機動戦士ガンダムL(ルミナス)   作:C4-1341

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第5話『秘密会談』

「……………。」

 

「シーナ少尉、其方は任せました。」

 

「……了解。」

 

暗礁宙域での戦闘から数日が経過し、ラー・ネイジュは修理と補給の為、サイド5に属するコロニー”アーダン”へと向けて航行していた。そこで資材を搬入し、ラー・ネイジュの外壁と武装の修理を行うと同時に、失った機体とパイロットの補充も予定されている。

シーナ・ランチェスターを始め、他パイロット数名は、機体の整備と調整作業が終わった後に、先の戦闘で戦死した部隊のパイロットの遺品を整理する為、手分けして個室やロッカーの整理を行っていた。私に任せられたのは、モビルスーツ部隊を指揮していた隊長…ジェラルド・ゴードン大尉の遺品整理だ。ジェガン部隊のパイロットと廊下で分かれると、私は大尉の部屋へと入っていく。

 

「失礼致します…。」

 

相手は亡くなっており、部屋には誰も居ない。だが、敬意を込めて部屋に入る前に姿勢を正して敬礼をし、中に入っていった。大尉の部屋は整理整頓が徹底されており、これと言って乱雑に置かれてある物もない。遺品整理する側としては楽だが、何とも言えない気持ちになってしまう。

制服、私服、小物類、日用品と、大尉が残した物を手に取っては、持参した段ボール箱に詰め込んでいく。これらは全て宇宙葬にする際に、棺に納めて放出する為に必要な遺品となるのだ。思ったよりも部屋に残してある物は少なかったので、段ボール箱にはまだまだ余裕があった。次は、パイロットルームのロッカーを整理しに行かなければならない。

大尉の部屋を後にし、私は段ボール箱を携えて廊下に出ると、ロッカーへと向けて進んでいく。本来であれば女性が男性のパイロットルームに入る事は無いものの、現在は通常警戒体制で航行している為、パイロットルームに誰か居る事は無い。加えて、遺品整理の為に入らなければならない事は、誰もが承知しているので問題は無いのだが。

 

「……っ。これって…」

 

隊長のロッカー前に立ち、そっと開けてみると、ロッカーの扉の裏側に写真が貼り付けてあった。柔和な笑みを浮かべる女性と、女性に抱かれる子供のツーショット写真が。人生経験に疎い私が見ても、この写真は隊長の妻子だと直ぐに分かる。

私は写真を手に取り、数日前の事をつい思い出していた……。

 

 

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──

 

 

 

 

『ガンダム、収容完了!』

『了解っ、整備作業開始!』

『アナハイムチーム、出番だぞ!』

『損傷箇所のチェックと、推進剤の補給だっ。』

『戦闘データ、急いで吸い上げろよ!』

 

 

コックピットの外…ガンダムを格納したその足元では、ラー・ネイジュのメカニックマン達と、アナハイムから移って来た技術者達が、工具やコンピューター端末を手にして忙しなく動き回っている。私はメインジェネレーターを切り、モニター画面の接続を切ると、コックピットハッチを開いてデッキ内へと出ていく。モビルスーツデッキ内は無重力空間となっているので、そのまま空間を漂いながらヘルメットを脱ぐと、汗を手で拭いながら壁際の通路へと辿り着き、待ち構えていた人物へと話しかけていく。

 

「……不甲斐ない戦いだったよ、ほんと。」

 

「そう嘆く事はないよ、少尉。君のおかげで助かった…お疲れ様。」

 

目を伏せながら呟く私に対して、慰めの言葉を掛けてくれたのは、ガンダム開発責任者であるウォルド・シャウラだ。彼はどんな状況でも私を励ましてくれるので、私もつい弱音を吐いて甘えてしまっている。

聞きたい事は山ほどあるものの、私は顔を上げていくと、真っ先に味方機の状況について彼へと訊ねた。

 

「…ウォルドさん、皆は…。隊長は、無事なの?」

 

私の問いかけに対して、彼は一瞬押し黙ってしまう。とても嫌な予感がした。

 

「…未帰還機が4機。それには、ジェラルド隊長も含まれている。」

 

一瞬、私の視界が歪んでブラックアウトしそうになる。頭から血の気が引いて、心臓が痛い程に早鐘を打ち始め、どっ…と冷や汗が全身から噴き出してしまう。

 

……私のせいだ。

 

私が未熟だったから、隊長が犠牲になってしまった。私なんかを庇って、盾になってくれて…私が隊長を殺したようなものだ…と、次々にネガティブな考えが思考を埋め尽くしていき、私は言葉を失って目の焦点も合わなくなっていく。

 

「……シーナ少尉。」

 

暫くの沈黙の後、彼から掛けられた言葉にハッ…としたように我に帰ると、複雑な表情を浮かべながら彼を見つめていく。私が何を考え、何を思っているのか、言わずとも彼にはお見通しらしい。

 

「……すみません。調整…お願い、します。」

 

消えてしまいそうな声で、私は彼へガンダムの整備作業をお願いしていく。今はとにかく、1人になりたかったのだ。心の整理をつけたかったのだ。

その場を去る私を、彼は引き止める事はしない。艦内通路へと続くドアを開き、中へと入っていく私を、彼はただ黙って見守ってくれていた。

 

 

 

──

 

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……熱い雫が、手にしていた写真へと零れ落ちていき、それは次第に雫の雨となって写真を濡らしていく。

もう枯れ果てたと思っていた私の涙は、抑え切れない感情の濁流と共に溢れ出し、写真を握り締めながら嗚咽を必死に堪え、その場に膝から崩れ落ちてしまう。

 

「すみ、ません……ッ、うっ…ぁ…ッ…!ごめん、なさ……ッ…ぅ、ぅ……‼︎」

 

誰も居ない部屋に、ただ私の咽び泣く声だけが静かに響いていく。私がもっと上手くやれていれば、隊長は家族と一緒に幸せに暮らせる未来があった筈なのだ。何と言って、妻子に謝ればいいのだろうか。きっと許してはもらえないだろうが、この戦いを生き延びる事が出来たなら、きちんと謝罪したいと私は思ってしまう。

暫くの間、私はその場から動けずに、写真を手にしながら何度も自責の念に駆られていた。

 

 

 

 

「閣下、よくぞご無事で…!」

 

「心配は無用だ、貴様らもよくやってくれたな。」

 

「あ、ありがたきお言葉……っ。」

 

小惑星イサベルの中では、暗礁宙域から撤退してきた陽動部隊と、廃棄資源衛星を確保した工作部隊とが一同に会し、無事に任務を達成できた喜びを分かち合っていた。私がムサカから降りて来ると、艦隊ドッグのフロアを埋め尽くす程の兵達が出迎えて来れており、私は僅かに笑みを浮かべながら兵達へと声をかけていく。周りからは「閣下!閣下!」と、私を呼ぶ歓喜の声が鳴り止まず、改めて私の身に何かあればイサベルは崩壊するだろうと思ってしまう。

そんな兵達の奥に、見慣れた人物が立っていた。

 

「閣下、準備は出来ております。」

 

私の参謀である、ギムレット・クルス。彼は先にムサカから降りて、イサベル内の通信施設の調整を行っていたのだ。その彼がこうして艦隊ドッグに再び姿を見せているという事は、通信相手との回線が開いているという事。後は私が向かうだけという事だと分かる。

彼の言葉を受けて、私は小さく頷いた後に、マントをはためかせながら執務室へと向かって行く。

 

「ギムレット、あのガンダム…計画の最大の障害となるだろう。」

 

廊下を歩きながら漏らした私の言葉に、隣を歩く彼は僅かに目を見開きながら、信じられないと言った具合に問いかけてくる。

 

「……失礼ですが、戦闘記録は私も拝見しております。閣下の足元にも及ばない技量と私は認識しましたが…、」

 

「その油断、命取りとなるぞ。それに、あのプレッシャー……私しか分からんのも無理はない。あのガンダムなのか、パイロットの力なのか…そこまでは分からんがな。」

 

そう。

私の感応波にダイレクトに割り込んで来るような、あの感覚。それに、時折見せていた…装甲の隙間から漏れ出ていた赤い光。あのガンダムは普通じゃない事は直ぐに分かったものの、パイロットによるプレッシャーなのか…ガンダムが発するプレッシャーなのか、私にはまだ判断がつかなかった。そもそも、サイコミュ兵器同士の戦闘というのも、今回が初めてだったのだから。

そんな私の言葉を受けて、彼も納得したように引き下がる。実際に戦闘をした私が言うのだから、これ以上意見を言う必要はないと判断したのだろう。そこから私と彼の間に会話は無く、2人の足音だけが廊下に響いていく。

 

「ご苦労。」

 

執務室に到着すると、衛兵として控えている2人の兵が私に向けて敬礼をしてきた。私は軽く手を上げ、声を掛けて兵に労いの意を伝えていくと、兵は執務室のドアを開いていき、私とギムレットは中へと入って行った。執務室は豪華絢爛という言葉がピッタリなように、床一面は真っ赤な絨毯が敷いてあり、天井には豪華なシャンデリアが幾つも吊り下げられている。だが、シャンデリアは全てが点灯している訳ではなく、等間隔で灯りが点いている。全てを点灯してしまうと、私には明る過ぎて寧ろ眩しいのだ。

 

「閣下、こちらに。」

 

部屋の奥には、入り口に向かって正面に執務机が備えられており、普段私が座る席だ。彼は椅子を少しだけ引くと、私が座れるようにエスコートしてくれている。このやり取りも今となっては当たり前となっているので、私も小さく頷きながら椅子に腰掛けた。

すると、執務机の上に空間投影型のモニターが出現する。その画面には、幾つもの人物の顔が映し出されており、リアルタイムで通信が繋がっている事を示していた。画面の向こうに居る面子は、皆地球連邦政府の高官達である。

 

「さて…、ようこそ集まってくれた。まずは礼を言おう。私はイサベルのネオ・ジオンを統帥する、カトレア・ペンタスだ。」

 

私の挨拶の言葉に、政府高官達は口々に挨拶を返してきて、頭を下げてくる。この連中が、地球に引き篭もり、宇宙を我が物顔で支配し、私腹を肥やしてきた膿なのだと思うと、笑顔を浮かべてやる事すら苛立たしくもある。そんな中、連邦軍の上層部も顔を出しており、将軍と呼ばれる厳つい老齢の人物が口を挟んできた。

 

『…閣下は、本気であの衛星をこの地球に落とすと申されるのか?』

 

将軍の一言に、政府高官達の表情が凍り付く。軍人としては至極当然の質問だろうが、政治家にとっては余りにも早すぎる本題の投下に、目が泳いでいるのが見て取れる。私はそんな空気の中を気にする事なく、スッ…、と目を細めながら口を開いていった。

 

「勿論だ。貴様らの返答次第だがな?」

 

本題に入ってしまったからには仕方ないと言うように、私の言葉に反応して高官達も口々に意見や質問を述べ始めた。

 

『閣下、地球は現在…大変な状況にあります。シャアの隕石落としで地球環境の破壊が進み、連邦軍も大きな痛手を被りました。今、衛星を再び落とされてしまえば…地球は本当に人の住めない星になります…っ。』

『返答次第という事は、落とさない選択肢もある…という事でしょうか…?』

『我々軍は断じて容認出来ない。もし落とすのであれば、貴公らネオ・ジオンを根絶やしにするまでだ。』

『将軍、抑えて……!』

『しかし大臣、このまま奴らを野放しにするのは危険ですぞ!』

『…申し訳ない、閣下。話を進めましょう…、閣下の要求は?』

 

将軍のみが私に明確に反抗の意を唱えているものの、それに賛同する大臣や高官は皆無。それもそうだろう、事勿れ主義と巨大な権利の招いた腐敗は、地球の危機を前にしても一枚岩になれないのだから。穏便に済むに越した事はないという空気が形成されていく中、1人の高官からの問いかけを受け、漸く私も要求を突きつける事が出来た。

 

「我がイサベルに、地球連邦政府の権限を全て譲渡し、連邦軍を解体。我らネオ・ジオンの傘下に入ってもらう。それが、地球の破壊を免れる為の条件だ。」

 

私の要求を聞いた瞬間、政府高官達や大臣達の表情が固まってしまった。皆目を丸くし、言葉を失い、まるで魚のように口をパクパクと繰り返し開閉している。きっと頭の中で熟考しているのだろう、自らの利権を手放して良いのか…と。

そんな彼らを尻目に、将軍だけは直ぐに私へと噛み付いてくる。

 

『ふざけるなッ、そんなものは受け入れられる訳がない!!』

 

「…そうか、残念だ将軍。ギムレット、衛星を地球に向けて放て。」

 

『お、お待ちください閣下!直ぐには、返答しかねる問題なので…猶予を…!』

『将軍、君は退席したまえ!』

『我々も地球を預かる身…全てを受け入れる訳には…。』

『いや、然し地球を破壊されては元も子もない…。ここは要求を飲むしか…!』

『この事が世間に露呈すれば、地球から人が居なくなってしまうぞ…。そうなれば、経済も破綻する…。』

『それでは、政府運営も成り立たなくなるぞ…!』

『今の内に家族と資産をコロニーに移した方が…。』

 

私の一言だけで、政府高官達は慌てふためき、地球というより己の身と地位を守りたいが為の言葉をあちこちで述べ始めた。加えて、私の気を害さないようにと、大臣の1人によって将軍は会議の場から強制的に排除され、SPらによって連れて行かれたのが僅かに見て取れる。

全く、地球を守る責任者を締め出すとは、つくづく呆れたものだと私は感じてしまいながら、表情には出さずに内心ほくそ笑んでしまう。シャアの反乱があったからこそ、私はこうして労せず地球を手に入れられるのだから、シャアには感謝しなければならないだろう。

 

「無論、貴様らにも多少は配慮せねば、交渉とは呼べまい。もし私の条件を受け入れるのであれば、貴様らのポストを用意しよう。イサベルの中枢にな。」

 

正に救いの言葉、願ってもないチャンス。彼らにとって、自分の身の安全を保証されるだけでなく、新しい仕事と利権を手にする可能性が目の前に放り込まれたのだ。結論が下るまで、そう時間は掛からなかった。

 

『…閣下の要求を受け入れます。』

 

全会一致の答えだった。政府高官達や大臣達の表情は皆険しいものの、何処か安堵しているような雰囲気も画面越しに感じ取れる。地球と宇宙を再び破壊し尽くす全面戦争に発展しかねない状況に追い込まれ、それを回避して人類を生かし、命と地位が保証されるなら、それに縋る他ない…と言った具合に。

彼らが出した結論を受けて、私はここで初めて笑みを浮かべる。慈愛にも見えるその柔らかな瞳の奥では、まるで豚を見るように蔑む感情をひた隠し、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

「ふふ……、利口な貴様らに感謝するぞ。では、改めて会談を開き、そこで調印を行うとしよう。」

 

『畏まりました、場所と日時は閣下のご都合に合わせますので…っ。』

 

 

ある程度話が纏まった所で、お互いに通信を切った。後の調整はギムレットに任せれば大丈夫だろう。私は彼へと顔を向けていくと、彼もまた了承したように頷きを見せている。唯一の懸念があるとすれば、連邦軍…特にロンド・ベルの動きだ。

 

「ギムレット、あの艦の動きには目を光らせておけ。」

 

「はっ…、畏まりました。」

 

あの艦、とは…暗礁宙域にて交戦した、ガンダムの母艦である。もし彼らが、我々の廃棄資源衛星を利用した作戦に勘付いたとすれば、直接衛星を破壊しに動くかもしれない。

尤も、衛星を破壊される前に調印を結んでしまえば、私の勝ちである。そう易々と好きにさせるつもりはない。悉く不安の芽を潰す為にも、諜報活動を徹底するよう、私は彼へ命令を下したのだ。

彼は自らに課せられた仕事をこなす為、私の執務室を出ていく。久々に訪れた、1人だけの時間。私は小さく息を吐きながら、遠くを見つめるような眼差しで煌びやかな天井を見上げた。

 

「……お前だけの好きにはさせんさ。」

 

私の呟きは、宇宙の遥か彼方に向けられていた。

 

 

 

 

サイド5に属する、コロニー”アーダン”。都市部や商業区、住宅街が立ち並ぶ比較的新しいコロニーだが、連邦軍がコロニー発展への資金、資材援助を条件に、連邦宇宙軍の基地や研究施設機能が備わっている場所でもある。ロンド・ベルも何度かこのコロニーを利用しており、主には補給と整備の為に寄港するのが殆どだ。

ラー・ネイジュは現在、コロニーのドッキングベイに停泊し、乗組員が続々と艦から降りている状況で、補給作業と整備には日数が掛かる為、僅かな休息が許されていたのだ。それはブリッジクルーも同様であり、艦長が許可を出してくれたので、通信オペレーターのエヴァ・ヒギンズ少尉もその内の1人である。

 

「……あっ、少尉、シーナ少尉!」

 

そんな彼女が真っ先に駆けた先には、この艦では最年少パイロットであり、自分と歳の近いシーナ・ランチェスターの姿があった。どうやら彼女も、一時の休息を許可されたクルーの1人らしい。

艦から降りてコロニー内部へ続くエレベーター前で声を掛け、漸くその背に追いつく。

 

「…あー…えっと…、確か貴女は……」

 

小走りに駆け寄ったので若干息が上がりつつも、声を掛けられた彼女は此方へと振り返り、小首を傾げながら見つめてくる。誰だ?という反応だが、それもそうだろう。こうして面と向かって話すのは初めてなので、彼女が私の事を知らないのも無理はない。

私は息遣いを整えながら、ブロンドのボブヘアーを手櫛で整えていき、黄金色の瞳で真っ直ぐに見つめ返して自己紹介をしていく。

 

「通信オペレーターの、エヴァ・ヒギンズ少尉です。あの…シーナ少尉もこれから街に?」

 

私が名乗り、目的を問いかけていくと、彼女はようやく柔らかい表情を浮かべながら言葉を返してくれた。

 

「うん、そのつもり。モビルスーツ隊のシーナ・ランチェスター少尉です、よろしくね。」

 

サッパリとした笑みと、僅かに覗く白い歯、それに綺麗な栗色の髪がよく映えており、美しいというよりも格好いいという印象を受ける。流石はガンダムのパイロットと言った所だろうか。

お互いが自己紹介を終えた所で、ドッキングベイからコロニー内部の市街地へ通じるエレベーターが到着し、扉が開いた。乗り合わせるのは私とシーナ少尉の2人だけだったので、揃ってエレベーター内へと入ると、扉を閉じて地上のボタンを押し、エレベーターが下降し始めていく。地上まではかなりの距離があるので、片道だけで数分は要する為、必然と2人だけの時間が訪れていたのだ。

 

「…シーナ少尉、先日は助けていただき…ありがとうございますっ。ずっとお礼がしたくて…」

 

先に切り出したのは私からだった。彼女へと身体を向けて、頭を下げながらお礼を述べていく。私の言動に、一瞬彼女は複雑な表情を浮かべていたものの、直ぐに目を細めて柔らかい表情に戻っていった。

 

「…ただ必死に戦ってただけだよ、私は。当たり前の事をしただけだから。」

 

「それでも、少尉のおかげで…私達は生きています。ありがとうございます…っ。」

 

エレベーターの壁に背を預けながら立っている彼女は、私の言葉に再び困ったような表情を浮かべるものの、素直に受け止めようと思ったのか僅かに笑みを見せてくれた。

彼女を困らせてしまう理由は、聞かなくても分かっている。先日の戦闘でモビルスーツ隊にも少なからず損害があり、パイロットを何人も失った。宇宙葬にて棺を宇宙へと放出した際の、彼女の悲痛な表情は、遠目から見ていた私にもハッキリと分かったのだから。

 

「それで、あの…少尉、良かったらご飯とか一緒に……、」

 

「シーナ。」

 

「…えっ?」

 

お礼の為に提案をしようとした所で、彼女が遮るように自身の名前を呟いてきた。私はつい、素っ頓狂な声を漏らしながら、目を丸くしてしまう。

 

「畏まった言い方、好きじゃなくて。歳も近そうだし…もっとフランクな感じでいいからさ。だから…シーナって呼んで、エヴァ。」

 

彼女にしてみれば、普通の事を言ったに過ぎないのだろう。だが、私にしてみれば…彼女は眩しい存在とさえ見えてしまうのだ。そんな彼女からのお願いに、私は乙女のように頬を朱に染め、嬉しそうにはにかみながら返事をしていく。

 

「……分かった、シーナっ。これからご飯一緒にどう?」

 

「いいよ、エヴァ。私で良ければ。」

 

私達は笑みを浮かべながら、軍人ではなく人間としての時間を堪能していた。悲しい事もあったが、こうして嬉しい事も訪れるのが、人生というものだろう。

エレベーターが地上に到着し、その扉が開かれていくと、私はシーナという友と一緒にアーダンの街へと繰り出していった。

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