前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「この状況はなに?」
「いや、理由もないのに他学園の自治区で戦闘行為をしだしたから、相当戦闘に飢えてるのかと思ってとりあえず実践訓練でもしてあげたんだよ?」
「嘘つかないで。流石にこれはないでしょ……多分、アコも、シャーレ……つまりキタノも来るってわかっていたからここまで出てきたんだと思う」
ヒナはふう、と一息吐いて、呆れたように言った。
「キタノは強さのベクトルが他と違うんだから、少しは手加減してもらわないと困る。これで一個大隊が戦闘不能だし、治安維持にも問題が出てくる」
「でもさあ、ここで私がしないと、この大隊が他自治区で越権行為しようとしてたんだよ?」
「もう遅いわ。すでにしてるから」
ヒナは司令部のテントの中に入ると、すすり泣くアコちゃんに、反省文を言い渡し、再び外に出てきた。
「ここまでされて、本来は業務妨害にもなるし、委員長として黙っているわけにも行かないから、キタノと私が戦ってもいいんだけど……」
「ここでやるのは、ねえ。この辺りがぼろぼろになる覚悟があるならいいけど、それこそ、ゲヘナの越権行為とシャーレの不祥事になっちゃうし。アビドスがただかわいそうなだけだよ」
「まあ、別に何か思ってるわけじゃない。この子達もそろそろ鍛え直さなきゃと思ってたところだから、今回は問題ない。それに、今回そもそも悪いのは、勝手にここまで来たアコだから、責任はこちらにある。まあ、損害が大きいし、被害の体裁はあくまでキタノとの実践演習ってことにすることにするわ」
「うん。そうしといて。私もそのつもりでやったんだからさ」
ヒナはテントの隣のベンチを指差す。私が座ると、そのまま隣にヒナが座った。
「久しぶりに会えたと思ったら、キタノにやられた部下が大量に倒れてるとは思わなかった」
「ごめんって。一回教官した時の血が騒いでね」
「それはもう大丈夫。あと、また今度から教官役として呼ぶことにする。私よりも向いてそうだし」
ヒナは、珍しく足をブラブラさせて、なにか言いたそうに口をもごもごさせて、やがてきゅっと結んでしまった。
ああ、なるほど。
「久しぶりに会えて嬉しいよ。ヒナ」
きっと素直に言えなかったんだろう、私からそう言うと、こころなしか嬉しそうな顔で、小さく「私も……」とつぶやく。何だこの生き物、可愛すぎる。
「正直なこと言うと、こんなところじゃなくて、久しぶりの再会は平和な場所で遊ぶときが良かった」
「あはは、じゃあ一段落したらどこか出かけよう?」
「うん。そろそろ治安維持も一段落するし、そのときは一緒に」
遠くの銃声が一段落する。それと同時に、お互いベンチを立った。
「……キタノだから本音を言うと、少し憂鬱。今回はこちらが悪いのに、立場的には素直に謝るだけというのはできないから、めんどくさい……」
「大丈夫だって。応援してあげてるから」
ヒナの手を握ってみせると、安心したように少しだけ頬を緩ませ、すぐにいつもの真面目な顔に戻った。
ぱっと離して、ヒナの少し後ろからついていく。
前線では、便利屋とアビドスの面々に倒された前線の生徒が倒れていた。しかし、皆も結構疲労困憊な様子。こっちはたった数十人だったはずだけど……
「終わったんだね。大丈夫?」
「キタノ! どこに行ってたのよ! って、その人だれ?」
「あはは、奥の方を殲滅してきた。この人はヒナ。ゲヘナの風紀委員長だよ」
「奥の方を殲滅してきたって……なにあの地獄の光景!?」
皆して、奥の方を認識すると、驚いた声を上げた。まあ、たしかにびっくりするよね。任務とかでも、数百人単位と戦うことはなかったし、他でも同様だ。つまり、少しだけ体が強いキヴォトスの人間と言えど、一対超多数というのは珍しいということ。
「慣れてるからね」
しかし、私は一人で色々行っているので慣れている。流石に、中学生の時に、伝説の不良のところにちょっかい出しに行くのに友達を連れていけないし、勿論ブラックマーケットにも連れていけない。そういうときにトラブルになっても、自分ひとりで解決するしかないからね。
「それより! はい! ヒナ説明!」
「うん。……今回のことは正式に謝罪する。他校の自治区でこのようなことは、あってはならなかった」
でも、と付け足すように、
「私達はあくまで便利屋を追ってここまで来た。それを邪魔するのもまた、立派な越権行為……でも、今回はこのキタノがほとんどやったことはわかってるから、責任はキタノに行くことになるから大丈夫」
そう言うと、皆は、かなり呆気にとられたような顔をした。
「そ、それだけですか?」
「うん。それだけ。……今回のことは、私の目が届かないところで行われたことだから。合理性がないのも重々承知してる。それに、シャーレの先生に関しても、キタノが一緒にいるなら色々な意味で安心だから。便利屋に関しても、こっちでしっかりと対処する」
ヒナが受け答えをしていると、ホシノが歩いてきた。
「うへー、こんなところで皆どうしたの?」
「ホシノ先輩!? 今までどこに行ってたんですか!?」
「まあまあー。それにしても、この光景はなに?」
「風紀委員会だね。奥は私、手前はアビドスと便利屋のみんなで」
「やるねえ。おじさんも流石にびっくりしちゃったよ」
歩いてやってきたホシノと軽口をたたき合っていると、ヒナは少しびっくりしたような声を上げた。
「まさか……小鳥遊ホシノ? 随分と一年生の時から印象が……」
「お? もしかしておじさん知られてるのかな?」
「情報部をやっていた時の名残で、各校の要注意人物くらい頭に入ってる。特にあなたのことを忘れるわけがない。あの事件があった後、アビドスを去ったと……」
「まあまあ。ヒナ。いるものはいるんだから、余計な詮索は止そうよ」
ホシノが眉をひそめる。ホシノが抱えている闇、後悔……私は話は聞いてあげられたけど、それを背負ってあげられたわけじゃないから。まだ整理が必要な時間なはずだ。まだ子供であるホシノにも。
あ、と少し申し訳無さそうな顔をしたヒナは話題を変える様に言った。
「つまりここには、危険人物とされる者が私を含めると三校三人いるというわけね。……はあ、本当にアコはなんてことを」
その言葉に、アヤネちゃんが不思議そうな声を上げた。
「え? 口ぶりからホシノ先輩が危険人物ピックアップされているのはわかりましたけど、もうひとりって?」
「勿論、キタノ。キタノは特例で、中学生の時から危険人物としてピックアップされてたから」
「あはは、そんな危ないわけじゃないんだけどね」
「勿論、私も、キタノも、小鳥遊ホシノも、戦闘能力から選ばれてる」
「え、ええ!? キヴォトスでもトップクラスの実力者と同じ位のランクでですか……?」
「まあというわけで、私も戦うために来たわけじゃない。キタノは友達だし、もう一度言うけど、今回のは私の本意じゃない。それに、このアビドスの自治区で問題を起こしてしまったこと……」
ヒナは頭を下げた。
「このことは、私空崎ヒナが、ゲヘナの風紀委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する」
皆はまた驚いた顔をした。まさか二度も深々と謝罪をするなんて……と言ったところか。
「……というわけだし、たしかにアビドスが公務を妨害したことも事実だし、ここは水に流してあげない?」
「その妨害、9割以上はキタノがやったけど」
「まあまあ」
ヒナはその辺りに転がされていたイオリとチナツを叩き起こして、撤収準備を始めた。程なくして全員がゆっくり起き上がり、死屍累々ではあるが、ゆっくりと退却が行われた。
「先生、大丈夫だった?」
”うん。キタノも……大丈夫そうだね。それにしても、キタノは凄い知り合いが多いね”
「うん。ヒナは私の自慢の友達の一人だしね」
「シャーレの先生。キタノ」
そこにヒナが歩いてきた。
「先生とキタノには知っておいてほしいことがある」
「カイザーのことなんだけど……知っている?」
”うん。よく知ってるよ”
「そう……だったら話は早いわ。アビドスの砂漠で、カイザーPMCが、怪しい動きをしてるわ。……キタノもいるし、心配はしてないけれど、注意していたほうがいい」
預言者、黒服、理事。脳裏によぎる沢山の記憶。一度プレイして知っているとは言え、いざ自分が体験することになると思うと、少しだけ、身震いがした。
”キタノ、どうかした?”
「ん? どうもないよ!」
「そう……キタノも、また一段落したら一緒にどこか……」
「うん。遊びに行こうね」
手をふると、微笑を浮かべて手をふってくれた。それを先生は意外そうな瞳で見つめていた。