機動戦士ガンダムL(ルミナス)   作:C4-1341

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第2話『グラナダ』

海賊組織によるガンダム襲撃事件から、早1週間が経過しようとしていた。私、シーナ・ランチェスターはと言うと、グラナダではなくルナツーにその身を置いていた。先の襲撃事件の当事者として、戦闘状況に陥った経緯や顛末についてを、参謀本部から派遣されてきた聴取官に事細かに説明している。もう何度も同じ話を繰り返しているような気がするが、聴取が終わるまでは身動きは取れない。仕方ない事だと受け入れ、部屋と聴取室を行き来するだけの日々を送っている。

一方のガンダムはと言うと、既にグラナダ工場に搬入され、何やら改修作業が行われているとだけ耳に入っている。このルナツーには、そんなに詳細な情報が入って来ないので、実際はグラナダに行かない事には不明な点だらけだが。

 

「それで、少尉は命令も無しに出撃したと?」

 

「…そうなりますね。ですが、そうでもしなければ海賊に拿捕されていました。乗組員の身の安全を守るのが、軍人としての私の使命です。」

 

「ふむ……。」

 

この聴取官の男性、如何にもな堅物エリートといった雰囲気と物言いをしてくる。この1週間で数名の聴取官相手にそれぞれ説明してきたが、中でも今対峙している彼が最も曲者だ。

兎にも角にも、命令もない出撃が問題なのだというスタンスで質問を投げかけてくる。融通の効かない人間というのは、きっと目の前の聴取官の事を言うのだろう。

 

「本来であれば軍法会議にかけるべき事案と私は考えますが…参謀本部は、少尉のニュータイプとしての素質を高く評価しているようです。」

 

「…それはどうも。」

 

なら今すぐにでも解放してくれ。

私はその言葉が間違っても飛び出ないように我慢していく。結局、私も連邦軍の士官という立場があるので、聴取が完全に終わるまでは缶詰めにならざるを得ないのは理解しているので、少しだけため息を吐きながら視線を逸らしていく。

ニュータイプ……そう言われても、未だに私には実感がない。ガンダムを操縦している間は無我夢中だったので、あれは夢だったんじゃないかとさえ思ってしまう程だった。元々素質がある事は軍から聞かされており、不思議な感覚を感じる事は何度かあったものの、次にガンダムに乗り込んだ際にファンネルが動かないんじゃないかと不安にもなってしまう。

と、その時。聴取官の携帯端末にメールが入った事を知らせる通知音が鳴り響き、彼がメールを確認し始めた。その表情はやはり変わらないものの、確認を終えてゆっくりと私を見つめてくる。

 

「……少尉、たった今参謀本部から連絡が入りました。明日の0500時を以て少尉の聴取を終了し、テストパイロットの任に戻る事を許可します。」

 

「……ありがとうございます。」

 

私の表情は変わらず、無愛想な表情で軽く頭を下げるのみ。だが、内心ではほくそ笑みながら聴取官を見つめる。ざまーみろ、と。

私は、私が行った行為に後悔はしていないし、間違った事をしたとも思っていない。損害は無く、海賊の脅威を退けた事を、きっと参謀本部も考慮してくれたのだろう。明日にはこの狭い部屋に来なくていいと思うだけでも、私は飛び跳ねたくなるくらいに喜びを感じていた。

私はすぐに席を立つと、丁寧に敬礼をしてから部屋を出ていく。無機質な部屋を出た先は、これまた無機質な廊下が広がっている。自分に与えられた仮の部屋は廊下を真っ直ぐに進み、突き当たりを右に曲がればすぐの場所にあるので、まず迷いはしない。部屋へと向けて歩きながら、明日からの任務について考えを巡らせていく。

 

「……ガンダム、か。」

 

あの、アムロ・レイが基礎設計を施した、特別なモビルスーツ。ファンネルを抜きにしても、反応性の高さや操縦性の素直さ、センサーの反応速度、スラスターの出力の高さ……どれを見ても素晴らしいの一言に尽きる。一度乗っただけでこんなにも魅了されてしまったのだ、テストパイロットとして任務を引き受けて本当に良かったと思う。

部隊に戻ったら、隊長達に自慢してやろうなんて思いながら、私は部屋の扉を開き、ベッドへ横になっていく。グラナダの部屋のベッドは、この部屋のベッドよりもふかふかであって欲しいと、身体を沈めながら思ったりしていて、チラリと時計へ視線を向ける。そろそろ夕食が運ばれて来る時間だ。

 

「…乗りこなしてみせるさ…絶対。」

 

拳を握り締め、天井を見上げながら、私は一人静かに呟く。

 

 

 

 

小惑星『イサベル』。かつては小惑星アクシズと肩を並べる存在だった、アステロイドベルト帯に属する軍事要塞。一年戦争終結時よりジオン残党の片割れ達が隠れ蓑として利用し始め、アクシズとはまた別の組織として形成されていった歴史がある。

2度に渡るネオ・ジオン戦争。その敗残兵や負傷兵達、そして技術者達を受け入れ、着々とその勢力と軍事力を増強させている。現在のネオ・ジオン内において、同じ名を語ってはいるものの、実質ミネバ一派とは別の勢力として見られている。そんな小惑星イサベルのネオ・ジオン勢力を束ねる存在が、漆黒のモビルスーツと共に帰還した。

 

『エアロック作動を確認。閣下、お待ちしておりました。』

 

格納庫内に響く、スピーカー越しに聴こえる下士官の声に、私はモビルスーツのメインエンジンを切り、コックピットハッチを開けて格納庫へとその身を乗り出していく。既に眼下には、機体の整備班と技術班のスタッフ達が忙しなく動き出しており、この機体のデータ回収と整備作業に取り掛かる事が伺える。

私はノーマルスーツのヘルメットを脱ぎ、桃色の髪を無重力の空間にふわりと靡かせながら、床へと下りていった。その先には、私の参謀でもあるお目付け役の男が待っていた。

 

「お疲れ様で御座いました、閣下。如何でしたか?」

 

彼の名は、ギムレット・クルス。私よりふた回り以上歳が離れている、第一線からは退いた元パイロットだ。腕前も確かで、観察眼も鋭く、何よりも戦況分析の力に秀でている。私にとっては有難い存在であり、数少ない信頼の置ける側近だ。

彼は恭しく頭を下げ、私に操縦の感触について訊ねてきた。海賊を討った話は既に終わった話なので、今更その事を蒸し返したりはしない所も彼の良さである。

 

「あぁ…とても良いな。やはり、私の身体に馴染む感覚がする。」

 

私の返事を聞くと、彼は安堵の息を吐いた。私の一挙手一投足に敏感に反応を示す彼の言動は、私から見れば少々大袈裟な気もするものの、あまり指摘する気もない。そして、私は自分のモビルスーツをゆっくりと見上げていく。

『ヤークト・キュベレイ』…それが私の愛機に名付けられた名だ。ベースとなったオリジナルのキュベレイを設計した元フラナガン機関の技術者達と、サイコフレームに詳しいアクシズから避難して来た技術者、そしてネオ・ジオンと関わりの深いアナハイム社の社員を呼び、遂に完成させた機体。

機体は黒をベースとしながら、肩部のバインダーや一部装甲は赤に塗装してあり、まるで悪魔のような見た目をしている。私は、この機体を気に入ってきていた。

 

「機体のテストは今日で終わりです。後は、作戦を実行に移すのみとなりました。」

 

彼の言葉を受け、私は再び視線を戻していく。作戦という言葉に、何処か不敵な笑みを浮かべながら、私は口を開いた。

 

「……いよいよだな。地球の真の統治を実現しようじゃないか。」

 

彼も、私も、目指すものはハッキリとしている。地球連邦政府のような腐敗した組織に委ねていては、やがてあの青い星は壊死してしまうだろう。だが、我々イサベルのネオ・ジオンなら、より良く人々を導けると確信している。その為に、私はこうして存在しているのだから。

ノーマルスーツを脱ぐ為に、私はその場から去り、自室へと向かっていく。参謀である彼は、ただ私の後ろ姿を見守っていた。

 

 

 

 

「…これが…!」

 

アナハイム・エレクトロニクス社、グラナダ工場。聴取から解放されたシーナ・ランチェスターがその場に到着するや否や、すぐに格納庫へと駆け出す。ここに来るまでに、現在のガンダムの改装状況は聞き及んでいたので、この目でしっかりと見ておきたいと思っていたのだ。格納庫に入ると、すぐにその姿が飛び込んでくる。

ガンダムは、その装甲を殆ど外され、骨格が剥き出しの状態となっている。あまり技術的な事は詳しくないものの、骨格から全て作り直すような話は聞いていたので、中々見れないモビルスーツの骨格姿に目を輝かせていた。

 

「ご苦労様です、少尉。現在、新素材を用いた骨格に作り直す所です。」

 

私の元に近付いてきたのは、整備服を着たメカニックマンだった。口振りからして、今回ガンダムの改装作業において現場のリーダーとなるような人物だろう。私より一回り年上くらいだろうか、若々しい中にも確かなベテランの風格を感じさせてくれている。

私は小さく頭を下げた後に、すぐに質問を投げかけていった。

 

「その、新素材って言うのは…やっぱり、サイコフレーム?」

 

「えぇ、その通りです。元々はコックピットブロックのみに試験的に組み込んでいましたが、今回は全身のフレームに組み込んでみようと考えています。」

 

「ぜ、全身に……っ。」

 

正直、説明だけでは想像がつかない。全身にサイコフレームを実装すると、どうなってしまうのか。私はつい、骨格が剥き出しとなっているガンダムを見上げてしまった。

勿論、テストパイロットなのだから乗りこなしてみせるのは言うまでもないものの、もっと詳細に知らなければならないと感じ、そのままの状態でメカニックマンへと話しかけていく。

 

「……その、サイコミュ兵器が私の感応波とリンクして、ファンネルを動かせるのは…理解してるけど…。つまり、私の思考が…全身にそのまま働くって事…?」

 

「概ねその通りです、少尉。ただ、我々も初めての試みとなりますので、少尉の協力は不可欠です。」

 

聞いてしまえば簡単な話ではあるが、実際に動かしてみないことには、やはり想像がつかない。言うなれば…フルサイコフレームとでも名付けるのだろうか。誰もが未知の領域に足を踏み入れようとしている中、私の操縦に全て懸かっているというのは、中々のプレッシャーを感じてしまう。

だが、彼を始めとするメカニックマンや技術者達は、このガンダムを真剣に作り上げている真っ最中だ。その努力が実を結ぶように、私は私に与えられた任務を全うするまで。

 

「ちなみに、稼働出来るようになるまではどれくらい掛かりそうなの?」

 

「既に追加装甲や武装については、別の部署で製造中です。あと2週間もあれば、この機体を稼働状態まで持っていける見込みですよ。」

 

「……了解。」

 

2週間…長いようで短いような、なんとも言えない日数を言われ、私はとある不安のような胸騒ぎを覚えていた。

海賊に襲われた時点で、ガンダムの情報は外部に漏れていた。それはつまり、こちら側に内通者が居る可能性があるという事。また海賊や犯罪組織に襲われ、ガンダムを鹵獲されてしまう恐れだってある。それは絶対に防がなければならないので、何か使える機体があれば…と、思わずにはいられない。そんな私の複雑な表情と雰囲気を察したのか、メカニックマンの彼が気遣うように言葉をかけてくれる。

 

「…我々も全力で、迅速に作業を進めます。少尉には、なるべく早く乗っていただきたいですから。」

 

「…ありがと。」

 

私は、短く感謝の言葉を述べて、彼に頭を下げていく。願わくば、この2週間の間に襲撃がない事を祈るしか、私には出来なかった。

 

 

 

 

聴取室生活から解放されたと思いきや、今度はグラナダで似たような生活を強いられている。と言っても、グラナダの方が幾分か気が楽だ。

 

「兵装に関してはHi-νガンダムを参考に、そしてサイコフレームの力を十二分に発揮出来るよう、このように現在進めている最中です。いいですか、少尉?」

 

「了解です…。」

 

私は現在、グラナダの施設内にある会議室に缶詰め状態となっている。ガンダムの改装が終わるまでの間に、主要となる武装面の説明や、どのように機体のバランスが変わる予定なのか、またサイコフレームの基礎知識についても講習が繰り返されている。講師役は、私の上司となるウォルドさんだ。

彼の説明はとても分かりやすい。サイコミュ兵器やサイコフレームの知識に疎い私に合わせて、噛み砕いて教えてくれたりする。だが、とにかく覚える事が多いので、頭がパンクしそうだ。元々座学というものは好きではない方なので、これが講師役が彼でなかったら眠ってしまっていただろう。私はブラックコーヒーを一口飲み、部屋の大型モニターに再び視線を向けていく。

 

「ウォルドさん、このスラスターの推力に対して…普通のパイロットスーツで耐えれるんですか?」

 

モニターに映し出されている改装後の予定スペックを眺めながら、私は率直な疑問を彼へと投げかけてみる。私の質問に対して、彼はモニターを操作して次のスライドを私に見せてきた。私の疑問の答えは、どうやら既にあるらしい。

 

「こちらです、少尉。ガンダム専用のパイロットスーツも現在開発中で、機体よりは先に出来上がる予定です。見た目はあまり普段のものと変わりませんが、耐G負荷軽減性能を重点的に強化させています。」

 

「へぇ……。」

 

デザインは、確かに普段着用しているパイロットスーツとあまり変わらない。色が白になっていたり、細部の形が少し違うだけで、どうやら中身が全く別物のようだ。これも実際に着用してみない事には分からないものの、私の不安が一つ減ったので安堵の息を漏らしていく。

実際には、どれくらいのGが身体にかかるのかも、私がテストを重ねていってデータを得る事で分かるので、パイロットスーツの性能もそれに合わせて改良していくのだろう。一層、気を引き締めないと。

 

「…では、休憩にしましょうか。」

 

「はい、ありがとうございますっ。」

 

かれこれ、講習も1週間が過ぎた。そろそろモビルスーツを動かしたい欲に駆られていくものの、シュミレーターを動かす事しか、ここでは許されていない。そんな私のフラストレーションも理解してくれているようで、時計を眺めながら彼が休憩を提案してくれた。私はついつい弾んだ声で返事してしまったが、私の分かりやすい態度を怒る訳でもなく、彼は笑って頷いてくれている。そういう所は、私にとって有り難かった。

部屋を出て廊下を真っ直ぐ進み、角を2回程曲がった先には、喫煙スペースがある。私は迷わずにそこへ入っていくと、懐から煙草のケースを取り出し、1本手に取ってライターで火をつけていく。私の好きな銘柄は、割と辛味を覚えるくらいのキツめの煙草だ。だが、このくらいの方が頭がスッキリとして気分が良い。ゆっくりと口に咥えて蒸かしながら、煙を吐いて宙を眺めていく。

 

「あっ、お疲れ様です少尉。」

 

と、一人ぼっちの喫煙所の中に、見知った顔が入って来た事に気付く。声をかけられると、其方に顔を向けた。

 

「…お疲れ様。ガンダム、どう?」

 

そこに居たのは、ガンダムのメカニックチームのリーダーだった。彼も煙草を取り出しながら、私の問いかけに微笑みながら答えてくれる。

 

「えぇ、順調です。皆の頑張りのお陰で、あと3日もあれば稼働出来そうですよ。」

 

「そんなに短縮したの…っ?皆、ちゃんと休んでる?」

 

あと1週間の所を、3日にまで縮めるというのは、物理的に出来るのだろうか。そんな疑問を抱きながら驚きの表情を浮かべる私に対して、彼も煙草を軽く蒸かしてからにこやかに口を開く。

 

「実は、チームの人数を更に増やして、3交代制で24時間作業にかかってるんです。それで何とか縮める事が出来ました。」

 

「…ありがとね。」

 

まさか、そんなにグラナダの職員がガンダムにリソースを割いてるとは初耳だった。確かに、それだけ日夜問わず作業を続けられるなら、ここまで日程が短縮出来た事も納得していく。それと同時に、彼らの頑張りを無駄には出来ないという気持ちが大きくなり、今度は私がちゃんと仕事を果たす番だと意気込んでいく。

本当なら作業を進めているメカニックマン全員に労いたい所ではあるものの、今は皆を代表して彼へと感謝の意を表していき、お互いに目を細めながら笑い合った。

 

「さて、と…では格納庫に戻るとします。」

 

「ん…、頑張って。」

 

彼は一足先に、煙草を1本吸い終わった所で襟を正し、喫煙所を出て行った。私もそろそろ戻ろうかと思い、吸い終えた煙草を口から離し、灰皿に押し付けて火を消していく。最後に仄かに香る煙草の匂いと、喫煙所の扉を開いた事で入ってくる新鮮な空気とが入り混じり、私は現実へと戻されていった。

 

 

 

 

悪い予感というものは、つくづく馬鹿に出来ないと痛感していく。

 

『空襲警報、空襲警報ッ!作業員は、直ちにシェルターへ避難して下さいッ!』

 

それは、ガンダムの改装作業も大詰めを迎えている時だった。

突如として工場内に響き渡る、緊迫したアラート音とアナウンスの声。グラナダ工場内が、混乱と悲鳴の渦に巻き込まれていく。建物の外では、ミサイル攻撃が着弾したと思われる爆発が何度も繰り返し聞こえてきていた。

 

「くそ……!」

 

時間帯にして、日付けが変わった深夜での奇襲攻撃。私はベッドから飛び起き、悪態を吐きながら下着姿から素早く着替え始め、パイロットスーツに身を包んでいく。先に完成していた、ガンダム用のスーツだ。ファスナーをしっかりと閉じ、ヘルメットを手に持つと、部屋を飛び出して格納庫へと駆け出していく。状況を把握したい所ではあるものの、十中八九狙いはガンダムだと思いながら、せめて動く事を願わずにはいられない。

格納庫に到着すると、この空襲の中メカニックマン達は作業を続けていた。その光景に一瞬目を見開きながらも、ガンダムの足元に佇むウォルドさんを見つけ、すぐに駆け寄っていく。

 

「ウォルドさん、状況はっ!?」

 

私の声と足音に気付いた様子で、彼はこちらに振り返りながら、緊張の色を滲ませた表情で口を開いてきた。

 

「少尉、現在所属不明機多数からの攻撃を受けている所です。モビルスーツだけでなく、艦砲による攻撃も…。恐らくは…また海賊かと。」

 

海賊。また奴らがガンダムを狙ってやって来たと言うのか。確かに、母艦は取り逃したので再度襲撃される事も頭の片隅にはあったが、それにしても月面の工場に直接手を伸ばすなど、そんな無鉄砲なやり方が罷り通るのだろうか。ルナツーの連邦軍も黙っていないだろう。

だが、現にこうして今は一方的に攻撃をされてしまっている。連邦軍のパトロール艦隊が到着するまでの時間を稼がなければならない。やるべき事はハッキリとしていた。

 

「そんな……、守備隊はっ、ガンダムはどうなんですっ?」

 

「ジェガン部隊が防戦に出撃していますが…こちらは5機。対する海賊は、こちらの倍以上…確認されているだけでも、15機の熱源を感知しているようです。」

 

圧倒的に不利な戦況に、私は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、拳を握り締める。こうなれば、ガンダムを出すしかないと思いながら、すぐにコックピットへとリフトを使って上がろうとしていく。

だが、その前に彼に制止されてしまった。

 

「ウォルドさん…行かせて下さい…!」

 

「ダメです、少尉…っ。装甲は装着されていますが、まだ細かな調整が済んでいません。少尉は、コックピットで待機ですっ。」

 

彼の言葉を受けて、複雑な心境になるものの、少しばかり光が見えたような気がした。言い換えると、それは最後の調整が済めばガンダムを動かせるという事でもある。それくらい、ほぼ作業が済んでいる事を窺い知る事が出来た。

ガンダムは元々の灰色の配色から、青と白のカラーリングに変更されている。これは私の提案で、きちんと反映してくれた事に内心では嬉しくなっていく。これが有事の状況でなかったら、もっとゆっくり喜びを噛み締めていたのだが、今はそんな事は言っていられない。

今も忙しなく、メカニックマン達がガンダムの周囲を行ったり来たりと動いている。私も、彼らを信じるしかない。

 

「……分かりました…っ。」

 

私は彼を真っ直ぐに見つめながら、しっかりと頷いていく。初期設定も改めてやっておかなければいけないと思いながら、リフトを動かしてコックピットへと上がっていく。

既にハッチは開いており、すぐに私はシートに座り込んでヘルメットを被り、ボタンを押してハッチを閉じた。全天周囲モニターのスイッチを入れると、格納庫内の様子がぐるりとモニターに映し出されていく。次に、コンソール画面を操作しながら初期設定の項目を押して、現在の設定を確認している最中、再びミサイルが工場付近に着弾して轟音と振動が響いてきた。

 

「ッ……、好き放題やりやがって……!」

 

元々襲撃など想定していないようで、防空能力というものは無いに等しい工場施設だ。迎撃に出ているジェガンが全てらしく、艦砲射撃やミサイルの波状攻撃はやられ放題である。狙いがこのガンダムである以上は、この格納庫への直撃は避け、私達を無力化して奪う事だろう。一刻も早く出撃しないと、どんどん工事への被害が拡大してしまうと、私は焦燥感に駆られながら舌打ち混じりに設定を済ましていく。

出撃許可が下りたのは、それから30分程経ってからの事だった。

 

『少尉、スラスターとバランサー、サイコミュ受信装置の調整が完了しました。ですが、まだテストすらしていない機体です…くれぐれも無理はしないように。』

 

ヘルメット内のスピーカーから、通信を介してウォルドさんの声が響いてくる。私も通信を繋ぐスイッチをONにしてから、「了解」と短く返事をした。

 

『向かって右のブロックに移動して、武装の換装を済ませた後に、カタパルトで出撃して下さい。君の無事を祈っています。』

 

それだけを言って、彼との通信は切れた。これで全ての作業が終了したので、メカニックマン達も順次格納庫から移動してシェルターへと退避していくのが見える。後は、私が海賊を撃退して皆を守る番だ。

ガンダムを操縦し、ゆっくりと脚を動かして歩き出しながら、指示の通り格納庫の隔壁を開いて右ブロックへと進んでいく。その先は、巨大なロボットアームが左右に備え付けてある場所で、所定の位置に機体を移動させると、ガンダムの為に製造された武装がロボットアームを介して姿を現した。

右側から現れたのは、ジェガンやジムIIIといった量産型の装備するものより一回り大きなビーム・ライフル。左側からは、専用の白いシールドがそれぞれアームによって伸ばされてきて、機体のオート操縦によってマニュピレーターが自動でライフルを握り、シールドが左腕に装備されていく。これで、準備は整った。更に機体を進めていき、カタパルトに両足を乗せて固定させると、自動で格納庫のハッチが開放されていき、外の景色がモニター越しにハッキリと見えてきた。IFFの反応を見るに、既にジェガン部隊の何機かは撃墜されているようで、此方が完全に劣勢となっている。ぐずぐずしている暇はないと、機体の姿勢を少しだけ屈ませ、発進態勢を整えた。

 

「…シーナ・ランチェスター…ガンダム、行きますっ。」

 

操縦桿を思い切り前に突き出し、カタパルトを射出させていくと、瞬間的にかかる加速Gに少しだけ表情を歪ませながら、月面へとその身を飛翔させていく。カタパルトから射出された後に、ペダルを踏み込んでスラスターを全開にさせていくと、更に凄まじい加速Gが私の身体に負荷をかけていく。明らかに改装前よりも推力が上がっている事を体感していきながら、然し身体への負荷はそれ以上のものを感じる事は無かった。

 

「凄い……っ。」

 

私はボソリと独り言を呟く。ガンダムの見違えるような運動性能もそうだが、パイロットスーツの耐G負荷軽減装置の凄さに言葉が自然と漏れてしまっていた。これなら、より操縦に集中出来る。

と……その時だった。私の頭の中を擽るような、微弱な電流が駆け抜けていったような、そんな感覚を感じ取ると同時に、操縦桿とペダルを無意識に操作していく。次の瞬間、機体の側をビームの閃光が過った。

 

「ッ……。よし……!」

 

今の感覚は、フィン・ファンネルを操作したあの感覚に似ていた。姿勢制御しながら見据えた先には、ザクIIIやバウ、ドライセン、ギラ・ドーガなどの、恐らくは鹵獲したであろうネオ・ジオンのモビルスーツで押し寄せる海賊達の機体が飛び交っている。

私の存在に気付いた海賊達は、生き残っているジェガンへの相手を程々に、ほぼ全機でガンダムに向かって迫ってきた。半包囲して捕えるつもりなのか、それとも嬲り殺しにするつもりなのか。どちらにしても、私は全て撃ち落とすのみだ。

 

「…そこッ!」

 

1対13。圧倒的劣勢。四方八方からビームやミサイルが放たれるものの、持ち前の勘の良さに加えて、サイコミュによって敵意を敏感に感じ取れる今の私には、海賊達の攻撃を避けられるという”確信”が芽生えていた。小刻みにスラスターを噴射して姿勢を絶えず変え、ギリギリの位置でビームを避け、ミサイルを頭部のバルカン砲で迎撃していく。攻撃を掻い潜り、まるで背中にも目があるかのように回避していく最中、射線を確保してビーム・ライフルを構えていく。

トリガーを引いた瞬間、機体に射撃の反動を感じる程の高出力のビーム砲が放たれ、1機のバウに攻撃が命中していく。それだけではなく、ビームは機体を貫きながらも尚減衰する事なく宇宙を駆け、その後ろに居たギラ・ドーガにまで命中したのだ。2機のモビルスーツは、その圧倒的な火力を受けて胴体が真っ二つとなり、直後に爆発して機体が粉々に散っていった。

 

「…凄い…っ、これ…。」

 

このガンダム専用に作られた、ハイパー・ビーム・ライフル。その威力は正に桁違いと言う他無い。今度は真後ろからビーム攻撃がやって来ると、またあの頭に閃光が走るような感覚に襲われ、スラスターを噴射しながら緊急回避をしていく。それと同時にビーム・ライフルを構え、私は再びトリガーを引いた。

普通のモビルスーツでは出来ないような挙動と姿勢制御、細かなスラスターの噴射の連続に、動揺を見せていたのは海賊達だった。私のビーム攻撃を避ける暇もなく、ビーム砲がザクIIIのコックピットに命中し、胴体を裂かれながら爆発していった。これで、残りは10機。

私は無意識の内に行っていたが、これがフル・サイコフレームの恩恵である。敵意を受信し、攻撃を避け、私の思考を駆動系にダイレクトに伝播させ、機体制御と私の意識を融合させていく。正に、人馬一体という言葉その通りとなっていた。

 

「待ってて…今助けるよ……!」

 

今度はこちらが仕掛ける番だと言うように、再びペダルを踏み込んで操縦桿を最大に押し込み、スラスターを全開にして凄まじい加速を海賊達に見せつけていく。前方から迫り来る敵の攻撃を簡単に避けながら、半包囲されていた中を強行突破し、その向かう先には生き残りのジェガン2機が居た。彼らはバウ2機に足止めされているようで、このままでは撃墜されてしまうだろうと見て取れた。

そのまま一直線に突貫していくと、ハイパー・ビーム・ライフルを背面腰部に装着して仕舞い込み、空いた右手をファンネルラックへと伸ばしていけば、ラックの装甲の一部が開き、中からビーム・サーベルの柄が飛び出てきた。マニュピレーターで握り締めて振り抜くと、ビームの刃が展開されていき、敵がこちらに気付く頃には既に目と鼻の先までガンダムが迫っていたのだった。

 

「もらった…ッ!」

 

速度を維持したまま、ビーム・サーベルを横一閃に振り抜く。バウは分離する暇もなく、胴体を真っ二つに斬られて程なくして爆発した。私はそのままの勢いで、もう1機のバウへと急襲していく。

流石に隣で襲われた様を見て、ジェガンから意識を私の方に向けてきたのが分かり、向こうもビーム・サーベルを展開して同じように振り抜いてきた。それに合わせるようにこちらも振り抜くと、お互いのビームの刃がぶつかり合い、鍔迫り合いとなりながらビームの閃光が迸る。

 

『ガンダムを奪えば、たんまりと報酬がもらえんだ!大人しくやられてろよッ!』

 

「はぁっ?ふざけんなよ、海賊風情が…ッ。」

 

機体同士の距離が密接した事により、ミノフスキー粒子の影響も薄れ、敵との通信が繋がる。そこで聞こえてきたのは、報酬という言葉だった。

私はそこに引っ掛かりを覚えたものの、今は命のやり取りをしている真っ最中。余計な事を考えている余裕はない。鍔迫り合いとなっている状態で、私は自身の思考をサイコフレームへと伝えていき、直後ガンダムの右脚が大きく動いてバウの胴体を横から蹴り飛ばしていった。

 

『がっ、ぁ…ッ…!?お、女の…癖に…ッ‼︎』

 

最後に聞こえてきた、女だからと甘く見ている発言に、私は怒りを覚えていく。それ自体がサイコフレームにも伝播していくと、衝撃を受けてよろめいているバウに対し、ビーム・サーベルを大きく振り被った。

 

「墜ちろッ‼︎」

 

怒りをぶつけるように言葉を吐き捨て、それと同時にビームの刃が一直線に振り下ろされ、バウの頭部から股までを一気に切り裂いていく。縦に真っ二つとなった機体は、少しばかり火花を散らして宇宙を漂った後に、私の目の前で爆発した。女を甘く見た報いだと、私は内心蔑んだ眼差しで爆発の光を見つめていく。

 

『あ、ありがとうっ、助かった…!』

 

目の前の脅威が一旦去った事で、近くに居るジェガンのパイロットから通信が入った。声からして私よりは年上の男性だが、そんな事はお構い無しに指示を飛ばしていく。

 

「動けるなら退避してっ、後は私が受け持つから!」

 

それだけを言い残すと、ビーム・サーベルをファンネルラック内へ再び格納していき、スラスターを全開にして海賊達の只中へ向けて突撃していく。

後方を一度だけ確認すると、2機のジェガンが戦闘宙域から離脱していく姿が確認出来た。私はホッと安堵の表情を浮かべながらも、すぐに意識を正面に向けていく。残る敵の数は、モビルスーツが10機に、その母艦が1隻。推進剤も大型化した専用プロペラントタンクを装備している事で、戦闘中に切れる心配はない。後は、私の体力と精神力の問題だ。

 

「まだ…行けるよ、ガンダム…!」

 

自分を奮い立たせるように、操縦桿を握り締めて独り言を呟いていく。腰部からハイパー・ビーム・ライフルを再び取り出して構え、いつでも撃てるようにトリガーへ指をかけた瞬間、この戦況が一変する出来事が起きるのだった……




【名前】シーナ・ランチェスター

【年齢】23歳

【性格】
男勝りでさっぱりとした性格。男女分け隔てなく平等に接し、言いたい事はストレートにハッキリと告げる程の、変に遠慮する事がない所が取り柄。女だからと下に見られる事を嫌い、口よりも先に手が出てしまうタイプ。

【容姿】
身長168cm、体重50kg、女性の中でも高身長な部類で、パイロットとして体を鍛えているのもあり、割と筋肉質。栗色のふんわりとしたセミロングヘアーに、エメラルドグリーンの瞳、右肩にタトゥーを彫っているのが特徴的。アナハイム社に出入りする際は、スーツ姿かパイロットスーツのどちらかに身を包んでおり、私服はかなりラフ。

【備考】
本作の主人公。U.C.0071年生まれ。父親が軍人の家庭に生まれたスペースノイドで、サイド7出身。ジオンによるサイド7への侵攻の際、避難中の流れ弾で母親を亡くし、ホワイトベースクルーだった父親も同時に亡くしてしまう。避難民としてホワイトベースでの戦闘を経験した事もあり、両親の意思を継ぎたいと強く思うようになると、ホワイトベースを降りた後は軍施設で戦争孤児として保護を受け、パイロットとしての道を進む事を決める。
20歳の誕生日を迎えた際、予備役から正式な連邦宇宙軍のパイロットとして部隊に配備され、主に地球外郭やルナツー周辺の警戒パトロール艦隊所属となった。当時はジムIIIに搭乗しており、部隊の中でも隊長に次ぐ実力者として注目を浴びていた程、モビルスーツの操縦センスと勘の良さに長けている。
シャアの反乱の際、憧れであるアムロ・レイの駆るνガンダムを支援する為、艦長の命令を無視して部隊全機でアクシズを押し返す行動に出ると、その最中にサイコフレームの超常的な力に触れ、所謂『アクシズ・ショック』を目撃して体感した一人となる。それ以降、サイコフレームに触れた事でニュータイプとしての力が徐々に開花していく事に最初は戸惑うものの、その力を認めてアナハイム社のニュータイプ専用実験機のテストパイロットを引き受ける事となる。
現在は連邦宇宙軍警戒パトロール艦隊所属のまま、アナハイム社へ出向という形でその身を移している。
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