前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい   作:うどんそば

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便利屋、アビドスを去る

 先生と少し散歩がてら住宅街を歩く。その一角に、早朝だと言うのにトラックに荷物を積む四人組。便利屋の皆だ。

 一緒に声をかけると、びくっと飛び上がった後、こちらを向いて安心したような表情を向けたアルちゃん。

 

「あ、ああびっくりした……先生、どうしてここに?」

 

”キタノと散歩がてらね”

 

 名前が出たので少し肘から先をちょこっと上げて挨拶すると、カヨコが少し微笑んで返してくれた。

 

「……行くんだね」

 

 便利屋はこれで任務失敗だ。それに、この前風紀が来たということは、この事務所がバレるのも時間の問題だ、ということでこの場所から出ていったと覚えている。

 

「うん。まあここにずっといるのもね。少し移動するだけだから」

 

 カヨコに声をかけると、思ったよりもポジティブな声でなんでもないように言った。意外だ。

 

「意外だね。こういうことはあまり好きじゃないのかと」

 

「こんなことって?」

 

「面倒なことだよ」

 

「まあ、大好きってわけじゃないけど……でも、本当に嫌いだったらあの社長と一緒の活動なんてできてないから。逆に言うと、なんだかんだ好きなのかも」

 

 少し笑みを深めながら、朝の風に揺らされる髪を弄ると、目元も少し嬉しそうに細めた。なんだかんだ言いながら、この活動が本心から楽しいと思っているんだなということがわかる。

 

「じゃ、今度はこっちからモモトーク送るから、遊ぼうね」

 

「うん。依頼中とかじゃなければいつでも大丈夫だから」

 

「じゃあ、今度ヒナと遊ぶときにでも呼ぼうかな?」

 

「ええ……? それ、嫌がらせ? 捕まっちゃいそうだけど」

 

「あはは。もし本当に私が二人を会わせたとしても捕まらないよ。ヒナ、仕事中以外はプライベートとして切り離しているから」

 

 そう言うと、カヨコは少し驚いたような表情を浮かべた。

 

「それは知らなかった。なんだか堅物な印象があったから」

 

「まあそりゃあそうだけど。私と会うまでは、めんどくさいって言いながら、一人で何でも抱え込む子だったから」

 

「キタノの影響? でも、風紀委員長とは、話が合わないことはない気がする」

 

「うん。もしほとぼりが冷めたらさ、話すのもいいんじゃない? きっといつかそういう日が来るよ」

 

 カヨコは一つ頷いて、トラックに乗り込んだ。そうしてそれに続くように便利屋の面々は同じトラックに乗り込み、アルちゃんが窓を開けてこちらに微笑んだ。

 

「あくまで場所を変えるだけよ! ラーメンも本当に本当に美味しかったし……じゃ、じゃあ、また!」

 

 その言葉とともにトラックは動き出した。窓から手を振ってくる皆に手を振り返しながら、その姿が見えなくなるまで眺め続けた。

 

”いっちゃったね”

 

「うん。癖はあるけど、悪い子じゃなかったでしょ?」

 

”うん。癖は信じられないほど強かったけどね”

 

 先生は肩をすくめると、笑った。

 

”じゃあ、大将さんのお見舞い、行こうか”

 

「うん」

 

 さあ、元気にしてるかな。あの美味しいラーメンがなくなるなんて……柴関ラーメンがなくなるなんて、そんなのは嫌だから。今ならメインストーリーで、大将さんが柴関ラーメンを畳むと言った時、皆が必死に止めた理由もわかる。

 あの店が好きなのだ。味も、雰囲気も、大将も。

 

 

 ●●●

 

 

「おう、先生。それにキタノちゃんと言ったかな?」

 

”どうも。お見舞いに”

 

「これ、食べてください。普通のフルーツですけど」

 

 すでにその病室には皆も集まっており、なかなか賑やかだ。

 

「それにしても申し訳ないなあ、こんな沢山の人に見舞いに来てもらうことになるなんてなあ」

 

「いえいえ。大将さんが怪我なんて、大事ですからね」

 

 私が言うと、被せるように、セリカちゃんが力強く相槌を打った。それにアヤネちゃんがほんのりとしたほほ笑みを浮かべる。

 

「みんな、あのお店と大将さんが大好きですからね」

 

「そうかあ、それは嬉しいことだなあ」

 

 大将さんはしみじみと頷くと、目をつむってしまった。

 

「そう言えば、あのお店き吹き飛んじゃいましたけど、どうするんですか?」

 

 誰かと言わず、自然とそういう流れになる。一瞬その病室は静まり返った。

 

「……まあ、畳むことにするよ」

 

「え!?」

 

 店主さんのその言葉に、セリカちゃんが反応する。

 

「もともと畳むつもりだったんだ」

 

「な、なんで!?」

 

「まあ色々あるが……立ち退きも要求されてたしな」

 

「え!? この学園はそんなこと……」

 

 それに、大将は、あちゃあ、という顔をした。

 

「あんたらは知らないのか……一度、あまりに借金がかさんで、あの辺りの所有権が移ったのさ」

 

 アヤネちゃんは急いで手元の端末を操作する。それに合わせて、ほかの皆も同じ様に、それをそれぞれのできることで動き始めた。

 

 このメンバーの中に、仲間を殺しかけ、闇銀行で自分たちの金を犯罪に利用し、全ての元凶であった、印象が最悪な一つの企業名が浮かんだ。

 

”大将さん。そのいま所有している企業って、カイザーコーポレーションという名前ではありませんでしたか?”

 

「あー、確かそんな名前だったかもな」

 

 また、一波乱。

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