前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
”キタノ……なんで来たのかな?”
私は今、先生に正座させられていた。毛布の上ではあるけど、床が普通の教室の床だから痛いのなんのって。
「も、もう治ったから」
”もう治った? あれだけの怪我が?”
先生は全く信用してないのか、じとっとした目を向けてくる。その目のうちには、不安や心配の念がにじみ出ているように感じた。心配してくれるのはありがたいんだけどね……。
私は制服を上にめくった。
”ちょっ! キタノ!”
「ほら、見てみてよ。傷もないでしょ?」
”ないけどさ……そんな簡単にはしたないことしちゃだめ”
「ええ……別にこんな体、誰も喜ばないでしょ」
そもそも男の人間自体が少ないのだ。気にするだけ無駄じゃない?
”そんなことないから! ともかく、気をつけること!”
先生は少し顔を赤くしながら確認をすると、そっとたくし上げた制服を戻してくれた。
「まあ、というわけで、治ったので来たよ」
”でも、血の量とかさ、色々あるでしょ?”
「それも大丈夫。万全だよ」
よくわからないけど、めまいとかはないから大丈夫だろう。キヴォトス人だし。
ともかく、先生はしぶしぶといった様子ではあるが、納得してくれたようだ。それでも逡巡するような素振りを見せる辺り、相当迷ってはいるようだけども。
”……まあ、キタノの気持ちはわかるから”
「だよね。ありがとう」
ともかく説教がおわったので、立ち上がって部室の方に向かう。そこにはもう全員が揃っていて、対策会議を行っている最中で、私を目線に入れると各々心配そうな顔を向けてきた。
「あはは、大丈夫だって。治った治った!」
力こぶを作って見せると、皆は少し苦しそうな顔をして変な笑みを浮かべた。……なんだろう。
「じゃあまあ、せっかくキタノも来たことだし、話の続きをしようかー」
ホシノが促すように行ってくれたおかげで、変な空気は霧散して、もとのアビドスのように緊張感があるのか無いのかよくわかんない空気に戻った。
「じゃあ、話し合いの続きですね。お金を返していく方法でしたが……」
「はい! 皆見てみて! このゲルマニウムブレスレット! これをつけると幸運になれるんだって! これを売ったら儲けられるかも!」
ニコニコの純真な笑顔で謎のブレスレットを取り出したセリカちゃんに、思わず場が凍りつく。
「だめです」
「うへー、それ、マルチ商法じゃない?」
「え、ええ!? じゃあ私騙されたの?」
バイト代はたいて買ったのに……と落ち込むセリカちゃん。すまない……擁護のしようがない……。
「じゃあ、次はおじさんの案かな? バスを襲って無理やり転校させてこよう」
かる~いようにホシノは言うが、それ多分その学園と戦争になると思うんですけど……というか犯罪でしょ。
「ん、じゃあ銀行を襲おう」
シロコがバッグの中から目出し帽を取り出しながら自信満々に言う。
「は? 銀行を襲う?」
怪訝そうな顔。当たり前だ。この世界とはいえ、流石に銀行を襲うのは命がいらないのかな? と思うような凶行だ。
「大丈夫。やり方は何度もシミュレーションしてある」
「でも、流石に犯罪ですし……」
アヤネちゃんが止めると、シロコは少し膨れ面で目線を向けた。
「そんな顔しても、ダメなものはダメです」
それにきっぱりと言うと、シロコは諦めたように目出し帽をバッグに戻した。
「じゃあ、次は私ですね。私の案はスクールアイドルです☆」
ノノミちゃんが電波みたいなことを言い出して混乱する会議。そうして結局は……
「せっかく先生がいるんだし、先生に決めてもらおうよ」
こうなる。先生は少し困惑した顔をするけど、すぐにこちらを向いた。……確かに頼ってっていったけどさ。こういう困るところだと本当に、本当に困るって!
まあでも、何がいいかなんて決まってる。前世も選んだ選択肢。
「銀行を襲おう」
「おおー、あれだけの怪我をしたのにもう血気盛んなんだね。先生は?」
”勿論、キタノがそれを選ぶなら私も。銀行を襲うぞー!”
そう言うと、アヤネちゃんが顔を伏せていることに気がついた。他のアビドスメンバーが、やべっ! と言いたげな顔を浮かべた瞬間、ある設定を思い出した。
「いい加減に……してください!」
アヤネちゃんは……怒ると怖い。飛んでいくテーブルを見ながら、漠然とそう思わされた。
●●●
柴関ラーメンに着くと、例のごとくバイト服に着替えたセリカちゃんが案内してくれた。またここなのね……と少し呆れた表情だ。
皆で思い思いのラーメンを頼んで、食べ始める。私のは先生が奢ってくれるらしい。わーい!
「そういえば、言ってなかったことがある」
少し食べて、暑さのために一息ついた隙に、シロコが話しだした。
「キタノが襲われたっていう戦車、カイザーの物だった。多分、あの襲撃は裏があると思う」
まあ、そうだよね。ただのヘルメット団があんなの持っているわけもないし。そもそも一度ストーリーで見たからわかる。どうせカイザーPMCが関わってる。
「まあいいよ」
「軽いですね!?」
アヤネちゃんがびっくりしたような声を上げた。別にそんなに驚くことかな?
「別に焦ったって何もないし、もし手を出してきたら返り討ちにすればいいだけだし?」
そもそも今回は遅れを取ったけど、落ち着いた状況なら負ける気がしない。流石にビナーくんとかを完全に制御下に置いてきたらきついと思うけど、そんなことはないしね。
そんな話をしていると、とある一団が店内に入ってきた。
「すいません。ここで一番安いメニューってなんでしょうか……?」
見覚えがある紫の華奢な女の子。
「柴関ラーメンが580円ですよ! 定番メニューでおすすめです!」
セリカちゃんがそう言うと、後ろから個性が強そうな三人が入ってきた。特に、リーダーらしき少女は喜色満面の笑みで店舗内に入ってくる。
「あ、あったわ! やっぱり探せばあったのよ!」
「じゃあ、席にご案内します!」
「ああ、一つの席で大丈夫です。どうせ一人前しか頼まないので」
「い、一人前!?」
「で、でも箸は四人分ください……」
その話を聞くと、何故かセリカちゃんは奥に走っていく。
そう。便利屋参上イベントだ。隣の席であることもあり、皆の顔もしっかり見ることができる。……あ、カヨコの顔が……おいたわしや……。
ラーメンが到着すると、とんでもない高さまで盛られた柴関ラーメンがテーブルに置かれていた。
「ええ!? これ、十人前はあるんじゃない!?」
「いえ! これが柴関ラーメンです! だから気にせず食べてください!」
「ああ。手元が狂っちまってよ。少し多くなっちまったが……気にせず食ってくれ」
その言葉に感動したように面々はラーメンを一緒に来た取皿に分け、食べ始めた。
「あ、おいしい……」
その言葉を聞いて、ノノミちゃんが爆速で隣の席に移った。面白そうだし私も行こ。
「どうかな? 美味しい?」
カヨコの隣に気配を消して近寄って、耳元でささよく様に言うと、ビクッとしてこっちを向いた。
「どうもー、カヨコ。久しぶり」
「え!? キタノ!?」
おお、驚いてる。珍しい顔だ。
実は私は中学の時にゲヘナに遊びに行っていた時結構な頻度であっていた友達だ。おそらく何かが原因で会えなくなっていたのだが、便利屋には入るなら大丈夫でしょ、ということで再会を待っていたのだ。
「相変わらずかわいいね。猫ちゃんみたいだよ」
耳元で囁いてあげると、やっぱりビクッとして、可愛い顔で睨んでくる。本人は怖い顔だとか言ってるけど、そんなこと無い。可愛い系よね。
カヨコにはいたずらで前から耳元で囁いたりしてたから、こういう反応をしてくれるようになった。
「またあえて嬉しい。また前みたいに遊ぼうね。それだけだから」
席を立って、元の席に戻ろうとすると、後ろから声を掛けられた。
「……私も少しは楽しみにしてる」
キタノ人脈広すぎない??