転生TSアリスの魔法譚   作:不審者γ

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No.7:ハプニング

体育の時間だよ。

 

まさか一発目から1キロ走れと言われるとは思わなんだ…

いや、1キロって聞くと少なく感じるかもしれないけど、中身と違って体は小一くらいだから一歩は小さいし体力は少ないしで結構大変なんだよ。特にボクはそれが顕著。体力すっごい少ない。

あー、でもそういう言い方すると先生が何かヤクザみたいな感じで竹刀肩にかついでオラオラいってる感じのすごい怖い人想像される可能性あるけど、人としてはすごいいい女性。というかそもそも、これぐらいはできる体力がないと生き残ることにすら支障が出る可能性があるらしいんだよね。まじで言ってらっしゃる?

 

「はぁ…はぁ…はぁ…っ…………終わったぁ!」

で、何とかゴール成功。

まあクラスで中盤位の順位かな。可もなく不可もなく。…なおこっそりと魔力で身体能力を強化してこれ。素でやったら間違いなく最下位必至。ほんとに体力ないよね…あ、バートはもうゴールしてたんだ。もう友達できたのか遊んでるや。元気だなぁ。

 

「はい、お疲れ様」

そう言って回復魔法をかける先生。

体中に魔力がまわって疲れどころか汗も体温も正常くらいに戻る。優しい。というか精度やばっ。

 

そうしてそのまま休憩すること10分……

 

「はい、お疲れ様でした。キツかったかしら?」

最後の子が帰ってきて、回復し終えた所で集合がかかって開口一番これ。

そりゃあキツかったに決まってるよ。

回復してくれるとは言え周りの子ほぼ全員疲労が浮かんでたし。

 

「ふふふ。でもね、体力がないと魔物に襲われたりしたときとか非常事態の時とか、そういう逃げなきゃいけないとき。そんないざってときに力が出せないとどうしようもなくなっちゃうでしょ?だから、大事なことでもあるの。大変なのは分かるけれどちょっと頑張ってね。はい、号令っ」

 

「しせい!れい!」

 

「「「あーりーがーとーうーごーざーいーまーした。」」」

そのあとに散り散りになって教室に帰っていく。ここには体操服とかそういうのはなく、基本制服でやる。ここの先生が回復魔法を使えるから、ってのが大きそうだけど、汗もそんなに気にならない。…ていうか出た汗もなかったことにできる回復魔法って規格外だよね。普通体力の回復くらいだと思うんだけど。

 

そして、その後帰りの会も終えて、放課後。

姉さんのいる中等も五限までだから一緒に帰ることになってるから待っていると、

 

「アリス、」

 

「バート。どうしたの?」

バートに呼び掛けられた。けど、どこかさっきまでの元気がない。…どうしたんだろう。

 

「えーと………いや、何でもない!」

 

「?絶対なんかあるでしょ?いつもの元気が無かったし」

一瞬目を泳がせて、少し伏せて否定したバートに言うと、「ううん、大丈夫だから!」と笑顔になってまた明日ね!と走っていった。…絶対あれ作ってたな…

 

「…うん。また明日」

そう言いつつ何があったのだろう、と考える。

けど答えが分かるわけもなく、そのまま中棟から出てきたお姉ちゃんと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、家でお使いを頼まれて家を出て、少し離れたところに行っている途中だった。

 

「…が………んだよ!…………のく……!」

 

「……うん?」

明らかに荒ぶった声が聞こえてきて、足を止める。

…この世界、前も言った気がするけど治安良くはないんだよね…

まあすべての人が犯罪やら暴力に転用できる力を持ってる上に、ランクなんていうわかりやすい指標が作られちゃってるからしょうがない所はしょうがないのかも知れないけど。

 

「…こっちかな?」

物見遊山じゃないけど、誰かが絡まれてるなら手助けくらいはできるはず、とその声のする方に行ってみると…

 

「おら!」

 

かなりの数…30人ほどいそうな人の群れが何かをしていた。…察するに、いじめか。

 

「ったく…気持ち悪ぃんだよ」

 

「っ!…ちょっと!」

 

「あ?」

吐き捨てるように言ったその言葉に少し視線を落として見ると、その大衆の前にいたのはバートだった。一瞬頭に血が上って…一旦冷静に落ち着かせて駆け寄り、状態を見る。…お腹を蹴られたか。あと肘と膝、顔にも擦り傷…まだ軽症で良かった。

 

「バート、大丈夫?」

 

「んだ、そいつのダチか?」

と、リーダー格と思われる奴が聞いてきた。

…見た目が某世紀末の漫画に出てくるモヒカンの敵モブなんだけど何あれ。なんか最近あんな感じの人見た気がする…あー、学校のバートにちょっかい出してた人だ。何、バートああいう人に絡まれやすいの…?それとも荒くれ者とかの間であのスタイル流行ってるの?

 

「…だったら何?」

 

「じゃあてめえも魔物の一種か!」

 

「…?」

魔物…?何の話だろう。

どう見ても人間だろうに。

と、彼はゲラゲラと笑いながら指を指して言った。

 

「知らねえのか?どっかの国にはなぁ、心を読む魔物がいるんだとよ。こいつもそんな気持ち悪ぃやつだから退治してやってたんだよ!」

…なるほど、ね。聞いてた()()か。

落ち着け…今怒ってもしょうがない。まずするべきことがある。

バートにヒールをかけつつ、ゆっくり立ち上がって睨みつつ答える。

 

「…そう。…確かに、そういう魔物もいるのかもね。でも、バートがそうとは限らないでしょ。証拠でもあるの?」

 

「証拠だぁ?そいつの親が気持ち悪い能力持ってる、はいこれで証拠だろ。遺伝だよ遺伝、わかるかぁ?いーでーん」

…オーケー、乗ってきたな。

 

「面白いこと言うね。それなら…あなたたちの親も多対一で人を蹴りつけるような外道なんだ。最悪の家族だね」

嘲笑を含めて言う。…よし、挑発に完全に乗ってる。

 

「あーでも流石にいい年した大人がこんなのと同レベルとは思えないから周りも関係あるかー。訳のわからないこと言い回ってる馬鹿とつるんでたらそりゃ馬鹿しか出来上がらないよねー」

口元を歪めて言い放ち、横目で見る。…顔が真っ赤になってる。

 

「テメェ…!黙って気当てりゃぬけぬけと言いやがるじゃねえか!!」

「ぶっ殺す!」

「そこの化け物と一緒にぶっ殺してやる!」

と、前の人達が突貫してきて、拳を振り抜いてくる。

予備動作が見えて、フラリと躱す。

…ボクが相手を煽った理由。それは、ルールの範囲内で相手を負けさせるため。

 

「口論で負けたら暴力かぁ、しかも子供一人に対してこの量で。まあしょうがないよね、()()()()()()使()()()()んだろうし」

見える。

見える。

相手の動きが手に取るように分かる。

頭に血が上ってるのもあるだろうけど、ゾーンに入ってるのか不思議なくらい予測ができる。

 

「テメェ…!!火5魔法バーニングァ!」

と、最前列の奴が火をそこらへんに撒き散らせて爆発させ始めた。

掛かった!

人に対して不必要に魔法を使っちゃいけないっていう法律があるのは言ったと思うけど、それにも例外が大まかに分けて二つある。

まずはそういうのが認可される職業。例えば警察とかだね。ああいう免許がある人にはある程度許可が降りる。まあそれも無闇にやったら駄目なんだけど。

そしてもう一つ。相手に魔法を使われた時と、自分の身や命に何かしらの危害が加えられる可能性がある場合。

 

「…馬鹿。毒6魔法、ポイズンミスティア」

バートに毒霧が当たらないように配慮しつつ、新作の毒魔法を使う。

私を中心にして、ザァ、と黒紫の毒霧が展開されて、それを割くように白の大きな弾幕が四方八方に飛び散る。

 

「!!?」

更にそれが小弾幕に分裂して、襲いかかる。…相手には幻覚と麻痺もかかってるから、弾幕の量も大きさも正確には認知不可になってる上に行動制限もかかってる。

多分、かなり狂気的な沙汰になってる。

 

「う、うわぁっ!な、何だこれ!」

「こんな魔法…見たことないぞ!」

「ぐっ…う、動きにく…ぐわぁっ!」

ほとんど全員が倒れ伏したところを確認して、魔法を解除。…なるほど、毒霧の影響は魔法が終わっても暫く続くのか、使ってみないと分からない誤算だったね。

ほとんどが満身創痍となっているが、その中のリーダー格が口を開いた。…わお、タフだね。

 

「はぁ…はぁ…!テメェ…何したか分かってんのか…!?」

 

「?そっくりそのまま返すけど、あなた達の方こそ…何 し た か 分 か っ て る の ?」

そこにいる全員がほぼ同時にビクッ、と震えた。

一瞬、視界が赤く揺らいだ。

と、麻痺が解けてきたのかリーダー格の男は悪あがきをするように地面に震える手を添わせ、バン、と叩いた。掌に、魔法陣が発生してた。

 

「死ね…火6魔法フレイムゾーン!」

それと同時に地面が燃え始めた。

範囲は…うん、分かんない。とりあえずめっちゃ広いね。こんなの旧道とはいえ道の上でやんないでよ…

 

「ククク…!逃げれるもんなら、逃げてみろ…!!」

…にしても不味い。

流石にこの効果範囲を避ける術がない。毒魔法はまだ一つしかできてないし、軽く水をかけて消してみてももう一回燃え始めてる。多分継続的に魔法を発動してるから、この範囲を上回る魔法で覆わないと押し負けるんだろう。…領域◯開かな?

 

なんか変な電波拾ったけど置いといて。

 

この範囲を覆えるような広域魔法はまだ使えない。どうしようか…

そう思っていた瞬間、私の頭の中に魔法陣が浮かんだ。同時に、バートを抱えてその魔法陣を展開、魔法を発動していた。

 

「毒6魔法、ポイズンエリア」

 

「!」

言った瞬間、ズオ、と火の領域を遥かに上回る範囲の毒が展開され、火が消し止められた。

慌ててバートが毒を吸い込まないように操作する。

 

「ぐっ!がぁっ!た、助け…っ、」

「うがぁ……っ…」

「が、ぁ…!!?」

すると、毒の効果が効いているらしくその中で男たちが苦しみ始めた。効果は…多分窒息かな。

不思議と、感情は特に何も浮かんでこなかった。

でも、殺すのはよくないかなと思って魔法を解除。

呻いていた荒くれ者たちはドサ、と倒れ伏した。…多分死んではいないね。

 

「…へ、」

と、ふと正気に戻った。

いやさっきまでもしっかり自分の意志でやってたんだけど、なんというか…微妙に正気を失ってたと言うかなんというか…

表現がむずいなこれ。

 

というかやっちゃったなぁ…いや、確かにキレかけたよ?キレかけたけど…これ完全に過剰防衛だよ。バレたら絶対怒られ…いや、悪いのは向こうなんだけど、注意はされそう。

と、

 

「……ぅ…」

 

「!バート!」

バートが目を開けた。

ヒールのおかげで回復してたのもあるかな。

 

「あり、す?」

 

「うん。バート、大丈夫?」

もう一回集中して、黄緑色の魔法陣を展開してバートにヒールをかける。

 

「…うん…って、あの人達…!、ぇ、」

 

「あ、あー…」

倒れ伏す人の山を見てバートが硬直、ボクもボクで苦笑いを浮かべるしかなくなる。まあ…ね。

 

「助けて、くれたの?」

泣きそうな目をするバート。……これどうすれば良いんだろ…

 

「…うん、頑張ったね」

ゆっくりと頭を撫でて言ってみる。

と、

 

「!君達!」

 

「あ、」

青い制服に、帽子、魔法陣を準備しながら近寄ってくる人が二人。警察だぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、結局普通に怒られました。

まあそりゃそうか。一応ルールの範囲内でやってたからそこまで強いものじゃなかったけど、下手すればそれこそ命に関わってたかも知れなかったわけだし。

 

「あの…さ、アリス」

 

「うん?」

頭をかきつつ警察の人たち(その後にまた何人か来た)があの人達を回収してる傍らで、バートが話しかけてきた。

 

「ありがとね、助けてくれて」

 

「…ふふ、うん、どういたしまして」

放課後に言おうとしたのはこれの事だったのかな。あーくそ、気付けなかったの本当にボクの落ち度だよな…

 

「…あ、笑った…」

 

「ん?」

と、バートがふと呟いた。

なんて?

 

「いや、アリスってあんまりそうやって笑ったりしないから…」

 

「あー…そうかな?」

確かに、思い返してみてもあまり笑った記憶が少ないな…

いやまあ何というか、周りより精神が下手に達観してるせいで笑うこととかあんまりないんだよね…作り笑いするのも得意じゃないから変にバレたりしても余計に気まずいし…

 

「…今日言おうとしたのはそれなんだよね。せっかく友達になったんだし、良い顔授けられてるんだからもっと笑った方がかわいいよーってね。…あんまり人にそういうのは言わない方が良いかなって思って言えなかったんだけど…」

 

「………そっか」

あくまでも…そっちは隠し通すつもりだったんだね。

というか、バートって本当に優しい子だよね。本当に心の底から思うよ、うん。

……その一方で本当に重要な事を隠していることにちょっと心が痛むな…

 

「ありがと、バート。そんなに思ってくれてるなんて思わなかった」

でも、やっぱり嬉しかったな。自然と顔が少し綻ぶのを感じていた。

 

「…あ、それよりアリス」

 

「うん?」

 

「…その籠、お使いの途中じゃ…」

ふとバートが指すのは道の傍らに置いてた籠。……あ、

 

「…あぁっ!」

すっかり忘れてた!やっばい!割と長いこと道草食ってた!

 

「あはは、まぁ、私を助けてくれてたんだしね」

 

「分かってないなぁ…助けられたのは私の方もだよ。…じゃあね、また明日!」

できるだけの笑顔で、手を振る。

 

「うん!また明日ね!」

バートも、憑き物が落ちたような顔で笑っていた。

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