前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
少し急ぎつつ、皆を探していると、見つけた。問題なく逃げられたみたいで、覆面も外して皆で談笑している。
「おーい。こっちも終わったよ」
手を振りながらそれに合流する。
「これで全員揃いましたね」
「うん。キタノも怪我とかなさそうで良かった」
”キタノが一人で行ったって言われたとき、すごく心配したんだけど”
いつの間にか合流していた先生は私を観察するように見た後、怪我の跡がないと見たか、胸をなでおろした。
「じゃあ全員揃ったし、これこれ、どうする?」
まあ、そうなるよね、という感じ。おそらくもう中身は見たのだろう。一億近くの金だ。
「置いていこう」
シロコは言う。
「は? なんで!?」
セリカちゃんが噛みつくが、シロコは動じない。確固たる信念があるかのように。
「……そもそも、私が持っていくって言っても、ホシノ先輩がきっと止めるよ。先生も、キタノも」
「そうだねえー。こういうのを使っちゃうとさ、きっと、これからもこういうのにすぐ頼るようになるよ。後輩たちが、そういう犯罪に手を染めるのは、おじさん見たくないかなあ」
ホシノは、穏やかにそういった。
「そもそもさ、こういうお金を使うくらいなら、それより先にノノミちゃんの光り輝くカードを頼ってたよ。そうじゃないってことはさ……」
「そうだよ。私が言うのはなんだけど、アビドスの借金はアビドスで返していくのがいいと思う。それがアビドスのアイデンティティにもなるでしょ? 乗り越えるまでは辛いけど、乗り越えた後は、どこの学園にも負けない強さを手に入れられると思うよ」
セリカちゃんは、何か言おうとして……顔をそらした。不満も、飲み込んでくれるのだろう。
「ちょっと待って下さい! 何者かが近づいてきます!」
「ま、待って……! やっと追いついた!」
そこに、一人の来客が来た。そしてそれを追うように、あわせて四人で。
「さっきの銀行襲撃、見事だったわ! ブラックマーケット最大の銀行を相手に、たった五分で完了させ、挙げ句ガードたちまで撃退するなんて……」
アルちゃんは、目をキラキラさせながら、覆面を被り直している私達に憧れの気持ちをぶつけてくる。後ろのカヨコと目が合うと、肩をすくめて呆れた笑みを浮かべた。残りの二人もいつも通りニコニコと笑みを浮かべたり、不安そうな顔で銃を握りしめていたりする。
「わ、私も頑張るわ! アウトロー目指して! あ、名前を教えてくれないかしら!? 銀行を襲うくらいだもの! 名前くらいはあるわよね!? 正式な名称とかじゃなくていいから……私が覚えておけるように」
その問いに、話し合いかと思われた瞬間、ノノミちゃんは笑って答えた。
「私達は……覆面水着団!」
「覆面水着団!?」
うわあ……なんというか……ちょっとセンスがね……と思いながら、アルちゃんの方を向く。流石に憧れている人たちがそんな名前だったら……
「やばい……超クールだわ……!」
「ぶふっ!」
なんでだよ。ニッコニコでキラキラ輝く目線を向けるほどの組織名じゃないと思うんだけど。皆も少し困惑した顔をする。純粋すぎない? 守ってあげたくなってきた……
「うへー、本当はスクール水着に覆面が正装なんだけど、今日は緊急だったから覆面だけなんだー」
「普段はアイドルとして活動してて、夜になると、悪人を倒す正義の怪盗になるんです! そして私はクリスティーナだお♧」
妙な設定を次々付け足していくホシノとノノミちゃん。ちなみに先生は少し離れたところでこれを見ているのだが、めちゃくちゃ笑ってる。しょうがないよね。私も初見のときは笑ったもん。今ですら笑わないよう必死だし、さっき一瞬吹き出しちゃったし。
「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ」
「な、なんですってー!!」
「ぶっはははははは!」
「なんですってー!!」に耐えられなくなった私は、ついに大きく笑う。この場は混乱状態だ。
少し奥の方に目線を向けると、カヨコは少し引いたような目でこちらを見ていた。
「私達はこのへんで! アディオス!」
そろそろ、ということでさようならの挨拶をして、一応急いでその場を離れる。私はもう腹筋が痛くて、一生懸命なんだけどね……!
●●●
アビドスの到着して、一息つく。色々あったし、皆少しは疲れてるのかな?
そこで、ノノミちゃんが焦ったような声を出す。手をせわしなく動かし、あるはずのないものを探すような、そんな素振り。
「な、無いです。あのカバンが!」
「え、ええ!?」
お金が大量に入ったカバン。それを持ってくるのを忘れてしまったのだ。
まあ、しょうがない気がする。あれだけメチャクチャな状態になっていたらね……ついつい忘れ物をしてしまっても誰も責めることはできないだろう。
「まあ、書類はここにあるし、大丈夫でしょ」
「うん。どうせ捨てるつもりだったんだし」
私とシロコが言うと、セリカちゃんは「皆お人好しすぎだって……」と言う。
「まあさ、あれで食べるのにも困ってる人がなにかを食べられたら、それはいいことでしょ?」
私の言葉に、ヒフミちゃんも頷く。セリカちゃんは若干まだ納得できていないような感じだったが、もう忘れてきてしまったものは仕方がない。渋々と言った様子で納得を見せた。
「それにしてもさ、この書類だよ」
書類を持っているシロコの方を見る。皆もそれは理解している様子で、神妙な顔でうなずいて、部室へ急いだ。
部室に全員で集まる。少し張り詰めた空気の中、シロコがその書類を開いた。
「……うちに集金に来た情報。間違いないみたい。そして……」
その後に記されていること。それは皆を憤らせ、また言われようのない悲しみを与えた。
「なによコレ……! 私達から集金した後、カタカタヘルメット団のもとに直行して、金を払ってたってこと? 私達の頑張って稼いでいたお金が、よりにもよって襲ってきていたところに流れてたってこと!?」
セリカちゃんは机を叩いて悔しさをあらわにした。ただ、それを咎められるものはいない。皆も多少なりとも怒りがあるというのもあるが、もっと大切なことに気がついてしまったからだ。
「任務、カタカタヘルメット団……つまり、カタカタヘルメット団がこの学校を襲っているバックには、カイザーローンが……?」
しーん、と静まり返る。誰もなにも言えないのだ。
「多分だけどさ。これはカイザーローンだけじゃなくて……カイザーコーポレーション。つまり、大本から関わってるんだと思うよ」
「……はい。そう見るのが妥当でしょうね」
私が言ったことに、ヒフミ先輩が同意する。
教室には、重い、重い、鉛のような空気が広がる。この世界の超巨大企業、カイザー。それは学生ごときが対応できるものではない。でも……
私はここまでなにも言わなかった先生に目線を向ける。うなずいた先生は、その空気の中によく通る声で言った。
”大丈夫。私もキタノも、アビドスに付いてるから”
それだけだったけど、空気は少しほぐれた。
●●●
「いろいろありがとうございました。」
「変なことに巻き込んでごめんなさい。ヒフミさん」
「あはは……」
否定できず、曖昧な笑いで返すヒフミ先輩。
「今回のは、私とヒフミ先輩の学校、トリニティにとっても完全に悪いことじゃない。なんてったって、カイザーが反社会勢力と繋がってる証拠になるから」
「はい。戻ったら、このことをティーパーティーに報告します! あ、勿論キタノちゃんが元気そうだったことも報告しておきますね!」
「うん。助かります。よろしくおねがいしますね。私はやることがまだあるので」
ヒフミ先輩に手をふる。
「皆さん! 今日は楽しかったです! またお会いしましょう!」
「うんうん、またねー、ファウストちゃん!」
「よ! 覆面水着団のリーダー!」
「あはは……」
「ヒフミさんが困ってるじゃないですか……」
ヒフミ先輩に手を振って別れを告げる。短い時間だったけど、濃い時間を過ごせた一日だった。