前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい   作:うどんそば

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帰ってきてくれるよね?

「ん……?」

 

 すすり泣くような声で、意識が覚醒した。

 

「は……? ここ、どこ……?」

 

「え!? 起きた!?」

 

 目の前には目を赤く腫らしたセリカちゃんがいた。心配そうにこちらをじっと見て、起きたのに私の脇腹からお腹のあたりを触ってきている。

 

「ていうか痛っ! ほんとに痛い!」

 

「そ、そりゃあ……」

 

 セリカちゃんがそっと手をどかす。そこを目に入れると……明らかに大怪我、というより死んでない? と思うほどの怪我。どてっぱらにどでかい穴が空いている。血も結構な出方をしている。これ、死ぬんじゃない?

 

 はあ、と肩を落とすと、セリカちゃんは自分の責任だと思っているのか、また目に涙を浮かべてうつむいてしまった。

 大丈夫だと伝えると、「……絶対無理はしないこと」と言って、近くからのいてくれた。

 

 この怪我はどうしようにも不便だし、すぐ治るわけでもない。仕方がないので、ポケットのスマホを取り出す。そうしてあるアプリを開いた。そこにいた彼女は、ひどく心配そうな顔で、落ち着かない様子だった。

 

「ねえ、これってどうにかならないかな?」

 

 そう話しかけると、ぎょっとした表情で、声を上げた。

 

「せ、先生! このまま動くのは……」

 

「大丈夫だから」

 

「……」

 

「……」

 

「……はあ、なんとかしてみます。ただ、今日中。それ以上は保証できません」

 

「ありがとうね」

 

 そう答えた瞬間、血が止まった感覚と、減った血が戻ってくる感覚に襲われた。手を握ってみても先程よりはよく握れる。少しの間ならいつもと変わらないように動けそうだ。足も問題ない。……強いて言うなら、腹あたりの感覚がないのが怖いけれども。

 

「ありがとうね」

 

「……はあ、先生。無理しないでください。……絶対に、死なないでください」

 

 その世界できれいな長い髪を翻して、そっぽを向くように背中を見せた彼女は、これ以上話すことはないと言わんばかりにアプリを強制終了させてしまった。

 

 体を起こすと、セリカちゃんはこれまた驚いた表情で結構な力で無理やり肩を掴んで寝かせようとしてきた。しかし力は私のほうが強いので、それをどかして無理に立ち上がって、その辺りに転がされていたミニ君を拾う。結構損傷しているけど、撃てないわけじゃないね。

 

「さ、セリカちゃんも銃持って。準備するよ」

 

「え? 何を……?」

 

「多分、来るから」

 

 ドカンという音とともに思いっきり外に放り出される。ぽーんと外に飛んでいったのはいいけれども、腹の痛み、麻痺が消えたわけではないので、痛くて姿勢を上手く取れない。

 

「ぶぼぉ!」

 

 思いっきり地面に体がぶつかった。ま、まじで死ぬ……!

 

 目線を後ろに向けると、車を爆破されたヘルメット団が、どんどんとこちらに近づいて来ていた。

 

「て、テメエら!」

 

 アビドスの面々。そして先生がいた。

 地面に転がる私を気にしてか、先生はかけてこちらによってきて、私を引き起こすと、強く抱きしめてくる。

 

”生きてて良かった”

 

「……うん。もしかして、心配かけてた?」

 

 先生はただ頷いた。ほんの少しではあるが、抱きしめてくる力も強くなったような気がする。先生は私を離す気はないようで、控えめに力を入れて離そうとするが、全く背中まで回した手をほどいてくれない。

 

「先生。私はとりあえず大丈夫だからさ。今はこんなことしてる暇じゃないでしょ? 皆を助けに行かなきゃ」

 

”大丈夫なわけない。……残ってた血が……”

 

 ありゃ、もしかして、私が攻撃された現場見た感じなのかな? どれくらい血がなくなっているかはわからないけど、助けてくれた彼女の反応的に、結構死にかけみたいだし、ショッキングなところを見せてしまったのかもしれない。

 

”もしかしたら、死んだかもと思って”

 

「でも、生きてるでしょ?」

 

 抱きしめられているので、体をよじって元気アピールをしてみる。先生はまたぎゅうと強く抱きしめて、私が身をよじることも出来ないくらいにした。

 

”キタノがいなくなったら、どうすればいいのかわからなくなって……もう絶対にそんな思いはしたくなかった”

 

 何か先生重くないか? 確かに私も先生が突然死にかけたらこれくらいになるかもしれないけど……

 先生が少し体を離してくれたので、その顔を見る。ひどい顔だ。ただそれ以上に目がやばい。濁りまくって、それで私のことばかり見てる。

 皆のこともかろうじてきちんと見えているようには感じるんだけど、私の姿ばかりがその濁った瞳に映っているんだ。

 

「はあ……」

 

 私は先生を抱えて持ち上げた。レイサにしたのと同じように。

 

「先生。私達は何?」

 

”シャーレの……”

 

「そうでしょ? 私達はシャーレ。それに先生の役割は、生徒を助けることでしょ?」

 

”……そうだね。キタノ。ごめん”

 

「謝ってほしいわけじゃない。私達は相棒なんでしょ? だから、困ったときは頼って欲しいだけ」

 

 先生を下ろすと、今度こそ戦闘が行われている場所を見た。目の光はいつも通り。この世界に光を齎すものとしてふさわしい瞳を向けた。

 

”キタノ、皆を助けよう”

 

「うん。まかせて」

 

 駆け出そうとする私に、先生は呼び止めるような声を上げた。

 

”ただし!……何があっても、絶対に戻ってくること”

 

 それに答えるかどうか、私は迷った。だけど……

 

「先生もそうしてくれるなら、私もそうするよ!」

 

”じゃあ、戻ってきてくれるってことだね!”

 

 先生は笑顔を浮かべていた。あんなひどい顔をしてるよりも、やっぱりいつもの笑顔のほうがいいね、なんて思ったり。

 

 

 ●●●

 

 

 キタノが戦場に向かって行ってから、苦戦していた様子は一気に変わった。雰囲気というか、それが一気に良くなったのだ。やっぱり皆も、キタノのことが気になっていたのかもしれない。少なくとも、今の様子を見ている限り、この動きが本来のアビドス+キタノの動きであるような気がする。

 出した指示は即座に実行され、自分の思い描いた通りの進行をする。キタノは昨日の大量の血や、転がってきた時の死にそうだ、という気配を感じさせないほどの元気な動きを見せていた。

 

「先生……」

 

”どうしたの? アロナ”

 

 つぶやくように言ったアロナに、不思議な感覚を覚えた。その先生という呼び名は、私に向けられていなかったような気がしたから。

 

「あ、すいません、キタノさんのこと、なんですけど……」

 

 アロナは言っていいのか、それはいけないことなのか、判断しかねているようだったが、やがて口を開いた。

 

「まだ、怪我は治っていません。どころか、血も……あれは誤魔化しです。あのままじゃ……」

 

 心配そうなアロナに、私は断言した。

 

”大丈夫だよ。戻ってきてくれるって言ってたから”

 

 キタノは、確実にあの言葉の後、仕方がなさそうに笑っていた。だから、必ず戻ってきてくれる。そんな予感がしている。

 

 皆は一番大きな戦車を破壊すると、皆でその上に登って掛け声を上げていた。

 近くのヘルメット団たちが皆投降していることを確認して、そこに向かうと、皆一様に笑顔で、作戦の成功、そして二人の奪還を祝っている。

 

 ゆっくりこちらに歩いてきたキタノは、隣に来ると、にこにこした顔をアビドスの面々に向けた。

 

「先生、良かったね」

 

”うん。セリカちゃんは怪我もあまりないみたいで”

 

「うんうん。こういうのを見てると、自分のしたことは正解だったんだなって思えるよ」

 

 セリカちゃんは再会を涙目で喜んでいた。それを皆は笑ってからかったりしている。ものすごく、良い光景だ。私の隣の少女が傷ついていなければ、最高だった。

 

”キタノ”

 

「ん?」

 

”今、全然万全じゃないよね”

 

「あー……もしかしてアロナ?」

 

 キタノは、困ったような表情を浮かべた。なんと言ったらいいのか。そんな感じだろうか。

 

”……説教をしようっていう感じじゃないよ。……死なないんだよね? いなくならないよね?”

 

 そう聞くと、キタノは優しげな顔で、私の頭を撫でた。身長が低いからか、つま先立ちで、子どもをあやすように。

 

「先生が無理をしないって言うなら、私も無理はしないよ。必ず帰ってくる。でも、そんなわけにはいかないでしょ? だから、先生が無理をするときには、私にも無理をさせて。それならいいでしょ? 相棒、なんだからさ」

 

 キタノは少し離れて私の顔を見ると、「仕方ないなあ」と困った顔をしながら、優しく抱きとめた。

 

「死んでくるって言ったわけじゃないから。わかった。絶対、私も生きて皆も助けるから、安心してよ」

 

 ようやく安心した私は、抱きとめられたまま、先生として情けなく、涙を流していた。

 

「お熱いねえー」

 

 ホシノの声が聞こえる。キタノはそっと私の体を離して、みんなに向き直った。

 

「帰ろう」

 

 シロコが私の左腕を掴んで引っ張った。右は私からキタノの手を握る。行きは四人で、帰りは六人。最高の結果は得られなかったが、次善くらいにはできた。

 右手を辿ってその顔を見るとキタノは、いつもの心から楽しそうな魅力的な笑みを浮かべていた。




先生「キタノ……キタノがいなくなったら……」
キタノ「ええ……先生重くない?」

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