前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
なので、本編未登場キャラが出ます。
なお、キャラ崩壊等、ご注意ください……
「え、ええ……私のASMRなんて、需要ある?」
正面にいるゲーム開発部のモモイに、質問をぶつける。すると、真面目そうな顔をして言う。
「絶対需要あるって! ほら、私達の活動資金も結構カツカツで……特に早急に集めたいから、ここは人助けと思ってさー。お願い!」
「わ、わかったけどさ……じゃあ、どれを読めばいいの? 流石に機材とかはあるでしょ?」
「やったー! じゃあ、これをお願い! あ、勿論、アドリブとかも入れてくれていいからね?」
「はいはい……って、二つ? 二種類も撮るの? って、先生用、生徒用って……」
「大丈夫! 絶対売れるから!」
先生用って何だよ……誰向け? と思いながらも、ブースの中に呼ばれるので、中に入る。そこにはミドリが音響として、中に座っていた。
「お姉ちゃんがごめん。でも、流石にこの資金じゃ新しいゲームはできないから」
「うん。まあいいよ。ゲーム開発部のためになるなら。ただ、新しいゲームができたら、一番にやらせてね」
「……! ありがとう。もちろん、一緒にやろう」
じゃあそろそろ、と、音響機器の調節に入ったミドリ。それをボーッと見て、オッケーの合図がでる。
深呼吸して、目の前の人の頭形のマイクに、声を吹き込み始めた。
●●●
”買ってしまった……”
ゲーム開発部から販売されている、キタノのASMR。これは一瞬でキヴォトス内に広まった。
最初こそ、少し遠巻きにそれを見ていたんだけれど、どうも『先生用』なるものがあると聞いてからは一気に興味が惹かれ、とうとう買ってしまった。
少し思い出すのは、たまに疲れてそうだからってしてくれる、膝枕だ。正直豊かとは言えない肉付きだけど、たしかに女の子を感じる柔らかさ、匂い……そして、耳をくすぐる声。あれが今、いつでも聞けるものとして、パソコンのデスクトップにある。
私はこのために買った、百万クレジット以上をつぎ込んだヘッドホンを装着した。そうしてマウスをクリックする。
「せーんーせーい。買っちゃったんだ。いけないんだー」
背筋がぞわりとした。心地よさが脳を支配し始める。咎めるような内容であるはずのその言葉は、いたずらっ気が多分に含まれており、こちらをからかうように脳に入ってきた。
「ね、先生、私のこと相棒って言ってくれてるよね。それなのに、そんな子のASMRなんて買っちゃうんだー」
くす、と少し笑って、続ける。
「冗談。先生が疲れてるのは、私が一番知ってるし、ASMRには、なにかを癒す効果があるのも知ってる。だから、この音声で、癒やされていってくれたら嬉しいな」
そうして、ごそりと、布がこすれるような音がしたかと思うと、キタノはふう……と息を抜いた。
「じゃあ、一緒に寝ようか」
どきり、としてしまう。何度か一緒の布団に入ったこともあるが、この音声はあまりに刺激が強かったのだ。少し笑いが混じった言い方は、照れ隠しにも、からかいにも取れる。
「もしかして、少し緊張してる? あはは、一緒に寝るからって、そんなに緊張しなくていいんだよ? これは頑張ってる先生へのご褒美だから……」
それから、囁くように言った。
「先生と私は、運命共同体だって言ったでしょ? じゃあ……ぎゅー……ほら、安心した?」
もう一度布がこすれるような音がなると、今度は、キタノの心音がなり始めた。とくん、とくん。規則よくなっているそれは、不思議と安心する。
「こうやって抱きしめあってると、安心するよね」
気づけば、私はパソコンの前から、ベッドに横になっていた。まるで本当に横にキタノがいるような感覚……って、え?
ヘッドフォンを外して、横を見る。そこには、顔を真赤にして少し不機嫌そうにしたキタノが居た。
「へ、へー! 先生は、本人の目の前でASMR聞きながらベッドに潜り込むんだ!」
”いや、これは事故で……!”
あわてて弁解しようとすると、ギュッと抱きしめられ、心音が聞こえるようにか、耳を胸のあたりにピッタリとくっつけられた。
「そんなに良かったなら、実演してあげますよ! さ、ふうー……」
キタノは、空いている方の耳に息を吹きかけた。姿勢的に距離があるので、余りぞわっとすることはなかったのだが、それが却ってリアルに感じ胸が跳ねる。
「あ、いまドキドキしてる」
”か、勘弁して……”
その日は、とことんキタノにリアルASMR聞きながらで甘やかされた……
●●●
ゴクリ、と思わず喉が鳴る。
「……買ってしまったな」
ティーパーティーの一員として、いいのか少し迷った。だが、咎められることではない……はずだ。あくまでこれは個人的な趣味のひとつなのだから。ただ、友人……親友とも言える存在が息を吹き込んだASMRという存在に、若干の背徳感がある。
「ともかく、聞いてみないことには始まらないだろう」
イヤホンを付けて、リラックスできる、ベッドに寝転んだ状態でそれを再生した。
「聞こえる?」
ビクッとした。始まった瞬間、まるで耳元で囁かれているような感覚に陥った。これはなかなか突然過ぎるよ……
「あは、よかった……今日は、落ち込んでるように見えて……それで、心配で来ちゃった。ね、隣いい?」
ごそりという音とともに、少し息を吐いた音がした。妙にリアルだ。
「あなたがなにに悩んでるのかは知らないけど、大丈夫だよって、言ってあげたかったから」
さっきよりも、若干近いところで、声が聞こえる。これは……効くね……!
ガサッという音がなる。抱きしめられたような……そんな心地のいい音だ。
「よし、よし。大丈夫だよ。ほら、温かいでしょ? 私の体温だよ。貴方のことが大好きな、一人の人間の体温」
もっと、もっと近くなった声は、もうもはや、耳元すぐそこで囁いているような、そんな気持ちよさがあった。脳から溶かされているような……そんな良さがある。
そこからは、いわゆる、「イチャイチャ」のシーンが始まった。普段のキタノであれば言わない……いや、言うかもしれない……ような歯の浮くようなセリフをいい、時には向こうも恥ずかしがってくれる。
その度に、何度も何度も私は心臓を揺さぶられた。
「こ、これはいけないね。もしかしたら、弱い人ならとっくに倒れていてもおかしくない……」
実際、ナギサ辺りは今頃倒れているんじゃないだろうか。
そんなことはお構いなしに、音声は進んでいく。
「ね、もう離れるの? もうちょっといっしょにいてほしいな…… 大切なあなたにだけしか言えないけど」
心が撃ち抜かれた。きっとここに本人が居たら、ベッドに引きずり込んで撫で回していたかもしれない。それくらい庇護欲を誘われる、弱々しさと可愛さだ。
なんてものを作り出してしまったんだ、キタノ……これでは私も……
「じゃあ、そっちから抱きしめて? たまにはあなたからしてくれたら嬉しいかも」
ああっ……これは……!
●●●
「というわけで! たくさん売れたー! ありがとー!」
喜ぶモモイを、多分私は信じられない目で見ていると思う。だって、私のASMRだよ? まじで? 先生用が売れたのは知ってるけど……
「ミリオンセラー級だよ! それこそ、今年の部門別で一位を狙えるくらいの! ミドリもしっかり買ってるしさー!」
「ちょ、ちょっと! お姉ちゃん!?」
ミドリは恥ずかしそうにモモイを睨んだ。そちらに目線を向けると、顔を赤くして目をそらされてしまった。残念。
「まあでもさ、これで資金は集まったんでしょ?」
「うん。問題なさそう!」
「じゃあ、良かった」
みんなのためになったならよかった。若干恥ずかしかったけど、意外と楽しくて、アドリブも沢山入れちゃったし。またこんな機会があれば、したいな……
キタノは囁いたり、演技したりするのが得意なので、ASMRの質はやばいです。
それはもうすんごいのができてます。だからセイア様もああなっちゃったんですね……