機動戦士ガンダムL(ルミナス)   作:C4-1341

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『混迷の宇宙』(2)

 

 

「それは本当かね…っ?」

 

『あぁ、間違いない。アグライア経由で輸送船に乗船した名簿リストを見たが、連邦政府代表団の面々も居る。この事を直ぐに軍と政府へ伝えて欲しいのだ…アンダーソン艦長。』

 

「……分かった、本艦も直ちに護衛の為向かうと伝えて欲しい。宜しいか?」

 

『了解した、アンダーソン艦長。では私もアグライアと輸送船の直掩に就くぞ。』

 

「…くれぐれも無茶はしないで頂きたい。」

 

『ふ…、それはお互い様だ。』

 

作戦予定宙域に到達したと同時に通信が入り、アンダーソン艦長らブリッジクルーはその内容に目を見開いて耳を傾けていたのが、つい数分前の出来事。その相手は先行して出撃したカトレア・ペンタスからであり、報告された内容は誰もが耳疑うような内容だっただけに、初めはキチンと把握するまで多少の時間を要してしまった程だ。

彼女の報告によると、イサベル内で一部の将校らがクーデターを決行し、民間人100名余りと人質として捉えられていた連邦政府代表団を輸送船に乗せて脱出させ、現在サイド6へ向けて航行しているらしい。クーデターに加わった中には、イサベルのネオ・ジオン軍艦隊旗艦であるアグライアも居るようで、輸送船の護衛に就いているとの事だ。当初計画していた救出作戦の流れから大きく状況が変わり、正に混迷を極めていると言えるだろう。

カトレアは僅かに笑みを溢した声色でアンダーソン艦長に言葉を残すと、そこで通信は途切れた。次いで副長席に座るエリス中佐が、アンダーソン艦長へと問いかけていく。

 

「艦長、宜しいのですか?せめてブライト司令に報告を入れた方が…」

 

「そんな時間はないさ、副長。事態は急を要する……作戦変更だ。」

 

アンダーソン艦長の言葉を受け、エリス中佐は静かに頷いていくと、艦長の代わりに艦内アナウンスのマイクを手に取って声を張りながら命令を下していった。

 

「総員、救出作戦を直ちに中断っ。陸戦部隊は対空砲座に着け!モビルスーツ部隊はいつでも発艦出来るよう待機せよ!」

 

エリス中佐のアナウンスが艦内各部署に響き渡り、最初は急な作戦変更にざわつきが起こったものの、皆直ぐに自分のやるべき事を認識して迅速に行動していく。陸戦部隊の隊員達も、メカニックマン達も、パイロット達も、誰もがアンダーソン艦長の決断を信頼しているからこその統率力とも言える。

 

「諸君、当初の作戦とは違うが…目的は何ら変わっていない。政府代表団だけでなく、非戦闘員達の命を守る為に、我々に出来る最善を尽くそう。ラー・ネイジュ、機関最大っ。」

 

「機関最大、第一戦速!進路をサイド6へ!」

 

ブリッジ内では、アンダーソン艦長の言葉に続いてエリス中佐が命令を発していき、航海長が進路を変更してラー・ネイジュの艦首が向きを変えていく。目指す場所はサイド6宙域に向かう、イサベルを脱出した輸送船とアグライア。位置関係としては、恐らく到着する頃には戦闘が始まっているだろう。後はカトレア・ペンタスとルミナスガンダムの奮闘に期待するしかない。

 

(…やはり、シーナ少尉不在の穴は大きいか…。)

 

エンジンの出力を最大にしたラー・ネイジュが、その巨躯をサイド6に向けて進めていく最中、アンダーソン艦長は冷静に現状を分析していく。

戦闘状況の最中、現在地から地球へ直接連絡を取る手段は、実は無い。ルナツーを中継基地として、地球へ報告を行ってもらうのが、今最も確実で早い方法である。既にエヴァ少尉に指示を出し、ガンダムから転送された情報データをルナツーへと送信してもらっているものの、ミノフスキー粒子の影響もあるので相当の時間は掛かるだろう。その間はラー・ネイジュ単艦だけでイサベルからの攻撃を食い止め、輸送船をサイド6へ辿り着かせなければならない。これが連邦軍の総力戦として最初から行動出来ていれば……と、つい思ってしまうものの、今更そんな事を考えても仕方ないので、考えに耽る事を一旦止めてモニターへ目を向けていく。

 

「対空、対モビルスーツ戦闘警戒を厳となせ。既にここは敵地だ、デブリや伏兵にも警戒せよ。」

 

アンダーソン艦長の命令はブリッジ内に響き、各部署の長達は一層気を引き締めて計器に目を配っていく。巨大な軍事要塞である小惑星イサベルが今何処に居るのか、ラー・ネイジュ側はまだハッキリと捉え切れていないのだから、アンダーソン艦長の言葉は最もである。

 

 

同時刻、小惑星イサベルのモビルスーツ開発工廠内にて。

クーデターによる爆破の影響で多数の設備が損傷したものの、最低限の施設運用や設備稼働は可能であり、工廠の中心部ではモビルスーツとは呼べない巨大な機体…新型モビルアーマーの最終調整作業が駆け足で進められていた。

 

「残りはどのくらいだ!?」

「後はコックピット周りだけです!」

「推進剤の補充は70%まででいい、作業員に周知させろ!」

「了解っ!」

「サイコミュ調整終了しました!」

「武装のセーフティーは外しておけよ、直ぐに戦闘になる!」

 

技師長やメカニックマン達の声が工廠内に木霊していき、異形のモビルアーマーの起動準備に邁進していく。そんな工廠に、このモビルアーマーのパイロットを任せられた人物が入ってきた。

 

「お前がコイツを任された坊主か、頼んだぜ?」

 

技師長が話しかけた人物は既にパイロットスーツを着込んでおり、ヘルメットを被ってはいるが、その顔はハッキリと見えている。まだ若い青年だが、ギムレット・クルスの説明によれば……ニュータイプ研究所を再び稼働し、”カトレアを超える強化人間”として久造された被験体らしい。その代償なのかどうなのか、技師長の問いかけにただ小さく頷くのみで、虚な眼差しを向けたまま言葉を発する事はなかった。

深く聞く気はなく、そんな時間もないので、技師長は肩を軽く叩いてやると、青年は地面をトンッ…と蹴り出して無重力空間の中を漂い、コックピットハッチへと真っ直ぐに向かっていった。丁度コックピット周りの調整も済んだ様子で、中に入っていたメカニックマンが出てくると、入れ替わるように青年がコックピットへと乗り込んでいく。

 

「お待ちしてました。初期設定と調整は済んでいますが…今回が初めての起動となります。操作性やサイコミュについては、戦闘を行いながら確かめてもらうしか……」

 

若いメカニックマンの説明を聞きながら、青年はただ小さく頷きながらベルトを締めていく。ここでも変わらずに無言のままで、コンソールパネルに触れて設定を確認し始めていった。その姿を見てメカニックマンは「…では、御武運を。」と言い残して敬礼し、コックピットハッチから離れていく。

 

「……大丈夫なんですかね、技師長。あのパイロット…」

 

「まぁ、コイツをいきなり戦場に出そうってんだ。相当俺達は追い詰められてる…起死回生の一発の為には仕方ないさ。」

 

若いメカニックマンは技師長へと近付き、モビルアーマーに乗り込んだ新しい強化人間について疑問を呈する発言をしていく。その疑問は当然のものであり、技師長自身も今日初めて会ったのだから、メカニックマンの彼と感じ方は大差ない。

だが、突如としてクーデターが起こり、噂によればカトレア閣下が生きていて、あろう事かガンダムに乗って敵になったという話が流れてくれば、誰であろうとイサベルは絶体絶命な状況に陥っていると分かる。例え誰がモビルアーマーに乗ろうとも、この危機的状況を覆してくれるのなら、その素性を気にしても仕方ない。二人は異形のモビルアーマーを見上げながら、コックピットハッチが閉じていく様を眺める。

 

「…モビルアーマー…イブリス…か。」

 

まるで小型化した巡洋艦…とでも呼ぶのが相応しいだろうか。技師長がモビルアーマーの名を呟き、次の瞬間には頭部にあたる部分のモノアイが発光した。後は工廠のハッチを開放し、このモビルアーマーを出撃させるだけである。

 

「ハッチ開けろ!メカニックマンは退避!」

 

技師長の掛け声と共にメカニックマン達は通路へと退避していき、次いで宇宙に面する隔壁が開かれていった。それに合わせてモビルアーマーを固定していた複数のドッキングアームが解除されていき、スラスターを噴射しながらその巨躯を前進させていく。

ギムレット・クルスが放つ秘められた兵器、新型モビルアーマー『イブリス』。悪魔を冠する巨大兵器は、ただ一つの目標を捉えて工廠を出撃していった。忌むべき存在、カトレア・ペンタスを葬るという意思を携えて…。

 

 

 

 

 

 

サイド6へと向けて逃走を図る船団の行手を追うルミナスガンダムとカトレア・ペンタスは、ラー・ネイジュとの通信を終えて程なく、無事に輸送船とアグライアに接触を果たしていた。

 

『閣下…よくぞご無事で…!』

 

「ダリオン将軍…。貴様もよくぞ反旗を翻してくれた、礼を言おう。」

 

『とんでもない…我々は我々の意思で立ち上がったのです。このままではギムレット共々滅びの道を歩む事になると…』

 

「……そうだな…。」

 

輸送船の側にガンダムを寄せると、カトレアは船内に居る保守派リーダーのダリオン将軍と言葉を交わし、再会の喜びを噛み締めていた。連邦軍のパイロットスーツに身を包んでいるものの、ダリオン将軍は驚く訳でも嫌悪感を露わにする訳でもなく、ただただ生きて再び会える喜びを発露させていたのだ。それと共に、険しい現状についても認識を一致させていき、2人の表情もまた喜びから徐々に神妙なものへと変わっていく。

 

『…イサベルを守れず、申し訳ありませんでした…閣下。それに、民間人にも犠牲が出てしまい…』

 

「…生き延びた民間人達を必ずサイド6に送るのだ。全てが終わった後、犠牲になった者達全てへ手を合わせよう。」

 

『畏まりました、閣下…っ。』

 

2隻あった輸送船の内、5番スペースゲートから脱出を図った輸送船は撃墜され、民間人50名余りと保守派メンバー数名が死亡した事は、ダリオン将軍から聞いた所だった。彼らの魂がきちんと成仏する事を祈りつつ、今はこの窮地を脱しなければならない。

ダリオン将軍との通信を一旦切ると、今度はアグライアへと繋いでいく。

 

「アグライア、応答せよ。」

 

『閣下…!』

 

「マキネン艦長か、心配をかけたな。」

 

『いえ…閣下が生きていらっしゃるだけで、私には十分以上の幸せです…っ。』

 

リアルタイム通信で繋がっている為、コンソールパネルの画面上にはアグライア艦長のエドワード・マキネン中佐の姿が映し出されており、涙ぐんでいる様子がよく分かる。これだけ私は皆から信頼と期待を寄せられていた事を改めて実感し、胸が熱くなる想いに駆られていく。

…やはり、そう簡単に死ぬ訳にはいかない。私を慕う彼らの為にも。カトレア・ペンタスの胸の内に決意がより一層固く宿ると、一瞬だけ浮かべていた笑みを消し、凛とした声色でマキネン艦長へと問いかけていく。

 

「…マキネン艦長、アグライアのレーダーが捉えている敵の情報が欲しい。」

 

こちらの問いかけに対して、マキネン艦長はしっかりと頷き、捕捉している敵の情報を読み上げていった。

 

『エンドラ級が後方につけ、こちらを猛追して来ています。更にその後方からムサカ級も…』

 

「…ラー・ネイジュが直に合流する、それまで私が保たせる。」

 

『単騎では危険です、閣下…!せめて護衛モビルスーツを…ッ、』

 

「艦長、今最も重要なのは民間人と人質を無事にサイド6へ辿り着かせる事だ。違うか?」

 

『…それは、そうですが……』

 

アグライアの艦載モビルスーツの総数は分からないものの、エンドラ級とムサカ級を相手に輸送船を無傷で守り切るのは、かなり微妙だと言わざるを得ない。それならば、自由に動けるガンダムが敵を牽制し、アグライアは輸送船の傍から動かさないのが正しいだろう。勿論、モビルスーツ部隊は全てアグライアと輸送船の直掩につけるべきだ。私の意図を汲み取るマキネン艦長の表情は悲痛に歪んだものであり、少なからず私も彼の感情を理解出来るので申し訳ないという気持ちも抱いてしまう。

だが、今は選択を迷う時ではない。簡単に死ぬつもりはないが、この命ある限りは誰かの為に戦うつもりだ。私に出来る事があり、その力があるなら、躊躇う必要などありはしないのだ。私の決意を受け入れた様子のマキネン艦長は、覚悟を決めたように頷いてみせ、「…了解しました。」と小さく返事を返してくる。

 

「…さて、行くか。」

 

通信をこちらから切れば、輸送船とアグライアから離れていき、後方へとガンダムを進めていく。輸送船の足は遅いので、出来るだけ時間を稼ぐ必要があり、ラー・ネイジュが合流する迄は無人機や艦隊の砲撃を一手に引き受けなければならない。然し、それは救出作戦における囮と同じ事なので、私は慌てる事なく深呼吸を一つ行い、気持ちを整えていった。

数分は経過しただろうか。ガンダムのセンサーが複数の熱源反応を捉え、敵味方識別によって熱源がエンドラ級とムサカ級である事を認識し、艦載モビルスーツが次々と発艦しているとセンサーが伝えてきている。推進剤とエネルギーの残量を確認し、厳しい戦いになる事が頭を過ぎるものの、可能な限り戦い続けるのみだ。

 

「さぁ、来い……!」

 

戦いの第二幕の始まり。無数のビーム攻撃が降り注ぎ、即座に回避運動へと入っていく。

接近してくるのは無人機が20機余り。その後方にはエンドラ級とムサカ級が控えており、直掩機のモビルスーツも合わせれば40機程だろうか。流石にこれだけの数を一度に相手にするのは骨が折れるが、私は回避しつつペダルを一気に踏んでいき、敵部隊中央へと突貫していく。

 

「行け、フィン・ファンネル…!」

 

ガンダムのツインアイが一際強く輝きを放つと同時に、背部ファンネルラックから6基のフィン・ファンネルが射出され、攻撃形態へと変形して無人機達へと襲い掛かっていく。サイコミュを通じて感応波でファンネル達をコントロールしながら、無人機の死角を狙うように攻撃を繰り出していき、確実に一機ずつ撃ち落としていった。

 

「やはり、まだまだ開発し切れていないようだ…ッ。」

 

無人機達の動きはパターン化されており、先刻交戦した私やシーナの戦闘データを組み込んだ無人機と比べると、明らかに機敏さに欠けている。何らかの理由で全ての機体に私達の戦闘データを載せられなかったのか、そこは私の知る所ではないものの、幾分か戦闘に余裕が生まれる事は確かだった。

 

「くっ……!」

 

だが、油断は出来ない。圧倒的な数の差は依然として脅威であり、四方八方からのビーム攻撃を回避しなければならない事へ神経を使わざるを得ないのだ。回避が難しい場合はシールドを構え、ビームを受け止め、そしてライフルで撃ち返して撃墜していく。

着実に数は減らせている。それと同時に、ガンダムのエネルギーも減り続けており、プロペラントタンクの推進剤を使い切ってしまった。私は舌打ちを一つ漏らしながらタンクをパージし、機体本体の推進剤へと切り替えて無人機達の只中へ飛び込んでいく。ラー・ネイジュが到着するまでは、何としても戦い続けなければならない。

 

「輸送船は……ッ。」

 

戦闘中、ビーム攻撃を掻い潜りながらコンソールパネルへと視線を落とし、輸送船とアグライアの位置を確認していく。足は遅いものの、戦闘宙域から安全圏へ離脱しようとひたすらに真っ直ぐ航行している事は分かり、意識を再びモニターへと向け直した。無人機の一機が急速に近付き、ビームサーベルを展開して切り掛かってきたのだ。

こちらも応戦していく。素早くビームサーベルを引き抜くと、敵機のサーベルと鍔迫り合いとなり、その隙を突いてシールドのビームガンを至近距離で発射していった。

 

「ふん…、次だ…!」

 

コックピットブロックを撃ち抜かれた無人機は力を失って機能を停止し、その胴体を蹴り飛ばしてやると、再びスラスターを噴射して別の無人機へと向かっていく。これで10機近くを撃墜し、敵の追撃の勢いを確実に挫き始めていた、その時だった。

 

「ッ─────────………。」

 

サイコミュが微かに拾った、この戦場に混じり始める明確な殺意。息の詰まるようなプレッシャーは、私が今まで感じたどんなプレッシャーとも毛色が違っており、一瞬ガンダムの動きが鈍る。

…恐れを抱いているのか、この私が?シーナと相対した時と似ているが、この纏わりつくような嫌悪感は何だと言うのだ。そのプレッシャーの方へと自然と視線を向けた途端、今度は脳裏に強烈な攻撃の意思がサイコミュを通じて流れ込んでくる。

 

 

「逃げろ、アグライア!輸送船も緊急回避だ!」

 

 

私の叫びが届いているかは分からない。だが、攻撃は明らかに輸送船を狙っている事は分かる。

次の瞬間、戦場を貫く巨大なビーム粒子の塊が眼前を過ぎていき、サイド6方面へと向かって行くのを見る事しか出来なかった。僅かな時間を経て複数の爆発が発生し、私は苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべ、繰り返し通信を介して輸送船とアグライアへ問いかけていく。

 

「アグライア、応答しろ…!ダリオン将軍、マキネン艦長…無事か…ッ?」

 

初めはノイズが強かったものの、僅かに人の声が混じり始め、それが徐々にハッキリと耳に届き始めた。

 

『───……─、──下、閣下…ご無事で───……』

 

「マキネン艦長…皆は無事かっ?」

 

『はい、本艦も輸送船も無事です。然し…直掩機の何機かが巻き込まれて……あれは一体…っ…。』

 

「…とにかく逃げるんだ、一刻も早く。私が何とかする。」

 

『危険過ぎます、閣下…!ギラドーガ6機を一瞬で撃破する程の攻撃…ガンダムと閣下の力と言えど単騎では…!』

 

「艦長、これは命令だ。必ず輸送船をサイド6に送り届けろ。……行け!」

 

『…閣下……ッ……』

 

通信越しに聞こえてくるマキネン艦長の声は、悲しみや後悔、そして葛藤を多く含んだものだった。今私がしてやれるのは、決して後ろを振り向かず、ただひたすら前へ進めと促してやる事だけ。次の攻撃を撃たせない為にも、私も前に進まなければならない。

マキネン艦長は最後に「…ご武運を…!」とだけ言い残し、そこで通信は切れた。これで私も覚悟を決めていく。

 

「……あれか…、…何だあれは……」

 

発射地点から現在地を予測し、ガンダムを進ませていくと、漆黒の宇宙の海に巨大なモビルアーマーの姿が浮かんできた。それは無骨で、小型化した巡洋艦のような見た目をしており、モノアイの赤い光がこちらを睨むように光り輝いている。

間違いなく、あのモビルアーマーに乗っているのは私と同じ強化人間。ニュータイプの力を植え付けられた同類である気配が、より一層強烈にサイコミュによって受信されて感じ取れる。プレッシャーも、間違いなくあのモビルアーマーから発せられていたものだ。

 

「…ここから先には行かせん。」

 

どこが弱点なのか、どんな武装を施されているのか、どれ程の推進力を持っているのか、全てが不明である。だが、だからと言って逃げるという選択肢は存在しない。守るべき者達の為に、直ぐにモビルアーマーへ向けてハイパー・ビームライフルの銃口を向け、躊躇う事なく引き金を引いた。

マズルから放たれたマゼンタ色のビームは、一直線にモビルアーマー本体へと向かい、回避する事なく真正面から受け止めていった……が、先制攻撃は不発に終わる。

 

「…I・フィールドか…、ならば……!」

 

直撃したかに見えたビーム攻撃は、然しモビルアーマーの装甲に当たる事はなく、直前でビームが弾かれて掻き消されてしまったのだ。これは想定内だが、I・フィールドジェネレーターの存在は鬱陶しい事この上ないので、こちらの攻撃オプションは限られてくる。

やはり、接近戦を仕掛けるしかないだろう。そう考え、ライフルを腰部へとマウントさせると、ビームサーベルを引き抜いてモビルアーマーへ肉薄していく。

 

「ッ………!」

 

然し、そう易々と近付けさせてはもらえない。こちらの攻撃の意図を察知した敵パイロットは、モビルアーマー両側面のミサイル発射管を開き、大量の迎撃ミサイルを発射してきたのだ。一々数えるのも馬鹿らしくなる程の物量、考えるよりも先に体が動く。

反射的に操縦桿のスイッチを押し込み、回避運動を行いながら頭部バルカン砲を発射し、迫り来るミサイルを迎撃していった。1発、2発、3発とミサイルにバルカン砲が命中し、次々に爆発していって他のミサイルにも誘爆していく。だが、爆煙の奥から更にミサイルが飛来して来ると、バルカン砲だけでなくファンネルも用いながら迎撃をしていき、全てのミサイルを撃ち落としていった。

 

「まだ来るか……ッ。」

 

漸くモビルアーマーへと姿勢を向け直すものの、当然の如く休む間など与えてくれる訳もない。モビルアーマーはミサイルではなく、今度は機体後部から大量のファンネルを放出し、こちらへ向けてオールレンジ攻撃を仕掛けてきたのだ。これだけの物量は、流石の私でも全て避ける事は難しい。となれば、強行突破あるのみ。

 

「ファンネル…!」

 

私の感応波に敏感に反応したファンネル達は、ガンダムを囲むように周囲に集い、ビーム粒子の膜を形成してビームバリアを張った。簡易的なI・フィールド…とでも言った所だろうか、シーナが行っていた芸当を真似しただけである。

だが、効果は覿面だ。ファンネルのビームバリアは敵モビルアーマーのファンネル攻撃を物ともせず、全てのビーム攻撃を受け止め、弾き返している。キュベレイでは出来なかった芸当だけに、防御にも転用出来るフィン・ファンネルの性能の高さに改めて感心しながら、ビームサーベルを構えてモビルアーマーへと突貫していく。狙うはモノアイの部分…恐らくはコックピットブロックであろう箇所へ、サーベルを突き立てる為に。

 

「その図体では、回避は出来ないだろう…!」

 

目と鼻の先までモビルアーマーに接近した事により、ファンネルによるビームバリアを一度解除すると、サーベルを構えてスラスターを全開にしていく。だが、近接戦闘に対する迎撃手段も持ち合わせているようで、モビルアーマーの頭頂部と思わしき場所や、胴体の至る箇所から機関砲が姿を現し、ガンダムに向けて弾幕を展開してきたのだ。

流石に至近距離での弾幕は回避が難しく、咄嗟にシールドを構えて直撃を防ぎつつ、それでもスラスターを緩める事なくモビルアーマー本体へと肉薄していく。シールドに容赦なく機関砲の弾丸が撃ち込まれ、操縦桿越しに振動が手に伝わってくる。シールドの限界は直ぐそこまで来ていた。

 

「ッ……、もらった…!」

 

ビームサーベルの切先が届く距離にまで到達した時、機関砲の雨を受け止め続けていたシールドが破壊され、咄嗟に半壊したシールドを放り捨てる。そしてサーベルをモノアイに向けて突き立てたその時、視界の端に何かが映り込んだ。

 

「ぐっ…、何……ッ!?」

 

ビームサーベルをモノアイに突き刺し、バチバチと装甲を融解しながら火花が飛び散る中、ガンダムは謎の力によって両腕を掴まれて拘束されてしまった。何が起きたのか一瞬理解出来ず、ビクともしない操縦桿を動かそうと力を込めてみるが、拘束を振り解けない。モニター越しにガンダムの両腕を見てみると、モビルアーマーが展開した隠し腕に掴まれているではないか。

足元のスラスターペダルを床まで踏み抜いてみる。機体が唸りを上げ、凄まじい推進力で拘束を振り解こうとするものの、それ以上のパワーで押さえ付けられており、やはり抜け出す事が出来ない。

 

『……ガンダムは…敵……』

 

「っ……、貴様……ッ…」

 

機体同士が接触している事により、敵パイロットの肉声が通信を介してコックピット内へと響いてくる。若い男の声だった。

 

『ここで消えてもらう…カトレア・ペンタス。』

 

「…その…声は……まさか…、お前……ッ。」

 

聞き覚えのある声。私はこの声の主を知っている。だが、それを確かめる前に死が目の前に迫ってきていた。

ガンダムを拘束したままのモビルアーマーは、モノアイにビームサーベルが突き刺さったままの状態で、メガ粒子砲の発射口を開いてきたのだ。丁度ガンダムの真正面に発射口が突き出され、いくらサイコフレームの力があると言えど至近距離からの直撃は防ぎ切れるか不明である。いや、サイコフィールドを発生させたとして、私自身が耐え切れる保証はない。

 

「聞け、お前は洗脳されているだけだ…ッ、かつての私のように…!」

 

『メガ粒子砲、チャージ完了……』

 

「…エリック…ッ!」

 

メガ粒子砲の発射口に粒子の光が集い、圧縮され、いつでも発射出来る状態になった事が分かる。私は叫んでいた、イサベルで出来た友の名を。

 

『カトレア!!』

 

その時。

私達の通信に割って入って来た、別の男の声。それと同時に、ガンダムの左腕を拘束していたモビルアーマーの隠し腕にグレネード弾が複数発命中し、爆発の衝撃で拘束が緩んだのが分かった。

 

「ローマン隊長か……!」

 

声の主は、ラー・ネイジュのモビルスーツ部隊を指揮するローマン隊長。いの一番にこの戦闘宙域へと駆け付けたのだろう、後方には他のプロトタイプ・リゼルの機影も複数見える。

だが、束の間の喜びに浸る時間は無い。緩んだ隙に左腕を引き抜くと、ビームサーベルを引き抜いて右腕の関節に刃を振り下ろし、ガンダムの右腕を自ら切り落としていく。これで完全に拘束が解け、スラスターを噴射してモビルアーマーから距離を取ろうとするが、明確な殺意を再びサイコミュが捉えて私の脳に伝えてくる。来る、あの攻撃が。

 

「ッ───、来るな!離れろッ!」

 

咄嗟に私はローマン隊長や他のパイロット達へ叫びながら、感応波を飛ばしてフィン・ファンネルをガンダムの周囲に集めた。そして、6基のフィン・ファンネルを使いビームバリアを展開させた瞬間、モビルアーマーのメガ粒子砲が放たれたのだった。

狙いは私。ガンダムを屠る事だけを考えて発射しているのが分かるが、射線上にはアグライアと輸送船が居る。退く訳にも避ける訳にも行かず、ビームバリアとサイコフレームの力を信じて受け止めるしかない。

 

『カトレア、無茶はよせッ!』

 

ローマン隊長の叫びが通信を介して聞こえてくるが、敢えて聞こえていないフリをする。無茶でもなんでも、やるしかないのだ。

メガ粒子砲がビームバリアに直撃し、粒子の奔流が飛び散りながら凄まじい閃光を放つ。勿論衝撃も機体に影響を及ぼしており、コックピット内には負荷限界を告げるアラート音がけたゝましく鳴り響いていた。

 

(まだだ…、まだ…耐えろ…ッ…!)

 

歯を食い縛り、モニターを睨みつけながら、ビームバリアがメガ粒子砲に耐え切れず瓦解していく様を見つめる。バリアが崩壊した瞬間、ファンネルもメガ粒子砲に飲み込まれ、溶けるように爆発していった。これでガンダムを守る盾は無くなり、機体を曝け出す形となってしまう。

 

「ッ──────────────────」

 

その刹那、不可思議な現象が起きた。

私の脳裏を過ったのは、走馬灯のように過去の記憶が駆け巡り、そして最後にシーナの姿と笑顔が浮かんだのだ。まるで、心配する事はないと諭すように…私を安心させるかのような、そんな笑み。

そんなシーナの姿を脳裏に浮かべた私の心は、自身でも驚く程に落ち着きを取り戻し、温かさを感じ、不思議と力が漲るような感覚になったのだ。目の前に迫る死を跳ね除けろと、シーナが叱咤してくれているようだった。

 

「私は……死なない……!」

 

刹那、ガンダムが応えてくれる。装甲の隙間から漏れ出るサイコフレームの赤い光が、緑の光へと変わっていき、サイコフィールドを発生させていく。それはメガ粒子砲の直撃を真正面から受け止め、吸収し、弾き返しながら堰き止めていたのだ。この光景にはラー・ネイジュのモビルスーツ部隊隊員達は勿論の事、メガ粒子砲を発射した敵パイロットも驚きを隠せずに居た。

 

『…カトレア…ペンタス…ッ……!』

 

憎悪を込めた声が、通信ではなくサイコフィールドの共鳴によって脳内に響いてきており、モビルアーマーにもサイコフレームが内蔵されている事が分かる。今なら直接私の声が届くかもしれないと、感応波を最大限響かせながら語りかけていく。

 

「エリック、聞け…!お前は私と同じ道を歩む必要などない…そんなものに乗り続けていたら、お前の心が壊れてしまう……!」

 

“黙れ、カトレア・ペンタス…!お前は敵だ、ガンダムは忌むべき存在だ…!”

 

「違う、私達は手を取り合える存在だ…!殺し合うだけが強化人間の存在意義ではないのだ、ニュータイプは分かり合う為の力だ、エリック…!」

 

“黙れ…黙れ黙れ…ッ!お前の存在が俺の頭を痛ませる…ッ、お前が死ねば…この痛みも無くなる…!”

 

「ッ……、ギムレットの洗脳か…!」

 

人は、そう簡単に分かり合う事は出来ない。私はこの奇跡とも呼べる状況を経て、その難しさを痛感していた。恐らく彼は強化人間としての手術の後遺症で、酷い頭痛に苛まれているのだろう。その痛みがサイコフィールドの共鳴によって、私にも伝わってくる。この痛みを取り除く為に私を殺そうとしているのなら、ギムレット・クルスの洗脳が完成されているのだと認めざるを得ない。

だが、それでも。私は諦める事はしない。諦めたら彼を救う事は出来なくなる。

 

「ッ────、ぐ……あぁぁッ…!こんな、時に……ッ…!」

 

それは、メガ粒子砲の攻撃を完全に防ぎ切った時に起きた。突如として胸が張り裂けそうな程の激痛に襲われ、視界がぼやけ始めていく。強化人間としての後遺症を抑える薬の効果が切れてしまい、死を覚悟する程の激痛が私の身体を蝕んでいたのだ。操縦桿すらまともに握れなくなり、感応波も乱れていくと、緑色に発光していたサイコフレームの光が消えていき、サイコフィールドも消滅してしまう。

私の異変を察知したローマン隊長や他のモビルスーツ部隊は、すぐさまガンダムの援護と回収に動き出す。だが、この隙を見逃す敵ではない。

 

『死ね、カトレア・ペンタスッ!!』

 

『カトレアを守れ!!』

 

敵パイロットの殺意に満ちた声と、ローマン隊長の掛け声が交錯し、次の瞬間にはモビルアーマーから放たれた無数のファンネルが再び砲身をガンダムに向けて攻撃を開始していく。それとほぼ同時に、プロトタイプ・リゼルの部隊がガンダムの周囲を囲むと、シールドを構えながらファンネルのビーム攻撃を防ぎ、頭部バルカン砲やビームライフルでファンネルを迎撃し始めたのだ。

ファンネルの動きには精彩さが欠けていた。それは強化人間であるモビルアーマーのパイロットが副作用で苦しんでおり、感応波が乱れている故の事である。そのおかげでリゼル達も何とかファンネルの攻撃を受け止め切れているものの、そう長く保つものでもない。

 

『くそッ、耐えろ…!』

 

ある機体は頭部にビームが直撃し、またある機体はビームライフルを破壊されて右腕が吹き飛び、シールドも半壊し始めている機体も出てきている。だが、リゼル達の反撃も功を奏しており、バルカン砲が直撃したファンネルはその都度撃ち落とされ、確実に攻撃の波は弱まりつつある。あのメガ粒子砲を再度発射されれば防ぎ切る事は不可能だが、直ぐに発射してこない所を見ると、どうやらチャージに相応の時間が必要なようである。

ローマン隊長はそう判断すると、今はとにかく耐えて隙が生まれるのを待つしかないと思い、ジリジリとした持久戦の様相を呈し始めていく。

 

『鬱陶しい…蠅どもが…ッ!』

 

ファンネルの攻撃では決定打を与えられないと判断した敵パイロットは、ファンネルを一旦下がらせ、次の攻撃を仕掛けようとしてくる。ガンダムに対して行っていた、大量のマルチミサイルによる制圧攻撃だ。ミサイル発射管が開き、大量のミサイルが発射されると、半包囲するようにガンダムとプロトタイプ・リゼル達へと襲い掛かってくる。

 

『来るぞ、お前らッ!』

『迎撃!!』

『任せてくださいっ!』

 

既にボロボロのリゼル達だが、士気は旺盛。必ずカトレアとガンダムを守るという決意に満ち溢れており、これもひとえにカトレアの行動が皆の信頼を勝ち取った証でもあった。ミサイル群が襲い掛かってくるのを待ち構え、リゼル達はビームライフルや頭部バルカン砲でミサイルを迎撃していく。

だが、全てを撃ち落とす事は難しく、何発かのミサイルは弾幕をすり抜けてリゼル達へと迫ってきていた。それを見て咄嗟の判断だろうか、隊員の1人がシールドを構え、前へと押し出てミサイルを自ら受け止めに出たのだ。

 

『よせ、無茶するなッ!』

 

『無茶でもなんでも、やらなきゃいけないでしょうが!』

 

ローマン隊長の制止も振り切り、前へと出たリゼルに向けてミサイルの雨が降り注いでいく。シールドで防いだ際に複数の爆発が起き、爆煙に飲み込まれていくプロトタイプ・リゼルの背を、皆ただただ見ている事しか出来なかった。その直後、レーザー信号がロストした事を示す表示が各機のコンソールパネルに表示され、ローマン隊長の表情は悲痛なものに歪んでいく。

然し、直後にその表情は驚きに変わっていった。爆煙の中から球体状のコックピットブロックが飛び出してきて、仲間の1機が回収したのだ。

 

『隊長、生きてます!』

 

通信を聞いたローマン隊長は、安堵の息を漏らしながら、然し気を緩める事なくモビルアーマーの動向を注視していく。次の攻撃を仕掛けてくる気配が漂っていると感じていたからだ。

案の定、モビルアーマーのメガ粒子砲発射口に粒子が圧縮されていく様がモニター越しに映し出されており、次の一撃で全てを消し去るつもりでいる事が伝わってくる。

 

『お前達はガンダムを回収して散開、離脱しろ!奴は俺が引き付ける!』

 

ローマン隊長はそう叫ぶと、ウェイブライダー形態へとリゼルを変形させ、モビルアーマーへ向けて単騎で突撃していく。このままでは全員やられるのは目に見えているので、一番損傷が少ない自身が囮になる事で、カトレアと部下達を守る手を打ったのだ。

 

『隊長、引き返してください!』

『死んじまいますよ!』

『隊長ッ!!』

 

『うるせぇ、いいから離脱しろッ!命令だ!』

 

味方からの通信を一喝して遮り、メガ粒子砲が発射される前に発射口を潰そうとビームライフルを発射していく。だが、モビルアーマーが常時展開しているI・フィールドによって、ビーム攻撃は発射口に到達する前に全て弾かれてしまう。ローマン隊長は舌打ちをすると、次々に襲い掛かってくる生き残ったファンネル達の攻撃に反応していき、ウェイブライダー形態のままスラスターを小刻みに噴射し、辛うじてオールレンジ攻撃を掻い潜っていく。

 

『くそッ、やっぱシーナやカトレアみたいには行かないか…!』

 

だが、直ぐに限界は来る。幾らプロトタイプ・リゼルの機動性を以てしても、強化人間相手にオールドタイプの人間では太刀打ち出来ない事を分からされてしまう。ファンネルの攻撃が徐々に機体に掠るようになっていき、1発はバックパックに直撃したのだ。

衝撃と爆発を受け、プロトタイプ・リゼルをモビルスーツ形態へと変形させ、バックパックユニットをパージして誘爆を免れていく。文字通り丸腰となってしまい、攻撃も防御も回避も出来ない状態で、ローマン隊長は不敵に笑みを浮かべながらモビルアーマーを睨んでいた。

 

『…へっ、ここで死んでも後悔はねぇ。』

 

メガ粒子砲の発射口を正面に見据える位置に居る自機にとっては、脱出コックピットを作動させたとしても、メガ粒子砲の攻撃に呑まれて死ぬのは明らかだった。どうせ死ぬなら、味方を守って死ぬのが良いと思いながら、姿勢制御スラスターを噴射してなんとかモビルアーマーへ接近しようと近付いていく。敵は今更細々とした攻撃で撃ち落とす必要もないと判断しているようで、ファンネルの攻撃は行わず、メガ粒子砲のチャージを進めていた。

 

だが、メガ粒子砲が誰にも直撃する事は無かった。

 

『なっ……!?』

 

突如としてモビルアーマーの後方から無数の対艦ミサイルが飛来し、何発かはモビルアーマーの装甲に命中して爆発を引き起こしたのだ。相当強固に作られたであろうモビルアーマーの表面装甲は、数発のミサイルでは破壊するに至らないものの、爆発の衝撃と意表を突かれた攻撃でメガ粒子砲の発射角度が大幅にずれ、禍々しい攻撃は明後日の方向へと逸れていく。

 

『ローマン隊長、無事ですかッ!?』

 

次いで通信で聞こえてきたのは、エヴァ・ヒギンズ少尉の声。ラー・ネイジュが追いついてきた証だった。

 

『あぁ、何とかな…!』

 

ラー・ネイジュからの艦砲射撃が繰り返し行われ、モビルアーマーに向けて攻撃が降り注いでいくと、流石にモビルアーマーも分が悪いと感じたのか回避運動を行いながらイサベル方面へと撤退していった。

この撤退には、ローマン隊長は怪訝な表情を浮かべる。あれだけの戦闘能力があれば、ラー・ネイジュを含めても殲滅出来る程の力があると感じたが、余りにも早すぎる撤退だと思わざるを得ない。退いてくれるに越した事は無いが、どうにも気味が悪いと感じてしまう。

 

『……とりあえずは…生き残った事を喜ぶべきだよな。』

 

リゼルは最早行動不能の大破状態、暫くは修理で動けないだろう。これで生き残れただけでも奇跡のようなものだ。ラー・ネイジュの姿が近付いてくると、直掩のジェガンが数機近付いてきて、大破した自機を抱えて回収されていく。

 

『隊長、よくご無事で。』

 

『俺も不思議さ…死んだって思ったよ。』

 

ジェガンのパイロットと通信で会話を行いながら、ローマン隊長はヘルメットを脱いで額の汗を拭い、深く息を吐いて瞼を閉じる。

自分はこうして生き残れたが、カトレアは無事なのだろうか。そんな事を思いながら、ラー・ネイジュのモビルスーツデッキへと収容されていった。

 

人質救出作戦とイサベルのクーデター勃発の交差により、混迷を極めた戦場。その一方で、また別の場所では知られざる陰謀と死闘が繰り広げられていたのだった………。

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