機動戦士ガンダムL(ルミナス)   作:C4-1341

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『世界の歪み』(2)

 

『ご苦労、アンダーソン艦長。』

 

ラー・ネイジュの通信室に入ったアンダーソン艦長は、操作パネルのモニター越しにある人物と通信回線でやり取りを行っていた。

 

「はっ、こちらこそ時間を作って頂きありがとうございます…ブライト司令。」

 

その人物は、ロンド・ベルを統括する艦隊司令官であり、旗艦ラー・カイラムの艦長でもあるブライト・ノア大佐だ。階級は同じく大佐であり、年齢はアンダーソン艦長の方が上であるが、艦隊司令官のブライトは上官にあたる為、アンダーソン艦長は敬う言葉遣いを徹底している。

実際、実務面や戦術面、人心掌握術に至るまで、ブライト・ノアという人物は尊敬に値すると、アンダーソン艦長は常々思っていた。流石はニュータイプ部隊の指揮官を歴任してきただけの事はあると、ブライト司令には頭が上がらないのである。

 

『それで、火急の要件とは何だ?』

 

ブライト司令は、世間話に花を咲かせる訳でもなく、単刀直入にこちらが要請した話について訊ねてきた。アンダーソン艦長としても、今は直ぐに話を聞いてくれる方が有難いので、小さく頷いた後に話を切り出していく。

 

「…これはまだ参謀本部に報告していない事なのですが、カトレア・ペンタスを捕虜として本艦に収容、治療にあたっているのです。」

 

『…何だと、それは本当か?』

 

アンダーソン艦長の報告を受けて、ブライト司令の表情に驚きの色がありありと浮かんでいくのが見て取れる。それもそうだろう、生死不明とされているネオ・ジオンの最重要人物の1人を捕虜にしているのだから。アンダーソン艦長は頷きながら、言葉を続けていく。

 

「…これは私の勝手な考えになりますが、今参謀本部に彼女を移送するのは危険と判断し、本艦で身柄を拘束したいと考えています。」

 

その言葉と同時に、アンダーソン艦長はパネルを操作し、ブライト司令宛に秘密暗号データを送信していった。直ぐにデータを確認したブライト司令は、じっくりと内容に目を通していき、険しい表情を浮かべて小さく息を吐いている。

送信した秘密暗号データの中身は、アンバークィーンで補給中に受けた一連の襲撃についてと、シーナ少尉が視た内容を纏めたカトレア・ペンタス関連の事について。そして、連邦軍内やアナハイム社内にも敵が居る可能性があると提言を加えたデータだ。

 

「…ご覧頂いた通りです、司令。」

 

ブライト司令は暫しの間、データを眺めながら熟考していく。このデータをブライト司令にだけ開示したのも、上官である以上に彼が外部に漏らすような人物でないと信用している事と、ニュータイプ部隊の艦長を歴任してきた経験から適切なアドバイスが貰えると考えての事だった。

そして、アンダーソン艦長が望んでいたものは、時を置かずにブライト司令から言い渡される。

 

『了解した、アンダーソン艦長。こちらでも出来る限りの調査はしておく、君は君の信念に従って行動したまえ。……最後まで信じてやるんだ、彼女達を。』

 

「…はっ、了解です。」

 

モニター越しにブライト司令へ敬礼をし、通信は切られた。やはりブライト司令も気持ちは同じようで、ニュータイプとして覚醒を始めているシーナ少尉と、強化人間であるカトレア・ペンタスの感応波が通じ合った可能性を信じている事が分かり、アンダーソン艦長は安堵の吐息を吐いていく。

さて…当然の事ながら、ここから先は厳しい戦いが予想される。ブライト司令に話を通した事で、ロンド・ベルとして作戦展開は幾らか出来るようになるだろうが、問題は連邦軍内部だ。あの謎の無人モビルスーツの製造元と所属が判明していない以上、参謀本部を味方と思うのは時期尚早だ。ピースミーティアの一件でも分かる通り、連邦政府と軍の隔たりが顕在化し、理解者でもある将軍は孤立無縁状態となっている為、将軍が把握し切れていない場所でスパイが秘密裏に動いている可能性すらある。下手に情報を軍上層部に報告するのは、場合によっては自分達の首を絞める結果になるかもしれないのだ。

 

「…艦長、如何なさるつもりです?」

 

通信を傍らで見ていた副長のエリス中佐が、横からアンダーソン艦長へ問いかけていく。彼女もブライト司令やアンダーソン艦長程ではないにしても、ニュータイプの可能性というものに理解を示している1人だ。エリス中佐は首を傾げながら、ジッとアンダーソン艦長の横顔を見つめて返答を待っている。

 

「シーナ少尉とカトレア・ペンタス両名から、改めて話を聞きたいと思っているよ、エリス中佐。その上で今後の作戦方針を立てたい。」

 

「了解です、艦長…ドクターに確認を取ります。」

 

アンダーソン艦長の言葉を受け、エリス中佐は敬礼をした後に踵を返し、通信室を後にして行った。その後ろ姿を見つめるアンダーソン艦長の頭の中では、ある程度の作戦プランは浮かんでいるものの、やはり情報が不足している事は否めない。謎の無人モビルスーツの件もあるが、同時にピースミーティア戦で撤退した残存艦隊の行方も気掛かりなので、その尻尾を掴む情報をカトレア・ペンタスから引き出したいと考えていた。

 

「…やれやれ…、休む暇はないようだね…。」

 

艦長のぼやきは、誰も居ない通信室に静かに木霊していく。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ウォルド主任。あんたはこの機体の事は何か知らないのか?」

 

ラー・ネイジュのモビルスーツデッキでは、追加の補給物資をアンバークィーンの職員達が搬入する作業が続けられており、その一方でデッキの奥ではある2人の人物が会話をしていた。

このモビルスーツデッキの現場責任者である整備長と、ガンダム開発責任者のウォルド・シャウラである。整備長は、デッキ内に格納されているモビルスーツの1機、コードネーム”セレーネ”の調整作業を行っていたウォルドに話しかけ、シーナ・ランチェスターが交戦した謎の新型無人モビルスーツについての見解を訊ねていたのだ。

 

「いえ、私も初めて見るタイプのモビルスーツでしたから…。自律稼働且つ、人の思考を真似て機体を制御するプログラムを実戦レベルで投入するのは…アナハイムでも難しいでしょう。」

 

「そうか……。じゃあ…何処なら作れそうか見立てはあるかい?」

 

ウォルド・シャウラが分からないのなら、他のアナハイム職員に聞いても分からないだろう。整備長はそう判断すると、今度は別の質問を投げかけてみる。この質問にはウォルドも少しばかり考え込む仕草を見せ、難しい表情を浮かべながら口を開いていった。

 

「…可能性の話にはなりますが、ネオ・ジオン内での工廠…或いは、地球で作られたという線も。」

 

予想外の答えが返ってくると、整備長は目を見開いていく。アナハイムが技術的に難しいものを、地球で製造出来る筈がないと、そう訴えるような眼差しだった。

 

「地球って、一体そんなもん作れる場所が…」

 

「…ありますよ、私の知る限り1箇所だけ。」

 

ウォルドの声色が低くなる。表情も何処か暗く、その場所を口にする事すら憚れるというのは、整備長にも感じられていた。実際、その場所を聞いた瞬間、整備長の背筋に冷たいものが走る事になる。

 

 

「北米大陸…オーガスタ研究所。」

 

 

その場所は古参兵なら誰でも聞いた事のある、悪名高いニュータイプ研究所。かつてティターンズに与していた研究施設であり、表向きは閉鎖・解体された場所だと言われている。そんな碌でもない場所を口にしたウォルドは、冷たく暗い眼差しをしていた。

 

「だけど、あそこは…っ…もう稼働してないんじゃ……」

 

「…えぇ、表向きは。実際はアナハイムの資金と資源が投入され、極秘裏に再稼働していると噂されています。」

 

整備長の表情は完全に固まってしまう。アナハイムは兵士達の間で”闇の武器商人”と揶揄される程、連邦にもジオンにも関係なく兵器を輸出する事で有名だが、まさかニュータイプ研究所すらも手中に収めているとは想像もしていなかったのだ。ウォルドの口振りからすると、この事を知っているのは社内でもほんの一握り程度なのだろうと推察するものの、そうなれば連邦軍とアナハイムが秘密裏に開発をしていたという話にも成り得てしまう。

 

「…仮にオーガスタで開発されたモンだとしたら、あんたはどうするつもりだ?」

 

整備長の言葉は、質問というよりも覚悟を問いかけるような口振りだった。ウォルド・シャウラは、果たして自身の会社に弓引く覚悟はあるのかどうかと。

その問いかけに対して、ウォルドの瞳に僅かな光の揺らぎが映る。

 

「私のやるべき事は、ルミナスを完璧に修復させ、セレーネを完璧な状態に仕上げ、シーナ少尉の力になる事。その為なら、どんな障害も乗り越えるつもりだ。」

 

ガンダム開発責任者としての覚悟だけではない、人としての覚悟もウォルドは整備長へと伝えていった。シーナ・ランチェスターの力になるという事は、即ちこのラー・ネイジュの為に働いてくれる事と同義な為、整備長の神妙な表情は徐々に和らいでいき、普段通りのフランクな態度に戻っていった。

 

「…悪いな、あんたを試すような事聞いちまって。とにかくコイツは…とんでもなく厄介な代物だってのは分かった。」

 

これ以上は聞くべき事はないと言うように、整備長はウォルドの肩を軽く叩き、「引き留めちまって悪かったな、調整頼んだぜ。主任」と言い残し、他のモビルスーツの整備へと向かって去って行った。

 

(……そうだ、どんな障害も乗り越える…。だが…その力を少尉に与えるのが、私の…)

 

セレーネの調整に戻ろうとした最中、胸ポケットに仕舞い込んでいた端末の通知音が鳴り響き、ウォルドは端末を取り出して内容を確認していく。それは1通のメールであり、暗号化されたものだった。

 

「…………。」

 

暗号を解読し、内容を理解すると、無言で端末画面を閉じていく。その内容はとてもシンプルなもの…だが、彼にとっては心を擦り減らす内容であった。

そして、ウォルドは表情を変える事なく端末を操作し始めると、周囲のメカニックマン達には聞かれないように移動しながら、とある人物へ連絡を取り始めた。

 

「……私だ、今は大丈夫かね?……あぁ、向こうもいよいよ本気で潰しに来るようだ…。……そうだ…、ん……グラナダの第4工廠を使ってくれ。あそこは表向きは閉鎖されているが、設備自体は生きている…。……あぁ、資材は工廠内に搬入させるようにダミーの報告を上げておく…私の部下達を使ってくれ。では…頼んだぞ。」

 

通話が終われば、その相手へと暗号化された秘密データを送信し、端末を閉じて懐に仕舞い込んでいく。ここまで来た以上は、もう事態を止める手立ては1つしかない。自身の人脈、資金、頭脳、そして自らの命を賭ける結果になろうとも、それで多くの命が救われるのであれば、もう迷う事はない。

ウォルドは再びセレーネへ向き合い、コックピットへと向かって行く。特別な思いを抱きながら、シーナ・ランチェスターの新たな愛機を整備していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「敵がわんさか出てきたわよ、囲んで叩きなさいっ。あんまり時間をかけるとお宝に逃げられちゃうわ!」

 

『了解っ、隊長!』

 

ラグランジュポイント3では、戦いの火蓋が切られていた。リベリオ・ビアンキ率いる強襲部隊は、デブリの影に隠れながら連邦の輸送護衛艦隊に接近する事に成功し、前衛を務めるクラップ級へとモビルスーツ部隊が襲い掛かっていく。

敵艦や敵機は、突如として出現したリベリオ部隊に対して、初動が明らかに遅れていた。それもその筈で、偵察機が見事に全滅し、情報が艦隊に届いていなかった為である。

 

「お宝以外は皆殺しにしなさい、援軍を呼ばれたら厄介よ!」

 

リベリオ・ビアンキの駆るギラドーガ・カスタムは、隊長機でありながらも部下達より前に突出しており、最前線で戦闘を繰り広げている。クラップ級からスクランブル発進して来たジェガン部隊に対して、一歩も引かずに攻撃を掻い潜り、自慢の特殊兵装であるビーム・シザースを展開し、接近戦でジェガンを次々と真っ二つに切り裂いていったのだ。

 

『何なんだ、コイツ…!化け物かよ…ッ!』

 

迎撃に出て来たジェガン部隊が相手にしなければいけないのは、リベリオだけではない。その部下であるギラドーガ部隊も四方八方から襲い掛かって来ており、連邦側は体制を整える前に各

個撃破されている状態だった。加えて、艦隊の間近でモビルスーツ戦が繰り広げられているので、クラップ級も満足に援護射撃を行えず、難しい迎撃戦闘を強いられている。

 

『貰ったぜぇ!!』

 

ギラドーガの1機が迎撃部隊を突破し、クラップ級に肉薄していく。そしてビームライフルを構えると、引き金を引いて発射していった。

ビームの閃光はクラップ級のブリッジを撃ち抜き、乗員達には退避する暇もなく爆発し、10数人が一瞬にして爆死した。ジェガン部隊にしてみれば、これで指揮系統を潰された事になり、動揺が走った事で戦闘機動に更に乱れが目立つようになっていく。

 

「後始末はアタシに任せなさい、アンタ達は後衛の連中を皆殺しにするのよ!」

 

『『『了解っ!!』』』

 

リベリオの判断は素早かった。指揮系統を潰された前衛部隊は最早死に体なので、過剰な戦力で擦り潰す必要は無くなり、戦力を最適な形に振り分ける事に切り替えたのだ。リベリオの指示を受け、ギラドーガ達は各々スラスターを全開にし、輸送船の盾になろうと前に出て来た後衛のクラップ級へと向かって行く。

さて、残りはジェガンが数機と轟沈寸前のクラップ級がリベリオ機の目の前に広がっているが、彼の視線は別の方向を向いていた。戦闘中でも常に位置を確認しているのが、お宝と呼んでいた輸送船である。

 

(よしよし…輸送船は戦闘宙域を離脱しようとしてるわね…、でも…そこが狙い目よ♡)

 

輸送船は単独で離脱を試みようとしており、クラップ級とジェガン部隊が盾となりながら逃がそうとしていたのだ。怪しげな笑みを浮かべるリベリオは、コックピット内に響くアラート音と同時に操縦桿を引き、不意打ちを狙ってきたジェガンのビーム攻撃を回避していく。

 

「おっと、危ない危ない…♡お仕置きよッ!」

 

回避から直ぐにスラスターを全開にし、攻撃してきたジェガンに一気に肉薄していくと、リベリオはビーム・シザースを横に振り抜き、ジェガンの胴体がコックピットブロック事真っ二つに裂けていった。ジェガンのパイロットは断末魔の叫びを上げる暇もなく蒸発し、程なくして機体はギラドーガの目の前で爆散していく。

 

『畜生…ッ、なんだって言うんだ…コイツは!』

 

残るジェガンもリベリオから距離を取り、各々がビームライフルを構えて射撃を繰り返していくものの、巧みな操縦と回避運動でどの攻撃も避けられてしまい、まるでダンスをしているかのようにギラドーガはビーム攻撃を掻い潜っていく。

 

「うふふ、遠距離攻撃だって出来るのよッ!」

 

回避運動の最中、ビーム・シザースから離れたギラドーガの左腕が真っ直ぐに突き出され、腕部に一体化されているビームランチャーを構えると、射撃体勢を崩さないジェガンの1機に向けて発射していく。

 

『なっ─────』

 

回避が間に合わなかったジェガンは、ビームライフルを構えていた右腕に攻撃が直撃し、武器に誘爆して右腕が吹き飛んでいった。損傷した事でジェガンの動きが一瞬止まり、その隙をリベリオは見逃す事なく直ぐにビームランチャーを発射し、ジェガンのコックピットが撃ち抜かれて撃墜されていく。

リベリオ・ビアンキはニュータイプでも強化人間でもない、唯の人間だ。ここまでの操縦センスの高さは、生まれ持った才能と戦闘への飽くなき探究故に培われたものである。攻撃を避ける度に、そして自身の攻撃が当たる度に、彼のテンションは鰻上りで上昇していく。

 

「あっはははは!!いいわよォ、みんな死になさぁいッ♡」

 

1機、また1機と、ジェガンの残存部隊がリベリオの手によって墜とされていき、残るは対空迎撃を健気に継続している大破寸前のクラップ級のみとなった。ブリッジが破壊されても艦の機能はまだ生きており、機銃だけでなくミサイルも発射してリベリオ機を撃墜しようとしている。

だが、そんな対空迎撃程度で撃ち落とされるリベリオ・ビアンキではない。飛来してくるミサイル群に向けてビームランチャーを発射し、1発のミサイルを撃墜すると、爆発の衝撃波によって周囲のミサイルにも誘爆していき、数発のミサイルを一気に撃ち落としたのだ。その隙に機体のスラスターを全開にし、機銃掃射の弾幕を掻い潜りながら、クラップ級へと突っ込んで行く。

 

「おらッ、死ねェ!!」

 

遂に艦の側面に取り付けば、リベリオはドスの効いた声を発しながらビーム・シザースを構え、クラップ級の船体中央部にビームの刃を突き刺していくと、そのままスラスターを噴射しながら艦尾の機関部へ向けて一直線に切り裂いていった。ビーム・シザースの刃はきっちりとクラップ級の艦尾ブースターを引き裂き、距離を取ると同時に機関部に誘爆して爆発を起こしていくと、次々に艦全体に爆発の衝撃が波及していき、程なくして巨大な船体は内側から破裂するように爆散していった。

ある程度距離が離れていても、やはりモビルスーツと比べると爆発の衝撃波の違いを実感する。ギラドーガが僅かに押される感覚があり、姿勢制御の為に何度かスラスターを噴射しなければならない程だ。破片が機体に当たる音と細かな衝撃が止んでいくと、後に残ったのは不気味なまでの静寂である。

 

「ふぅ…、アッチも片付いたみたいね…♡」

 

モニターの奥に目をやると、殿として阻んでいたクラップ級が爆発していく様が見え、部下達も仕事をきっちりとこなしているのが分かる。リベリオはほくそ笑みながら操縦桿を引き、ビーム・シザースを背部バックパックに収納していくと、視線を再び輸送船の方向へと向けていった。

戦闘宙域から離脱していく政府専用機である輸送船。このままでは取り逃してしまう事になるが、リベリオの表情に焦りは無く、その怪しげな笑みは更に深まっていく。

 

「…そろそろ…、来た♡」

 

彼の呟きと同時に、輸送船の行手を阻むように複数の爆発が生じた。それは予めこの宙域に仕掛けていた宇宙機雷であり、かなり手前で感知して爆発するよう信管をセットしたものだった。輸送船に直接的なダメージは無いものの、この爆発によって明らかに輸送船の速度が落ち、機雷を回避しようと方向転換しようとしている。

その時だった。輸送船の行手を阻むように巨大な艦影が急接近し、目の前で停止して主砲の砲口を輸送船に向けながら停船信号を送っていた。その艦影こそ、デブリの影に最後まで潜ませていた、リベリオ部隊の母艦バルバロイである。

 

『隊長!やりましたぜ!』

 

停船信号を受諾し、輸送船のメインエンジンが停止した事を確認してから、バルバロイのブリッジから歓喜に沸いた通信がコックピットに届く。リベリオもニヤついた笑みを浮かべながら、「んふふ、上出来よ♡」と褒め言葉を送り、輸送船を制圧する為にモビルスーツ数機と隊員数名を向かわせるように指示を出した。

 

「さて、と…。さっさとイサベルに戻らないとね…♡」

 

…この時、リベリオを含めまだ誰も知る由は無かった。

輸送船に積まれていた超長距離レーザー通信機器が、ミノフスキー粒子が宙域に完全散布される前に作動していた事を。

 

 

 

 

 

 

 

「…つまり、貴女は直接的にあのモビルスーツ開発には携わっていないと?」

 

「あぁ…、アンダーソン艦長。拝見した残骸の調査資料を見る限りでは…私がペーパープランで設計した機体の1つに、ヤークト・キュベレイのノウハウを組み込んだように思える。……恐らくはギムレットが極秘に作らせたのだろう、この私を欺いてな。」

 

「ギムレット・クルス……貴女の最側近でありお目付役、そして…」

 

「…イサベルのニュータイプ研究所所長…カトレアを強化人間にした張本人だよ、艦長。」

 

アンダーソン艦長の姿は医務室にあった。そこでは、アンダーソン艦長、カトレア・ペンタス、シーナ・ランチェスターの3名による話し合いが行われており、軍医であるDr.モーリスは席を外している。監視カメラの映像も止めてあるので、表向きは捕虜への尋問だが、実質は秘密の話し合いとなっていた。

その内容は、シーナ・ランチェスターが交戦し撃破した謎の無人モビルスーツ。その正体を突き止める為にカトレア・ペンタスへ尋問を敢行したアンダーソン艦長だったが、その読みは多かれ少なかれ当たっていた。そして、2人の話を聞いていく内に、本当の敵という姿も見え始めて来たのだった。

 

「…アンダーソン艦長、敵はギムレットだけではない。」

 

カトレアがゆっくりと口を開いていくと、言葉を紡ぎながらシーナ・ランチェスターへと視線を向けていく。本当の敵はギムレット・クルスだけではなく、戦争を起こす事で莫大な利益を上げ、自身の野望を叶えようとする存在が別に居ることを告げようとしているのだ。彼女の視線に気付き、迷う事なくシーナ・ランチェスターは頷いていく。

 

「それは一体……、」

 

問いかけようとアンダーソン艦長が口を開いた、正にその瞬間だった。

 

「っ………!」

 

尋問中にも関わらず、医務室内の内線がけたゝましく機械音を発したのだ。直ぐにアンダーソン艦長は椅子から立ち上がり、内線の受話器を手に取って応答していく。

 

「私だ……、……分かった、直ぐに戻る。」

 

短い時間で通話が終わったようで、アンダーソン艦長は受話器を元の場所に戻した。相手はブリッジに居る通信オペレーターのエヴァ・ヒギンズ少尉であり、内容はロンド・ベル艦隊通信を用いた至急電が届いたとの事で、恐らくはブライト司令からの勅令であろうと予想出来る。

アンダーソン艦長はベッドに横たわる2人へと振り返ると、表情を引き締めながら口を開いた。

 

「話はまた改めて時間を作ろうと思う、私はブリッジに戻らせてもらうよ。」

 

シーナ・ランチェスターは上体を起こしながら敬礼をし、カトレア・ペンタスは小さく頷くに留まる。2人の反応を見届けたアンダーソン艦長は、微かに笑みを見せながら医務室を後にして行った。

残された2人はベッドに横たわりながら、艦長が急遽ブリッジに戻った理由を考え始める。

 

「…急にどうしたんだろ、艦長…。」

 

「……捕虜尋問を中断してでも優先すべき事が発生したのだ、上からの勅令でも来たんだろうさ。」

 

「…艦隊司令部から、か…。となると…ギムレットが動いたのかな?」

 

「その可能性は高いだろう…。若しくは、私を参謀本部に移送させるのか…。」

 

カトレアの言葉に、シーナ・ランチェスターの表情が僅かに曇る。連邦軍に彼女を引き渡してしまえば、最悪極刑が下される事も容易に想像出来る為、それだけは避けたい所だ。だが、軍人であるシーナにとっては、軍に逆らうとはどういう事か、分からない程子供でも無い。

…カトレアの為に戦うというのは、下手をすれば連邦軍とネオ・ジオン双方を敵に回す事にもなりかねない。それでも、私は…。

 

「……心配するな、シーナ。」

 

まるで私の考えを見透かしたかのように、彼女は穏やかな声色で言葉をかけてくれた。その表情と声に、私の心のモヤモヤが少しずつ溶けて解けていくような、そんな感覚を感じていた。

 

「…ん…、そうだね…。でも私は…カトレアには生きて欲しいから。」

 

私の言葉を受け止める彼女の表情は変わらず、穏やかなままだ。彼女は言葉を返す事はなく、ただ小さく頷くのみ。

彼女はきっと、極刑となっても全てを受け入れるだろう。自分が今まで行ってきた罪への贖罪として。それが分かっていても、どうしても私は彼女に生き続けて欲しいと願わずにはいられないのだ。今までずっと苦しむだけの人生、強化人間として生きなければならない定めであっても、僅かでも人並みの幸せを感じて欲しい…と。

2人の間を流れる空気は、甘くも切なく、悲哀と希望とが入り交じるものとなっていく。そんな空気を一変させたのは、突如として流れて来た艦内放送だった。

 

 

『ブリッジより各員へ。これより本艦は補給作業を終了し、直ちに発進準備に取り掛かる。第二種戦闘配備発令、繰り返す、第二種戦闘配備。』

 

 

 

ラー・ネイジュは再び、戦禍の只中に飛び込む事になる。様々な人々の思惑、そして想いを乗せて……。

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