傷を覆う   作:希(マレ)

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1~3は全年齢、4はR15です。


傷を覆う〔2〕

 

 

 ふと目覚めると、白くて眩しい光が目に飛び込んできた。

 しばらく順応できずに目をしばたいていると、それが朝陽であることがわかってきた。

 (もう朝なのか……?あれからどれくらい経ったんだ?)

 そして気を失う前のおぼろげな記憶を思い出して、符離は飛び起きた。

 (ーー徳州は!)

 周囲を見回してみると、どうやらここは現在も誰かが住んでいる民家のようだった。

 生活感のあるリビングに絨毯と毛布が引いてあり、符離はその上に寝かされていた。

「いててて……」

 床で寝ていたために固くなった筋肉をほぐしながら、符離は立ち上がった。少々目眩がするものの、体に異常は無さそうだった。時間が経てば収まるだろう。

 そんなことよりも徳州だ。

 符離は寝室らしき部屋を覗きこんだ。きちんとマットレスの引かれた寝台の上には、厚い毛布をかけられた徳州が、青白い顔で横たわっていた。

 符離は自分の鼓動音にびくつきながらも、徳州が横たわるベッドの脇に屈みこんだ。

 幸い、息はあるようだ。

 ほっとした符離は、徳州の鼻先に手を翳して呼吸を確かめた。まだか細い肺活量だが、安定はしている。だがこれが眠っているのか、気絶しているのか、符離には見分けがつかなかった。

 試しにピン、と鼻先を指で弾いてみるが、なんの反応もない。よほど深く眠り込んでいるようだ。

 そして、やや躊躇ったものの、符離はさらに徳州にかけられた毛布をめくり、兄の色白な上半身を暴いた。

 血まみれの包帯が、陶器のような青い肌にきつく巻き付けられており、生臭い血の臭いがすることからも、あの深い傷はまだ塞がってないことが伺える。

 符離はそっと毛布を戻すと、兄の枕の横に腰を下ろし、その静かな寝顔を見つめた。

「どうして……俺なんか……。俺に銃を向けたと思えば、今度は自分が死にかけても庇うなんて……。何考えてるか、わっかんねえよ……。」

 符離は苦い顔でため息をつく。

 符離は徳州に死んでほしいなんて欠片も思っていなかった。それどころか、彼の本心としては兄弟関係を抜きにして、徳州とずっと一緒にいたい、お互いに最高の相棒になりたいと思っていた。

 それなのに徳州ときたら、ちゃんと仕事をしろと言うばかりで、等身大の符離をちっともみてくれない。

「それなのに、お前が死んじまったら、俺は一人でどうすればいいんだよ……。」

 符離は青白い顔で昏睡したままの徳州の鼻を、再度軽く小突き、さっとベッドから立ち上がった。

「とりあえず、易牙に襲われた符離町の様子を見にいかねーとな。……お前ならそうするだろ?」

 意識のない兄に符離は無理矢理ニヤッと笑って見せると、踵を返して寝室から出て街へと向かった。

 

 

 符離町で壊滅的な被害が出ているかと思いきや、符離が思っているより町人たちはずっと逞しかった。

 町についた火は瞬く間に消し止められ、手紙作戦に乗じて町の窮状を訴えたところ、それをみた金持ちが援助を申し出てくれたというのだ。

 棚ぼたではあるが、結果オーライであろう。

 あとは徳州が元気になれば言うことはない。

 符離は適当に見切りをつけて、再び兄のいる小屋へと戻っていった。

 

 

「あ!!?」

 開口一番、符離は驚きと牽制の声をあげた。

「二人してこんなとこで何やってんだよ!」

 易牙から受けた致命傷はまだ治りきってないはずなのに、少し肌寒さを感じるほどの気温の屋外で、徳州と空桑の(わか)が二人で立ち話をしていたのだ。

 振り返ろうとした空桑の(わか)は、足を滑らせひっくり返りそうになり、徳州に抱き止められた。

 空桑の(わか)の見えないところで徳州が歯を食い縛って顔を歪めたのを、符離は見逃さなかった。

「おい、警告しとくが、俺の兄貴に変なことしてみろ、いくらお前だって赦さないからな!」

 しかし、その言葉を聞いて空桑の若い(あるじ)は何故か目を輝かせて問い返した。

「兄貴?聞き間違いかな、今兄貴って言った?言ったよね、阿符!」

 符離ははっとして口を押さえた。しかし言ってしまったものはもう取り消せない。

「い、言ってねーよ!聞き間違いだ!!!」

「『兄貴』だって、徳州!これで仲直りだね!」

 徳州はわずかに頬を赤らめるとやや困った顔で頷いた。恥ずかしいのだろう。

「貴方のお陰です」

 すかさず符離は釘を刺す。

「お前も調子にのんなよ、徳州!言っとくがあの恥ずかしい手紙、全~部俺が持ってるんだからな!」

「それはいいね!僕が全部読み上げてあげようか?」

「し……少主、それは……」

 (少主?)

 徳州の言い回しが気になった符離は、じろりと兄を睨む。

 視線の意味に気づいた徳州は、気まずげにコホンと小さく咳払いをした。

「ちょうどいい、阿符、オレは空桑に行ってこの人に仕えようと思うんだが……、お前はどうする?」

「どうする、って……」

 ますます険しい表情になった符離を見て、徳州は少し慌てたように言い直した。符離集での過去のあの二人の経験が、彼に言葉を改めさせたのだ。

「……オレの言い方が悪かった。オレはこの人が信用できる人で、食魂たちをいい未来に導いてくれる人だと感じた。だから、オレはこの人を支えるために空桑に行こうと思う。」そこで徳州は区切り、少し緊張したように言葉を続けた。「だから……、阿符も一緒に来てくれないか?」

 徳州はバイザーに素手を掛け、神経質に角度を調整した。

 この行動が照れ隠しだと知っている符離は、やや気を良くしてにやりと笑った。

「お前が行くなら行かねーわけにはいかないだろ。お前一人じゃ無茶するかもしれねーし……見張ってやらねーとな。」

 徳州は珍しく声を出して笑った。

「それはこっちの台詞だよ。」

 はっきりとは言わなかったが、珍しく気持ちを通じ合わせることのできた二人は、顔を見合わせてクスリと笑った。

「オレはお前より成長してんだ。見てろよ、徳州」

「ああ。」

 短いやり取りだったが、青白い徳州の頬に赤みが戻り、彼の体調も悪くないようだ。

「そうだとしても!」符離は急に大声を上げた。「まだ怪我が治ってねーんだから、こんな寒いとこにいねーで小屋に戻れよ!」

「うん、徳州はそうして。でも……」

 これには意外なことに空桑の(わか)が言葉に応えた。

「僕はこれから符離集の様子を見に行こうと思ってるんだ。僕たちが来なければ、あんな被害に遭わなかったはずだからね……」

 沈んだ気持ちでいる少年の様子を見て、符離はわざと明るく笑った。

 符離のその様子と、後ろから現れた人々を見て、徳州も状況を理解したようだった。口端をわずかに上げ、少主の肩を軽く叩いて人々の方向を指し示す。

 全てはよい方向に向かっているのだ。

 

 

 

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