転生TSアリスの魔法譚 作:不審者γ
もしかしたらまた書き直すかもしれないですね。
「……?」
ふっ、と目が開いた。目に入ってきたのは白い天井…病院?いや違う、保健室だここ。若干生徒の声が聞こえてきてる。
独特の消毒液の匂いを感じながら、ゆっくり起き上がる…と、クラ、と視界が揺れた。
うぅ、ちょっと気持ちが悪い…なんか酔ってるみたいだ。
えっと…それより何で保健室にいるんだろ、確かどうしたら良いかわかんなくなって山に入って、それで…ああ、目の前が真っ暗になってなんか変な感じになったんだっけ。
んー…そっから記憶がないとなると、先生の誰かが探してくれた感じになる…のかな?そうなら大目玉喰らうね。やばーい…
と、体の右手側に感じた何かの存在感と、視界に入った緑の髪。
「…バート?」
バートが寝てた。
椅子に座った状態でベッドの縁に伏せてた。
「目が覚めたかな?アリスさん」
!
声の方を向くと、ライ先生が入ってきていた。
おっとぉ…これお説教コースですか?
「体の方は大丈夫かい?」
「まあ…はい?」
まあ少なくとも今は違和感はない。
多少残ってた目眩もすぐに消えたし、今は大丈夫だ。…頭の中を覆っていた靄も、多少なりとも晴れてる気がする。
「とりあえず、事情はバートさんから聞いたよ。君達に色々言った子達にはしっかり言い聞かせておいたから、また似たようなことがあったら僕に言うといい」
「…あ、はい」
そういえばそんな事もあったっけか。
状況が濃すぎて全然認識の範囲外だった。
「それで、まあ色々と大変だったねってところから…といきたいんだけど、それよりまずちょっと検査があるからじっとしててね。…バートさんは…」
「寝ちゃってますね」
時計を見ると既に5時過ぎ。
もしかすると放課後の間ずっといてくれたのかもしれない。
「…彼女も心配してたんだよ、もうそれはそれは。今日の午前中にも、僕にアリスさんの状況を聞きに来たときなんてもう鬼気迫るような表情で、ちょっとびっくりしちゃったよ」
あはは、と笑う先生。
…そっか、心配させちゃってたわけか。じゃああの「全然大丈夫じゃない」っていうのは…ボクの身を案じて、って事だったのかな。…しくってたな…言うことやること全部裏目に出てるじゃん。
「…ああ、一応伝えておくね、バートさんの魔法行使については基本不問、別にそこまで咎めることはしないことになった。まあ悪いのはあんな差別的な事を言ったあの子達だし、特に誰かが怪我をしたわけでも無かったからね。それと…アリスさんの魔法行使についても当然同等の処置だね」
「………ん?」
魔法…行使…?
ボクが?
え?いやどこで?
あれ?使ったっけ魔法…え、どこで?
教室…では使ってないし、移動中…も使うことはなかった。身体強化魔法使うほど切羽詰まってたわけでもないし。山の中…はもうほとんど気絶してたから使ったわけない。
…あれ?
「…おや?どうしたのかな?」
「…魔法行使って…私がですか?」
「………」
と、その瞬間ライ先生からの視線が鋭くなる。
一瞬息が詰まった。
「覚えてないのかい?」
「…はい。どのタイミングでも使った記憶は…」
「…おかしいな、山の中で君が魔法を使うのを見てたんだよ。あの声はアリスさんの物だったし、君の隣にバートさんもいた。校長もいたし魔法の痕跡も毒魔法のものだった…ランク9相当の」
!!と目を開かざるを得なくなった。
現時点で、ランク9相当の魔法を使える人はほぼいない。まず存在自体が夢幻と言われたほうがしっくり来るレベルの存在だ。
感覚的につかもうとするなら、それこそ普通の地球で魔法を使ってる、位の物。
ライ先生がどうやってそれを鑑定されたのかは知らないけど、こんな所で変な嘘をつく必要はないだろうし多分本当。しかも毒魔法は前例のない魔法だからそもそもボクしかいないはず。
…じゃあ本当に…?しかも山の中ってことはボクは気絶してたはず。
無意識的に…いや、現実味が薄いな。
可能性があるとするなら…あの
ちょっとファンタジックすぎる気もするけれど、もしあの声がボクの二重人格的な存在だとすれば、表の人格のボクが沈んだから、裏の人格のあの声の持ち主が表に出てきた…とか?
…ありえない話じゃないし、一応辻褄は合うけど突拍子がなさすぎる気もする。
「…もしかしたら精神干渉が何らかのバグを起こしたのかもね」
「精神干渉…?」
ふと先生が溢した。
詳しく聞いてみると、ボクを襲ったあの黒いものはランク5のシャドウっていう霧が本体の魔物らしくて、精神干渉系の魔法を使って人を操って同士討ちとか、洗脳して手駒にしたりとかそういうのをする魔物らしい。
…それが変に干渉したせいでバグみたいなのを起こした可能性があるってことかな…
でも、少なくともそんなに悪影響は出てない気がする。
何ならずっと思考を覆ってた靄みたいなのが晴れてきて、ちょっとスッキリしてるくらいだ。
「…まあそういうのも含めて検査だね。主には精神鑑定的なのが主になると思うけど、そんなに時間はかからないよ」
大体10分くらいかな、とライ先生が言うと、保健室を仕切っていたカーテンがシャッ、と開けられておばあちゃん先生が出てきた。
「や、話は聞いたかいね」
「はい、大体」
「シャドウの精神干渉は割と強いからねぇ。万一後遺症が残ってないかの検査さね。まあそんなに気を張らずに近所のじじばばと駄弁ってる気分で話してくれればいいよ」
き、近所のじじばばって…
思いの外フランクだねこの人。
まあそこから10分くらい色々と質問されたりお話をしたりとしてたけど、特に異常は見つからなかったみたいで、そのまま帰ってもよしという事になった。
バートも起きて、抱きついてきてたよ。ちょっと泣いてた。
ごめんってば。
────
《ライside》
「…ラシル校長、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「何がだ?」
校長室で校長と向き合って問いかける。
心配なのは彼女、アリスさんのこと。
「まだ彼女らは齢10やそこらの子ですよ。あまりに起きた事象が大きすぎるのに、どこか平然としています」
「それがどうした?」
「っ…校長、下手に隠さずに全て言います。彼女、アリス·セナールさんは確かに優秀です。が、同時に他の子よりも下手に達観している分危険でもあります。彼女の目の前で親しい人が、親と兄が殺されたというのに、泣き喚くでもなく呆然とするでもなく反撃を選択しました。あまりにも攻撃性が高すぎます。今回は彼女の姉が到着したからこそ事なきを得ましたが、周囲の証言からはランク10魔法の宣告を行おうとしていたと聞きました。…もしこれが、本人とその情報提供者の双方が冗談を言っているわけでもなく本当だとすれば…」
「ライ」
「っ!」
言葉を遮られて校長の方を見ると、鋭い眼光がこちらを射抜いていた。思わず少し仰け反って言葉が詰まる。
「言いたいことは分かった。それだけお主が彼女を大切に思っとることもな。しかし…お主が思っておる以上に絡まっておることは厄介なんじゃ」
「厄介…ですか?」
厄介?何がだろう。
「まずはこれを見てみると良い」
そう言って、校長は魔法陣を展開する。
…何だこの魔法模様…見たことないな。
「これは彼女の使っていた魔法…フッカ、じゃったか?その魔法模様を儂の日魔法に当てはめた再現じゃ。が、この魔法陣にどれだけ魔力を込めようと、びくともせん」
「…?ランクが高いだけでは?校長は8ですが、彼女は9ですよ。あと宣告が無いのではどうしようも」
「そこじゃ」
と、校長が魔法陣を霧散させて僕に指を指して言う。
…何か変なこと言った?
「この魔法のランクは7。そして新たな魔法模様が発見された場合、我々にも通達が行くじゃろ。無論魔法研究の専門家等にもな。全ての魔法模様は魔法の特性やら性質やらが絡み合って記号を形成しておるわけじゃから、解読のできぬ魔法模様はあり得ぬ。が、この魔法模様は解析不能、よって宣告も不能、文字通り彼女のみ扱える魔法になっておるわけじゃ」
…マジか?
おっと素がでた。
いやそもそも魔法模様と属性を組み合わせればどんな魔法でも使えるはずで、でも使えない状況が今ここにあって…いや駄目だ頭がこんがらがってくる。
「…恐らく、儂らには見えておらん、見つけられておらん何かに彼女は気づいておる。…前例のない毒魔法使いであると同時にランク9の魔法使い…なにか裏がある気がしてならん。動くのであれば慎重に、な。じゃが、儂としてはそこまで下手に動く必要もないと思ってはおるが」
「…なぜか聞いても?」
と、と校長は小さく笑いながら答えた。
「彼女の母親…シャルとは少し縁があってな…というかこの学校の卒業生で、儂が担任を持っておったから面識があってな、儂にランク偽証の交渉を直談判しにきたんじゃよ」
…え゙っ。
何という事でもなしに言うけど校長に会いに、しかも直談判しに行くって…相当な行動力だな…
「まあそんな簡単に通すわけにも行かなかったが…一度断れば部屋の蛍光灯を片端から全て魔力で叩き割られたからの、通すよりなかったという話なんじゃが、」
何やってんだろう。
校長に対して直談判しに行くとかの時点でちょっと恐怖を感じたのにむしろ面白くなってきた。
それほど気のおけない仲って事かな…いや何で?
そこはともかく話に耳を傾ける。
「あの子…シャルの目は本気じゃった。同時に、アリス·セナールは人として強大な力を持っているが人に対して基本的に無害であること、むしろ優しい子であることを持って全力で説得にかかってきおったんじゃ。…儂の固有魔法にかかって尚、な」
…マジですか…
校長の固有魔法は『絶対恐怖』。
対象一人に対して強制的な精神的不安を体現させる魔法だ。
一回使われたことあるけど…あれは二度と感じたくない。周囲から常に疑念の目を向けられてるような感覚に陥った。…あれに耐えたって?本当に…?
「シャルいわく、あの子は強いが、それは魔法の面だけではなく人としての強さもある、と。彼女の危険性に対しては、確かに不安要素も残るじゃろうが、大丈夫じゃろうそして何より、これまでの彼女の素行を見てきておるじゃろ?」
「…そうですね」
これまでのアリスさんの行動は、一言で言えば優秀だった。
あまり沢山の人と話し合うこととかはしなかったけれど、ちょっと正義感が強くて、でも優しくて、勉強を教える姿とかもチラホラと見られた。
それが証拠、ってことですか。
「話は終わりじゃな」
ふっ、と気付かないうちに張り詰めていた空気が途切れた。
…無意識的に息を止めてたな…
それから退出の意を伝えて、校長室を出た。
…アリス·セナールさん、か…
いよいよ全く、不思議な子だ。