機動戦士ガンダムL(ルミナス)   作:C4-1341

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『ピースミーティア攻防戦』(4)

「高熱源体接近……ッ、艦隊直上…真上ですッ!」

 

それは、ロンド・ベル艦隊のモビルスーツ部隊を迎撃し、半ば押し返す事に成功しつつあった矢先の事だった。

アグライアの戦闘ブリッジに詰めている通信オペレーターの下士官が、突如として正体不明の熱源が接近している事を叫んだのだ。これに1番驚きの表情を浮かべたのは、アグライアの艦長である。

 

「なっ────。」

 

次の瞬間、信じられない光景がブリッジの窓一面に広がる。艦隊の前線を支えている最右翼のエンドラ級『ナルアドラ』に、マゼンタ色の高出力ビーム攻撃が降り注いだのだ。一撃でブリッジを撃ち抜かれ、間髪入れず2発目、3発目とビームが降り注ぎ、ナルアドラは穴だらけになりながら凄まじい爆発を起こし、粉々に散っていった。その余りの一瞬の出来事に、艦長含め誰もが呆然としてしまい、現実を受け入れる時間を要してしまう。

そして、艦長は吠える。敵が何であれ、次の攻撃を許してはならないと。撃たれる前に撃ち落とさなければ、死ぬのは自分達になるのだと。

 

「全艦に告ぐ、迎撃始めッ!とにかく弾幕を展開しろッ、撃ち続けるんだッ!!」

 

艦長の命令はすぐさま無線通信によって艦隊全てに行き届き、残る艦はビーム攻撃がなされた地点を中心として、艦の主砲や対空機銃で弾幕を張り始めていく。果たして届いているのか、弾幕が当たっているのか等は関係なく、ただひたすらに撃ち続けるのだ。敵に攻撃させる時間を与えない為に、自分達の生存率を少しでも上げる為に。

だが、それは徒労に終わる事となった。

 

「ふ、再び…高熱源体接近…ッ!!」

 

「馬鹿な…ッ!?」

 

下士官の悲鳴にも似たような叫びと共に、艦隊直上から再びマゼンタ色のビーム攻撃が降り注いだ。次なる目標にされたのは、轟沈したナルアドラの後方に位置していた、ムサカ級『ローレンス』。恐ろしい程に正確な攻撃は、ローレンスの主砲、機関部、ブリッジに直撃し、いずれも艦底まで貫通している。明らかに戦艦クラスの威力だが、アグライアのセンサーが捉えていた熱源の大きさは、戦艦とは比べ物にならない程小さく、また動きも素早い。

 

(……ガンダムだ…。あの白い奴だ……っ。)

 

アグライア艦長は、弾薬庫に誘爆して艦が崩壊するように爆散していくローレンスを見つめながら、確信を持って険しい表情を浮かべる。

前線部隊と共に出撃した観測機からは、ガンダムの存在を報告されておらず、この戦場に居るのかも不明だった。その時点で一抹の不安を覚えていたが、最悪の形で現実となってしまった訳である。

 

「直掩部隊を全て迎撃に当たらせろ、急げッ!」

 

ネオ・ジオン艦隊を守る直掩機のギラ・ドーガ部隊は、全機正体不明の熱源…ガンダムに向けて上昇していく。

 

 

一方、同時刻のロンド・ベル艦隊旗艦『ラー・ネイジュ』のブリッジには、アグライアとは対照的に静かな歓喜が沸いていた。

 

「エンドラ級1、ムサカ級1、撃沈!」

 

通信オペレーターのエヴァ少尉の言葉に、ブリッジ内の空気は一変した。それと同時に、母艦を堕とされた事を知ったギラ・ドーガ部隊にも動揺が見られ、不利だった戦況を徐々に押し返し始めている。直掩部隊の奮戦もあり、艦隊に張り付いていたギラ・ドーガの半数以上は撃破し、残る敵を殲滅するのも時間の問題と化している。

アンダーソン艦長も僅かに笑みを溢し、活路を見出したように声を張り上げた。

 

「フェイズ2に移行するッ。全艦、機関最大!このままネオ・ジオン艦隊を挟撃する!」

 

既にエコーズは敵衛星内に侵入しており、内部の防衛部隊を排除しながらポイントに進んでいる筈だ。囮と退路確保を役目とする艦隊の大仕事が、今正に正念場を迎えている。

アンダーソン艦長の命令と共に、ラー・ネイジュ、ロビンソン、ネルソンの3隻は最大戦速をかけていき、ネオ・ジオン艦隊へと突き進んでいく。敵艦の意識は突如として出現したガンダムに向けられており、こちらへの砲撃は明らかに減少していた。この隙を逃す事はなく、アンダーソン艦長の「全砲門、撃ち方始め!」の命令と共に、3艦の主砲と対艦ミサイルが一斉に発射され、残存するネオ・ジオン艦隊へと攻撃を加えていった。

 

「敵艦隊、混乱に陥っている模様!」

 

まだ残存艦艇の数はネオ・ジオンが上回っているものの、艦隊の動きは明らかに乱れが生じており、対艦ミサイルの迎撃も満足に行えないまま、次々にこちらの攻撃が直撃していくのか見える。

このまま押し切ろうと、次の攻撃命令をアンダーソン艦長が下そうとした瞬間───

 

「艦長っ、敵衛星に動きが…!」

 

センサー長のマインズ大尉が発した言葉に、アンダーソン艦長だけでなくブリッジ内の誰もが言葉を飲んだ。エコーズが起爆装置を作動させるにはまだ早過ぎる、そして目視でも衛星に大きな変化は無い。

だが、ラー・ネイジュが捉えていた衛星の動きは、外壁部の動きだった。

 

「あれは……ッ。」

 

副長のエリス中佐も、目を丸くしながら驚愕の表情を浮かべ、思わず副長席から立ち上がってしまっていた。戦闘ブリッジの窓を見つめるアンダーソン艦長も目を見開きながら、絞り出すように言葉を発する。

 

「……点火してしまったのか…!」

 

──そう、ピースミーティアの核パルスエンジンに火が点いたのだ。凄まじい推力を発生させながら、巨大な岩の塊はその身を前へと進め始めていく。

こうなれば、ネオ・ジオン艦隊の迎撃をある程度甘んじて受けつつ、何としても破壊する為に衛星へ取りつかなくてはならない。例え艦を失う事になるとしても、だ。

 

「敵艦隊を突破し、衛星に取りつくッ。モビルスーツ隊にも、敵艦への攻撃に集中するよう通達せよ!」

 

アンダーソン艦長の命令にブリッジ各員が返事をすると、各部署への伝達を行っていき、ロンド・ベルは決死の突撃を敢行していく事となる。

モビルスーツ隊に向けた伝達はエヴァ少尉が行い、それはシーナ・ランチェスターの駆るルミナス・ガンダムにも届いていた…。

 

 

 

 

『ブリッジより、モビルスーツ隊各機へっ。これより本艦は、敵艦隊を強行突破し、エコーズ部隊の作戦支援と核ノズル破壊に向かう。モビルスーツ隊は艦隊の突入を援護し、敵艦隊への対艦攻撃に移行せよ!』

 

ギラ・ドーガの直掩部隊との戦闘を繰り広げている最中、エヴァ少尉の通信がヘルメット内に木霊する。この通信が入る前に、最もピースミーティアに近い場所に居るので、核パルスエンジンが起動した事は、シーナ・ランチェスターが誰よりも早く察知していた。

 

「くそ…ッ、艦隊の援護に…!」

 

直掩部隊の凡そ半数以上を撃破し、このまま殲滅して対艦攻撃に移行するだけとなると、フィン・ファンネルの再充電の為に6基のファンネル達をファンネルラックへ戻し、ハイパー・バズーカの砲撃でギラ・ドーガをすれ違い様に撃ち落としていく。

残り半数以下となった時点で、直掩部隊はガンダムに無闇矢鱈に肉薄する事はせず、距離を取りながらビーム射撃による攻撃でひたすら牽制して来ていた。時間稼ぎのつもりだろうが、そんなもので止まるガンダムではない。ルミナスガンダムは伊達ではないのだから。

 

「ッ……、下がった…?」

 

ビームサーベルを展開し、斬りかかろうとスラスターを噴射しようとした瞬間、ガンダムに群がっていたギラ・ドーガ達の動きに変化が生じた。

直掩部隊は一気に距離を取り始めたばかりか、背を向けてスラスターを全開にしながら逃げ始めている。分かりやすい撤退の様子に、一瞬呆気に取られながら目を丸くしてしまった。だが、次の瞬間……。

 

「─────!!」

 

私はほぼ反射的に操縦桿を引き、明後日の方向に機体を旋回させながら盾を構えた。それは正しい行動であり、遠方から高出力のビーム砲が撃ち込まれ、耐ビームコーティングを施したシールドに直撃していく。シールド表面のコーティングがビーム粒子を弾き、拡散しながら無力化していくものの、その衝撃は操縦桿と共にサイコフレームを通じて私の身体に押し寄せてくる。

だが、私が感じたのは衝撃だけではない。言葉では表せないような、不思議な感覚。脳裏に電流が走ったかのような感覚と共に、不気味なプレッシャーを私はひしひしと感じていた。このプレッシャーを、私は知っている。

 

「……キュベレイ……!」

 

ガンダムのデュアルアイが、その機影を捉える。有視界領域ギリギリの場所に、微かにシルエットが浮かんでいた。黒い流線形のボディに、スナイパーライフルを彷彿とさせる長砲身のビーム砲、そしてスカートのような形状のファンネルポッド、間違いなく目標のモビルスーツである。先程のビーム攻撃も、あの機体から放たれたものだった。

私がその名を呟き、操縦桿を握る手に力を込めた瞬間、キュベレイが早速動いた。

 

「くっ……!」

 

敵パイロットが放つ感応波を敏感に掴みながら、次なる攻撃を予知していき、回避運動を行っていく。向こうが放ってきたのは、ファンネルによるオールレンジ攻撃だった。

一足先に回避を取れた事で、四方八方から次々に撃ち込まれるファンネルのビーム攻撃を躱していき、私はスラスターを全開にしてキュベレイへと突っ込んでいく。オールレンジ兵器相手に遠距離戦は自殺行為であり、接近戦に持ち込もうという意図を持った行動である。私はビームサーベルを振り抜き、キュベレイに肉薄しながらビームの刃を振り下ろしていった。

対するキュベレイもすぐさま応戦し、向こうもビームサーベルを展開してこちらの攻撃を受け止めていく。ビームの光刃同士がぶつかり合い、バチッ、バチッ、と火花を散らしながら、鍔迫り合いとなって拮抗状態が生まれていった。

 

「なんでこんなモノを地球に落とすんだよ…ッ、そんなに人殺しがしたいのか…!」

 

押し切られまいとスラスターを小刻みに噴射しながら、鍔迫り合いの状態で敵パイロットに訴えかけていく。衛星を地球に落とす為のスイッチを、ネオ・ジオンは押したのだ。地球に住む100億の人々を皆殺しにする為に。そんな大量殺戮を行える精神の図太さを持った者に対して、私は叫ばずにはいられなかったのだ。

これだけ密着していれば、ミノフスキー粒子の干渉も無く、敵に無線が通じている筈。返答は、そう時間を置かずに返ってきた。

 

『……貴様らは正しいのか?』

 

若い、女の声。然程自分と大差ないような年齢を思わせる、凛とした声。だが、そこには確かな威圧感が存在していた。質問に対して質問で返された私は、若干苛立ちを覚えつつも、まさか相手が女だとは予想外だったので返答に時間を要してしまう。

 

「は…っ?何言って…、」

 

『何も知らん俗物が…、消えろッ。」

 

私の脳裏に、再び電流のようなものが走った。敵パイロットの放つ感応波を感じ取り、次の攻撃が来る事を知ると、咄嗟にスラスターを噴射してキュベレイとの距離を取っていく。

次の瞬間、キュベレイの肩部バインダー内から隠し腕が伸び、新たなビームサーベルを振り抜いてきたのだ。光刃の切っ尖は胸部装甲板を掠めていき、僅かにビームによる融解の跡がついた。判断があと1秒遅れていれば、間違いなく串刺しになっていただろう。

 

「この…ッ!」

 

すかさずこちらも反撃していき、右腕部の装甲を開いていくと、内蔵されているビームガトリングガンを展開し、キュベレイに向けて近距離でトリガーを引いた。ガトリング砲が高速で回転していき、細かなビームの弾丸を次々に撃ち出し、弾幕を張りながらキュベレイへと襲い掛かっていく。

が、向こうもニュータイプ。こちらの思考はお見通しと言わんばかりに、まるでガトリング砲が撃ち込まれるのが分かっていたかのように回避して見せたのだ。私はつい舌打ちをしてしまう。

 

「まだまだ…!」

 

然し、H.W.S.の真髄はここからだ。胸部装甲が開き、中から姿を現したのはミサイルランチャー。肩部に増設されたミサイルランチャーと共に一斉発射され、合計15本のミサイルが飛翔していき、不規則な軌道を描きながらキュベレイを追尾して襲い掛かっていく。

これだけでなく、ミサイルを撃ち終えた後にシールドを構えると、内臓されているグレネードランチャーを発射し、キュベレイが回避するであろうポイントに予測射撃をしていったのだ。それでも避けられた時の事を考え、私はハイパー・メガ・ライフルを最後に構えていき、トドメを刺せるようにと目を凝らす。

 

『ふん……。』

 

一瞬、敵パイロットの声が無線に混じって聞こえてくると、私の予測を上回る行動を取った。追尾していたミサイル群達を、周囲を飛び交うファンネル達の迎撃だけで、全て撃ち落として見せたのだ。それだけでなく、迫り来るグレネード弾も、腕部に内蔵されているビーム・ガンの射撃で撃ち落とし、凄まじい加速を見せながら急旋回をしてくる。

 

『貴様如き、私の敵ではない…!』

 

今度はキュベレイが攻撃を仕掛けてくる。迎撃が終わったファンネル達を再びガンダムへと向け、乱れ撃つように四方八方から発射してきた。

私は舌打ちをしながら、サイコフレームに思考を飛ばしていき、明確な殺意を感じ取りながら小刻みに回避運動を繰り返していく。だが、時折シールドを構えないと直撃を防げなくなる程に、ファンネルの波状攻撃は熾烈を極めてきた。

その時である。

 

「ッ───────!!」

 

ファンネルの攻撃を回避する事に集中していたガンダムに向けて、キュベレイが持つ長砲身のビーム砲が光を放ち、コックピットのモニターには迫り来るビームがハッキリと見えていた。不思議な事に、その瞬間は周りの景色がスローモーションに見えており、このままでは直撃する事は分かり切っていた。だが、回避しようにもその先にファンネルのビームが放たれており、どの角度にどう行動しようとも必ず機体に直撃してしまう。

肉を切らせて骨を断つ…と言うのは簡単だが、当たれば間違いなく腕や足だけでなく、下手をすれば胴体に直撃する事も免れない。甘んじて攻撃を受け止めるべき場面ではないのだ。

 

(ガンダム……!)

 

…私の想いが、サイコフレームに伝播していき、全身の装甲の隙間から漏れ出す赤い光が、更に輝きを放っていく。それはフィンファンネルに仕込まれたサイコフレームも同様であり、ある種の光の波…サイコウェーブが辺り一面に放たれた。

そして、フィンファンネル達がファンネルラックから射出されると、ガンダムの周囲をぐるりと取り囲み、ビーム粒子を常時放ちながら薄いビームの壁を形成していく。

 

『っ……、小癪な……!』

 

フィンファンネルによるビームバリアは、キュベレイのファンネルのビーム攻撃だけでなく、長砲身のビーム攻撃も全て弾いていき、消滅させていった。向こうも驚いているようだが、実際に操る私も驚いている。

まさか防御の思考が、こんな形で展開するなんて……と。

 

 

「『ファンネルッ!』」

 

 

敵のパイロットと私の言葉が、一言一句違わずに重なり合い、お互いに叫んでいく。ビームバリアを展開し続けながら、残る3基のフィンファンネルをキュベレイへと放っていくと、それに応戦するように向こうもファンネルを放ってきた。

フィンファンネルと、キュベレイのファンネルによるドッグファイト。お互いのニュータイプとしての感応波をぶつけ合うように、超機動でファンネル同時が撃ち合いを披露していく。

 

「墜ちろッ!」

『やらせはせんよ…!』

 

ファンネルを操りながら、お互いに操縦桿を押し込み、ビームサーベルを再び展開して肉薄していく。何度もサーベル同士がぶつかり合い、その度にスラスターを小刻みに噴射しながら姿勢制御を行い、絶対に死角に潜り込ませまいと激しい斬り合いを演じていた。

と、その時である。お互いの機体に無線が割り込んできたのは。

 

『エコーズ部隊、爆破装置設置完了!』

 

私にとっては待ちに待った無線であり、同時に敵パイロットにとっては聞きたくない無線だっただろう。

すると、キュベレイの肩部バインダーから僅かにビーム粒子が漏れ出し、装甲が開いた。

 

「────、く……ッ!」

 

これは不味い、離れないといけないと、私のニュータイプの勘が叫んでいる。ビームサーベルを格納し、フィンファンネルによるビームバリアを再び形成した瞬間、キュベレイの肩部バインダーが光を放った。

それは、高出力の拡散メガ粒子砲。左右のバインダーからそれぞれメガ粒子砲を撃たれ、ビームバリアにぶつかっていく。最初は防いでいたものの、次第にバリア以上の粒子量を持つ攻撃に耐えきれなくなり、最後はバリアが破られてファンネル達も散り散りに周囲を漂う。機体へのダメージは無いものの、姿勢制御に僅かに時間を要してしまい、その間にキュベレイはガンダムと距離を取って正反対の方向へと飛んでいってしまう。

キュベレイが向かう先は、ピースミーティアだ。

 

「あいつ…破壊させないつもりか…ッ!」

 

このまま野放しにしては不味い。もしエコーズ部隊を壊滅させ、起爆装置を破壊されてしまえば、衛星は地球へ落下してしまう。その前に核ノズルを全て破壊するか、キュベレイを仕留める以外に選択肢はない。

…私の決断は早かった。仮に核ノズルを破壊出来ても、満身創痍となったロンド・ベルにあのキュベレイが襲い掛かって来れば、甚大な被害を及ぼされるのは目に見えている。フィンファンネル達をファンネルラックに再接続させると、私は足元のペダルを目一杯踏み込み、操縦桿を前に押し込みながら、スラスターを全開にしてキュベレイの背を追いかけて行く。核ノズル破壊は艦隊に任せ、私はキュベレイを仕留める方を選んだのだ。

 

(やらせない…絶対…ッ!)

 

 

 

 

おかしい。この状況は想定外だ。

ピースミーティアはあくまでも撒き餌であり、脅しの道具。いざとなれば本気で落とせると言う姿勢を見せるのが意図だったが、地球に落とすのは最初から想定していなかった筈。それなのに、ピースミーティアの核パルスエンジンに勝手に火がついた。

 

(何が起きていると言うのだ……っ。)

 

ヤークト・キュベレイを駆るカトレア・ペンタスは、密かな焦りを覚えていた。ピースミーティアもそうだが、母艦であるアグライアに通信が繋がらない事も、焦りに拍車を掛けていく。

ミノフスキー粒子は既に薄まり始めており、通信が繋がらない事は考えられない。あるとすれば、アグライアに被害が出て通信機器が故障した…というものだろう。ピースミーティア内に突入すると、先に侵入している連邦軍の特殊部隊を始末する為、モビルスーツが通れる通路を高速で飛行していく。

 

「アグライア、応答せよ…アグライアっ……駄目か。」

 

まだ特殊部隊の姿は見えない。それに、やはりアグライアに通信は通じず、ノイズ音だけが返ってくる。連邦政府代表団を迎え入れる為に、腹心であるギムレット・クルスもサイド7に居る為、状況確認する手段が今現在私には無い。

だが、核パルスエンジンに点火してしまったのなら、もうこの動きを止められないのだ。想定外の状況ではあるが、ピースミーティアを破壊されてしまえば、私の全ての計画が水泡に帰してしまう。それだけは何としても避けなければならない。

と、その時だった。

 

「…見つけたぞ。」

 

次の隔壁へと通じる扉にマニュピレーターを近付け、回転式スイッチを握り締めて何度か回転させていくと、開いていく扉の向こう側に、お目当ての連邦軍特殊部隊のモビルスーツが姿を現した。

まるで戦車のような、それでいて連邦のジム系統の見た目をしている奇妙なモビルスーツは、こちらの存在に気付くや否や、戦車からモビルスーツ形態へと素早く変形していく。普及されているモビルスーツより一回り小さいサイズの其れは、すぐにこちらへと腕部に装備されているミサイルコンテナを構え、無数のハンドミサイルを発射してきた。

 

「甘いな…っ。」

 

キュベレイのモノアイが一際強く発光すると、飛来してくるミサイルの弾道を見切り、素早くスラスターを噴射して一直線に敵モビルスーツへと突貫していく。ミサイルは発射直後はふわりとした放物線を描いていたので、こちらへ誘導される前にミサイルの背後を取るように通り過ぎて行き、目標を見失ったミサイル達は隔壁の壁に激突してそれぞれ爆発していく。

爆風も追い風となりながら更に加速をかけていくと、戦車のようなモビルスーツに肉薄し、素早くビームサーベルを展開して振り抜いた。どうやら接近戦は不得意のようであり、易々とその胴体にサーベルを突き刺し、敵の動きを完全に止める事が出来たのだ。

 

「…次。」

 

サーベルを引き抜き、鉄屑と化した敵モビルスーツを蹴り飛ばすと、残る敵機の排除に動き出していく。この1機だけでないのは、私のニュータイプとしての勘が囁いているのだ。間違いなく近くに他の機体が居る、と。

私はキュベレイのセンサーによる熱源の索敵を行いつつ、敵の感応波を感じ取れるようサイコミュを通じて意識も研ぎ澄ましていく。そして、キュベレイを次の隔壁へと向けて進ませた瞬間だった。

 

「ッ……!」

 

突如として、踏み出した先の床が爆発し、爆発の衝撃で一瞬機体がよろめいてしまう。姿勢制御をしようと操縦桿を動かした瞬間、今度は別方向からロケット弾が飛来し、キュベレイの頭部に直撃したのだ。ロケット弾が着弾と同時に炸裂し、爆風と共に強烈な閃光を放った事で、メインモニター画面が僅かな時間の間ノイズが走り、正確な外部の映像を出せない状態に陥ってしまう。

これはモビルスーツの火力ではなく、人間による携帯火器の火力。敵モビルスーツだけでなく、どうやら特殊部隊の隊員が各地に潜伏し、トラップを仕掛けつつキュベレイ相手にゲリラ攻撃を加えているようだ。

 

「えぇい…、俗物が…!」

 

キュベレイのモニターが一時的に使い物にならずとも、歩兵であれば消し去るのは容易である。バインダーに内臓された拡散メガ粒子砲の砲門を開き、粒子を圧縮させた後に私はトリガーを引いた。砲門からメガ粒子砲が放たれると、区画内のあちこちに着弾していき、無差別に辺り一面を焼き払っていく。複数の歩兵達は、メガ粒子砲の直撃を受けて身体が蒸発したり、床や壁に着弾して弾け飛ぶ残骸にぶつかって千切れたりと、正に人の死に方ではない凄惨な状況となっていった。

モビルスーツからすれば、歩兵は蟻のような存在であり、1人1人を殺していくのは非効率だ。こうした面の攻撃を用いる事で、一気に制圧するのが効果的である。メインカメラが回復し、機体周辺に生体反応が無くなった事を確認すると、キュベレイの脚部に目を落としていく。

 

(……対モビルスーツ用地雷か。)

 

右脚部の装甲の一部が剥がれ、砕けており、爆発による煤がこびり付いているのが見える。

このピースミーティアに防衛部隊は駐屯させていたが、彼らにトラップの類を持たせたり、仕掛けさせたりはしていない。これはエコーズが仕掛けたものだと容易に想像出来るものの、起爆装置に至るまでに各所に設置されていると考えるのが妥当だ。

 

「…来たな、プレッシャー。」

 

余計な事に時間を取られたツケが、直ぐに跳ね返って来る。隔壁の扉が開かれていき、振り返った先には因縁の相手が居た。

 

『これ以上、好きにはさせない…ッ。』

 

白と青のツートンカラーが施されたガンダム。何度も私の行手を阻む邪魔者であり、最大の障壁であり、私と同じくアナハイムの掌の上で踊らされる道化だ。

そんな敵パイロットの女の声は、ミノフスキー粒子の影響が薄れている事もあり、ハッキリとコックピット内に響いてくる。その台詞はこちらが言うべきものだと嘲笑うように、クスッと笑みを溢していくと、両腕にビームサーベルを構えて対峙していく。これだけ狭い場所では、ファンネルを操るスペース的な余裕はなく、自ずと接近戦を繰り広げる事になるのだ。その事は向こうも分かっているようで、同じようにビームサーベルと盾を構えてくる。

 

「貴様と私とでは、覚悟が違う。何も背負わぬお前に、私が負ける道理は無い。」

 

『…ふざけた事を…ッ。』

 

先に動いたのは、挑発に乗せられたガンダムの方だった。シールドに内臓されたビームガンを発射して牽制を加えながら、こちらに向かってスラスターを全開にして突っ込んで来る。その分厚い装甲を身に纏いながらも機動性を上げているのは、アナハイムがロンド・ベルに塩を送ったと見て間違いないだろう。若しくは、あの小太りなアナハイムの社長の悪戯かもしれない。

だが、こちらも一歩も退く事はせず、小刻みにスラスターを噴射しながら必要最小限の挙動で回避していき、突っ込んで来るガンダムに向けてサーベルを振り下ろしていく。

 

「このキュベレイを舐めるな…ッ!」

『あんたこそ、ガンダムを舐めんな…ッ!』

 

お互いの意地がぶつかり合うように、互いのサーベルがぶつかり合い、弾き飛ばし合い、ビームの火花を散らしていく。もらった、と確信を得ながら振り下ろすサーベルの刃は、ガンダムのシールドに阻まれて横に真っ二つに切り裂き、お返しのように振り抜かれたガンダムのサーベルが、キュベレイの肩部バインダーの一部に当たり、装甲を融解させながら切り裂いていった。

お互いがお互いに舌打ちを繰り返し、激しい息遣いを交じらせ、気迫の籠る声を張り上げ、その想いがサイコミュを通じて機体に伝播していくと、お互いに振り翳しているサーベルが徐々に巨大化していく。その事実には、命の奪い合いを行う両者に気付く余裕はなく、接近戦において重装甲が仇となったガンダムに僅かな隙が生まれた。

 

「墜ちろ…ッ!!」

 

この隙を逃す事なく、両肩バインダーから隠し腕を展開させると、大型ビームサーベルを振り抜いてガンダムに斬り掛かっていく。これだけ接近していれば、まず避ける事は不可能だ。

 

『チッ…舐めんなッ!!』

 

だが、敵のパイロットは致命傷を避けるように、僅かに機体を屈ませながらスラスターを噴射し、コックピットを串刺しにしようとしたビームサーベルの攻撃を紙一重で躱すと、サーベルの刃は背部バックパックのファンネルラックに直撃し、ガンダムが装備するファンネル達が爆発していった。

だが、まだ終わりではない。このまま至近距離でメガ粒子砲を発射し、今度こそガンダムを亡き者にしようとトリガーに指をかけた瞬間……。

 

『死ぬのは、あんただ…ッ!』

 

「──────────!!」

 

サイコミュが敏感に感じ取った、明確な攻撃の意思と殺意。背筋に冷たいものが走ると同時に、操縦桿を引いてガンダムから離れようとする。

然し、もう遅かった。私の視界の端で、ガンダムのフロントアーマー内から隠し腕が伸びたのが分かるものの、完全に回避するには距離が近過ぎる。2本のビームサーベルが展開され、咄嗟に距離を取ろうとスラスターを逆噴射しているこちらに対して振り抜かれ、キュベレイの両脚部に命中してしまったのだ。

太腿と脹脛を繋ぐ関節部を切断され、両脚を失ったキュベレイは、一瞬の出来事に対処する術を失い、床にその身を伏してしまう。

 

『これでトドメ…ッ!!』

 

ガンダムは、床に倒れたこちらに対して、ビームサーベルを逆手に握り直して突き立てようとしている。確実にコックピットを焼き切るつもりのようだ。

 

「俗物が……ッ!」

 

だが、こちらもまだ死ぬつもりはない。キュベレイのコックピットブロックに埋め込まれたサイコフレームが共振し、私のニュータイプとしての感応波を限界まで取り込んで行くと、それが物理的なパワーとなってサイコフィールドを形成していく。それは一種の壁となり、ガンダムに当たりながら僅かに機体を押し返したのだ。

まだ手段はある。この隙を活かし、ファンネルポッドから2基のファンネルを射出すると、すかさずガンダムに向けてビーム攻撃を加えていった。この攻撃を避け切れず、1発はガンダムの右腕部関節に直撃し、もう1発は胴体を掠めて背部プロペラントタンクの1本に直撃すると、タンクの凄まじい爆発によってガンダムが地面に倒れていった。

 

『ぐッ……、くっ、そ…!!』

 

これで時間は稼げた。後はファンネルを用いてこちらがガンダムにトドメを刺す番となる。右腕を失い、その分厚い追加増装を施された状態では、直ぐに起き上がる事も容易ではないだろう。

 

「死ね、ガンダム…ッ!!」

 

更にファンネルを2基射出し、4基のファンネルを閉所空間でなんとか操りながら、ガラ空きとなったガンダムの背に向けて一斉に発射していく。

……これで終わりだ。アナハイムの悪巧みも、ガンダムとの因縁も、私の呪縛も…何もかも。

 

 

『…ガンダム!!』

 

 

だが、敵はまだ諦めていなかった。

 

「なっ────、」

 

私は言葉を失った。4基のファンネルから放たれたビームがガンダムの背面に直撃する間際、まるで弾かれるようにビームが湾曲し、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。それぞれのビームは壁や床に当たり、この攻撃は失敗に終わる。

まさかI・フィールドを展開したのだろうかと一瞬考えるものの、そうではない事に気付かされる。先程私がしてみせたように、奴もサイコフレームの超常的な力を発揮させ、サイコフィールドを発生させてビームを弾き飛ばしたのだ。それだけでなく、追加増装をパージさせて本来のガンダムの姿となると、目の前でゆっくりと立ち上がっていく。ガンダムの全身を覆う装甲の隙間から、サイコフレームの光が煌々と漏れ出しているのが分かり、私は小さく舌打ちを漏らしてしまう。

 

「……やらせるものか…!」

 

まだだ、まだ終わらない。終わらせる訳にはいかない。

キュベレイの生き残っているスラスターを全開にさせ、両脚を失っている状況で機体を無理矢理飛ばすと、両腕と隠し腕のビームサーベルを全て展開し、4本のサーベルを構えながらガンダムに向けて突貫していく。文字通り、これが最後の一撃となる覚悟で突っ込んでいった。

 

『勝つのは…あたしだッ!!』

 

対するガンダムも、左腕に仕込まれたビームサーベルを握り、サーベルを展開させて真っ直ぐに突き立てて来た。その狙いは私自身…キュベレイのコックピットである。

互いのビームサーベルが交錯し、ぶつかり合う瞬間…目を疑う光景が眼前に広がっていった。

 

 

『「────────────ッ!?」』

 

 

光。眩い程の光。

お互いのコックピットから広がるそれは、キュベレイとガンダムを包み込み、そして戦場ではない別の光景を2人に見せていくのであった……。

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