それは、風雲急を告げるものだった。
「司令、レーザー通信を受信しました。」
ルナツー。サイド7から程近い位置に存在している、L3宙域に属する軍事小惑星拠点であり、地球連邦宇宙軍の重要拠点の1つである。その管制レーダー網に、突如としてレーザー通信が届いたのだ。
管制官の士官がルナツーを指揮する基地司令に報告を入れると、司令官は直ぐに士官の座る席へと近付いて来て、状況報告を求めていく。
「識別は?」
「はっ…、これは……政府専用機の識別コードです…っ。緊急事態を告げるもので間違いありません!」
士官の報告に、通信管制室内が俄かにざわつき始める。政府専用機というのは、サイド7コロニーを発進した輸送船でまず間違いない。そして護衛の為にクラップ級が2隻出撃した事も、この場にいる全員が認識しているのだ。クラップ級が出撃してから2日は経過しているが、戦闘艦ではなく輸送船から緊急通信が送られて来るというのは、差し迫った危機的状況が発生した事を暗に意味していた。
司令官の判断は素早かった。士官の報告を受けて直ぐに内線の受話器を手に取り、ルナツーの全部署へ緊急のアナウンスを行ったのだ。
「緊急戦闘配備発令。繰り返す、緊急戦闘配備発令。戦闘員は所定の場所にて待機せよ、各艦艦長は至急作戦司令室へ。以上だ!」
「…司令、ロンド・ベルへ救援を求めるのは?」
「あぁ、やっておけ。今は面子を考えている場合じゃない。」
士官の問いかけに、司令官は直ぐに返答していく。同じ連邦軍の括りには入っているが、正規軍とロンド・ベルの力関係は非常に微妙な所がある。規模や物量、そして階級社会を重んじる正規軍に対して、ロンド・ベルは外郭部隊として独自の作戦指揮権を有しており、規模は小さいながらも正規軍には無い柔軟性を持っている。互いに相反するような流れを持つ両者ではあるが、協力体制を敷くようになったのは、あのアクシズ・ショックを起点に促進されていったのだ。加えて、正規軍もロンド・ベルも1年前の第二次ネオ・ジオン抗争による戦力喪失の影響が続いており、自ずと協力していかなければならない現実もある。特に現場を担う軍人達には、その意識が強い傾向にあった。
「いいか、どんな通信や信号も見逃すな!」
司令官の言葉を受け、通信管制室に詰める士官達は皆忙しなく動き始める。この時既に護衛を担うクラップ級が轟沈しているとは、まだ誰も知る由は無かった。
そして、ルナツーからの応援要請を受けてL3宙域へと向かう事になったのは、一番距離が近いラー・ネイジュとなったのだ。ロンド・ベル艦隊司令本部から至急電が届けられ、先刻アンバークィーンでの補給作業が完了したばかりである。
「艦長より達する。これより本艦はルナツーからの要請に応え、連邦政府専用機の救援と護衛任務に就く。戦闘状況に突入する事も考えられる、皆そのつもりで気を引き締めてもらいたい。……総員、配置につきたまえ。全乗組員の奮闘に期待する。」
アンダーソン艦長の艦内アナウンスが終わり、第二種戦闘配備に移行したラー・ネイジュは、アンバークィーンとのドッキングアーム連結を解除していく。
「ドッキングアーム、解除確認!」
「ラー・ネイジュ、機関始動。微速前進しつつ、ロケットブースターをアイドル状態に。」
アンダーソン艦長の指示を受け、航海長は復唱しながら操作をしていき、ラー・ネイジュはその身をアンバークィーンから離して発進していく。同時に、外付けされる形で艦尾に装備された大型ロケットブースターも起動させ、いつでも噴射出来るように準備を整えていった。
「艦長、アンバークィーンより入電。”貴艦の健闘と無事を祈る”…です。」
通信オペレーターのエヴァ少尉が読み上げた電報を聞きながら、アンダーソン艦長はしっかりと頷いていく。補給と修理だけでなく、様々な追加装備まで提供してくれたアンバークィーンには、心からの感謝を抱き続けたいとアンダーソン艦長は感じていた。そして、ラー・ネイジュはアンバークィーンの管轄する宙域から離脱し、通常航行可能な地点まで進出を果たす。
「このまま最大戦速でL3宙域に向かう。機関最大、ロケットブースター点火せよっ。」
「機関最大、ロケットブースター点火!総員、対ショック姿勢!」
アンダーソン艦長の命令を受け、副長のエリス中佐が各部署へ一斉に指示を出していく。機関室ではこのアナウンスを受け、機関出力を最大にさせ、同時にロケットブースターのエンジンにも火をつけた。
次の瞬間、身体が吹き飛ばされてしまうのではないかと思える程の加速Gが、艦全体に波及していく。誰もが手近な物に掴まっていたり、シートにしっかりと座っていたり、部品や備品は飛び散らないよう固定していたお陰で、被害という被害は発生しなかった。
『おい、大丈夫か少尉っ?』
そんな中、まだ万全の状態とは言えないものの、シーナ・ランチェスターの姿は医務室には無く、その身はモビルスーツデッキにあった。セレーネのコックピット内で加速Gに耐えていた彼女の身を案じ、モビルスーツ部隊を指揮するローマン隊長が通信を介して問いかけてきてくれた。
「このくらい…、セレーネより全然マシです…っ。」
『ははっ、そんだけ言えりゃ大丈夫だな!』
……それは、ラー・ネイジュが補給を終え、発進準備に取り掛かっている時だった。
集中治療を受けたおかげで、短期間で身体の損傷を回復させてきたシーナ・ランチェスターに、アンダーソン艦長は任務を託したのである。その任務とは、セレーネの追加オプションを用いた救援任務…少数のモビルスーツ部隊を先行させ、一刻も早く政府代表団を救出する為の危険な任務だ。
選抜されたのは、セレーネを駆るシーナ・ランチェスターを筆頭に、リゼル隊から2機、ジェガン隊から2機の、計5機による作戦である。
『ロケットブースター、出力50%に固定っ。モビルスーツ隊、発進位置へ!カタパルト射出1分前!』
モビルスーツデッキ内に響くエヴァ少尉の声。それと同時にラー・ネイジュのロケットブースターの出力が抑えられ、身体に感じるGの負荷が軽減した事が感じられた。同時に、デッキ内は5機のモビルスーツを発進させる為にメカニックマン達が慌しく動き、先にジェガン2機がカタパルトデッキへと上げられていく。
今回は作戦が作戦なだけに、セレーネだけでなく、ジェガンとリゼルにも特殊な装備が施されていた。高速巡航を可能にする為、急遽ジェガンとプロトタイプ・リゼルのバックパックに連結する形で、ベースジャバーのブースターユニットを取り付けたのだ。これでL3宙域にいち早く到達する事が可能となり、時間との勝負である今作戦において非常に重要な装備と化していた。
『進路クリア、発進どうぞ!』
カタパルトデッキに固定されたジェガン2機は、後付けされた大型ブースターに火を入れ、カタパルトで射出されていき、先行して出撃していった。続いてカタパルトデッキに上げられたのはリゼル2機であり、内1機はモビルスーツ部隊を指揮するローマン隊長のラプター1だ。
『先に行くぜ、少尉っ。』
「無茶はしないで下さいよ、隊長。」
『そりゃこっちの台詞だ…ラプター1、出るぞ!』
通信での掛け合いの後に、ローマン隊長と僚機のプロトタイプ・リゼル2機が射出され、発艦後はウェイブライダー形態に変形してジェガンの後を追いかけて行った。残るはシーナ・ランチェスターのセレーネのみである。通常は両足をカタパルトに固定した状態でデッキに移動していくのだが、この時ばかりは違っていた。
『少尉、聞こえるか?』
「…はい、ウォルドさん。」
『君のパイロットスーツを再調整しておいた、セレーネの推力に耐えれるようにな。だが…君はまだ万全のコンディションじゃない、無理は禁物だ。』
「…勿論分かってますよ、行ってきます。」
カタパルトデッキへと移動していくセレーネは、数日前に戦闘を繰り広げた際と比べて大きく様変わりしており、特に下半身は巨大な塊のような様相を呈していた。それは、コードネーム”セレーネ”の為に用意された拡張オプションパーツであり、強襲任務を想定して設計された高機動強襲装甲だ。特に背部バックパックと両脚部に追加装甲が施されており、Ex-Sガンダムのブースターユニットを再設計・改良したものをセレーネに搭載させている。
(…推力は通常時の1.5倍以上…。パイロットスーツで軽減出来ても、やっぱり負荷は高い…か。)
カタパルトデッキへ移動していく僅かな時間、操縦桿を握り締めながら不安要素を脳裏に浮かべつつ、私はゆっくりと息を吐いていった。そして、デッキに上げられていくセレーネは、機体を固定するドッキングアームに挟まれながら、カタパルトレール上に乗せられていく。
『シリンダー接続、カタパルトロック確認。……シーナ、待ってるからね。』
コックピットのコンソールパネル上に、リアルタイム通信画面でエヴァ・ヒギンズの顔が映し出され、不安と責務が入り混じった表情と声色でこちらに語りかけてきた。任務の危険性を承知しているからこそだろう、その気持ちは私もしっかりと理解出来る。
「……また買い物に行こう、エヴァ。」
彼女がカトレアを許していない気持ちも分かる。そんな彼女に気を遣わせている事も理解している。それでも、私はエヴァの良き友人としてこれからも歩んでいきたいと願っており、全ての気持ちを乗せて微笑を浮かべながら返答していった。
私の言葉に、画面越しに彼女も僅かに表情を綻ばせながら頷いている。久々に見た彼女の柔らかな表情に、私は安堵していた。
「シーナ・ランチェスター、ガンダム・セレーネ…行きますッ!」
操縦桿を目一杯押し込み、カタパルトを射出させて機体を発艦させると、勢いよく飛び出した瞬間にブースターユニットに点火し、新たなガンダム…『ガンダム・セレーネ』は宇宙の海を突き進んで行った。バックパックと両脚部に接続・装着された大型ブースターユニットは、リミッターが作動する出力95%を維持しながら、暴力的な加速と推力を発揮して飛翔していく。
「ぐっ……!う、ぅ…ッ……‼︎」
早速パイロットスーツの耐G負荷軽減システムが発動した事は感じるものの、追加オプションの加速力の凄まじさに圧倒されてしまっていた。これでリミッターを解除すれば、果たして意識を保っていられるのか不安になるレベルである。
身体がシートに強烈に押し付けられ、操縦桿を握る手にも更に力が入り、目を細めながら奥歯を食いしばっていく。それと同時に、まだ完治していない自身の肉体の痛みも感じていた。
(見え、た……ッ。)
当然ながらジェガン、リゼルよりも推力は高く、先行していた4機の機影に早くも追い付いてしまう。だが、それも作戦の内である。
「ガンダム、先行して敵の足を止めます…!」
『無茶だけはするんじゃねーぞ、少尉!』
4機を追い抜く際にローマン隊長と通信を交わすと、更に足元のスラスターペダルを踏み込み、一直線にL3宙域へ向けて駆けていく。
私が託された仕事は、輸送船を襲撃した敵部隊の足止めである。敵の規模が分からない以上、単騎で全てを片付けようとするのはリスクが高過ぎる為、ローマン隊長やルナツーの艦隊が到着するまで離脱させないよう妨害を行うのだ。
(武装も変わってるし…、手探りになるな…っ)
この高機動強襲装甲仕様では、メイン武装であるライフルは背面腰部マウントに格納されてあり、代わりにライフルより出力と射程に優れるメガ・ビームランチャーを両手に装備してある。加えて、両脚部を丸ごと覆うように装着されたブースターユニットの側面には、マルチロックが可能なミサイルコンテナが両側面に計4基装備されており、一対多数の戦闘において撃ち負けない武装構成となっている。
だが、まだテストすらしておらず、スペック上の数値しか把握していない状況だ。ウォルド・シャウラやローマン隊長の言うように、無理は出来ない状況である。それでも私は、スラスターとブースターを噴射し続け、まだ見ぬ敵の背を追うようにセレーネへ鞭を入れ続けていく。
「絶対…ッ、阻止してみせる…!」
※
「ギムレット大佐、バルバロイよりレーザー通信回線が届いております。」
「よし、繋げ。」
同時刻、小惑星イサベルの作戦司令室。
イサベルのネオ・ジオン総帥代行となったギムレット・クルスは、カトレア・ペンタスが座る席に腰掛けており、イサベルの実質的な指導者としての立ち位置を確立しつつあった。そんな彼の元に届いたレーザー通信回線は、連邦政府代表団を乗せた政府専用機の拿捕任務を与えていた、リベリオ・ビアンキ隊からの通信である。ギムレットは下士官に通信回線を開く事を命令すると、直後に司令室内の大型モニターにリアルタイム映像が映し出され、そこには怪しげな笑みを浮かべたリベリオ・ビアンキの姿があった。
「首尾はどうだ、リベリオ。」
『それは勿論…ご覧の通り♡』
こちらの問いかけに対してリベリオはご自慢の怪しげな笑みを更に深めつつ、モニターの前から横に逸れていく。すると、彼の背後には手錠で拘束された連邦政府代表団の面々が揃っており、情報通り10名揃って捕虜に出来ている事を確認出来た。
「よくやった、リベリオ。そのままイサベルに連行するんだ。それと……連邦軍に動きがある、用心しろ。」
『分かってますよ、大佐…♡では、また後ほど♡』
通信回線は切れ、大型モニター画面は暗闇に染まっていく。
流石はリベリオ、と言った所だろうか。悪評ばかりが目立つものの、任務成功率の高さや戦闘技能の高さは、目を見張るものがある。これでイサベル内の保守派の力は衰え、ギムレットを総帥とする革新派に求心力が増える事となるのは、最早明白だ。後は捕虜となった代表団の面々をイサベル内で拘束し、連邦政府に対して有利な立場で交渉を持ち掛ける流れに移行するだけである。
問題があるとすれば……
「ルナツーの艦隊とロンド・ベルの位置はどうか?」
「はっ、ルナツー艦隊は先程出撃した模様です。ロンデニオンのロンド・ベル艦隊に大きな動きはありませんが…1隻のみ突出してL3宙域に接近していますっ。」
「…例の艦か。」
下士官の報告を受けて、1隻のみで突出してくる艦の事に意識を向けていく。これは恐らく、ピースミーティア攻防戦に投入された艦の事だろうと、ギムレットは推察していた。
連邦政府内に忍ばせているスパイからの情報によれば、艦の名前はラー・ネイジュ。ラー・カイラム級機動戦艦の最新鋭型であり、一筋縄ではいかない存在なのは先日痛感した通りである。それに加えて、ラー・ネイジュがガンダムのコア部分を回収した事も把握しているので、今回の作戦行動に動員されている可能性も排除出来ない。リベリオ・ビアンキの手腕も戦闘能力も評価しているが、あのガンダムを相手にするのは分が悪いだろう。
(…カトレアを排除し、私が実権をより強力に握る事までは予定通り…。だが、ヤークト・キュベレイとカトレアの実力は本物だった。そのカトレアと同等、或いはそれ以上……)
興味、関心、そして一抹の不安と胸騒ぎ。ギムレット・クルスの計画を妨げるものがあるとすれば、それはガンダムのパイロットだ。カトレア・ペンタスは正にギムレットが理想とする強化人間の完成形であっただけに、その彼女が敗れる程の力を持ったパイロットが存在していると言うのは、かなりのプレッシャーとなる。下手をすれば、計画が頓挫する以上に壊滅的な打撃を受けかねない。
加えて、カトレアの遺体を回収出来ていない事も、ギムレットの不安要素の1つとなっていた。連邦に回収されていれば、カトレアの機密が遺伝子情報から漏洩する危険もある。そうなれば、連邦軍内部で再び強化人間の研究と製造に着手する恐れがあるからだ。
……流石に生きてはいまい。ガンダムと違い、ヤークト・キュベレイの残骸は正に木っ端微塵だったのだ。あれだけの質量のある衛星の爆発と衝撃に巻き込まれたのだから、当然と言えば当然である。
「MBの配置状況はどうなっている?」
「はっ、現在主要な連邦政府支持派のコロニー郡と地球の主要都市に向けて、輸送物資コンテナにて輸送中。あと2週間程で、全配置完了する見込みです。」
「よし…。製造ラインにも通達せよ、イサベルの防衛にあと数十機は必要だとな。」
「了解です、大佐。」
第2、第3の布石を次々に張り巡らせ、ギムレットは自身の野望を実現する為に歩みを強めていく。地球連邦政府でも、シャア・アズナブルでもない、ましてやアナハイムなどでもない、ギムレット・クルスが統治する新世界の秩序に向けて…。
……そんな最中、ギムレット・クルスの思惑に反する勢力が静かに燻り始めていた。
「ようこそ来てくれた、マキネン艦長。」
「いえ…こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。」
小惑星イサベルの居住エリア、その地下階層の秘匿されたビルの一室に、軍部の上級将校達が集っていた。
彼らは所謂保守派と呼ばれる、変革よりも秩序を維持する事を求めた非好戦派の面々だ。ギムレット・クルスの半ば暴走とも言える現状を危惧し、そしてカトレア・ペンタスの目指した、地球と宇宙の人類共存思想を受け継ぐべく立ち上げた組織である。この場に最後に招かれたのは、カトレアが座乗していたイサベル艦隊旗艦『アグライア』の艦長、エドワード・マキネン中佐である。
「では…本題に入ろうか、諸君。」
マキネン艦長が席に腰掛けた所で、この組織のリーダーであるダリオン将軍が口を開いた。
「現在イサベル内部では保守派と革新派で二分されており、ギムレット・クルス率いる革新派が勢いを増している。このまま強硬策に突き進めば、我々だけでなく…イサベルに住む民間人も巻き込まれるだろう。そこで…民間人を中立コロニーに逃す為のクーデターを決行しようと思う。」
そこまで話を進めた所で、ダリオン将軍は室内のモニター画面を起動させ、作戦概要を表示させた。
「イサベルの現在地が…此処、サイド7とサイド6の中間地点に位置している。作戦内容としては、民間人を4番と7番スペースゲートに誘導し、我々が接収した輸送船に乗船させ、サイド6に向けて発進させる。輸送船のコロニー管轄宙域到達まで護衛し、皆を守り切る事が、今回の作戦の達成条件となる。」
「…宜しいですかな、将軍?」
作戦内容を静かに聞いていた出席者の1人が挙手をし、内容についての質問を投げかけた。
ダリオン将軍は表情を変える事なく、小さく頷いて質問を促していく。
「非戦闘員の数は100名を超える。それだけの民間人を革新派に気取られる事なくスペースゲートに移動させるのは、かなり難しいのではないか?」
発言をした出席者の疑問は最もな事であり、他のメンバーも小さく頷いて見せている。この質問は想定内だったようで、モニター画面が切り替わり、別の情報を記した画面に切り替わっていく。
「我々保守派には優秀な技術者も多数在籍している。作戦決行日の00:00時から10分間は、イサベル内の警備システムと監視システムの点検作業が予定されている為、それに乗じてハッキングを行い、システムを完全に無力化する手筈となっている。……当然、このハッキングは長くは保たん。異変を察知した守備隊による抵抗が予想される。」
「…つまりは、10分間の内に民間人100名余りをスペースゲートに移動させ、守備隊からの抵抗を防ぎながら輸送船を発進させる…という事ですかな?」
「その通りだ。激しい銃撃戦になるだろうが…民間人を逃す事が最優先だ。」
ダリオン将軍の強い言葉に、室内の空気が一段と重さを増していく。それは多少の犠牲は致し方なしと言っているに等しいのだ。
だが、そんな事は百も承知であり、命を投げ出す覚悟がある者だけがこうして集っている。静かに、そして強固な意思を示すように、皆一様に頷いていた。ダリオン将軍は皆をゆっくりと見渡した後に、言葉を続けていく。
「輸送船2隻の護衛には…マキネン艦長、貴官のアグライアに任せようと思う。唯一の戦力となるが…引き受けてもらえないだろうか?」
「…勿論です、将軍。艦隊旗艦の力は伊達ではない事をお見せしましょう。」
「頼もしい限りだ、よろしく頼む…中佐。」
ダリオン将軍とマキネン艦長は固い握手を結び、両者とも表情は固いものの、目の奥に滾る火は同じくらいに熱い。握手を解くとマキネン艦長は再び椅子に座り、ダリオン将軍はモニターを最後の画面へと切り替えた。
「既に民間人達には、我々の組織のメンバーを通じて連絡を完了してある。ハッキングのタイミングに合わせ、スペースゲートに停泊してある輸送船を組織のメンバー達が奪取する手筈だ。つまり…決行日時の変更はもう出来ない。必ず成功させなければならないのだ。……皆、必ずやり遂げよう。」
出席者である組織の幹部達はしっかりと頷いていく。これから始まる、小さくとも大きな意味を持つ反抗作戦に向けて、誰もが強い意志を持って臨もうとしていたのだった……。