傷を覆う   作:希(マレ)

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1~3は全年齢、4だけR15です。


傷を覆う〔1〕

 

 血の川。

 抱き締めた体から、ワインのように真っ赤な鉄臭い液体が流れ出て、白い石畳に紅の川を作っている。その勢いは弱まるところを知らない。身体(からだ)の外側に少し穴が開いただけなのに、全ての血液が流れ出てしまいそうだ。

 符離の手は震えていた。

 痛みからか、出血からか、徳州は青白い顔のまま瞼を閉じていた。いつもは煩わしい小言も、今は静かだ。さっきまで息を荒げていたのに、もう虫の呼吸のようにか細くなってしまった。

 徳州が……兄貴が死んでしまう。

 死ぬとは?二度と起き上がらず、目を覚まさなくなることだ。

 しかし彼は食魂であり、兄も食魂である。

「なんとかできるんだろ!?頼む、兄貴を救ってくれ……!」

 符離は必死の思いで空桑の主に叫んだ。

 血塗れになって張り付いてしまった白い手袋の下には、暖かくてほっそりした繊細な手が隠されているのを知っている。

 放っておけば、この手は二度と動かなくなる。

 符離はその手をしっかりと握り、眠るように静かな兄に呼び掛けた。

「死ぬな……絶対に死ぬなよ、俺はこれからも一生お前の影で生きるなんて、御免だからな!」

 空桑の(わか)は戸惑っているようだった。白髪に一筋、桃色の房を揺らして首を傾げる従者と、何やら話し込んでいる。

「方法があるなら俺はどうなったっていい!早くしてくれ!」

 空桑の若い(わか)は一瞬戸惑ったものの、大きくうなずいた。

「君の魂力を、食物語の霊力にのせて徳州に届けてあげて。霊力は物凄く強いから、魂力を全て持っていかれないように気をつけて」

「わかってる、始めてくれ!」

 符離は焦っていた。

 自分がどうなろうと誰も気にも留めないだろうが、徳州が死ぬのは話が違う。こいつは優秀だし、立派で、見た目だっていい。頭がよくて皆に頼られていて、いなくなったら困るやつがたくさんいる。銃の腕だっていいし、俺みたいに卑屈なところもない。理想の警官様だ。

 だから、俺なんてどうだって……。

「阿符」

 魂力を送りながら、いつの間にか溢れた涙がこぼれ落ちたらしい。空桑の若い(わか)が腕を回して肩を抱き、

「君たち二人がいるから、僕は明るくなれるんだ。どちらか一人だけじゃ、鉄道の英雄ではないよ。どうか自信を持って。」

 と言ってくれた。

 ちくしょう。こいつはエスパーみたいに俺の考えてることを見抜いてくる。でも、口からでたのは全然違う言葉だった。

「ちげーよ、こいつは俺の泣くところを見て笑い者にしたいんだ。だから、こいつが見えないうちに泣いてやるんだ。それならおあいこだろ?」

「おあいこ?」

「だって、俺が見てないところでお前は、こいつが恥ずかしい手紙を書くところを見ていたんだろ?俺の前で書けっつーの……ていうか、直接言えよ!そしたら、いっぱい、笑って……、……。」

 

 ーー笑ってやったのに。

 

 言葉は喉に詰まって音にならなかった。

 こいつがいなくなったら、笑ってやることすらできなくなる。

 ふいに、強烈な目眩を覚え、符離はぐらりと頭を揺らして地面に倒れた。

「限界です!ここで止めましょう。あとは私が微力ながら技で回復させてみます……」

 白髪の従者の言葉が聞こえたのを最後に、符離の意識はここで途切れた。

 

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