「よぅ、魔理沙」
「お! 来たか○○、待ってたぜ!」
魔法の森、本来人間が立ち入る事などない場所に人知れず建つ、霧雨魔法店。
そんな魔法店の扉から元気よく出てきた霧雨魔理沙に、○○は軽く挨拶をすると、魔理沙は満面の笑みを見せ、そんな魔理沙に優しい笑顔で返した○○は店の中へと入っていった。
「うわー、また酷く散らかってるなぁ」
「へへっ、私にかかればこんなもんだぜ!」
「自慢するんじゃねぇっての」
「あいたっ」
店の中は至る所に本やガラクタが散らかっており、それを誇らしげに語る魔理沙に、○○は軽く帽子の上から頭を叩く。
そして○○は深くため息をつきながらも、散らかるガラクタを片付け始めた。
「いつもすまないぜ、○○」
「いいって別に……ただなぁ」
「?」
「流石に女の子が、これを放っておくのはどうかと思うぞ?」フリフリ~
「!! ばっ!? み、見るなぁ!」
ガラクタを片付けていた○○は徐ろに、魔理沙の目の前に一枚の布をかざした。
それは可愛らしいフリルのついた女物の下着であり、一瞬にして顔を真っ赤にした魔理沙は、目の前の下着を○○から奪い取ると、店の奥へと走り去っていった。
「なー、悪かったって……機嫌直してくれよ」
数分後、慣れた手つきで店を片付けた○○の前には、頬を膨らましそっぽを向く魔理沙が座っていた。
「……変態と話す事なんて何にもないぜ」
「はぁ……あのなぁ、元はと言えば魔理沙がしっかり自分で片付けていれば済む話だろ?」
「あー、あー、聞こえなーい」
「……はぁ」
手を耳に押し当て、子供みたいに話す魔理沙に○○は深くため息をつく。
それもそのはず、○○がこうして面倒臭く拗ねる魔理沙の相手をするのは、一度や二度ではなかった。
小さい頃からずっと魔理沙の側でヤンチャな彼女を見守ってきた○○は、最早こういった事は日常茶飯事なのだ。
そうして○○は拗ねる魔理沙を何とか宥めた後、今日ここにきた理由を話し始めた。
「……実はな魔理沙、俺……彼女が出来たんだ」
○○は少し恥ずかしそうに照れながらそう言った。
しかし、そんな○○とは対照的に目の前の魔理沙の顔は、ほんの少しも笑みを浮かべていなかった。
「……は? 彼女?」
「なぁ、聞いてくれよ、その子めっちゃ可愛くってよ……それに性格もめっちゃいいんだぜ? 部屋も文句言わず掃除してくれるし」
ズキン、心にヒビが入った様に痛む。
まるで……お前とは違ってすごくいい子……私にはそんな風に聞こえる。
「それに加えて、料理もめっちゃ美味いんだぜ? もう最高だのなんだのでさぁ」
ズキン、また心の奥底が酷く痛む。
私は料理なんて出来ない、もし料理を作ったとしても決して美味しくはないだろうし、きっと○○は優しいから食べてくれるだろうけど、心の中じゃ不味くて食えたものじゃないと思うかもしれない。
「それとさ……魔理沙に言うのも何だけど、その子ベットの上じゃ凄いテクが……」
「うるさいっ!!!」
「お、おい……急にどうしたんだよ……魔理沙?」
「聞きたくない……そんな事聞きたくなんかない!!」
魔理沙は机を強く叩き、○○を睨み付けた。
その目には薄らと涙が浮かび、口はふるふると震えていた。
いきなり大声を出した魔理沙を、○○は心配そうに見つめるが、魔理沙は居心地が悪そうに椅子から立ち上がると、今日はもう帰ってくれと○○に告げた。
「……分かった、悪かったな……なんか怒らせちゃって」
○○は申し訳なさそうに頭を下げて、店の扉から出て行った。
そうして残ったのは、まるで痛む心臓を抑えるかの様に胸を押さえて、言いようのない苦痛に顔を歪ませる魔理沙だけだった。
「よぉ、魔理沙……その……元気だったか?」
「……○○」
それから数日間、○○は魔理沙の元を訪れなかった。
それは魔理沙の事が嫌になった訳では勿論なく、寧ろ魔理沙の為を思ってのことだった。
何だかんだ妹の様に思っていた魔理沙だが、そりゃあ年頃の女の子だ、そういう話題に敏感になって怒るのも無理はない。
そうして少し時間を空けて、お詫びの印として魔理沙の好きなキノコ料理でも作れば、すぐ笑顔になってくれるだろう。
○○はそう考えていた。
「……帰ってくれだぜ」
「……え?」
そんな○○の思いとは裏腹に、魔法店の扉の隙間から顔を覗かせた魔理沙は、第一声にそう言った。
「おいおい魔理沙、どうしたんだよ? いきなり帰ってくれって……」
「いいから早く帰ってくれ……○○」
「そ、そんなこと言うなよ……ほら、お前の好きなキノコを買ってきたんだ、お前好きだろ?」
バシっ! ○○の手から籠一杯にあった筈のキノコが辺りに落ちる。
魔理沙に籠をぶたれた、そう理解した○○は折角持ってきたキノコにそんな事をした魔理沙に怒ろうと、下に落ちたキノコを拾いながら顔を上げる。
「……魔理沙、何してんだ? どういうつもり」
「私は帰れと言ってるんだぜ、これ以上そこにいるなら○○だからって容赦はしないぜ」
顔を上げた○○の視界に映ったのは、無表情で○○を睨む魔理沙だった。
一度も見たことのない魔理沙のそんな表情に○○は驚き、いつもの○○ならいつもと様子が違う魔理沙を心配しただろうが、自分の好意を無碍にされた今の○○は、とても魔理沙を心配出来るような心ではなかった。
「……あぁ、そうかよ……じゃあな、魔理沙」
「……っ」
まるで嫌いな相手に吐き捨てるかのように冷たく○○は言い放つ。
そうして踵を返し、今来た道を歩き戻っていく。
違う、そんな事が言いたかったんじゃない。
こんな事をしたかったんじゃない、ただ……今は少し○○の事が嫌いになっちゃって、でも本当は……会いに来てくれて嬉しかった。
それなのに……私は……
「うあっ……ひっぐ……っ、○○……っ」
○○の後ろ姿が見えなくなった頃、魔理沙は一人扉にもたれ掛かり涙を流していた。
何であんな事をしたのだろう、そう思う度に心の痛みが拭いても拭いても溢れてくる涙を流させる。
「なん、でっ……私の……馬鹿っ! ……馬鹿っ! 馬鹿っ! 馬鹿っ……!」
魔理沙は自分の顔を一切手加減無しに殴りつける。
当然その痛みは強く、魔理沙はその激しい痛みに顔を歪ませるが、その目からは涙が流れる事はなかった。
まるで……痛みを更なる痛みで上書きして消すかのように。
「……魔理沙? その……居るか?」
それからまた数日を置いて、○○は魔法店まで訪れていた。
しかし扉をノックしても声で呼びかけても、店の中からは何の反応も無かった。
もしかして留守か? そう思った○○は少し肩を落とし、持って来た籠一杯のキノコを扉の近くに置くと、留守だった時の為に書いて来た手紙を籠の上に置くと、元来た道を帰って行った。
「……」ガチャ
○○が帰ってから数分後、誰もいない筈の扉が開き、中から魔理沙が顔だけを出し、辺りを見回す。
そして魔理沙は○○が置いて行った籠と手紙を見つけると、籠を拾い上げ手紙の内容を読み出した。
「……」ポロポロ
手紙の内容を途中まで読み進めていた魔理沙は、ある一行の文を見た瞬間、静かに目から涙を溢した。
手紙には、○○が彼女と結婚する事になった事……そしてこれからはあまりここに顔を出せなくなるということが、謝罪と共に書き連ねられていた。
零れ落ちる涙で手紙が濡れる事も気にせず、魔理沙はただその文だけを何度も何度も読み返した……。
……それから長い時が経った今……
……かつての魔法店に人は訪れない……
……ただそこにはある男が書き続けた大量の手紙を眺める……
……一人の魔女が住んでいるという……
魔理沙にはしっとりとした曇らせを味わってもらいました。
大事な人が死んで流す涙も良いけど、大切な人がいなくなる事への言い表せない気持ちの涙も…良いよね!?…良いよね?