前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい   作:うどんそば

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教官ごっこ

「先生を……?」

 

 アビドスの皆は、少しぽかんとした様子でそれを聞いていた。

 

「先生は、シャーレという中立機関で、更に強い権力があるから。それをゲヘナが握れば、二大校でも少しいい立場になる……それに、未来の条約にも関わってくるかもしれない。なんともアコちゃんが考えそうなことだよね」

 

 まあ、アコちゃんは頭もいいんだろうし、実際統率力もあるんだろうけども、いかんせん詰めが甘い。良くも悪くも平凡の域を抜けられていないのだ。

 

「という訳で、私達は戦力を行使するのもやぶさかではないのですが……?」

 

 奥からは、また沢山のゲヘナ兵が現れた。皆驚いた様子だ。そうしてこの場に緊張感が走る。本当に、こんなのを相手取って戦争をできるのか……?

 各自がコソコソと相談を始め、一触即発の空気の中、良く通る声が鳴り響いた。

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせてやらないと気がすまないわ!」

 

 あ、来たな。例のBGM。

 一気に場が明るくなる。大きな声というのは、人を動かすきっかけには十分だったのだ。

 

「よし、便利屋! 挟み撃ちするわよ! この対策委員会、こてんぱんにしてやらないと!」

 

「は、話が早い……!」

 

 カヨコが驚いた様に呟いた。

 

「ほら、もともと結構ノリがいい感じの子たちだったし、こういう不測の事態にも……ね?」

 

 そう囁いて返すと、カヨコは目を閉じて少し肩を持ち上げ、大げさに竦めて見せた。

 

「あーっはっは! 勿論、心配は無用よ! 私達便利屋は、信頼には信頼で答えるがモットーなんだから!」

 

 そのこちら側の様子に、アコちゃんは少し眉を上げて、驚いた様子を見せた。

 

「ここまで団結が早いとは、想定外でしたね。では、委員長が来る前に片付けてしまいしょう」

 

 アコちゃんが手を下ろすと、一斉に進撃してきた。

 

 うーん、ゲーム内では大軍じゃん!なんて思ってたけど、今の私からすれば、これくらいの数じゃあ私をどうにかすることすらできないと思う。

 何回か、ヒナと遊びに行ったときに、訓練に敵役として参加させてもらったことがあるけど、大隊クラスを始末したことあるんだよね。正直、カズサちゃんたちのほうが一人ひとりは強かったし、数がたくさんいればいいわけじゃないんだなって。

 

 ……というわけで、あんまり私は焦ってない。そもそも、ヒナが止めに来るという未来も知っているわけだし、連絡も入れてるし。

 

 まあ、先生も狙われてるわけだし、私も勿論ターゲットの一人。抵抗しないわけには行かない。

 

「じゃあ、私はどれ使おうかな……いつもどおりミニくんでいいか」

 

 肩に掛けた一番の愛銃は、久しぶりの大きな仕事を待ち望んでいたかのような気さえする。

 

 アビドス便利屋の連合は、正面から戦闘を開始している。先生は後方だが、アビドスの皆なら、すぐ気がつく範囲。

 

”キタノ、行ってくるの?”

 

「うん。一応敵役の訓練積んであげたこともあるし、教官みたいなもの。今回も実践訓練してあげてくるよ」

 

”そうなんだ。行っておいで。気をつけてね”

 

「先生こそ。ここは戦場だよ? 万が一にも、銃弾には当たらないように。アロナもよろしく」

 

「キタノ先生……!? わ、わかりました!」

 

「だから、今はもう先生じゃないって」

 

 タブレットから聞こえるアロナの声に、少し安心する。流石に先生はあたったら死ぬだろうしね。それは勘弁してもらいたい。

 

 駆け出して、まずは追っ手から始末することにした。硝煙の匂いに包まれたその場所から少し離れるように路地を通って、一つ外の道に出る。……いた。

 

「やあ、訓練でもしてあげるよ」

 

 正面に立った私は、煽るように言う。

 

「だ、誰だ! 撃て!」

 

 隊長らしき人物が指示を出すが……次の瞬間には倒れていた。急所を一発。簡単な作業だ。

 混乱した小隊は全く強くない。隊長の命令を死守するように教えられる風紀委員会は、上がいない状況に弱い。皆、とにかく私狙って撃ってくる。

 

「まあ、弱いやつなら効果的かもしれないけど、それじゃあ、イオリちゃんすら倒せないよ?」

 

 横に飛んでやれば、途端に狙いがずれて、射線管理も上手くできていないためか、誤射のため、さらなる混乱が生まれた。

 そこを急所狙いで一人一発で倒せば……はい。二十人小隊壊滅ってわけ。

 

 うーん、弱い。じゃあここから、この隊が合流するルートで侵入して内側から行こうか。

 

 行き先にあったのは、本当に広めの小路。端には両側のビルの外階段や空調の室外機が置いてあるが、そのいずれも人の気配を感じさせない。

 暫く進むと、前線へと行軍する本隊の近くに出た。音を聞くに、ここは前線にほど近い、しかし中枢寄りの丁度いい場所らしい。

 

 先程の小隊長が持っていた手榴弾を頂戴して、一発投げる。最初こそ、近くの人間のみがそれを確認した、そうしてその物体を叫んで知らせる前に……大きな爆発とともに一気に十人以上が気絶した。破片で怪我をしたものもそこそこいるようだ。

 

「どこからだ!」

 

 行軍は混乱した。どこからか投げ込まれた自軍の手榴弾、隊列が崩れるほどの大きな爆発。本来、前線に向かうはずだったのだろう隊が、前後に分かれて、犯人を探し始めた。これはチャンスだ。

 

 私は入ってきた風紀ボブちゃんを銃床でぶん殴って気絶させると、一気に外に躍り出た。

 

「ほら! 私だよ! 本隊の皆には、訓練つけてあげたでしょー!」

 

 笑顔でそう言うと、皆は震えだした。

 

「あ、悪魔……!」

 

「悪魔だなんて心外だなあ。種族は人間なんだけど……っていうか、ゲヘナの子のほうが悪魔は多いでしょ」

 

「そ、そんな事を言っているのではない! 皆、撃て!」

 

 また同じパターン。隊長が指示するが、私は真っ先にその隊長を倒した。しかし、その下には小隊長、またその下には班長などがいるらしい。どうも、しっかりと反省しているようで。

 皆はしっかり連携して、こちらを撃ってくる。でも……駄目だ。なんでこんなところで密集して取り囲む?

 

「こういうときは展開して、障害物なども上手く利用して倒さなきゃ。じゃないと……こうなるよっ!」

 

 周囲に連射をすると、あっという間に数十人を倒せた。腰、腹、首元、腿。この辺りを打たれると、どうしても弱いからね。何人かは一発じゃ倒れないタフなのもいた。ああいうのがきっと未来の幹部になるんだろうなと、一言褒めてからとどめを刺してあげた。私もちょっと風紀委員会の教官ごっこは楽しいのだ。

 

 周りは一掃したとは言え、まだまだ残っている風紀委員会。よく見れば司令部も近い。あれに向かって行くか。

 ここの惨状を見て、私をどうするか迷っているのを一撃で倒すと、そこに無理やり突っ込んだ。銃で壁になった人を倒しながら、上手く押し上げていく。包囲されても、後ろに立たれた瞬間に銃床で殴ったり後ろ蹴りを入れ、定期的に後ろやサイド方面にも斉射を行うことで回避する。

 

 何人やってきただろう。一人一発半くらいの銃弾で倒したから、約500人くらい? やりすぎたかな。さっきの前線前で百人近く倒したし、援軍の一個小隊も倒した。計700人くらい。前線や、まばらに残っている奴らを含めると、大隊くらいの人数を突っ込んできていたってことだね。

 さて、今私の目の前には司令部がある。司令部にはアコちゃんがいるが……中から泣き声がする。

 

「ご、ごめんってアコちゃん。流石にほとんど倒したのはやりすぎたかもだけど! でも襲ってきたのはそっちじゃん!?」

 

「うう……ぐすっ! ぜ、折角わだしだけでも役に立てると思ったのに……!」

 

「大丈夫だよ! きっとヒナも普段から助かってるって! だから自信持って!」

 

 それでも泣き止まないアコちゃん。司令部の中から、鼻を啜る音だけが聞こえてくる。するとそこに、広い影が現れた。

 

「なにをしているの?」




あーあ、泣かしちゃった
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