前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
便利屋の背後関係を洗うべく、私達が選んだ場所は……ブラックマーケットだった。
「先生。多分大丈夫だと思うけど、もし何かあっても私が守るから安心してね」
”頼もしい。……もしキタノになにかあったときも、私が助けるから”
おおう……湿度……。正直私になにかあったときは先生だけじゃどうしようもないことだと思うから、逃げてほしいんだけど……まあ、それを聞く人でもないか。愛されてることは悪いことじゃないし、受け取っておこう。
「なんだかお二人って、特別な絆で繋がってるような感じがしますよね」
アヤネちゃんが疑問の顔で尋ねてくる。そういえば、まだ先生とも出会って数週間だ。一月経ったかな? くらい。
「うーん、なんとも言いにくいなあ……なんでだろ?」
”キタノが言ってくれた通り。運命に引き寄せられた二人だから”
先生は少し誇らしげに、胸を張りながらそう宣言するように言った。アヤネちゃんは要領を得ないと言った様子で首を傾げる。後ろでこれを聞いている他の面々も同様に。
「えっとね……初めて見たときから、お互いを信用して、信頼して……そんな関係だったからさ」
”うん。まるで他人とは思えない親近感とか、心からの安心とか……そんなのがたくさん湧いてきて”
「一言で言うと、相性がぴったりなんだよ」
”そうだね。最初からそんなもんだから、一緒に仕事を手伝ってもらったりしたりしていくうちに更に仲も深まって……ていう感じ”
「へえ……」
皆は興味深そうな顔をしていた。私と先生の関係なんて聞いて、面白いのだろうか。
それにしても、私と先生、本当に相性がいいみたいなんだよね。雰囲気も、やることも。一緒に居て疲れないし、何ならかえって楽しい。そういうところも、特別な絆というくらいの仲の良さに見える理由だったりするかな。
ちょこちょこ皆から飛んでくる質問やらに答えていると、奥の方から、見覚えがある人が走って向かってくるのが見えた。
「ヒフミ先輩!」
「え? キタノちゃん?」
走って去ろうとする足を止めて、こちらに近づいてくるヒフミちゃん。相変わらずペロロのバッグを背負っている。
「急いでるみたいですけど、どうかしました?」
「あ、そういえば……」
ヒフミ先輩が説明をしようとした瞬間、走ってきた方向から声が響いてきた。
「おい! そっちの女を渡してもらおうか!」
あー、なるほど。あれね。不良に追われてる最中だったってことか。となると……
先生の方を見ると、やりすぎないでね、という気持ちが籠もったような目線を返される。わかってるって。
「ちょっとさ、ブラックマーケットとはいえ、こんなところで騒ぎを起こすなんていいのかな?」
近づきながら、不良にそう言う。すると、やはり怒ったような様子で向こうもこっちに近づいてきた。
「あ? コイツのコートの下の制服……私達をボコしてきたトリニティの自警団のヤツと一緒じゃねえか?」
「なら都合がいいな……! お前もろともボコして攫ってやるよ!」
やっぱり、話を聞く気はないみたいだ。でも、好都合。銃を構えるには少し時間がかかる。私はすぐにコートの中に手を入れて、ガバ号を取り出し、握って安全装置を解除。そのまま相手が構え終わる前に手前は顎近く、正面は脇腹から斜めに、奥の奴らは顔に当てていった。
「おお……」
シロコが驚きの声を上げる。
「はあ……襲われたときも思ってたけど、相当な強さね」
セリカちゃんも少し呆れたような声で、褒めてくれた。
「さ、これで大丈夫です? ヒフミ先輩」
「あ、はい! 良かったです……ここで大規模な戦闘をしたりすると、マーケットガードとかも来たりするので……」
「まあ私も結構な頻度で来るし、それは理解してますから。これくらいなら小競り合い認定だし、すぐ終わったし……まず来ないですし。向こうも暇じゃないわけなので」
マーケットガードは結構忙しい。まあ無法地帯だっていうのもあるし、結構でかいから、常にどこかしらで問題が起こっている。
「あ、助けて頂いたお礼……」
「じゃあ、後ろの皆はブラックマーケット初心者なので、案内してくれませんか?」
「でも、キタノちゃんは結構来るんじゃ?」
「私は普通の買い物はしないんですよ。だから、武器の区域しか詳しくありません」
そう言うと、皆は不思議そうな声を出した。
「普通の買い物? ブラックマーケットに普通のものが売っているんですか?」
「ヒフミさんも、なにを買いに行ってたんですか? てっきり違法な火器や戦車でも探しに来ているのかと……」
「ああ、それに関しては……」
ヒフミ先輩はバッグを弄り、白いものを出した。
「これを買いに来ていたんです!」
アイスを口に突っ込まれているペロロのぬいぐるみだ。かわ……いい? 流石にちょっと一瞬考えるデザイン。しかし、そのペロロについて、ヒフミ先輩は語りだした。
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語り終わって楽しそうな顔をするヒフミ先輩。情熱が凄すぎる……モモフレンズ好きには共感できるところもあったが、流石にそれに数万は……という感じ。ちょっとね……
「それで、ここの案内でしたっけ?」
「あ、そのことなんですが、行きたいところがあるのでいいですか?」
私がそう言うと、皆が首を傾げる。
「武器屋です。安心してください。ここの外縁にある正規店なので」
歩いて行くと、そこそこ近いところにそれはある。外で和菓子を売っているロボットに話しかけると、
「今日はどっち?」
と聞かれた。皆はやはり首を傾げる。どっちってどういうこと? そんな感じかな?
「……武器」
「ん。わかった。じゃあ後ろの人達は?」
「知り合い。悪い人は居ないよ」
「了解。生体情報を登録しておくね。いつでも大丈夫にしておく」
頭を撫でて上げると、「ロボットだから、嬉しくなんてないから……」ともじもじした様子。かわいい。奥に通されるが、底には階段がある。底に足を踏み入れると、地下室だからか、皆、少し緊張したような顔で降りてくる。そんなに緊張しなくていいのに。
「よ。来たよ」
「おお、お前か。いいのが入ってるぞ」
「聞いたから来たんだけどね。この前頼んでたのも出来た?」
「おう……ちなみに後ろのは?」
皆はこの店の店主をやっているロボットに小さくぺこりとお辞儀をしていた。うーん、緊張しすぎじゃない? ちなみに先生は目を輝かせてる。武器いっぱいだもんね。わかるよ。
「お友達。皆もやっぱり武器を持ってるわけだし、贔屓にしてるここをおすすめしたくって」
「おお、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。後ろのも緊張しなくっていいんだぜ? ここは一応合法の店なんだ。地下にあるのも、一見さんお断りって言うだけで。あんたらは一度来た以上、いつでもウェルカムだ」
「ちなみに、キタノはどうやってここを知ったの?」
セリカちゃんが聞く。確かに、一見さんお断りならなんで知ってるの? ってことになるか。
「まあ、コイツの銃が壊れてたからだな。中学生みたいなのがブラックマーケットの近くで銃を壊して満身創痍なんだ。それを助けないほど人道がないわけじゃねえ」
まあ人道って言っても俺はロボットなんだけどな、ガハハ! と豪快に笑う店主。その節は本当にお世話になりました……!
「今の私のメインの銃……これ、ミニ君マーク2なんだけど、初代はミニ君だったんだよね。ただ、戦ってたらバレルが焼けちゃって、使えなくなって……そこを拾ってもらったのが初めての出会い。その時のミニくんに大口径化を始めとする改修をしてもらったのがこのマーク2だから」
リアル世界で言う仕様で言えば……Mk 48に近いのかもしれない。ただ、無印のハンドガードとか、動作機構とか、発射速度とかは違うから、やっぱりこの世界でのミニ君マーク2そのものなのかな。
「まあ、それからは懇意にしてもらってるってわけよ。拳銃からなにから、ウチ製だからな! 気になったらどうぞ。勿論カスタムのオーダーメイドも受け付けてる」
店主のフレンドリーさに、皆は少し緊張が解けたのか、各々気になる銃を見始めた。誰か一本でも買うかも。
「じゃあ、注文してたの、よろしく」
「おう。調子良好だぞ!」
そこにあったのは、ロクヨンちゃん……カスタムされた私だけの64式小銃だ。かわいいね。
弾もミニ君マーク2と同じ7.62ミリだから、弾を二種類持たないといけないみたいなこともないし、結構私に合っている銃だ。
「軽いなあ。取り回ししやすいし」
「給弾関係とか、連射機構関係とかは完全にカスタムしてるから、使い勝手はキタノ。お前さんにピッタリあわせられてる」
「ありがとう」
おう、といってにっこり微笑む顔が顔のモニターに映る。
「ああ、あと、面白いものっていうのがこれだ」
後ろから持ってきたのは、鞘に入った打刀だ。小振りなサイズで、鞘には佩環がついている。
「どうだ? 百鬼の方に少し残っているカタナってやつだ。まあ反りが浅いが……いいか?」
「これでいいの。もらっていい?」
「おう持ってけ。代金は安くしといてやるよ。その代わりこれからもご贔屓にな」
カードで決済すると、鞘の佩環に綱を通して、私の腰につけてくれた。
「お前さん、普段着は和服だろう。それを着てる腰に差せばいいだろう。制服ならこれで」
小振りだからか、身長の低い私にもぴったりだ。カチャカチャ物々しい音がなるが、これはロマンの範疇だから問題なし。
”キタノ、それって”
さっきまで拳銃を眺めていた先生は、私の刀に気がついて、近寄ってきた。
「これ?」
鞘を少し前に押し出して、刀身を抜く。キラリと少し青い刀身が部屋の光を反射した。
「刀だよ。青いけど」
”うん。青いけど、刀だね”
「近接攻撃に最適なものが欲しかったっていうのもあるし、ほら、ロマンってやつ」
”わかるよ! キタノ!”
ガッチリと握手をする。先生はやっぱりロマンがわかる男だ!
”あ、そういえば。店主さん。私に拳銃を作っていただけませんか?”
「ほう……? 作る、とな」
先生はどうもほしい拳銃があるようだ。だからこっちに近寄ってきたのかも。
「作ると言っても、ほとんどの拳銃はそこのガラスケースの中に入ってると思うが?」
”キタノと同じものを”
「……ほーん」
店主はにやっとした笑みを浮かべて、横目にこっちを見てきた。……ちょっとムカつくんだけど!
「あんたはキタノのなんなんだ?」
その問いに、先生は迷わず答えた。
”シャーレの相棒で、一番の親友で、運命に引き寄せられた二人”
先生そのフレーズにハマり過ぎでは? まあ、店主さんは笑顔だからいいのかもしれないけど。
「わかった。作ってやるよ。ただ、ちょっとだけ変更しよう。キタノ、お前のちょっと貸してくれ。ちょっと変えるがいいか?」
「いいよ」
手渡すと、店主は私と全くおなじ型……コルト製時代のMEUピストルに、木製グリップがついたものを取り出した。
そうして私のものもおなじ机に置き、どちらも片側だけグリップを外した。
「お前さん達、なにか溶かせる素材で固くて丈夫で、すぐにお互いの物だとわかるものとか、ないか?」
先生を眺める。うーん……そんなのあるかな……シャーレのバッジ……はだめ。所属を示すものだし、再発行してもらえるか……じゃあ、
”「ボタン?」”
声が重なる。お互い、上着を着ているため、金属製のボタンが付いている。これなら固くて丈夫だろう。
「じゃあ、そうだな……全部と一つ、どっちがいい?」
私のコートはもう新しくしないといけないのは確定だし、先生も一個はずしたらもうすべてのボタンを外そうが、一つだけだろうが、ボタンを付け直さないといけないことには変わりないだろう。
私が全部取って渡すと、先生も全部取って渡した。ふたりとも上着があるのに、全くボタンがついてないのが面白くて笑いが出た。
店主は奥に行って、作業に入る。
「なんか探してるの?」
待っている時間暇だったこともあり、近くの真剣そうに棚のパーツを見ているシロコに声をかけてみた。
「ん、いろいろ見てみてた。カスタムのパーツも豊富で、面白い」
この世界ではカスタムが基本なので、カスタムパーツもたくさんある。銃器が置かれている店には、大体銃器以上にカスタムパーツが売られていることも多い。
前世で言うところの、雑貨屋のような立ち位置で、カスタムパーツショップがあったりするしね。
「そうだなあ……あ、これ似合うんじゃないかな」
白い狼のキーホルダーだ。ストックにあるキーホルダー付けに取り付けるタイプ。シロコが付けてるのを想像すると、めっちゃかわいい。
「ん、それはいいけど……どうしようかな」
「ごめん店主! 勝手にレジ通していい?」
大声で呼びかけると、いいぞ、返事が帰ってきた。
そのキーホルダーをレジに通す。意外とお買い得な値段だ。そもそもここは重火器を取り扱う店にしてはかなり良心的な値段なのだけれども。
シロコがその早い動きにびっくりしている隙に、カードを通して会計を済ませた。そして見比べるようにか、手に持っていた銃にそれをそっと取り付けた。
「はい、プレゼント。……ほら、似合ってる」
そんなに大きいものじゃなかったけれど、ワンポイントがいい感じにはまって、可愛さが強調された。
「……ありがとう、キタノ」
「うん。いやあ、買ってよかった。こんなに似合うなんて……」
ルンルン気分だ。褒められて、少し恥ずかしそうな顔もかわいい。全部かわいい!!
「おい、そろそろ出来たぞ」
店主から呼ばれ、カウンターに近づく。そろそろ飽きてきていたのか、皆も一緒になって近づいてくる。
「コレがお前さんの。こっちは先生のだな」
変わった点。それは……
「グリップを作り直したぜ。ボタンから作った。あんたらのボタンがでかくて多いっていうのが功を奏したな。いい感じに仕上がったよ」
いつもの木のグリップの反対側には、金属でできたシャーレ配給のボタンとおなじ色の鈍いグレーに光る色。その中心には、ボタンに描かれていたシャーレのロゴの意匠の部分がそのまま見えるようにデザインされていた。
先生のものにも反対側には、私のコートに付いていたアルミのボタンと同じ色のグリップの中心には、ボタンに描かれていた星座の意匠がそのまま見える。
「ありがとう……! これ、嬉しい!」
「ああ、いいってことだ。コレでグリップを作れって持ってくる輩がいるから、その練習にもなったからよ。意匠を真ん中に残すのが大変だったがな」
”店主さん。本当にありがとうございます”
先生は大人のカードで会計をする。その顔は本当に満足そうで、また幸せそうでもあった。
挨拶をして、外にでた。大体昼くらいかな? 歩いていると、少しいつもより足取りが軽そうな先生が目についた。
「先生、何か機嫌良さそうだね」
”うん。結構このグリップが嬉しくて”
先生は、愛おしそうにグリップを撫でた。
「そんなに、かな?」
”うん。私は銃を撃つのは怖いけど……こうやってキタノのことを感じながらなら、もしもの時も頑張れる気がする”
「重いなあ……! まあ、それで先生が満足してくれるなら良かった」
だって、上機嫌なのは、別に先生だけに限った話じゃないからさ。
「私もさ、相棒らしく、おそろいに出来て嬉しいよ」