転生TSアリスの魔法譚 作:不審者γ
あの事件から一ヶ月弱位経った。
もうだいぶ落ち着いて、学校にももう登校してる。まあちょっと周りから視線が痛かったりもするけど…その度にバートが庇ってくれたり、ちょっと遠くではシュウ君が制止してくれてたりでまあ何とか落ち着いてきた。
まあ…僕個人としてもあの一件について非がなかったと思ってるわけじゃないし、別に気にしなきゃ良いと思ってたんだけど、特にバートからすると「私がむかつくの!」ということらしい。いい友達持ったね…
そんなことを考えながら今何をやってるかというと、まあ魔法の練習で。
結局あの二重人格(?)の引き出しは何回やってもうまく出来なかったからまあ魔法の練度を上げることに徹してる。
毒魔法も2〜9ランクまでは作れて、それをうまく使いこなせるようにひたすら特訓。ランクが高けりゃ良いってものでもないからね。
とかそんな事をしてると…何やら院内が一気に騒がしくなった。
うーん、またなんか厄介なことに巻き込まれそうな予感。巻き込まれ過ぎじゃない?
「こんにちは」
「…?こんにちは」
さて。
予感的中…と言うにはちょっと早いけど、見たことこそないけどこの立派な軽鎧装を纏った20台前半くらいの男性。
うん、ヤな予感。
「アリス・セナールさんだね?」
「…はい。何でしょうか」
「……」
要件を伝えず、彼は黒髪の隙間から覗く青い目でじっと見つめてきた。
…な、何ですか?
「…ランク9…信じられないけれど、本当らしいね。それに…良くも悪くも子供らしくないってところか」
それわかるんです?計測所でやった水晶の意味よ…
いやまあ多分そんなきっちりわかるようなものでもないんだろうけどさ?
と、男性はおっといけない、と声を上げてポケットから名刺らしいものを差し出してきた。
「名前を言ってなかったね、僕はクロド・フェルっていうんだ。まあまあ、そこまで緊張することはないんだけど…今日はね、君のスカウトに来たんだ」
名刺らしきものには明朝体とイタリック体の半ばみたいなフォントでクロド・フェルと書かれてて、左上にフェンリオ魔法騎士団、と書かれてる。
…聞いたこと無いんだけど…いやまあ魔法騎士団自体ほとんど知らないんだけど。シュウ君のお父さんが魔法騎士団団長って言ってたっけ。
まあでもその魔法騎士団自体が何なのか位は知ってる。街の治安維持から魔物退治、隣国との戦争とかにも駆り出される警察の上位互換みたいなので、かなりの数存在してる。子どもたちにもかなり人気があって、元の世界で言うところのスポーツ選手みたいなタイプのあこがれの職業だ。
…え、なんで?
とりあえずお姉ちゃんと院長さん…ルナさんも招集して四者面談が開催された。
わお、お姉ちゃんめっちゃクロドさん睨んでるぅ…
「…で、詳しく説明していただけますか?」
ルナさんがなだめつつクロドさんに促すと、はい、と話し始めてくれた。
「アリスさんをスカウトしに来たのは他でもない、先日の一件からです」
曰く。
先日の元魔導士による襲撃事件。それに対した応戦能力の高さが一部界隈に広まってたみたいで。
最初の方はウィルヘム魔法学校の方からストップがかかってたみたいなんだけど、問題なく登校、生活ができてることを理由に渋々というように条件付きで接触を許可したらしい。
その力は凄まじく強大で、国のためにも当人のためにもきちんと扱えるようになる方が良いだろう、ということらしい。
……というのが表向きの理由らしくて。
「まあ…まだ子どもの彼女にこんな話をするべきではないのでしょうが…多分上はアリスさんの力を怖がっているのだろうと思います。ランク9なんてまあまず目にかかることすらない人ですから。しかもそこに重ねて先日の一件…おそらく彼女に魔法騎士団所属という首輪をつけて、何かしらまずいことになったら力を使えない位置に追いやろうってところじゃないかなと思っています」
魔法騎士団ってのは普通よりかなり高い位になりますし、その分何かしらやらかした時に責任を重くできますから、と付け足すクロドさん。
…うわぁ。
…いや、控えめに言ってうわぁ。
まあ本来の10歳やそこらの子ならほとんど意味わからない話になるんだろうけど、あいにく中身はもう30近いもので。しっかり理解しちゃったよ。
え、これアレよね。何もやらかさなかったらうまいこと国の使い走りになって、何がやらかしたらそういう名目で責任取らせれる立ち位置につけよって事よね?
…いや普通に嫌なんですけど。
そりゃ嫌でしょ!?
「それは…断れるものですか?」
恐る恐る手を上げて聞いてみる…けど反応は芳しくなくて。
「…ちょっと微妙かもね」
わざわざ噛み砕いてクロドさんは説明してくれたけど、ここを断ることは全然問題ないしできるんだけど、ここを蹴ると次から次へと面倒くさい役職の勧誘が流れてくる可能性が高いらしい。というかほぼ絶対。
「まあ…こんな言い方しても信用してもらえるかわかりませんし、実際証明する手立ても信頼していただく言い方もできませんが、下手に他の場所に回されるよりは、自分達の団できちんとした対応を取らせていただいたほうがマシだろうと思っている所存です」
「ですが…!」
ガタ、とお姉ちゃんが椅子を蹴飛ばして眼光でクロドさんを射抜いた。
「あなた方の団の任務は…
そんな場所にアリスを預けられません!と声を荒げる横でえ゙っ、と思考が一瞬固まる。
うっそでしょ魔王の討伐。あー、そっちタイプの騎士団だったかぁ…治安維持とかそういうタイプだと思ってた…
「それは…はい。ですが、確かに魔王討伐とは言われていますが、それもそこまで危険なことになることは極めて少ないんです」
もう幾度となく再誕し、そのたびに討伐されてきた魔王。もう討伐数も三桁が近くなってきたこの頃となっては魔王に対する対処法もだいぶ確立されてきているようで。
今までの派遣数に対して人員が欠けて帰還していたのは最初の数回分程度のみ。初めて魔王が討伐されて、それから数回分こそは死傷者も出ていたが今となっては全員無傷で生還というのも珍しくない状況だと言う。
「まあ…魔物に対しての慢心を防ぐためにこういう情報は基本伏せられてるんですが、僕個人としましてもアリスさんのような幼い子が下手な所に飛ばされ、苦しい目に合うのは耐えられないものがあります。単純で胡散臭く聞こえてしまうかもしれんせんが、どうか彼女のためということを理解していただけないでしょうか…!」
カタ、と椅子を引いてクロドさんは机の前から横に移って、片膝をついて礼をした。
「ッ…!…少し、考えさせてください」
絞り出すような声が、それだけ聞こえた。
その傍らで、ボクはちょっとしたを向いて聞いてみる。
「(…メア、どう思う?)」
『(ぬ、我に聞くか。アリスはどうしたいのだ)』
ボク…ボクか…。
『(…私は、ちょっと行ってみたい気はあるけどお姉ちゃんが心配かな。あとバートとかとも会えなくなっちゃうし)』
『(ならば無茶な要求でもしてみればいいのではないか?その友人も一緒に連れていかせる、その友人も共に庇護対象者に入れさせる、など到底まともでない要求を引き合いに出せば、断られればそれで良し、承諾されればその通りにすれば良いではないか)』
うーん…なるほど…いやなるほど?それ良いの?
いやまあどっちにしろ行くかどうかの意思はバート本人に聞かないといけないけど、こう…うまく表現できないけどなんか…ねぇ?