血の川。
抱き締めた体から、ワインのように真っ赤な鉄臭い液体が流れ出て、白い石畳に紅の川を作っている。その勢いは弱まるところを知らない。
符離の手は震えていた。
痛みからか、出血からか、徳州は青白い顔のまま瞼を閉じていた。いつもは煩わしい小言も、今は静かだ。さっきまで息を荒げていたのに、もう虫の呼吸のようにか細くなってしまった。
徳州が……兄貴が死んでしまう。
死ぬとは?二度と起き上がらず、目を覚まさなくなることだ。
しかし彼は食魂であり、兄も食魂である。
「なんとかできるんだろ!?頼む、兄貴を救ってくれ……!」
符離は必死の思いで空桑の主に叫んだ。
血塗れになって張り付いてしまった白い手袋の下には、暖かくてほっそりした繊細な手が隠されているのを知っている。
放っておけば、この手は二度と動かなくなる。
符離はその手をしっかりと握り、眠るように静かな兄に呼び掛けた。
「死ぬな……絶対に死ぬなよ、俺はこれからも一生お前の影で生きるなんて、御免だからな!」
空桑の
「方法があるなら俺はどうなったっていい!早くしてくれ!」
空桑の若い
「君の魂力を、食物語の霊力にのせて徳州に届けてあげて。霊力は物凄く強いから、魂力を全て持っていかれないように気をつけて」
「わかってる、始めてくれ!」
符離は焦っていた。
自分がどうなろうと誰も気にも留めないだろうが、徳州が死ぬのは話が違う。こいつは優秀だし、立派で、見た目だっていい。頭がよくて皆に頼られていて、いなくなったら困るやつがたくさんいる。銃の腕だっていいし、俺みたいに卑屈なところもない。理想の警官様だ。
だから、俺なんてどうだって……。
「阿符」
魂力を送りながら、いつの間にか溢れた涙がこぼれ落ちたらしい。空桑の若い
「君たち二人がいるから、僕は明るくなれるんだ。どちらか一人だけじゃ、鉄道の英雄ではないよ。どうか自信を持って。」
と言ってくれた。
ちくしょう。こいつはエスパーみたいに俺の考えてることを見抜いてくる。でも、口からでたのは全然違う言葉だった。
「ちげーよ、こいつは俺の泣くところを見て笑い者にしたいんだ。だから、こいつが見えないうちに泣いてやるんだ。それならおあいこだろ?」
「おあいこ?」
「だって、俺が見てないところでお前は、こいつが恥ずかしい手紙を書くところを見ていたんだろ?俺の前で書けっつーの……ていうか、直接言えよ!そしたら、いっぱい、笑って……、……。」
ーー笑ってやったのに。
言葉は喉に詰まって音にならなかった。
こいつがいなくなったら、笑ってやることすらできなくなる。
ふいに、強烈な目眩を覚え、符離はぐらりと頭を揺らして地面に倒れた。
「限界です!ここで止めましょう。あとは私が微力ながら技で回復させてみます……」
白髪の従者の言葉が聞こえたのを最後に、符離の意識はここで途切れた。