゼ。初めて食べる料理カテゴリ(正体不明の料理)に期待が膨らむのを否定できない。

 予想した通り席も殆ど埋まっており、空いているテーブルを探すのも一苦労である。

 

「あそこ、二人分空きがありますわね」

 

 そんな中でセシリアが見つけたのは窓際の二人掛けの丸机。空席があるのはラッキーだと思い、僕は早速椅子を引いて座る。セシリアも隣の椅子を引き腰掛けた。僕はいただきますと手を合わせてフォークを手に取る。筒状に纏められた小麦の合成物を一本刺して口に運ぶ。

 

 そのペンネは想像以上に美味しかった。

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