機動戦士ガンダムL(ルミナス)   作:C4-1341

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『ピースミーティア攻防戦』(2)

『これより、地球の大気圏を離脱する為に最終加速をかけます。シートベルトは外さないよう、しっかりお締め下さい。』

 

ダカールにある民間シャトル打ち上げ場から、1機のシャトルがマスドライバーで射出された。民間機とはカラーリングが異なる、地球連邦政府専用機だ。第1加速はシャトルに外付けされている大型ブースターでシャトルを空に上げ、成層圏付近まで上昇した所で、最終加速をかける為に4基あるサブブースターが点火され、機長による船内アナウンスから程なくして重量のあるシャトルは地球の大気圏を離脱した。

シャトルに外付けされているブースターユニットがパージされ、宇宙デブリとして宇宙の海へと漂っていき、その直後にシャトル本体のブースターが点火され、巡航速度で航行を開始していく。同時に、ここでようやくシートベルト着用サインが消え、乗り合わせた政府要人達やSPらがシートベルトを外し、各々寛ぎ始めた。

この政府専用機の目指す先は、サイド7に属するコロニー”ロウグ”。イサベルのネオ・ジオン勢力要人との会談場として指定され、地球の主権や利権をイサベルに譲り渡すという、謂わば奴隷服従の条約を結ばされる為に向かっている。

 

「…副首相、将軍から3度目のメールが届いておりますが。」

 

今回条約締結の代表団を率いる、団長のミコラ・イェルネハルト副首相は、側近の官僚から連邦軍の総司令であるサイモン将軍よりメールが届いていると聞き、小さく溜め息を吐いた。

 

「はぁ……、またかね。大人しくしていてもらいたいものだが…。」

 

内容は見なくても分かる、とでも言いたげな表情を浮かべながら、官僚から差し出された端末を手に取り、メールの中身を確認していく。

 

【現在、廃棄資源衛星の破壊作戦を展開中です。条約の調印の再考を、再度御願い申し上げます。】

 

「作戦と言えるだけの戦力など、今の連邦には動員出来ないだろうに…。これで彼らを刺激してみろ、衛星が落とされて地球は破壊されてしまう。」

 

将軍からのメールを読み終えた副首相は、端末画面を閉じて官僚へと返していき、不満を口にしていた。副首相だけではない、この場に居る代表団全員が同じ気持ちなのだ。もう一度人類を滅ぼす全面戦争や、地球を滅ぼす悪魔のような隕石落としなど、二度とあってはならないのだから。それに比べれば、地球の100億の人間を生かし続けられる選択肢を選ぶ事によって、政府の要人達の地位や名誉を失う事など、些細な問題に過ぎない。

そう思わない一部の利権にしがみつく閣僚達や、あくまでもネオ・ジオンに敵対する将軍一派等、中々一枚岩になり切れない現状にもどかしさを感じつつ、副首相は窓の外に視線を向ける。

 

「……仮に衛星を破壊出来た所で、それで終われば苦労はない。奴らの切り札が衛星だけとは、私には思えんがね…。」

 

副首相のぼやきを、隣の席に座る官僚は黙って聞いていた。口を挟む権限も無ければ、そこまで深く洞察する理由も無かったからである。だが、時間の針はそれぞれの事情や思惑など配慮する事もなく、無情にも進み続けていく。

ふと、副首相の目が遠くを一点に見つめる。その視線の先には、宇宙に浮かぶ星々の光ではない、人工的な光が水泡のように点いては消えるを繰り返していた。それは、爆発の閃光。

 

(……始まったか。)

 

副首相の視線に気付いた周囲の要人達が、次々に窓の外へと視線を向けていき、機内の空気がざわつき始める。何故戦闘が行われているのか、誰も理解出来ていない。それもその筈で、将軍からのメールは副首相とその官僚しか知らず、まさか軍の一部が衛星を破壊しようと行動を起こしているなど想像も出来ないからだ。

だが、このシャトルの進行方向は戦闘宙域からは大分離れている。まず戦闘に巻き込まれる心配は無いが、それでも代表団は爆発の光から目が離せないでいた。

 

(無駄な犠牲を増やさない為にも、条約の調印を急がねばな……。)

 

副首相の胸の内には、連邦とジオン双方の将兵達の命を救いたいという思いが広がっていた…。

 

 

 

 

時間は少し遡り、政府専用機のシャトルが宇宙に向けて打ち上げられた頃。ピースミーティア周辺に敷かれたネオ・ジオン軍の警戒宙域に差し掛かる場所に、ラー・ネイジュを旗艦とするロンド・ベル艦隊は接近していた。

 

「艦長、ロビンソンより入電。”今宵の月は満月”…です。」

 

ラー・ネイジュのブリッジクルーである、エヴァ・ヒギンズ少尉が、アンダーソン艦長に向けて暗号通信の内容を告げた。ロビンソンとは、今回随伴艦として行動を共にするクラップ級巡洋艦の内の1隻を指すコードネームであり、”今宵の月は満月”という暗号文は、ロビンソンが運んできた連邦宇宙軍特殊作戦群『エコーズ』部隊の、作戦準備が完了した事を示すものだった。

この報告を聞き、アンダーソン艦長は艦長席に備え付けてある通信用の受話器を手に取り、ラー・ネイジュ艦内だけではなく、クラップ級2隻の艦内にも同時にアナウンス出来るように通信のスイッチを入れた。

 

 

「…ラー・ネイジュより達する。これよりフェイズ1に移行、作戦行動を開始する。我々の行動によって、地球の未来が決まると言っても過言ではない。全クルーの奮起に期待する。」

 

 

作戦行動開始。この合図により、ラー・ネイジュとクラップ級2隻の艦内は一気に慌しくなった。

フェイズ1では、3隻の艦砲射撃による敵艦隊への牽制と撹乱攻撃を敢行し、ミノフスキー粒子を戦闘濃度まで緊急散布する事が必須となる。先制攻撃で敵部隊の動揺を誘い、体勢が整う前にモビルスーツ部隊を全機発艦させる狙いがあるのだ。加えて、エコーズ部隊がピースミーティアへと取り付き、衛星内に侵入出来るように、目眩しも兼ねた派手な牽制攻撃を仕掛ける必要がある。

 

「対艦、対空、対モビルスーツ戦闘準備良し!」

「ロビンソン、ネルソン、共に準備完了です!」

「主砲、対艦ミサイル、照準合わせ。目標、敵艦隊中央!」

 

砲術長のアレン少佐、通信オペレーターのエヴァ少尉、副長のエリス中佐がそれぞれ声を張り上げ、全艦射撃準備が整った事を確認し、最後に航海長のサンドラ少佐が艦長に向けて報告を飛ばす。

 

「敵警戒宙域、突入しました!」

 

これで全ての準備が整い、アンダーソン艦長が声を上げた。

 

「機関停止、慣性航行。主砲、対艦ミサイル、撃ち方始めッ。」

 

命令が下ると同時に、3隻の艦から一斉に主砲のビーム攻撃と対艦ミサイル攻撃が敢行された。目標は彼方に展開されている、ネオ・ジオン艦隊中央。マゼンタ色のビームの軌跡が無数に放たれ、エンドラ級やムサカ級に襲い掛かっていく。そして、時間差で対艦ミサイルが敵艦隊に降り掛かっていき、向こうは対空機銃で迎撃しているものの、何発かは命中した様子で迎撃の弾幕が緩んだのが分かった。

 

「ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布ッ。モビルスーツ隊、発進急げ!」

 

数十秒間に及ぶ艦砲射撃が一旦止み、エリス中佐から艦内部署へと命令の通信が飛んでいく。先制攻撃の役割を果たし、後はモビルスーツ部隊を滞りなく発艦させる事に注力しなければならない。ミノフスキー粒子の散布により遠距離誘導攻撃のリスクは低下したものの、ネオ・ジオン艦隊もモビルスーツ戦に移行する為に、艦載モビルスーツ部隊の発艦を急ぐだろう。ここからは、正に時間との勝負となる。

 

 

時を同じくして、場所はラー・ネイジュのモビルスーツデッキ。エリス中佐の命令はデッキ内に響き渡り、既にコックピット内で待機していたパイロット達は、一斉にメインジェネレーターのスイッチを押して機に火を入れた。ルミナスガンダムに搭乗するシーナ・ランチェスターも、その内の1人である。

 

『第1、第2デッキ、ハッチオープン。モビルスーツ隊、順次発進せよ!』

 

次いで、通信オペレーターであるエヴァ少尉のアナウンスがデッキ内に響き、カタパルトデッキのハッチが開放され、射出準備が整った事を全パイロットに告げてきた。一方で私は、モビルスーツ部隊による作戦内容を頭の中で思い返していた。

 

(……絶対に失敗は出来ない。やるよ、ルミナス。)

 

今作戦の要は、正にガンダムに委ねられている面が大きい。新たに装備されたH.W.S.(ヘビー・ウエポン・システム)による、高機動且つ高火力を最大限発揮しなければならないからだ。

私が担う役割は、敵艦隊への強襲と可能な限りの撃滅、そして敵エース機の排除にある。他の敵モビルスーツ部隊はジェガン部隊とリゼル部隊が引き付ける事になっており、彼らが押し切られる前に敵艦隊の数を減らし、エコーズの作戦遂行と退路確保を援護しなければならない。

あの黒いモビルスーツ……、情報によるとキュベレイタイプの機体という事を知り、操縦桿を握る私の手には、無意識に力が入ってしまっていた。一筋縄では行かないことは分かっているものの、負ける訳にはいかない。必ず仕留め、地球に落とされる前に衛星を破壊しなければと、決意を新たに固めて小さく息を吐く。

 

『よう、新入り。お前は後ろを振り返らずに、思いっきり暴れて来い。ケツは俺らが支えてやるからよっ。』

 

ふと、私の思考を遮るように、ヘルメット内のスピーカーから男性の声が響く。この軽い口調は、元ラプター8のローマン中尉。現在はジェラルド隊長の後任として、ラプター1の地位に昇格し、モビルスーツ部隊の隊長を務めているのだ。

彼の言葉は、ピリついたこの空気の中ではふざけているようにも受け取れてしまうが、私としては程よく肩の力が抜けて寧ろ有難い。フッ、と笑みを溢すと、メカニックマンの誘導に従ってカタパルトデッキへ機体を移動させていきながら、新隊長へ言葉を返していく。

 

「頼みましたよ、ローマン隊長。」

 

私の言葉と同時に、今度は別の人物の通信が割り込んできた。コンソール画面に映像も映し出され、そこには見慣れた女性兵士の顔が現れる。

 

『シーナ少尉、進路クリアです。ご武運を…!』

 

通信オペレーターのエヴァ・ヒギンズ少尉だった。その表情は緊張感を持ちつつ、私の身を案じるような眼差しを向けてきている。作戦内容を知っているだけに、気が気でないのだろう。

私は彼女を安心させるように、ヘルメットの内で僅かに微笑を浮かべる。

 

「…必ず帰って来るよ、エヴァ。」

 

ガンダムの両足がカタパルトに接続され、ハッチの向こう側には宇宙の海が広がっている。射出されれば、暫く私は単独行動だ。操縦桿を引き、ガンダムを屈ませて射出体勢を整え、射出タイミングがこちらに譲渡された事がコンソール画面に表示されると、私は一気に操縦桿を目一杯押し込んだ。

 

 

「シーナ・ランチェスター、ルミナスガンダム…行きますッ!」

 

 

凄まじい加速Gを身体に感じながら、勢いよくガンダムがカタパルトで射出され、打ち出された瞬間に操縦桿のボタンを押してプロペラントタンクのスラスターを起動させ、足元のペダルを踏み込んでスラスターを全開にしながら宇宙の海へと飛翔していく。H.W.S.によって機体重量は大幅に増加したものの、宇宙空間において重量増のデメリットは大きな問題にはならず、ガンダムは追加スラスターとハイ・メガ・シールドのブースターによって圧倒的な推力と機動力を得たのだった。

 

「ぐっ……ぅ……ッ……!」

 

通常のルミナス以上の、暴力的な加速力。いくら耐G負荷軽減装置が内蔵されている専用パイロットスーツとは言え、それでも内臓を圧迫される程のGが身体にかけられ、つい歯を食いしばりながら声を漏らしてしまう。数日前のテスト飛行以上にペダルを踏み込んでいるのは、一刻も早く敵艦隊の直上に向かう為である。

私の軌道は、かなりの大回りとなるルートだ。敵に察知される事なく、敵艦隊の直上を取る為には、このルートが最も確実なものだ。その間、味方部隊は敵部隊の波状攻撃に晒される事になる。

 

(このくらいの…Gなんて…ッ。)

 

私はガンダムに鞭を打ち、更に上昇していく。その姿はまるで流星の如く、宇宙の空に消えていった。

 

 

 

 

「艦隊、迎撃!モビルスーツ隊の発進を急がせろ!」

 

ロンド・ベル艦隊から先制攻撃を受けたネオ・ジオン艦隊は、対艦ミサイル群を機銃の弾幕で迎撃しつつ、艦のメガ粒子砲で反撃の艦砲射撃を行っていた。だが、距離が相当離れている事と同時に、ミノフスキー粒子を戦闘宙域に散布された事で、精密射撃というものは至難の業と化しており、艦砲射撃は命中する素振りすらない。

だが、これで良いのだ。あくまでも牽制射撃であり、自軍のモビルスーツ部隊を発艦させる為の時間稼ぎなのだから。現在の戦闘において主役は艦隊戦ではなく、艦載モビルスーツを如何に有利な状況で運用出来るかという部分が大きいので、今は一刻も早くモビルスーツ部隊を展開する事が重要となる。旗艦アグライアの艦長は、各部署へと通信を介して命令を飛ばしていき、迫り来るロンド・ベルのモビルスーツ部隊を迎え撃つ態勢を整えようとしていた。

 

「閣下、すぐに敵が来ます。急ぎ発艦を…!」

 

『慌てずとも良い、露払いはリベリオ隊に任せておけ。』

 

艦長の言葉に、ヤークト・キュベレイのコックピットにて待機しているカトレア・ペンタスは、通信を介して返事をして来た。艦長は直ぐに「畏まりました…閣下。」と言葉を呟くと、意識を直ぐ前方に向けていく。

リベリオ・ビアンキ率いるモビルスーツ部隊は、アグライアから見て左翼に位置しているムサカが母艦となっている。こちらが指示を飛ばす前に、どうやら彼らのモビルスーツ隊は素早く発艦中らしく、複数の移動熱源がロンド・ベル艦隊の方向へと向かって行っているのを捉えていた。どの艦の艦載機よりも早く発進を終えている時点で、如何に戦争に慣れ親しんでいるのかがよく分かる。

 

「…遅れを取るなよ、発進遅いぞ!」

 

リベリオ・ビアンキの黒い噂は、イサベルに居る者なら誰もが知っている。彼だけに手柄を取られてしまえば、他の将校達の評価にも影響してしまう。何よりも、イサベルを導くカトレア・ペンタスの求心力を落としかねない。

艦長の言葉が示すように、アグライアのモビルスーツ部隊の発艦は、リベリオ隊に比べてゆったりとしたものに映るのも無理はない。彼らが異常に早いのである。”穢れた戦争屋部隊”と揶揄されるリベリオ隊の独壇場にされてしまっては、イサベルの正規軍の面子が保てない。

 

(閣下…どうかご無事で。)

 

アグライアのカタパルトデッキから次々とモビルスーツ部隊が発艦していき、その中にはカトレア・ペンタスの駆る漆黒のキュベレイも含まれていた。彼女の機体が発艦していく様子を戦闘ブリッジから見守る艦長は、ただ祈るように胸の内で言葉を漏らすのだった。

 

 

そんな艦長の想いは、カトレア・ペンタスに密かに届いていた。彼女の駆るヤークト・キュベレイに搭載されているサイコフレームを介し、彼女自身のニュータイプとしての力を以て。

 

「……ふふ、勿論面子は保つとも。リベリオの好きにはさせんよ。」

 

ミノフスキー粒子が濃くなった戦闘宙域において、遠距離通信は最早使い物にならない。コックピット内で呟いた言葉は誰の耳にも届かず、ただヘルメットの中で反響していた。

さて、ロンド・ベル艦隊から発艦した移動熱源は、隊列を組みながら此方へ向けて直進して来る。その数は30を超えるものであり、直掩機を除けば全モビルスーツ隊が押し寄せて来ているのだと見て取れる。だが、此方はその倍のモビルスーツを揃えており、余程の事が無ければ総崩れになる心配はないだろう。リベリオ・ビアンキに加えて、私も居るのだから。

雑魚共の相手を私がする必要は無いが、押し寄せて来るモビルスーツ部隊に意識を凝らしてみる。まだ会敵まで僅かに時間はあるものの、薄らとニュータイプの感応波を捉えられる距離ではある為、いち早くガンダムを捉えようと思っての事だった。

 

(……奴が居ない…?)

 

先行するリベリオ隊とロンド・ベルのモビルスーツ隊が、離れた場所で戦闘を開始した模様だ。ビームの閃光が入り交じり、小規模な爆発があちこちで発生し始める。

だが、私は奴の感応波を捉えられないでいた。キュベレイの姿勢制御スラスターを噴射し、今一度意識を凝らしてサイコミュを目一杯働かせてみる。

 

(………、何処に居るのだ…ガンダム。)

 

──やはり、感応波が感じられない。戦闘が始まった事により、敵味方が入り混じりながら様々な意識が飛び交い、キュベレイのサイコミュが捉えて私の意識に混入して来る。だが、あの特有のプレッシャーが何処にも感じられないのだ。

奴が現れない筈はない。この戦場に必ず居る筈だ。直掩部隊に控えている可能性もあるものの、向こうは出し惜しみをしていられる状況には無い筈なのだから、艦隊の護衛につけていると言うのは甚だ疑問符が浮かぶ。

私は様々な思考を巡らせながら、あらゆる可能性を脳裏に過らせていく。

 

「……まさか、ピースミーティアを直接…。」

 

……有り得ない話ではない。だが、本来ガンダムの火力で出来る筈はない。

私の脳裏を過ったのは、ガンダム単体によるピースミーティアの破壊だ。武装を極限まで強化し、破壊工作の為の機材を携えて、単機で衛星内に潜り込んで破壊する…という事は考えられるが、果たして連中はそこまでの博打を打つだろうか。

 

「…待っていろ、ガンダム。私が殺してやる。」

 

いや、この状況だからこそ博打を打つに相応しい。私の直感がそう囁いており、直ぐに操縦桿を引いて機体の姿勢を変えていき、スラスターを全開にしてピースミーティア方向へと駆けていく。

漆黒のキュベレイは、その姿を宇宙の暗闇に紛れさせながら、ただガンダムのみを目指して更に加速していった。

 

 

 

 

旗艦ラー・ネイジュのモビルスーツ隊を指揮するローマン中尉は、今回の作戦において全モビルスーツ部隊を指揮する大隊長の役割も兼任しており、2隻のクラップ級のジェガン部隊にも指示を飛ばしていた。

 

「敵が出てきたぞ、各機散開!」

 

彼の駆るプロトタイプ・リゼルの頭部には、1本のブレードアンテナが装備されており、これが隊長機としての証となっている。その他に武装面でも違いがあり、他のリゼルは中・遠距離用の試作メガ・ビーム・ランチャーを装備しているが、隊長機は取り回しがし易いZガンダム系統の試作ビーム・ライフルを装備している。

そんな彼のリゼル目掛けて、敵のモビルスーツ隊の1機が接近して来た。

 

「ギラ・ドーガか…っ、そこだ!」

 

通常のカラーリングとは異なり、赤と黒に塗装されたギラ・ドーガ。塗装だけではなく、その機動力も通常のものとは違い、初撃のビーム・ライフルによる攻撃は躱されてしまった。

だが、これは想定内。イサベルのネオ・ジオンの実力を甘く見ている者はロンド・ベルには居らず、ジェラルド隊長がやられた時点で相当の手練揃いなのは嫌でも分かる。スラスターを噴射して敵との距離を保ちつつ、次は腕部に内蔵されたグレネードランチャーを発射し、ギラ・ドーガの軌道を塞ぐ形で攻撃を仕掛ける。対するギラ・ドーガはグレネード弾をビーム・マシンガンで迎撃して撃ち落としていたものの、その間隙だらけとなっていた。すかさずスラスターを全開にして距離を詰め、ビームサーベルを引き抜いて斬り掛かる。

 

「そらッ、脇腹がガラ空きだ!」

 

敵が気付く頃には既に防御出来る距離ではなく、ビームサーベルの刃がギラ・ドーガの胴体に突き刺さり、そのまま横に薙いで胴体を真っ二つに両断した。僅かに無線に敵パイロットの断末魔の叫びが混じるものの、直ぐにそれはノイズに掻き消され、程なくして目の前で爆散していった。

ギラ・ドーガの残骸が機体に打ち付けられ、爆風で機体が押されながらも、姿勢制御スラスターを噴射して周囲をスキャンしていく。他の敵味方機は乱戦の様相を呈しており、一進一退の攻防と言う表現が適切だろうか。

味方機の援護に回ろうと機体の向きを変えた瞬間、高熱源体が接近している事をセンサーが捉え、アラート音がコックピット内に響き渡った。方角は11時方向、それもかなりのスピードである。

 

「くっ………!」

 

──熱源の正体はビーム砲だった。直ぐに回避運動を行って直撃を避けるものの、あとコンマ数秒遅ければコックピットに直撃していた射角だ。これだけ正確な射撃を行える時点で、並のパイロットでない事は直ぐに分かる。視線をビーム砲が飛んできた方向へと向けてみると、異形のモビルスーツがそこには居た。

ギラ・ドーガをベースにした機体である事は分かるものの、両腕に大口径のビームランチャーが装着されており、背部バックパックに何か巨大なものを背負っている。それが何なのか分からないものの、言い知れぬ圧迫感のようなものを感じていた。全身のカラーリングが赤と黒に塗装されているのは、先程までのギラ・ドーガと共通しているので、この機体が隊長機ではないかと見据えていく。

 

『あらぁ?アタシの攻撃を避けれるなんて…いい腕してるじゃない♡』

 

ミノフスキー粒子が薄くなっている領域に位置していたからなのか、敵のものと思われる無線がヘルメットのスピーカーに響いてきた。ねっとりとした、気色の悪い男の声。一言で言うなら、オカマという奴だろうか。

怪訝な表情を浮かべながら、ローマン隊長は無言で異形のギラ・ドーガを睨みつけ、いつでも撃てるようにビーム・ライフルの銃口を向けていく。

 

『アタシの可愛い部下達を殺した報い、アンタの命で償って貰うわよぉ…♡ アタシのギラ・ドーガカスタムで…嬲り殺してあげるわ!』

 

「くそ……、来やがれ…!」

 

異形のギラ・ドーガが両手にビーム・サーベルを展開し、スラスターを全開にして此方へと突っ込んで来る。その動きを迎え撃つように、ローマン隊長はトリガーを引いたのだった…。

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