どうか忘れないで欲しい。少年兵は光であり──   作:ダイス小説部部長

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幕間【同居人は女の子】

「えーと、2027号室は……あ、ここだ」

 夕食後、現在時刻は20時。渡された鍵の番号を頼りに自室となる寮部屋を探し当てると鍵を挿し込み捻ってみる。

 しかし、シリンダー特有の金属音が鳴らない。

 そこでドアを引くと抵抗なく開いた。視界の先、壁際にはベッドが2つ。そして逆側にはデスクが2つ。今まで過ごしたどんな部屋よりも上等な雰囲気だが、どうやら相部屋らしく、姿は見えないが荷物がある辺り同居人が既にいるようだ。僕は部屋に入り、ベッドに腰掛けてみる。ベッドは体重をかけた分沈み込んでいき、体を受け止める。

 これ程柔らかくてちゃんと身体を支えられるのか、また眠れるのだろうかにわかに懸念が浮かんだ。そんな事を考えている折、奥から声が聞こえる。

「あれ? 誰かいるの? もしかして同室の人?」

 ドア越しだからかくぐもって聞こえるが……相当高く瑞々しい。推理するまでもなく女性の声。その声の主は、パタパタと音を立ててこちらへやってくる。そして僕の目の前に現れた。

 髪は水に濡れたまま、そしてバスタオル1枚を身体に巻いただけの姿で。彼女は僕と目が合うなり硬直して、顔を真っ赤にする。僕も動けず、時間が過ぎていった。

 不意に、異性の、ハプニングに遭遇する。参考資料から参照するとラッキースケベという現場に合致する。しかしこの直後は咄嗟に出る拳や脚で飛ばされる、もしくは悲鳴が即座に上がるはずなのに、一向にそうならない。お互い硬直したままの時間が過ぎるばかりだ。どうすれば良い、こんな状況僕のデータに無い。どう反応すれば正解だろうか。記憶から相手の情報を呼び起こす。

 茶色のショートボブ、そして青系の混じるグレーなタレ目。メガネやカチューシャは無いが一夏の後ろの席の岸原理子だと判断できた。彼女は女子達の輪に飛び込んでは雑に扱われているイメージが強い。なら対応もそれに準じるのが正解なのだろうか……尚、ここまでの思考の為に約3秒は黙っていた。

 そんな沈黙の中で、先に声を出したのは彼女だった。

「あのー、えっと、取り敢えず服着てくるからちょっと待ってて!」

 そう言うと彼女は慌てて脱衣所らしき部屋へ飛び込んで行った。そしてほとんど間を置かずに短い悲鳴と大きく雑然とした物音。あんまりにも派手な物音だったので、僕は負傷を疑い様子を見に脱衣所を覗いてみる。

 そこにはタオルが外れ、床に倒れ伏している岸原さんの姿があった。

 一瞬、視界に入る情報量が増える。だが、立ち止まる理由にはならなかった。僕は距離を詰め、屈む。

「大丈夫?」

 声をかけると、彼女はゆっくり顔を上げた。

「うん、ちょっと転んだだけ……」

 そう言いながら彼女は顔を上げたところで固まってしまう。どうしたのかと様子を伺っていると、彼女は自分の身体と僕で目線を往復させ、みるみるうちに顔が赤くなっていく。

「うぇ!? えっ! いや、見ないでっ!!」

 彼女は両腕で胸を隠すようにしながら後ろに下がる。それでも隠しきれない部分はあるようで、耳まで真っ赤になりながら目を逸らしている。そんな彼女の反応を見て、なるべく彼女を視界に入れない様に顔を背けた。

「ご、ごめん。えと、直ぐに着替えを持って──」

「それもダメ! 下着、地味なのしか無いから……」

 そう言われてしまうとこちらも困ってしまう。ならば、どうするべきか。僕は考えを巡らせ、愛読書の一場面を思い出した。実行に移すために僕は自分の上着を彼女に羽織らせる事にした。

「……ノーヴェくん、見た?」

「……見てないよ」

 制服の上着を渡すと、ひったくるように取って羽織った岸原さんは一言だけ尋ねてくる。僕は目を逸らして、首を横に振ると彼女はそれきり黙りこくってしまった。お互いに無言なまま、数分か数十分か経過する。そんな時間が、どうにもむず痒く感じた。妙によく聞こえる心音も、何かしろとせっついているみたいで、僕はこの空気を抜け出せる言葉を絞り出す。

「……ええと、僕は部屋に、戻るよ? 怪我とか、無いみたいだし。君も、着替えなきゃならないし」

 返事は聞かなかった。多分、岸原さんも返事が出来る余裕は無い事はわかっていたのもある。僕は言い切る少し前に踵を返しベッドに戻った。

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