転生TSアリスの魔法譚 作:不審者γ
「…ってことがあってね…」
「フェンリオ魔法騎士団って…!あの!?」
結局その場での結論は出ずに、クロドさんには一度帰ってもらって考えよう、となったところで、院にバートが来た。
そういえばバートね、お母さんの固有魔法をちょっと受け継いでるのか簡単な感情が読めるようになってるらしいんだよね。
とはいえ厄介な面も受け継いでるみたいでオンオフが出来ないらしく。今のところ喜怒哀楽ぐらいとはいえど、あまりに人の密集したところに行くとたまに頭が痛くなると言ってた。そのうち考えてることが読めるようになったりしないかなーとも。
…大丈夫?それで行くとそのうちボクの中身まで貫通して読まれることにならない?読まれたとするとかなり不味くない?
…閑話休題。
で、色々ワチャワチャとしている院内を見て色々説明、こうなった。
フェンリオ魔法騎士団…有名どころなの…?
「その感じだと…知らないみたいだね。アリスそういうのあんまり知らないよねぇ」
あんまり興味が湧いてなかったからね…と言いつつ聞いてみたところ。
なんとあの国王様の息子さんがリーダーをしている団らしい。ランク8、強力な光魔法を専攻していて、現状魔王討伐を目的としている魔法騎士。
…てことはクロドさん、貴族位…?
いやここには平民と貴族みたいな明確な境界はないし、爵位的な制度はあれどももうほとんど形だけ、そりゃ高い位に付いてる人(伯爵とか)に低いくらいの人(男爵とか)が丁寧なもてなしをするのは礼儀としてあるんだけど、それも政治的な立ち位置でのみ。結婚や恋愛もどの位にいても自由だし、別に学校だって爵位関係なしの統一学校。まあ国王様とかになるとまたちょっと別だけど、そのレベルじゃないとさしてボクたちみたいな普通の人と差はない。
とはいえ。
とはいえよ。
いかん、周りの情報に疎すぎて全く気づかなかった…!そういや国王様のラストネームフェルさんだったね!すっかり忘れてた!
「ってことはアリスも入れるの?いいなぁ」
「あー…いや、まだ検討中、かな」
羨ましそうな顔をしているバートを前に、ちょっと目を泳がせながら答える。
「なんで!?」
「行きたいのは山々ではあるんだけどね…目的が魔王討伐、じゃん。その間バートとかお姉ちゃんとかとも会えないと考えると…ちょっとね。ところどころ心配だし」
「!」
「それでなんだけどね?」
…言おうとしたは良いけどどう言おう。
「バートももしかしたら一緒に来れないかな…って」
「えっ、」
考えはある、バートの能力だ。
現状人の感情、ゆくゆく内面が読めるとなれば何かしら利点になりそうな予感がする。
大体は普通の魔法と同じように発動するタイプな筈だけど、常時発動しっぱなしという特殊な固有魔法を持ってる点で言えば十分何かしらの交渉材料にはなりそう。
「い、良いの!?」
「まあ許可を出すのは先方だけどね」
「せんぽう?」
「あー、まあ相手?クロドさんの方が良いよーって言ってくれたら、だけどってこと」
「行く!行きたい!」
わお食いついた。
急に眼の前に顔が出てきてびっくりしたよ。
緑の大きな目をキラキラさせるバートにとりあえず声を掛ける。
「わ、お父さんとお母さんにも聞いてからね?」
「!分かった!ママとパパに聞いてくる!」
また来るねっ!と言って手を振りながら出ていった。
こら前はちゃんと見なさい、こけるよー。
そんなジェスチャーをしたつもりなんだけど何と勘違いしたのか更にニッコニコで進行方向に背を向けて両手を振り出した。違う、そうじゃなぁい!
■
《アベルside》
…あの子は、本当に。
部屋の外でアリスとバートちゃんが話しているのが聞こえて少し耳を澄ましてみたところ。どうやらアリスが騎士団に入るのを渋っていたのは友達と私の事を思ってのことだったらしい。
…本当に、私はあの子に何をしてあげられるだろう。
歳上なのに、不甲斐ないことこの上ない。
魔法の腕は良いとは言えず、むしろアリスに教えてもらう始末。
お父さんとお母さん、兄さんを亡くした、あの日だってあの子のそばにいる事しかできなかった。
明らかに無事じゃない状況で学校に行かせて、結果あの子は魔物に襲われた。
それでも更に気を使わせて、あの子のしたいこともさせてあげられずにいて。
…本当に、私は何をしてるんだろう。
血がつながってないなんて関係ない、私はあの子の姉だ。妹一人満足に甘えさせてあげられないどころか、むしろ無理をさせるなんて、最悪じゃない。
私はあの子をちゃんと思っていたとしても、それがあの子のためになるどころかむしろ傷つけることになるなんて…あっちゃいけない。
…でも、今回のこの一件はそうもいかない。またここで判断を誤れば、今度はもう取り返しがつかなくなるかもしれない。
いくらあの子が望んでも、私は…
いや、そもそもアリスが力を公にしたくないなんてのは分かってたんだから、友達と喋ってなんていないでそれこそもっと早く帰って騎士団を呼ぶくらいできていたら…
もっと言えば、私に、アリスを安心させてあげられるくらいの力があれば…
「お姉ちゃん?」
「!」
自己嫌悪に陥ってて塞がっていた目の前に、赤茶色の目と透き通る白い髪があった。
「あ、アリス」
「どうか、した?なんか、こう…悩んでる感じだったけど」
…うん、悩んでるよ。
なんて。言えるわけがない。
「ううん、ちょっと考え事してただけ。バートちゃんは帰っちゃった?」
「うん。飛び出てっちゃったね…」
あはは…と苦笑いするその顔はいつもと変わらないアリスで。どうしても胸の奥が少し締め付けられる。
「…アリス、」
「うん?」
…どう言えば良いだろう。どんなに本心を隠した言い方をしても、年相応を遥かに超越した思考を発揮するこの子には見抜かれてしまいそうで。
「もし、ね?…ううん、忘れて。アリスは魔法騎士団について行きたいの?私がどうとか、周りがどうとかじゃなくてアリスがどうしたいか、聞かせて」
…これで、良いんだろうか。
悩んでばっかりの私ができる事は…
「うーん…そうだね、行ってみたいかも。あ、でも」
「なら」
それならその先は、言わせない。
「約束して」
私は、一緒には行けないけれど。
ちゃんと連絡を取ること。
自分が決めたことに後悔しないこと。
そして…
「絶対に、絶ッ対に無事で帰ってくること。良い?」
「!」
驚いたようにアリスは目を大きく開いた。
「返事は?」
「う、うん」
若干動揺しながらも首を縦に振ってくれた。
…うん、これで良い。これで良いはず。
次にあの人が来るのは5日後って言ってたか。それまでに、私も色々準備しておかないと。