ピースミーティアを巡る戦闘が始まって30分が経過し、連邦、ネオ・ジオン共にモビルスーツを消耗し始めていた。ロンド・ベルの第1次攻撃隊30機の内、プロトタイプ・リゼル1機とジェガン6機が撃墜されており、対するイサベルのネオ・ジオン軍60機の内、ギラ・ドーガを13機とリベリオ隊の機体が2機撃墜されていた。
未だ数的有利はネオ・ジオンに分があるものの、組織戦としてはロンド・ベルに分があり、どちらも総崩れまでは至らずに持ち堪えている。だが、状況は徐々に数に勝るネオ・ジオンが押し始めており、モビルスーツ隊の動きに合わせて艦隊も前進を開始していた。勢いを維持しながら、このままロンド・ベルを包囲して殲滅する狙いがあるようである。
「ブレイズ5、レーザー信号途絶…!」
「左翼のジェガン部隊が押されつつあり、敵が半包囲を仕掛けて来てます!」
ラー・ネイジュの戦闘ブリッジ内で、戦況の推移を見守るアンダーソン艦長の表情は固い。通信オペレーターのエヴァ少尉の言葉と、その隣に座るセンサー長のマインズ大尉の言葉を耳に入れながら、ブリッジの大型モニターに目を向けていく。
左翼側は随伴艦であるクラップ級『ネルソン』のジェガン部隊が受け持っており、そこが集中的に狙われているようだった。
「艦隊直進、直掩を増援に回す。何としても衛星に取り付くのだっ。」
アンダーソン艦長は艦長席から命令を飛ばしていき、3隻の艦を前進させて正面からネオ・ジオン艦隊を突破する策に打って出た。通常であればモビルスーツ隊を下がらせて一時後退し、態勢を整える時間を作るのが定石であるが、今回の作戦はエコーズ部隊がピースミーティア破壊工作を行う役割と、シーナ少尉が敵艦隊に奇襲を仕掛けて一気に叩く役割とが連動して行われており、ロンド・ベル艦隊はその為の囮として前線を支える役割が課せられている。複合的な作戦故に、今後退する事は出来ないのだ。
「モビルスーツ部隊、突破されました!」
センサー長のマインズ大尉の声に反応し、アンダーソン艦長はブリッジ正面に映る宇宙の海に目を向けていく。肉眼でも薄らと視認できる程、複数のギラ・ドーガが味方部隊の攻撃を掻い潜り、防衛ラインを突破して艦隊に迫り来るのが見えた。
「対空迎撃、弾幕。直掩部隊を迎撃に当たらせよっ。」
「対空砲火、斉射開始!味方機に当てるんじゃないぞ!」
素早い艦長の言葉に反応し、副長のエリス中佐が命令を飛ばしていくと、3隻による対空機銃の弾幕が張られ始めた。全方位に向けて機銃掃射が行えるよう、艦の武装は装備されているものの、どうしても死角になる場所は存在する。それを補うのが直掩機の役割であり、艦に敵を寄せ付けないよう迎撃を開始した。
迫り来るギラ・ドーガは8機。どれも随伴艦のクラップ級2隻に向けて襲い掛かっており、ラー・ネイジュには攻撃の手は加えて来ていない。先ずは比較的墜とし易い方から沈めようとする意図が感じられるが、此方もそう簡単に沈められる程やわではない。直掩部隊のジェガン隊が応戦に当たり、ラー・ネイジュの機銃がギラ・ドーガの動きを妨げるように弾幕を展開していく。同時に、直掩部隊から距離を取り、弾幕が届かない位置にてクラップ級を狙撃しようと試みるギラ・ドーガの存在も、ラー・ネイジュの砲術長アレン少佐はバッチリと捉えていた。
「主砲、発射!」
ラー・ネイジュの艦後方に装備されている主砲が動き出し、狙撃体勢に入ったギラ・ドーガ目掛けて照準を合わせると、アレン少佐が発した掛け声と共にトリガーのスイッチが押され、主砲のビーム砲が放たれた。マゼンタ色の鋭く巨大なビームの光は、凄まじい速度でギラ・ドーガに襲い掛かり、機体の右半身をごっそりと抉るように直撃し、直後に爆散して粉々に散っていった。
ホッとしたのも束の間、これで敵の攻撃は終わった訳ではなく、まだまだ敵部隊は艦隊に襲い掛かって来ている。ロビンソン、ネルソン共に対空機銃を斉射し続けており、直掩部隊のジェガン隊も果敢にギラ・ドーガ達へと肉薄し、艦隊に寄せ付けまいと奮闘していた。
だが、前線のリゼルとジェガン部隊を突破したギラ・ドーガの数は更に増し、次第に艦にも損害が出始める。
「ロビンソン、右舷被弾っ。損傷は軽微の模様…ネルソンに被弾、主砲損傷!」
エヴァ少尉の報告を受け、厳しさを増してきた事をアンダーソン艦長は感じながら、ギラ・ドーガの攻撃はラー・ネイジュにも及び始め、対空機銃と直掩機の弾幕の隙を縫い、無誘導型のシュツルム、ファウストの弾頭がラー・ネイジュの船体に直撃した。
「くっ……、損害を報告せよ…!」
「左舷第8ブロックに被弾、隔壁閉鎖!」
「左舷対空機銃、複数損傷っ。」
「ラー・ネイジュ、損傷は軽微っ、まだ行けます!」
(…まだだ、まだ耐えなければ…。シーナ少尉が来るまでは……)
各部署からの損害報告を頭の中で整理していきながら、アンダーソン艦長はジッ…とブリッジの大型モニターを見つめていく。この戦闘宙域の全体マップが表示されており、熱源の点が各地に散りばめられているが、まだ敵艦隊に大きな動きはない。シーナ・ランチェスターのルミナスガンダムが強襲すれば、必ず敵艦隊の隊列に乱れが出る筈である。そうなれば、作戦はフェイズ2に移行出来るのだ。
フェイズ2は、文字通り敵艦隊の防衛ラインを穿つ強行突破である。ガンダムが奇襲を仕掛け、敵の意識が乱れた隙を突いて艦隊を正面からぶつけていき、挟撃の形を仕掛けながらエコーズ部隊の退路を確保する…というものだ。かなりの力技となるだけに、今損害を増やす訳にはいかない。艦隊を預かるアンダーソン艦長としては、耐えるしかないこの時間が1番神経を擦り減らす状況となっている。
「機関部への損傷は何としても防げっ、弾幕を途切れさせるな!」
アンダーソン艦長は声を張り上げる。ガンダムが現れるその瞬間を、今か今かと待ち侘びながら。
※
「ほぉら、まだまだ行くわよォ!!」
赤と黒に塗装された魔改造ギラ・ドーガを駆り、連邦の新型機と一騎討ちでビーム・ソードとサーベルをぶつかり合わせ、緊迫した接近戦を展開している者が1人。
女のような口調でギラ・ドーガを操縦する男こそ、悪名高いリベリオ・ビアンキその人である。
『くっ……、オカマなんかに負けるかよ…!』
「誰がオカマですってェ!?」
敵も中々腕が良い。かれこれ5分は対峙しているものの、致命傷を負わないように上手くこちらの攻撃をいなしている。流石ロンド・ベル、精鋭部隊の名は伊達ではないと感心しながらも、これだけ接近していればミノフスキー粒子の影響もほぼ受ける事なく、互いの無線が混在してお互いに罵り合いながら鍔迫り合いを繰り返していた。
「おっと……!」
と、敵の機体と距離が離れた隙に、向こうがシールドをこちらへと向け、内臓されたビームガンを小刻みに撃ってきた。こちらも耐ビームコーティングが施されたシールドを咄嗟に構え、初撃を受け止めながら防いでいくと、2発目、3発目はスラスターを噴射して回避していき、敵との間合いを取って一旦仕切り直しをしていく。
距離が出来た事で、敵もこちらの動きを探るように射撃の手を止め、然し銃口は向けたまま対峙している。これで少しは息継ぎが出来そうだ。
「ふぅん……、連邦の新型…中々良いじゃない。それに、貴方の腕前も素敵♡」
『お前みたいなオカマに褒められても嬉しくねぇよ…っ。』
一々癪に障る敵パイロットである。頭部にブレードアンテナが付いている辺り、恐らくは隊長機であろう。つまりは、お互い責任を背負ったパイロット同士という事になる。こんな熱い展開、リベリオ・ビアンキにとっては興奮以外の表現が見つからない。
このギラ・ドーガは、リベリオ用にチューンが施された特注品の機体である。両腕部に可変式ビーム砲を外付けしており、脚部も追加装甲とスラスターを増設し、航行距離と戦闘可能時間を伸ばす為に大型プロペラントタンクも2本装備している。1番目を引くのは、バックパックに装着された巨大な武器だ。1本の鉄の棒のようなものを背負っており、そのままでは何に使用するものか誰も分からないだろう。だが、この巨大な棒状の”何か”こそ、リベリオ・ビアンキが愛用して止まない武器である。
「貴方は強いから、本気出しちゃおうかしら…♡」
リベリオは気味の悪い声を発しながら、両手に展開していたビーム・サーベルを一旦格納し、背中に背負った何かに両手を伸ばしていく。ギラ・ドーガのマニュピレーターがしっかりと棒を掴むと、勢いよく振り抜いて見せた。
『なっ……。』
無線越しに、連邦のパイロットが言葉を呑むのが聞こえてきた。その反応に満足そうにニヤニヤと笑みを浮かべ、正体不明の武器を展開していく。
棒状の先端からビームの光刃が伸びると、それは形を徐々に変えていき、独特な姿になっていった。言うなれば其れは、死神が手にする大鎌のような形状。黄色に輝く巨大なビーム・シザースだった。
リベリオのギラ・ドーガカスタムは、このビーム・シザースを振り回す事を前提にして改造を施されている。その為、携帯武器は格納できるビーム・サーベル2本と、このビーム・シザースのみだ。それ程までに、大鎌で敵を刈り取る事を拘りとしている。敵の断末魔の叫びを聞きながら、この手で直接死を与える為に。
「さぁ、行くわよ!!」
ビーム・シザースを構えたリベリオは、足元のペダルを床まで踏み抜き、スラスターを全開にしてプロトタイプ・リゼルへと突貫していく。バックパックのビーム・シザースが無くなった事で、漸くスラスターを全開にする事が出来るようになり、先程までとは違い明らかに機動性が上がった事が敵にも感じ取れているだろう。
実際、あまりの速度の違いに敵はトリガーを引く事を止め、直ぐにビーム・サーベルを展開して受け止めようとしていた。良い判断である、とリベリオは感心するものの、それでも勝つのは自分だと確信していた。
『ぐ……!』
「ほらほらほらァ!!」
縦横無尽、力技でビーム・シザースを振り回していき、斬り掛かる度に向こうもビーム・サーベルを振り翳して光刃同士がぶつかり合い、弾きながら刃を交わしていく。ビームの光刃がぶつかる度に、辺り一面に飛び散るようにビームの奔流が迸り、眩い光をビリビリッ、バチッ、バチッ、と放っていた。
敵も上手くいなしながら受け流しているものの、次第にこちらが押し始め、ほんの一瞬敵の機体がよろめいたのを見逃さず、ニヤリとした笑みをリベリオは浮かべる。
「貰ったわよォ!!」
ビーム・シザースを真上から振り下ろしながら、リゼルを一刀両断にしようと大鎌の光刃を突き立てていく。だが、敵のパイロットも咄嗟の機転が働いたようで、スラスターを噴射しながら機体をグルンっと回転させ、致命傷を避けるように右脚部を振り上げてきた。
驚いたのはリベリオである。咄嗟にこんな動きが出来るなんて、相当技量が高くなければ出来ない事と分かっているからだ。振り下ろしたビーム・シザースの光刃は、蹴り上げてきたリゼルの右脚部に突き刺さり、結果的には胴体には届かずに足だけを斬り裂く事となってしまった。
『やられるかよ……!』
「ちょこまかと、ウザったいわね…!さっさと死になさい!!」
斬り裂いたリゼルの右脚部は宇宙を漂い、少し離れた場所で爆発した。次は必ず胴体を斬り裂こうと思いながら、小賢しい動きをしてくる敵を睨みつけ、リベリオはビーム・シザースを再び構える。対するリゼルは、右手にビーム・ライフルを握り、左手にビーム・サーベルを構えながら、少しでも距離が離れれば射撃でこちらを仕留めようとする形を取っていた。
だが、形勢はリベリオに依然有利に働いている。リゼルは右脚部を失い、スラスターの推進力も機体制御のバランスも悪化しているので、幾らしぶとく抵抗しようがリベリオの勝ちは見えていたのだ。
『くそ…ッ、エネルギー切れか…!』
敵はひたすらこちらと距離を取り、ビーム・ライフルによる射撃を繰り返していたものの、軌道は分かりやすく、避ける事はギラ・ドーガカスタムの機動性なら容易い事だった。そして、突如として射撃の手が止まる。混在してきた無線も示すように、どうやらライフルのエネルギーを使い果たした様子だ。
これにはリベリオもニンマリと表情を歪める。質量、リーチ共に勝るこちらが、接近戦では特にアドバンテージがある状況なのだから。この好機を逃す手は無く、すかさず間合いを詰めていき、ビーム・シザースを勢いよく振り払っていった。
「嬲り殺してやるわよォ♡」
またも敵パイロットは微細なスラスター制御の技を披露し、姿勢を変えながらシールドで大鎌の光刃を防ごうとして来た。だが、ビーム・シザースの巨大な光刃には、そんなもので防げる筈はなく、左腕ごとシールドを真っ二つに切り裂いていく。
これで敵の武装は右手に持つビーム・サーベル1本となり、左脚部だけが残っている状態だ。対してこちらは擦り傷程度の損傷しか負っておらず、文字通り殺すのは容易い。
『チッ……、オカマ風情が…ッ!』
あくまでも敵は最後まで抵抗するつもりのようだ。片腕片脚になっても、ビーム・サーベルを構えながらこちらへ斬り掛かろうとしている。その意気込み、闘志、殺気、全てがリベリオの興奮を昂らせていき、最高の断末魔を聴く為にどう斬り刻もうかとニヤニヤしながら思案していく。
───リベリオ・ビアンキの戦闘が想定外の終わりを迎えたのは、丁度そんな時だった。
「ッ──、高熱源体……新手!?」
ギラ・ドーガカスタムのコックピット内にアラート音が響き、真上から高熱源体が急速接近している表示がコンソールパネルに出されている。振り向いた時には、既に遅かった。
振り返った先には、自身の部隊を載せているムサカ級巡洋艦『バルバロイ』を含んだ、イサベルのネオ・ジオン艦隊が居る。その内の1隻であるエンドラ級軽巡洋艦『ナルアドラ』に、突如としてビーム攻撃が降り注いだのだ。初撃でナルアドラのブリッジが撃ち抜かれて吹き飛び、瞬く間に第2射、第3射とビーム砲が撃ち込まれていき、メインエンジンやカタパルトデッキにも直撃すると、程なくしてナルアドラは弾薬庫に誘爆して凄まじい爆発を起こして四散していった。
ナルアドラの対空迎撃は全く機能しておらず、周りに控えていた直掩機達も迎撃した素振りがない。誰もあの攻撃を予知出来ておらず、察知する前にやられてしまったのだ。
「チッ…、敵艦隊の増援ね……!」
リベリオは悟った。あそこまでの威力、そして超長距離から放ったと思われる射程…間違いなく戦艦のメガ粒子砲だと。ロンド・ベルの増援か、はたまた正規軍の一部が行動を起こしたのだと考えるのが自然であり、ヘルメットの中で舌打ちをしてしまう。
今この状況で、母艦であるバルバロイを失うのは大きな痛手となる。それだけは何としても避けなければいけない。そう考えている間に、中破状態の敵モビルスーツが突如として変形していった。
『お前に構ってる暇はないんでね…!』
「なっ……、戦闘機…!?」
そう、正に戦闘機のような形状に変形したのだ。可変モビルスーツだとは想定していなかったので、僅かに攻撃のタイミングが遅れてしまう。
その隙に、敵はスラスターを全開にし、凄まじい速度でぐんぐん離れて行ってしまった。可変機の速度に追いつける程、このギラ・ドーガカスタムの推進力は高くはなく、仮に追いつこうとしても敵艦隊の真正面に突っ込んでしまう方向なので、迂闊に深追いも出来ない。
「……あぁぁもうッ、イライラする!!全機、雑魚の相手は後回し!バルバロイの救援に行くわよ、急いでッ!!」
リベリオ・ビアンキの興奮は、一気に冷めていくばかりか、母艦を堕とされてしまうという焦燥感に塗り替えられていき、無線で怒声を張り上げるのだった。
だが、この時の彼は1つの誤解をしている。増援部隊の、その本当の姿に。
※
ここは、酷く静かだ。
遠くに幾つもの弾幕の閃光、ビームの軌跡、爆発の光が起こっては消えていくものの、その音や衝撃はこちらには一切届かず、まるで映画のワンシーンを観ているような気分だった。
だが、微かにだが戦場に響く想い、叫び、魂の慟哭のようなものは、不思議と距離を感じさせずに私の脳裏に響いてくる。ある者は敵への憎悪を、またある者は戦いを楽しむ愉悦を……そんな多種多様な心の色を、サイコミュが捉えていたのだ。
ある種、雑念とも言えるような感応波に臆する事なく、否定する事もなく、ただ静かに息を吸い、静かに息を吐いていく。何度か繰り返していく内に、自身の呼吸音だけが耳に染み込むように聞こえており、心なしか心臓の鼓動も普段以上によく聞こえている。ミノフスキー粒子の影響であろう、敵味方の無線も一切入って来ない。コックピットのモニターから見える宇宙が、いつにも増して綺麗に見えるような気がした。
「……ふぅー……、ん……。」
もう一度息を吸い込み、ゆっくりと息を吐いていく。深呼吸を何度か繰り返して、平常心を保っていく。震えそうになる手を落ち着かせ、私は静かに目を閉じた。
……ふと、私の肩を誰かが叩いたような気がした。それが何なのか分からないものの、不思議と嫌な感覚ではなく、寧ろ懐かしいような、温かさを感じるような、そんな穏やかな感覚だった。
(………行くよ、ルミナス…!)
──次の瞬間。目をカッ、と開き、気合いを込め、操縦桿を目一杯押し込みながら、足元のペダルを床まで踏み抜き、ガンダムの全スラスターを全開にした。全身の装甲の隙間からは、埋め込まれたサイコフレームの赤い光が迸り、H.W.S.(ヘビー・ウエポン・システム)の追加スラスターの効果もあって、一瞬意識が飛んでしまいかねない暴力的な加速Gをその身に受けつつ、シーナ・ランチェスターはただ1点のみを見つめてガンダムに鞭打つ。
「見つけた……ッ。」
位置関係として、前線を押し上げる為に直進して来た、ネオ・ジオン艦隊の真上から迫る形となり、ガンダムのセンサーはハッキリと艦影達を捕捉していた。先ずは、1番防御が手薄な艦から攻撃しようと思うと、新たに装備されたハイパー・メガ・ライフルを構え、照準を合わせていく。
通常であれば、スラスターを全開にして加速しながらの射撃は、加速Gの強さに加えてセンサー類もブレてしまうので、精密射撃というものは不可能に近い。だが、このルミナスガンダムは別だ。全身のサイコフレームに私の思考が正確に伝播し、まるで自分の手足のように思い通りに操れるのだ。スラスターを全開にしながらの精密射撃も、既にテスト済みである。
「───ッ!」
息を呑み、一瞬意識を研ぎ澄ませながら、私はトリガーを引いた。ハイパー・メガ・ライフルのマズルから光が漏れ出し、高濃度のビーム粒子が圧縮されていくと、溜め込んだ粒子を一気に開放するようにビームの巨大な閃光が放たれ、まるで流星の如く戦場を貫いた。
通常のルミナスガンダムのハイパー・ビームライフルに比べ、一回りも二回りも巨大なビームの閃光。その反動も凄まじく、関節部を強化しているルミナスガンダムですら、一瞬腕ごと吹き飛んでしまうのではないかと思ってしまうような衝撃を感じる。だが、その反動以上の見返りは十二分以上であり、捕捉していたエンドラ級のブリッジを正確に撃ち抜き、ブリッジが粉々に爆散しただけでなく、艦底まで一気にビームが貫通したのだ。1機のモビルスーツが持つには、余りにも過ぎた火力である。
ここで攻撃の手を止める事はせず、ガンダムに更に鞭を打ちながら、私は再びトリガーを引いていく。2発目のビームは艦尾のメインエンジン付近に、3発目はモビルスーツの発進カタパルトに直撃させていき、程なくしてエンドラ級は凄まじい爆発を起こして跡形もなく四散していった。
「うッ……く…、まだまだ……!」
先ずは1隻撃沈。凄まじい加速Gの負荷に耐えながらの射撃は、肉体的な負担が強く、つい苦しげに息を漏らしてしまう。それだけでなく、エンドラ級を撃沈した際に、とても不快な感覚が私の身体に降り注いだのだ。
それは、ニュータイプの感応波を持つからこそ感じられた、様々な人々の残留思念。エンドラ級と共に爆散し、死んでいった無数の人々の想い。それをサイコミュが敏感に拾い上げ、私の身体に流れ込んでくる。この不快感に耐えようと歯を食い縛り、精神的にもかなりの負荷が掛かりながら、私は次の目標へと照準を定めていく。
「次は…、お前だ…ッ!」
狙いを定めたのは、撃沈したエンドラ級の直ぐ後方に位置するムサカ級。流石に今の奇襲攻撃でこちらの現在地が露呈してしまったので、ネオ・ジオン艦隊による対空迎撃の弾幕が展開され、メガ粒子砲が次々に放たれていく。
だが、まだまだ距離は離れている為、対空機銃の弾幕はガンダムまで及ばず、メガ粒子砲のビーム攻撃も避けるのは容易い。尚且つ、回避運動をしながらでも、ガンダムは正確に目標を撃ち抜けるのだ。直掩部隊もこちらに向けて迫って来ているが、会敵する前にムサカ級を沈められる自信はある。
「沈めッ!!」
迎撃を掻い潜りながら、私は再びハイパー・メガ・ライフルを構え、躊躇う事なくトリガーを引いた。再びあの凄まじい反動がガンダムに響くものの、暴力的なビームの閃光が放たれ、ムサカ級のブリッジ脇を掠めながら艦の中央部に直撃し、艦底まで貫いていく。然しそれだけでなく、射線上に居た直掩部隊のギラ・ドーガ数機が、ビームが僅かに掠めただけで機体がごっそりと抉り取られ、次々に爆散していったのだ。
余りの威力に自分自身空恐ろしさを感じつつ、思わぬ事態に一瞬目を見開くものの、直ぐに意識を集中させて再びトリガーを引いていく。確実にムサカを沈めようと、主砲、メインエンジン、モビルスーツデッキに次々と巨大なビーム攻撃を加えていき、艦をビーム攻撃で穴だらけにされたムサカは、成す術も無く塵芥の如く爆沈していった。
「はぁっ…、はぁっ…、まだ来る…!」
流石にこれ以上自由にさせてはもらえないようで、ネオ・ジオン艦隊の直掩部隊がこちらに接近して来た。既に15機程のギラ・ドーガ部隊が有視界領域に侵入しており、皆私へ向けて敵意と殺意を放っているのが、感応波を捉える事で感じ取れる。私は一度足元のペダルを緩め、スラスターを緩めていくと、意識をギラ・ドーガ部隊の迎撃に向けていく。
サイコミュが受信した敵意の感応波が、私の脳裏を駆け抜けていき、直ぐに思考をサイコフレームへと飛ばし、回避運動を行っていった。ガンダムが居た場所には、次々にギラ・ドーガ達から放たれたビーム攻撃が降り注ぎ、それらは止む事なく回避し続けるガンダムへ向けて放たれ続けられた。
「墜ちろ…ッ!!」
ガンダムのスラスター推力に意識が飛ばされないよう耐えながら、背部バックパック部分に装備されているハイパー・バズーカを作動させ、まるでキャノン砲の要領で弾を発射していく。突然の予想外な攻撃に対応が出来なかったギラ・ドーガ2機は、迫り来るバズーカの弾に対して回避運動が間に合わず、盾を構えて防御の姿勢を取るものの、着弾した瞬間に凄まじい爆発が発生し、腕だけでなく胴体にまで爆発の影響が及び、火花を散らしながらギラ・ドーガ2機は爆散していった。
『くそ、ガンダムめ!』
『悪魔が……!』
『囲んで一気に叩くぞ!奴に反撃させる暇を与えるな!』
ミノフスキー粒子が薄くなって来ているのか、次第に敵の無線も混在し始めている。どうやら間髪入れずに集中砲火を浴びせ、私に身動きを取らせないようにしながら嬲り殺す腹積りらしい。
だが、そんな事などさせはしない。
「避けれるもんなら…、避けてみろッ。行け、フィン・ファンネル!」
ギラ・ドーガ部隊がガンダムを包囲し、ビーム攻撃をあちこちから加えていく最中、私は回避運動をしながら背部ファンネルラックから6基のフィン・ファンネルを射出した。残るギラ・ドーガは13機、一気に蹴散らして対艦攻撃に戻り、本隊との挟撃体制に入らなければならないのだから。
『うわぁぁッ、─────。』
『しまっ、────。』
私の思考に敏感に反応するファンネル達は、敵の包囲を崩そうと飛び交い、まずは1時方向のギラ・ドーガ2機に襲い掛かっていく。ガンダム本体を撃ち落とそうと躍起になっていた所を、機体の斜め下から撃ち込まれたファンネルのビーム攻撃に対処出来ず、2機はいとも簡単にコックピットを撃ち抜かれ、目の前で爆散していった。
「次……ッ!」
ファンネルだけではない。
6基のフィン・ファンネルに連動するように、こちらもハイパー・メガ・ライフルを構え、今度は飛来するファンネルの迎撃に意識を向けて動きを止めたギラ・ドーガ目掛けて、トリガーを引いてビームを発射していく。
アラート音に気付いた頃には、時既に遅く、ギラ・ドーガはまともに回避する暇もなく胴体を撃ち抜かれ、真っ二つに千切れながら爆発したのだ。
『くそッ、たれがァ!!』
「ッ……!」
私が次の目標に向けてライフルを向けた瞬間、真後ろから別のギラ・ドーガがガンダム目掛けて突貫して来た。敏感に敵意を察知出来ているので、私は直ぐに左腕に内蔵されたビーム・サーベルを引き抜き、振り向き様にサーベルを振り抜いていく。
向こうもビーム・ソード・アックスを展開し、両者の光刃がぶつかり合い、火花を散らしながら鍔迫り合いとなった。
『死ねッ、ガンダム!!』
あろう事か、ギラ・ドーガの左手にはシュツルム・ファウストが握られており、このゼロ距離で発射するつもりらしい。そんな事をすれば、ガンダムだけでなく自身の機体すらも爆散する可能性すらある。相打ち上等の覚悟で、ガンダムを討ち取ろうという明確な意思が、ハッキリと感応波として感じ取れる。
「やらせない…、っての…!!」
──正に紙一重のタイミングだった。
新たに装備されたフロントアーマー内部からマニュピレーターが飛び出るように伸びて、その先に握られたビーム・サーベルが瞬時に展開され、鍔迫り合いをしながらも隠し腕によるビームの光刃で、シュツルム・ファウストを握り締めるギラ・ドーガの左腕を切断していった。
すかさず、もう一方のフロントアーマーからマニュピレーターを伸ばし、隠し腕を更に増やしてビーム・サーベルを展開させると、ギラ・ドーガの胴体に2本のサーベルを突き刺していく。
『くっ…そ……、うッ、あぁあぁぁッ────。』
敵の断末魔の叫びを聞きながら、隠し腕を格納しつつビーム・サーベルを引き抜き、最早抵抗する事も無くなったギラ・ドーガを蹴り飛ばしていく。程なくして機体が爆発すると、その衝撃波を利用するようにスラスターを噴射し、また別の敵機へと狙いを定めながら肉薄していった。
「私の邪魔するなら、堕とす…ッ!」
ガンダムのデュアルアイが一際強い光を放ち、残るギラ・ドーガ達を威圧していく。この場は既に、ガンダム1機の独壇場と化し始めていたのだった……。