機動戦士ガンダムL(ルミナス)   作:C4-1341

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『セレーネの声』(2)

 

 

「隊長、高速で接近する移動熱源を探知!」

 

イサベルへ向けて航行を続けるバルバロイのブリッジ内に、レーダーを監視するクルーの言葉が響き渡る。リベリオ・ビアンキの表情は僅かに変化を見せ、言葉を返していく。

 

「ミサイルかしら?」

 

「い、いや…この動きは…モビルスーツですぜ!でも速すぎる…!?」

 

「……ふぅん…、補給が終わった機体から発進させなさい。それと、ミノフスキー粒子を戦闘濃度まで緊急散布。私も出るわ」

 

「りょ…了解っ!」

 

リベリオの判断はここでも早かった。任務を達成して正直浮かれている部下達とは違い、イサベルに戻るまでは油断出来ないと気を張っていたからである。勿論、先程までのギムレット・クルスとの通信も相まってだが。

リベリオはバルバロイの指揮を副長に預けると、直ぐに通路に出てモビルスーツデッキに向かって行く。せっかく完璧に仕事が終わりそうなのだ、こんな場所で潰されてたまるものか。リベリオの胸中は穏やかではないものの、こちらには人質があるので、少なくとも致命打を与える攻撃は出来ないだろうと考えていく。

 

(…ガンダムだとしても、操ってるのは生身の人間…。試させてもらおうかしらね…♡)

 

モビルスーツの性能差が、そのまま直接戦いの勝敗に繋がる訳ではない。要は使い方、そして戦術の有無によるものである。リベリオ・ビアンキはそれを証明すべく、ノーマルスーツを着込んでモビルスーツデッキへと入って行った。

既にカタパルトデッキには何機かのギラドーガが上がっていき、順次発進を行っている所である。自身の愛機であるギラドーガ・カスタムは推進剤の補給が終わった様子で、補給パイプが外されている最中であった。

 

「隊長、準備完了です!ご武運を!」

 

「ありがと、敵をぶち殺してくるわね♡」

 

リベリオは担当の整備兵に感謝の言葉を述べながら、コックピットへと乗り込んでいく。調整も完璧なようで、機には既に火が入っている。後はカタパルトデッキへと移動し、出撃するのみだ。

機体をロックしているアームが解除されていくと、リベリオはギラドーガの操縦桿を操作していき、モビルスーツデッキからカタパルトデッキへ機体を移動させていく。まだ船体に大きな揺れや衝撃が及んでいない為、敵モビルスーツはまだ有効射程範囲には入ってきていない事は分かる。

 

「ブリッジ、敵との距離は?」

 

『距離10,000、以前として急速接近中!会敵予想は凡そ3分も無いですぜ!』

 

「3分もあれば十分だわ、迎撃用意をしときなさい♡」

 

『了解です、隊長!』

 

ブリッジとの通信を終え、ギラドーガ・カスタムはカタパルトに固定されていく。後は操縦桿を押し込み、発艦を行うのみとなった。リベリオはヘルメットのバイザーを閉じ、操縦桿をしっかりと握り直す。敵が何であれ、自分達の戦いが出来れば負ける事はないと信じ、リベリオは普段通りに発進の口上を呟いたのだった。

 

 

「リベリオ・ビアンキ。ギラドーガ、行くわよっ!」

 

 

カタパルトが射出され、リベリオ・ビアンキの愛機であるギラドーガ・カスタムが発艦を完了させると、スラスターを噴射して先に発艦した部下達のギラドーガ部隊と合流していく。部下達は既にフォーメーションを組んでおり、急速接近して来る不明機体に向けての迎撃態勢を整えていた。

 

『待ってましたぜ、隊長!』

 

『待ちくたびれましたよ!』

 

「主役は遅れてやって来るものよ♡さぁ、アンタ達!気ィ引き締めていくよ!」

 

リベリオ・ビアンキの駆るギラドーガ・カスタムを先頭に、左右にギラドーガ部隊が広がりながら迎撃態勢を完成させ、彼方からやって来る不明機体を捉えようと目を凝らしていく。

会敵予想時間まであと1分。短いようで長いような、神経の擦り減る1分間。モビルスーツらしきものとしか情報が無い以上、ミノフスキー粒子散布下では有視界領域に入らない限りは正体を把握出来ない為、誰もが息を呑みながらモニターの隅々に視線を凝らしていた。果たしてどんなモビルスーツがやって来るのか…誰も言葉には出さないものの、ある程度の目星はついている。カトレア・ペンタスを打ち破り、ピースミーティア攻防戦において2隻の艦艇と数多のモビルスーツ部隊を単騎で撃破した存在…ガンダムだ。

 

(…皆強張ってる…まぁ、無理もないわね。)

 

その無言の時間と独特の緊張感は、本来ならばリベリオ部隊には有り得ないものだ。どんな状況でも戦争と戦闘に酔い痴れ、破壊と殺戮を快楽とし、声高らかに笑いながら狡賢く強かに戦う…それがリベリオ部隊なのである。

所がどうだ、今の現状は。誰も一言も発せず、緊張感だけがひしひしとこの宙域を支配し、まるで何かに怯えているかのように神経を研ぎ澄ましている。狡賢いからこそ、誰もが肌でひしひしと感じていたのだ。ガンダムを正面から相手にして生き残れる見込みは無い、と。その事を指摘した所でどうしようもない事は、リベリオ本人も理解していた。だからこそ、利用できるものは最大限利用して生き残らなければならないのだ。例えそれが、人道に反する行為であったとしても。

 

『高熱源反応…ッ!』

 

部下の誰かが咄嗟に叫んだ言葉が、ノイズ混じりにヘルメット内のスピーカー越しに響く。その直後、センサーが熱源を感知してアラート音が全機のコックピット内にけたゝましく響いた。

 

「ッ────!!」

 

刹那、まるで戦艦級のビーム攻撃が戦場を貫いた。

 

『た、隊ちょ、───────…………』

 

それは正確に1機のギラドーガに命中し、コックピット脇を抉るようにビーム粒子が機体の装甲を溶解していくと、リベリオの部下は言葉を発する最中に機体の爆発に巻き込まれて死亡した。

 

『なっ…、どこから…!』

 

『畜生、やりやがったな…!』

 

『撃て、撃ちまくれ!近寄らせるな!』

 

この先制攻撃で緊張の糸が切れたリベリオ部隊は、弾幕を展開するようにあちこちを攻撃していく。これは不味いとリベリオが思った矢先、次の攻撃が容赦なく降り注いだ。

 

『助けッ─────…………』

 

またも1機、リベリオの部下が高出力のビーム攻撃によって撃ち抜かれ、機体が爆散していく。耳障りなノイズ音がヘルメット内のスピーカーに残り、そしてブツッ…と消えていった。

 

「各機散開!的を絞らせちゃダメよっ!」

 

瞬く間に2機のギラドーガを正確な狙撃で撃墜された事に動揺が広がっていくと、明らかに部隊の機敏さが失われていっているのが、リベリオにはハッキリと見て取れた。だからこそ、隊長である彼が真っ先に前へと繰り出し、全員を奮い立たせるように声を張り上げる。

リベリオの命令に漸く戦意を取り戻した隊員達は、皆ハッとしたように『了解!!』と返答し、それぞれスラスターを噴射しながら散開行動を取っていった。それと同時に、2機のギラドーガを撃墜した正体の姿も見えてくる。

 

「……何なの、あれは……っ。」

 

流石のリベリオ・ビアンキも、高速で接近してくる機体を目にして、思わず驚きの声を漏らしてしまっていた。

上半身は確かにガンダムそのもの。だが、下半身はブースターユニットと一体化されており、どちらかと言うとモビルアーマーに近い。そして両手に握られている大口径のメガ・ビームランチャーを見て、先程の先制攻撃の正体を嫌でも理解させられた。

 

「速い…けどっ!」

 

異常なまでの推力は、ブースターユニットを見るだけで分かる。ギラドーガのセンサーは敵機を捕捉し切れず、それ以上のスピードで敵機は突っ込んで来ていたのだ。だが、仰々しいユニットと圧倒的な推力の裏には、小回りが効かないという欠点がある事をリベリオは察した。

彼はスラスターを全開にさせて敵機に向けて加速をしていくと、手持ちのビーム・マシンガンを構えていき、距離を詰めながら弾幕を張っていった。敵機は回避運動を行うものの、やはり通常のモビルスーツより運動性能は制限されるようで、回避までのタイムラグが確認出来た。それを目の当たりにした部下達も瞬時に弱点を理解すると、各々が四方から敵機に向けて距離を詰め始め、同じようにビーム・マシンガンで弾幕の雨を降らせていく。

 

『おっと、危ねぇ!』

 

敵機もただ回避しているだけではない。隙を見てメガ・ビームランチャーを構えると、ギラドーガの1機に向けて放つ。……が、攻撃は間一髪で躱して見せた。

出力、威力、射程、そのどれもが一級品の戦闘力を秘めた武器だが、トリガーを引いてからビームが発射されるまで、バレル内で粒子を圧縮するタイムラグが発生していたのである。歴戦の猛者揃いのリベリオ部隊にとって、超遠距離からの奇襲攻撃こそ防げなかったものの、間合いが取れる近距離戦となれば回避は容易かった。またも弱点が垣間見れると、リベリオ部隊の士気は更に回復し、あのガンダムを仕留めるのは今だという機運が高まっていく。

 

「行けるわよ、アンタ達!そのまま畳み掛けなさいっ♡」

 

リベリオも普段の調子を取り戻していき、声にも弾みが出てきた。こうなったリベリオ部隊はもう止められない。全機が四方を囲みながら、敵機の行手を阻むようにビーム・マシンガンを撃ち込み続けていく。

すると、敵機はブースターを全開にし、凄まじい加速でこの包囲を強引に突破してみせた。仕切り直しを狙っての事だろう、こちら側と距離を取ってメガ・ビームランチャーの発射タイミングを作り出そうという意図が見て取れる。

 

「時間を与えちゃダメよ、距離を詰めなさいっ!」

 

下手に距離が空いてしまえば、メガ・ビームランチャーを自由に使われてしまうと察したリベリオは、部下達に素早く指示を出していく。ランチャーだけではない、背中に装備されているフィン・ファンネルを使わせない為にも、出来るだけ接近戦に持ち込む必要があるのだ。

だが、そんな彼らの思惑を打ち砕くように、予想外の場所から思わぬ攻撃が飛び出してくる。

 

 

「ッ───!?回避よ、回避!!」

 

 

リベリオ部隊に対して正面を向いた敵機は、メガ・ビームランチャーを構える訳でもなく、フィン・ファンネルを射出する訳でもなく…大量のマルチミサイルを発射したのだ。

 

『なっ、なんだこりゃ…ッ、うぁ───……』

『くそッ、くそぉッ!!』

『逃げ切れねぇ、ぐあぁッ───……』

 

リベリオの叫びも虚しく、不意を突いて発射されたマルチミサイルの嵐はギラドーガ達を飲み込んでいき、次々と撃墜されていってしまう。辛うじて距離を取れていたリベリオ機は、飛来してくるマルチミサイルを冷静に見極め、ビーム・マシンガンの迎撃射撃で撃ち落とす事が出来たものの、あっという間に半数以上の味方機を失ってしまった。

 

「……化け物め…ッ。」

 

リベリオが吐き捨てるように呟いた言葉は、敵には届かない。

生き残っているのは、自身を含めて片手で数える程。とてもではないが、ガンダムを相手に勝てる未来が見えなくなっていた。こうなれば、取るべき手段は最早1つのみ。

 

「バルバロイ、準備して頂戴!」

 

 

 

 

 

 

ガンダム・セレーネは、シーナ・ランチェスターという乗り手を得て、その圧倒的な力を発揮しつつあった。

 

「当たった…、次…!」

 

セレーネのセンサー性能に加えて、サイコフレームを通して生身の肌感覚でメガ・ビームランチャーを構え、引き金を引く。一瞬の間にビーム粒子が急激に圧縮され、反動を感じる程の出力が解放されていき、2発目のビーム砲は一直線に宇宙の海を駆けていくと、遥か彼方のギラドーガに命中した。爆発の光を確認すると、センサーが捉えている熱源反応が1つ消失する。

敵機の数は、熱源反応を見る限りでは残り15機。その更に後方に大型の高熱源反応がある。恐らくは輸送船を襲撃した敵艦だろうと推測できる。先ずは前衛であるモビルスーツ部隊を突破し、政府代表団の安否を確認しなければならない。

 

「行くよ、セレーネ…ッ!」

 

私はコンソールパネルのスイッチを素早く押し、ブースターユニットを全点接続させると、足元のスラスターペダルを床まで目一杯踏み込んでいく。すると、射撃の為に緩めていたブースターが全開に作動し、凄まじい推力を以て暴力的な加速をかけながら、敵モビルスーツ部隊へ向けてセレーネは突撃を敢行した。

 

「う……ぐ、ぅ……ッ…!」

 

ブースターユニットの推進剤は残り40%。長距離巡航で消費した部分が大きいものの、ここから先は推進剤の消費が最も激しい戦闘機動となる。加速の凄まじいGに耐えながら、私は揺らぐモニター画面を睨みつつ、有視界領域に入った敵機の反応を確認していく。流石に先程の長距離狙撃に警戒したようで、15機のギラドーガは散開しながらセレーネとの間合いを取っている。

選択肢は3つ。このままメガ・ビームランチャーの攻撃を行うか、フィン・ファンネルを射出してオールレンジ攻撃を行うか、新装備であるマルチミサイルで一網打尽にするか。だが、これだけ散開されてしまえばミサイルは容易に対処されてしまうので、早々に除外されていく。フィン・ファンネルは防御のカードとして残しておきたいという気持ちもあり、これもまた除外される。そうなれば、答えは1つだ。

 

「ッ………!」

 

メガ・ビームランチャーを再び構えようとした最中、1機のギラドーガがこちらへと突っ込んで来たのが見えた。背中に巨大な棒状の兵装を背負う独特な風貌のギラドーガは、ビーム・マシンガンを構えてセレーネへと牽制射撃を行ってくる。

この攻撃はブラフではない、確実にセレーネに当てに来ている。サイコミュが受信した敵の感応波から、私はそう感じたのだ。咄嗟に思考をサイコフレームへと飛ばし、回避運動に入っていく。

 

「くっ、そ……重い……ッ…!」

 

両脚部がブースターユニットに接続され、固定されてしまっているので、敵機の攻撃に対しての回避動作に遅れが生じてしまっている。横方向へのスラスターを噴射するものの、弾幕の雨と化しているビーム・マシンガンの攻撃を避けるだけで精一杯だった。

懐に入り込まれたら不味い。そう感じながらメガ・ビームランチャーを構え、別のギラドーガへ向けてトリガーを引いていく。

 

「そこ…ッ!」

 

だが、高出力が故に発射までビーム粒子を圧縮するタイムラグが生じてしまい、タイミングを測られビーム砲の攻撃を躱されてしまった。私はヘルメットの中で小さく舌打ちをすると、敵意を受信したサイコミュの感応波に反応し、攻撃の手を止めて回避に専念していく。

統率力を発揮し、敵部隊はセレーネとの距離を詰めながら、一斉にビーム・マシンガンの弾幕を展開してきたのだ。懐に飛び込めば有利に戦えると、初手でやられてしまったからである。完全に私の悪手だが、どうにかして状況を打開しなければならない。

 

「くっ…そ……、痛いな、もう……ッ…。」

 

縦Gだけではない。横や斜軸にもGが身体に容赦なくかかり、まだ完治していない私の身体は徐々に悲鳴を上げ始めていた。セレーネの推力に合わせて調整した、耐G負荷軽減システムを内蔵したパイロットスーツと言えども、生身の身体が万全でなければ意味がないのだ。痛みに顔を顰めながらも、それでもスラスターを細かに噴射し、ブースターの噴射推力を自分の思考と感覚でコントロールしながら、ギラドーガ部隊の波状攻撃を紙一重で回避していく。

 

 

──そのまま畳み掛けなさい──

 

 

「……その気なら…ッ!」

 

サイコミュが再度受信した敵意、それが脳裏に言葉となって私の思考に入り込んできた。敵は接近して一気に叩くつもりらしく、このままではこちらが嬲り殺しにあってしまう。

だが、これはチャンスでもあると瞬時に判断した。距離を取れば、今度は散開せずにこちらへ近付いて来るだろう…と。それを利用させてもらおうと思った瞬間、私はスラスターペダルを踏み込んでブースターユニットを全開にさせた。

 

「まだ、保ってよね……セレーネ…ッ…!」

 

コンソールパネルに表示されているブースターユニットの推進剤残量は、残り18%。恐らくはこの攻撃が最大にして唯一のチャンスかも知れない。

急加速をかけたセレーネは強引にギラドーガ部隊の包囲を突き破り、一気に敵部隊との距離を取る事に成功する。

 

「そうだ、もっと来い……!」

 

後方に目をやると、予想通り敵部隊はセレーネの後を追いかけるように追尾して来ていた。常に距離を詰めて接近戦に持ち込もうとする意図がハッキリ感じられると、ある程度引き離した所で機体を180度急旋回させていく。

敵部隊に対して真正面を向き、コンソールパネルの”WEAPON”を選択すると、新たに追加された装備であるマルチミサイルをタップし、照準を合わせ始めた。ブースターユニットの両側に備え付けられたミサイルコンテナの発射口が開き、15機のギラドーガを全てロックオンしていく。

 

「これで終わりだッ!!」

 

操縦桿のトリガーを引き、マルチミサイルが一斉に発射されていく。コンテナ1基につき8発、合わせて32発のミサイルが撃ち出され、ギラドーガ部隊に襲い掛かっていった。

1機…また1機…。モニター上で捉えていた敵機の反応が潰えていき、次々に爆発が起こっていく。マルチミサイルはその物量と誘導性能に物を言わせ、あっという間に敵部隊を屠ったのだ。辛うじてミサイルの弾幕を迎撃し、生き延びる事が出来た機影は6つ。ここまで数を減らす事が出来れば、後はファンネルを用いたオールレンジ攻撃で一気に殲滅するまでだ。

 

「行けっ、ファンネル…!」

 

私の感応波をサイコミュを通じてファンネルへ伝達し、背部ファンネルラックから6基のフィン・ファンネルが射出された。ファンネル達は狙いをつけ、残存するギラドーガ達へ向けて複雑な軌道を描いて距離を詰めていく。

これでモビルスーツを排除し、残る敵艦を無力化して人質を救出する。そうすればこちらの勝利だ。ファンネルへ攻撃命令の感応波を送ろうとした、正にその時……

 

 

『聞きなさい、ガンダムのパイロット!これ以上攻撃を続ければ、人質を処刑させてもらうわ!』

 

 

オープンチャンネルで割り込んできた、敵による無線。それと同時に、セレーネのコックピット内にあるコンソールパネル上に、敵艦からのリアルタイム映像画面が表示され、人質として囚われている連邦政府代表団の面々が映し出されたのだ。

 

「ッ─────。」

 

私は咄嗟にファンネル達への指示を変え、一旦攻撃を中断してギラドーガ達と距離を取る。こんな直接的な脅しをされてしまえば、迂闊に手を出せない。ヘルメット内で舌打ちをすると、どうすればいいか思考を巡らせていくが……その前に敵が動き出す。

 

『そうそう、大人しくしてなさいガンダム…下手な真似したら、1人ずつ頭を撃ち抜いてあげるから…♡』

 

敵の脅しが本気であると、コンソールパネルの映像越しに伝わってくる。10名の人質達を取り囲んでいる敵の兵士達は、皆銃を構えて人質達へ銃口を向けているのだから。

こちらが動けないと分かった以上、ギラドーガ達はセレーネを取り囲むように包囲し、ビーム・マシンガンの銃口を向けてきた。サイコミュの補助が無くても、私には明確に感じ取れている。彼らがガンダムを憎み、恨み、殺しても殺し足りない程の殺意を持っている事が。

 

『武装を捨てて投降しなさい、分かったわね?』

 

「……………………。」

 

『素直に従うつもりが無いなら…人質が1人死ぬわ♡』

 

敵の言葉と同時に、人質の中から1人の女性が蹴り飛ばされ、床に倒れていくのが見える。女性の頭部に銃口が突きつけられ、泣きながら命乞いをしているのがリアルタイムで映し出されており、私は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて武装を解除していった。

 

「ほら、捨てたよ…!だから人質には手を出さないで…ッ…!」

 

『よしよし、いい子ね♡…アンタ達、出番よ!』

 

敵の一声で生き残りのギラドーガ達はセレーネを包囲し、各機がショックアンカーを射出して来た。身動きの取れないこちらは、頭部、両腕部、そして大腿部付近にアンカーが命中し、拘束されるようにアンカーが巻き付いてしまう。

 

「く、そ……ッ」

 

物理的にも精神的にも反撃の手段を封じられ、正に万事休すと言った所か。この拘束をブースターの最大出力で振り切ろうと思えば…不可能ではないだろう。だが、そうすれば確実に人質が殺害されてしまう。何も出来ない状況に、ただ私は奥歯を噛み締めていく。

 

『ガンダムは頂くわ…♡でも…パイロットには死んでもらうわよ!!』

 

次の瞬間…ショックアンカーに高出力の電流が流され、セレーネの外部装甲を伝いながらフレームにダメージが及び、電流はコックピット内部をも侵していく。

 

「うッ、あ…ッ…!ああ”あ”あァアああァ─────!!?」

 

操縦桿から、シートから、足元のスラスターペダルから…有りとあらゆる身体と接している箇所から電流が体内に流れ込んで来て、視界が何度も弾けながら内側から焼かれていく感覚に襲われていく。余りの激痛に絶叫が勝手に出てしまいながら、思考も視線も定まらず、電流に焼かれる脳裏に駆け巡るのは…カトレアの姿だった。

 

(こんな、所で……私は……ッ)

 

 

死が目前まで見えた瞬間、予期せぬ事態が起こる……

 

 

『なっ……!?ファンネルが…!』

 

…突如として辺りを漂っていたフィン・ファンネル達が動き出し、電流を流してセレーネを拘束していたショックアンカーを全て撃ち抜いたのだ。アンカーが切れた事で電流の衝撃は止まったものの、感電の影響で思考も視界も未だ定まらず、今どんな状況になっているのかさえ把握出来ないでいる。

フィン・ファンネルは、シーナ・ランチェスターの生存本能だけで自動攻撃したのだ。いや、この場合は防御機構と言うのが正しいのかもしれない。だが、この攻撃を目の当たりにしたリベリオ・ビアンキは、驚きと共に声を張り上げ…人質処刑の命令を下していく。

 

『抵抗したわね…ッ、処刑よ処刑!!』

「やめ、ろ…ッ…!やめろ……!やめろぉぉッ‼︎」

 

……私の必死の叫び程、虚しいものはない。乾いた銃声がモニター越しに響き、見せしめに人質の女性が頭を撃ち抜かれ、血と脳髄を撒き散らしながら処刑された。

 

「あっ………あぁ………ッ……」

 

感電の影響で未だ痺れる手を辛うじて動かし、コンソールパネルに映し出された通信映像画面に触れていく。もう動かない亡骸、凄惨な現場の恐怖で固まる他の人質達、下品な笑いを浮かべる敵兵達……。

悔しさと悲しみに、自然と涙が流れる。ゴードン隊長だけでなく…私はまた1人、救う事が出来ずに見殺しにしてしまった。その悲しみはやがて怒りに変わり、身体中の血液が沸騰し、涙を流すその瞳に明確な闘志と殺意が宿る。

 

『さぁ、分かったかしら?♡次に動けばまた1人処刑して……』

 

 

「あぁ…あぁあ……ッ、あああああああぁぁあああああ──────────────!!!!!」

 

 

悲しみと怒りの感情を爆発させ、私は咆哮する。それと同時に…セレーネもまた、私の想いを乗せて超常的な現象を発生させた。

全身に組み込まれたサイコフレーム。その赤い光が一段と輝きを増し、セレーネの全身を包み込んだ後に、その光はまるで衝撃波のようにこの宙域に解き放たれていったのだ。

 

 

『なっ……、機体制御が……!』

『くそっ、メインジェネレーターがイカれたのか…!?機体が…動かねぇ…‼︎』

『隊長、リベリオ隊長!応答して下さいッ!』

『くそ…通信も繋がらないわね…ッ。システム自体がダウンしてるみたいだわ…ッ、何なのよこれ…!!』

『こ、こちらバルバロイ!機関停止、航行不能!一体何がどうなってんだ…ッ!?』

『火器管制も操舵もダメだ、バルバロイのシステム全部がダウンしてやがるみたいだぜ…ッ、ちくしょう……一体何なんだこれは…‼︎』

 

 

原因不明の状況に、敵は皆狼狽えるばかり。バルバロイの乗組員達も、モビルスーツ隊との通信と艦の制御が遮断され、人質よりも艦の機能回復に意識が逸れていく。

 

「許さない……お前らみたいな…人間の屑は…ッ!絶対にッ‼︎」

 

私は推進剤を使い切ったブースターユニットをパージし、セレーネ本体の姿にさせていくと、スラスターペダルを床まで踏み込み、動かなくなった敵モビルスーツへと襲い掛かっていった。

メガ・ビームランチャーを失ったセレーネは、両手にビームサーベルを握り、辻斬りのようにギラドーガ達を切り裂きながら更に増速していく。切り裂かれたギラドーガは、成す術なく機体を両断され、セレーネが過ぎ去った後に次々と爆散していった。メインモニターすら機能を停止した敵達にしてみれば、訳も分からないまま命を絶たれたのである。

 

「最後の…1機…ッ…!」

 

残るギラドーガは1機のみ。私を散々煽った隊長格の機体である。怒りを力に変えて、操縦桿を目一杯押し込み、トドメを刺そうとビームサーベルを構えながら肉薄していき……

 

「ッ……………、視界…が………」

 

……突如として視界が歪み、手に力が入らなくなる……。

 

頭の中では今も燃え滾る怒りの感情が爆発しているものの、実際は感電の影響で身体が悲鳴を上げていたのだ。急激に視野が狭まり、暗くなり、程なくして私は意識を途絶えさせてしまう…。

その瞬間、セレーネから放たれていたサイコフレームの赤い光も消え、メインジェネレーターも機能を停止してしまった。

沈黙したセレーネの影響は周囲にも波及し、それまでサイコウェーブの干渉によって機能停止していた敵部隊は、突如としてシステムが復旧し、機器類の機能が回復したのである。

 

『一体、何がどうなって……。────!!な、なんて事……ッ……』

 

バルバロイから発艦したモビルスーツ部隊の中で、唯一の生き残りとなってしまったリベリオ・ビアンキ。彼が絶句してしまうのも無理はなかった。

ギラドーガ・カスタムのメインジェネレーターが再起動し、機体機能を回復した事により、彼は現在の状況を漸く把握する事が出来たのだ。モニターに広がる光景は、不気味な程に静かな宇宙の海であり、そこには夥しい数のモビルスーツの残骸が漂っている。どれもこれも、可愛い部下達の機体の残骸。あのガンダム1機にここまで壊滅的被害を被ったのは…自身の慢心故の過ちだと、認めざるを得なかった。

 

『よくも…ッ、よくも…やってくれたわね…!ガンダム…ッ!!』

 

今度はリベリオ・ビアンキが、悲しみを怒りに変えて声を張り上げる。その言葉はシーナ・ランチェスターには当然届かないものの、彼は動かなくなったセレーネに向け、ビーム・マシンガンの銃口を向けて構えていく。

 

『ッ───!熱源…ッ!?』

 

しかし、彼がトリガーを引く事はなかった。否…出来なかった。

突如としてコックピット内にアラート音が鳴り響き、遠方からビーム攻撃が放たれたのである。威嚇ではなく正確にギラドーガを撃ち抜こうとする射撃であり、いち早く察知したリベリオは回避運動を行い、ギリギリの所でビームを躱していく。

 

『敵……ッ、増援部隊ね……!』

 

この攻撃には見覚えがあった。マゼンタ色のビーム、そして出力の高さ…何よりも殺意の高い正確な射撃。彼の予感は程なくして確信に変わり、つい舌打ちをしてしまった。

 

『てめぇか、オカマ野郎…!』

 

忘れもしない、自分が手を下して初めて逃してしまった敵…あの可変モビルスーツだった。『プロトタイプ・リゼル』と呼ばれる、連邦の次期主力と目される試作可変モビルスーツである。ミノフスキー粒子の濃度が薄くなっている影響もあり、ムカつく敵の声が通信に乗ってコックピット内に響いてきた。

リベリオはすかさず反撃しようと、ウェイブライダー形態のリゼルに向かってビーム・マシンガンを発射していく。だが、敵の機動力は明らかに以前とは比べ物にならない程に高く、ギラドーガの照準補正が追いつかず、ビームはどれも敵機を捉えきれないでいた。

それもその筈である。敵機もガンダム同様に、後付けのブースターユニットを装備しているではないか。リベリオはまたも舌打ちをしながら、ならばと接近戦に持ち込もうと思い、距離を詰めようとスラスターを噴射していく。

 

『隊長!リベリオ隊長、無事ですかッ!?敵の増援が迫ってますぜ、急いでイサベルへ撤退を…!』

 

そんな最中、またも別の人物の通信が割り込んできた。聞き慣れたその声は、バルバロイに残してきた副長の声だ。かなり焦った様子で、現在自分達が置かれている状況を告げ、撤退を進言してきている。

 

『チッ……、忌々しいわね…ッ…。撤退するわ!』

 

確かに、モニターで捉えているリゼル以外にも、後方から複数の熱源が接近しているのをセンサーは捉えていた。コンソールパネルのレーダーにも、熱源反応が3つ表示され、どれも高速でこちらに接近している。

リベリオは直ぐに撤退の判断を下すと、腰部に備え付けてあるクラッカーを左手で握り、それをリゼルに向けて放り投げた。

 

『ッ……、くそ…!』

 

プロトタイプ・リゼルで突貫してきたローマン隊長は、クラッカーが放り投げられた事を察知すると、ウェイブライダー形態からモビルスーツ形態に緊急変形し、シールドを構えて直撃を防ぐ体勢を取っていく。だが、シールドに当たる直前…クラッカーは自ら炸裂した。

眩い閃光がクラッカーから放たれ、ローマン隊長はモニターを直視していたばかりに、その閃光に目を潰されてしまう。それだけではない、炸裂した閃光にはジャミング効果も含まれているようで、リゼルの頭部センサー機能を一時的に阻害したのだ。

 

『隊長、大丈夫ですかっ!?』

 

『あぁ、悪い…やられちまった…ッ。それより…敵は?少尉は無事か…っ?』

 

まだ目を開けられず、状況が確認出来ないローマン隊長の元に、部下である他のリゼルとジェガン2機が追いついて合流を果たす。通信を介して部下に今の状況を伝えてもらうと、どうやら敵は今の目眩しの合間に素早く撤退したようで、既にこの宙域から敵艦と共に離脱したようだ。それと同時に、ガンダム自体に目立った損傷はない事も伝えてもらうと、ローマン隊長はホッと胸を撫で下ろしていく。

 

『しかし…シーナ少尉からの応答はありません。メインジェネレーターも停止してますから…一体何があったのか……』

 

『あいつはしぶとい、こんな事で死ぬような奴じゃねぇさ…。……推進剤も残り少ない、味方の到着を待つぞ』

 

ようやく目が開けるようになり、ローマン隊長はモニターを見渡しながら、計器類にも目をやっていく。ブースターユニットでかなりの推進剤を消耗したので、ここから追撃に移るには補給が必要だ。加えてガンダムも沈黙している現状では、敵艦を足止め出来るような状況ではなく、こちらも立て直しを余儀なくされている。

ローマン隊長の下した決断は、ガンダムを守りながら周辺の警戒を続け、ラー・ネイジュの到着を待つ…というものだった。部下達もその決定に異論はなく、皆周辺の警戒行動に移行していく。

 

『……俺達の負けだな…。』

 

連邦政府代表団を救出出来なかった。その悔しさを滲ませながら、ローマン隊長は静かに独り言を漏らす。

 

 

──イサベルのネオ・ジオン軍と、ロンド・ベル。2つの勢力による戦いは、この日を境に更に激化の一途を辿る事になるのであった──

 




ガンダム・セレーネ(Gundam Selene)
型式番号 RX-94
武装 ハイパー・ビーム・ライフル×1
60mmバルカン砲×2
ビーム・サーベル×3
大腿部ビーム・カノン×2
バックパック部ビーム・カノン×2
右腕部ビーム・ガトリングガン×1 シールド(試作I・フィールドジェネレーター搭載型)
フィン・ファンネル×6
【高機動強襲装甲時】          
メガ・ビームランチャー×2
脚部ミサイルコンテナ×4
頭頂高 22m
本体重量 30t (通常兵装時) / 68t (高機動強襲装甲時)
装甲素材 ガンダリウム合金
搭乗者 シーナ・ランチェスター

アナハイム・エレクトロニクスが極秘裏に開発を進めていた、ニュータイプ専用試作モビルスーツ。当初の開発コードネームは”セレーネ”。
『持てる技術の全てを注ぎ込む』を合言葉に、トップダウンでコストを度外視して作り上げられた機体。機体本体のペーパープランはU.C.0090から存在していたものの、当時は要求スペックに対してフレーム材質強度やメインジェネレーターの出力不足等問題が解消出来ず、製造に踏み切る事が出来なかった経緯がある。然し、シーナ・ランチェスターの駆るルミナスガンダムの戦闘データや、サイコミュとファンネルとの連動数値、機体各所への負荷限界を集約し、反映させる事で完成に漕ぎ着けた新たなガンダム。その為、当初は設計に入っていないフィン・ファンネルが装備されていたりと、ルミナスガンダムの設計思想が色濃く受け継がれており、H.W.S.の装備やSガンダムの設計思想を組み合わせ、ルミナスガンダムと比較して攻撃面、防御面、機動面全ての向上を達成している。
基礎設計はルミナスガンダムをベースにしているものの、設計段階からサイコフレームを全身に使用する事を前提とした機体構造となっており、各部フレームと駆動系の動作効率の最適化を行い、ルミナスガンダム以上にサイコフレームの力を発揮出来るよう設計されている。バックパックの形状も一部変更され、H.W.S.のハイパー・メガ・シールドをスラスター性能に特化させたものに再設計し、バックパックに組み込んで装備されている。また、脚部にもH.W.S.のスラスターユニットを改良したものを組み込み、追加装甲や武装によって機体重量が増加した部分をスラスターの推力でカバーしている。
高機動強襲装甲時は、左右の脚部と背部バックパックを専用のブースターユニットに接続・装着し、その圧倒的な推力と加速力で長距離作戦運用や一撃離脱の強襲作戦を行う事を想定されている。ユニットはEx-Sガンダムのブースターユニットを改良し、追加プロペラントタンクを搭載した事で、推進剤の容量を増やし、燃焼効率を改善させた試作品となっている。総合的な継戦能力は向上しているものの、それでもユニット装着時の戦闘可能時間は短い。尚、ブースターユニットと機体本体の推進剤は互いに独立しており、推進剤が切れた際はパイロットの判断でブースターユニットを適宜パージする事も可能となっている。主には宇宙空間での運用を前提としており、重力下では機体重量も相まって、スペック通りの機動性は保証されていない。
武装はルミナスガンダムから継承され、基本的には共通している部分が多いものの、Sガンダムの設計を取り入れた結果、大腿部とバックパックにそれぞれビーム・カノンを追加装備している。また、シールドのビームガンとグレネード弾を外した代わりに、機体本来の防御力を向上させる目的で、小型化された試作I・フィールドジェネレーターを搭載している。高機動強襲装甲時には、ハイパー・ビーム・ライフルを背面腰部にマウントし、両手にメガ・ビームランチャーを装備して出撃する。また、火力を底上げする為に、脚部に装着されるブースターユニットの両側面には、それぞれ2基ずつ合計4基のミサイルコンテナが外付けされ、コンテナ1基につき8発のマルチミサイルが発射可能となっている。
カラーリングは設計段階では灰色が基本色となっていたものの、ルミナスガンダムを継承し、白と青の2色を基本として塗装されている。セレーネという名前は、アナハイム・エレクトロニクス社の本拠地である月をモチーフに、会社の発展と地球圏の守護を込めた月の女神の名を冠している。
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