前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
わかりきったことだった。昨日も聞いたことだったし。でも、実際にこれを見るとまた少し心に来るものがある。
ホシノはどこかに消え、その代わりに机に置かれていたのは、退部届、それに手紙だった。その手紙が入った封筒はいくつかに分けられていた。それぞれ分だ。ただ、その分量はそれぞれに違いがあり、一番大きな分量を持っていたのは……私の分だった。
まだ誰も来ていない教室で、私は自分宛てのものだけを手にとって、屋上へ向かった。
手紙が重くて重くて、何度も持つ手を変えながら、丁寧に運んだ。少しの汚れもつかないように。少しの傷もつかないように。その手紙が、ホシノの心そのものであるように、私の目には映ったから。
「ホシノ、私のぶんまで……」
確か、前の世界では一つの封筒にまとめて入れられていたはずだ。だが今回は全員違う封筒に入れられていたし、それぞれ、少しずつ厚みが違った。私のに至っては、随分な厚さになっている。前の世界では存在しなかったものに、思わず少し緊張してしまっている。
屋上には、すでに日が昇っていた。ただ、朝を強く主張するほど明るくなくて、まだ星も見えるし、月だって明るく光っている。夜明けだ。
ゆっくり柵の側まで移動して、そこで漸くその手紙の封筒を開け、中を外に出した。やはり、かなりの分量がありそうだ。三つ折りにされた便箋を開いて、一枚目の一文字目から、なんであっても見逃さないように、言葉を手繰っていった。
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うーん、こうやって改めて手紙を書くって言うのは、少し恥ずかしいね。これが一枚目の手紙だから、もし少しミスしても許してね。まあキタノのことだから、全然許してくれるとは思ってるんだけどさ。年下だけど、なんだかキタノには甘えちゃうんだよね。
初めてキタノにあったとき、正直に言うと、そこまで印象はよくなかったんだよね。まあ先生が変な人だったわけじゃん? だから、変な人と一緒に来たってことで、キタノも変な人なんじゃないかって思ってた。まあ、実際キタノは変な人だったわけだけど、今では先生もキタノも、しっかりいい意味でも変な人だって思ってるよ。
まあ、そういう事もあって、戦闘のときびっくりしたんだ。まだ全然情もないはずのこのアビドスのために、ふたりとも全力で協力してくれた。特にキタノは、いきなり奥地に奇襲を仕掛けていったりとか、無茶なことしちゃってさ。わたしが来なかったら、もしかしたら少し被弾してたかもね。まあ、もし被弾してても、なんとかしてたんだろうけど。
それからかな? どうしてか、私達の交流が増えたような気がするんだよね。もともとキタノがわたしに興味を持ってくれてたとかならいいんだけど、私にはさ、キタノがなんでも分かるから私に近づいてきたんじゃないのかなって思ったんだよ。だって、なんでもお見通しみたいな顔して、話しかけてくるからさ。
でも、それと同時に、キタノが別に打算とかで話しかけてきてるわけじゃない事もわかった。私、これでも結構経験豊富な方だからさ、人の感情とか、なんとなくわかったりするんだよね。それでキタノを見ながら、どんな気持ちなのか探ってみたりとか。でも、どうやっても楽しそうな顔しかしない。……先生と一緒だ。本気で私達と仲良くなりたいだけなんだって、わかった。そこからかな。私もキタノのことが気になり始めたのは。
だからさ、その折に丁度キタノが大変なことになったとき、内心、結構焦ったりしてたんだよね。先生といった時も、普段なら絶対にしないようなミスしたり、いつもより気分が落ち込んでたり。だって、考えても見てほしいんだけど、もしキタノが仲良くなりたいなと思ってる子がさ、信じられないような血溜まりを残して、仲間と一緒に連れ去られたなんて事になったら焦るでしょ?
……でも、あそこで先生がいてくれたから良かった。あのとき自分よりうろたえてる人がいなかったら、もしかしたら、一人でも追いかけてたかも。
まあそういうのもあってさ、助けに行って、その場で車から飛んできたキタノが、そのまま戦闘に合流してくれたとき、すごく嬉しかった。ああ、よかった。大丈夫だったんだ。じゃああの血は何だったんだろう? 帰ったら聞こうかな。なんて呑気なこと考えるくらいには、嬉しかった。でも、結局駄目だったんじゃん? 私、実はあのときのこと、まだ少し怒ってるからね?
次の日、私の目の前に現れたよね。私、幻覚でも見てるかと思ったよ。だって、昨日までお腹にすごい傷があった子がさ、もうぴんぴんしてるの。元気そうに。それに自分じゃなくて、私の心配までしちゃって。……あの日のこと、すごく嬉しかった。多分、あのときから、確実に私からキタノへの感情は変わったよ。「おじさん」じゃなくて、「私」そのものを見せたくなったんだ。見せてもいいかな、じゃなくて、見せたいな、だよ。キタノはそんなことで? っていいたくなるかもしれないけど、私にとっては、大きいものだったんだ。ありがとう。
それからだったよね。キタノに甘えちゃったのは。キタノはさ、私がなにか悩みがあったら、すぐに飛んできてくれた。だから、ついつい話しちゃって。雰囲気は先生にそっくり。あの大人にもついつい喋っちゃうし、キタノにも。しかも、キタノは先生より距離が近くて、気になってたからより甘えちゃってたかも。
臆病な人間の話、覚えてる? あのとき、キタノの答えは私を肯定してくれてるみたいで嬉しかった。あの頃には、もうこういう結末を考えてたからさ。それと、このまま長く考えてたら、知らないうちにキタノと先生が勝手に死んでもここを助けてくれるんだろうな、って思った日でもあった。
私を支えてくれる、とも言ってくれたよね。でもさ、もうこれ以上無い程いろんなものを背負ってるキタノに言われても、全く説得力無いよ。気づいてないと思った? さっきも書いてたけど、私、人を見るのは得意だからさ。だから、頼り切るのは駄目って、はっきり決断したんだよ。ここは褒めてほしいな。心のなかでだけでもいいからさ。
あのとき抱きしめてくれてありがとうね。頼り切るのは駄目って思ってても、あのとき抱きしめてくれたおかげで、めんどくさいあいつらの前でも、いつもより落ち着いていられたし。
ああ、まだしっかりお礼を言ってなかったけど、便利屋と風紀のときはありがとね。流石に、あそこまでキタノが強いとは、私、思ってなかったなあ。風紀が沢山倒れてるのを見て、何か大変なことになったんじゃないかなって思ったけど、いい感じに収まったし、感謝してるよ。……私がいないときに、もしアビドスになにかあったら、それこそ後悔してもしきれないから。
……ここまで思い出しながら書いてみたけどさ。私の思いだけを書いてるところはなかったなあって思った。結構な枚数あるのにね。
私、アビドスのみんなも、先生も、キタノも大好きだよ。きっと、皆が想像してるよりもずっと。それでさ、キタノ。何だか、キタノはまた別の好きも含んでそうな好きなんだよね。なんと言うかな。皆には、仲間として、友達としての好きなんだよ。でもね、キタノはすごく複雑。
うーん、例えが上手く思いつかない……ほら、ペットって飼い主に甘える子が多いでしょ? あんな感じでもあり、相棒って感じでもあり、はたまた青春の色恋の云々……みたいなこともあるかもしれない。まあキヴォトスじゃそういう方面もそこそこ聞くから、なくはないかもね!……ごめん。さっきのは忘れて。
キタノが私を助けてくれたとき、すごく嬉しくて、悲しくて、それでいて悔しくて……ドキドキした。こんな私でも助けてくれるんだ。って。すごくかっこよく見えた。でも、私は文句を言いたい。
怠惰な人間の話をしたときからだけど、キタノは、自分を害してまで、他人を助けようとしてる。これは先生も一緒だけど……駄目だよ。それは。ずっと、自分の事を大切にしてほしいな。
最後になるけど、次会ったときは、敵だからさ。容赦なくヘイローを壊して。お願い。それが私の願いだから。
でも、少しだけ、期待させて。