前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい   作:うどんそば

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ハフバイベやら現実やら、色々忙しすぎて遅れました……

あ、前話に、少し加筆があるので、まだ読まれていない方はそちらを読んでからのほうが自然かもしれません。


黒服

 キヴォトス某所。少し気味の悪い場所。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 緊張した様子の先生の頭を撫でると、ぽかんとした表情をした後、目を細めた。

 

「駄目だよ。緊張しすぎ」

 

”うん。ごめん”

 

「先生には合わない人だろうだからね。仕方ないよ」

 

 扉をゆっくり開ける。するとそこにいたのは……スーツを着た異形だった。

 

「お待ちしていました……シャーレのお二人。あなた方とは一度、顔を合わせて話してみたかったのですよ」

 

 異形は、ゆっくり机の方に歩いていくと、どっしりと座った。

 

「……あなた方のことは知っています。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。そしてシッテムの箱の主で、シャーレの先生。そして、どれだけ調べても全く分からなかった、規格外の存在。あなた達を過小評価するものもいるようですが、私達は違います。まずはっきりさせておきましょう。私達は、あなた方と敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと思っています」

 

「まあそうだろうね。貴方達には、別に私達を害する理由は、今のところ無い。そうでしょ?」

 

「……なるほど。理解が早いようだ。さすが、キヴォトスの特異点。……ただ、私達は、あなた方が一番の障害にもなる。そう考えているのです。私達にとって、アビドスという小さな学校は、全く持って脅威にはなり得ません。しかし先生方。あなた達の存在は些事とは言えないのです。敵対だけは、避けたいのですよ」

 

 ここまで静かに聞いていた先生は、ゆっくりと口を開く。

 

”あなた達は、一体何者?”

 

「おっと、そう言えば自己紹介がまだでしたか」

 

 それに反応するように、人外の異形は、少し楽しそうする。

 

「私達は、あなた達と同じ、キヴォトス外部の者……ですが、あなた達それぞれと、また違った領域の存在です。先生と同じでもなく、夜永キタノとも違う。……そうですね。私共のことは、「ゲマトリア」とお呼びください。そうして私のことは「黒服」とでも。この名前が気に入ってましてね」

 

「そりゃあそうだ。ホシノからもらった名前なんだから、大切にしていなかったらここで殺しちゃうところだったよ」

 

 少し本音を交えておどけてみると、黒服は「クックックッ……」と面白そうに笑った。そうして続ける。

 

「私達は、観察者であり、探求者であり、研究者です。あなた方と同じ、不可解な存在と考えていただいて構いません」

 

 そうして、一拍置いて、こう問いかけてくる。

 

「一応お聞きしますが、ゲマトリアに、協力するつもりはありませんか?」

 

”断る”

 

「私も無理。君たちのことは嫌いじゃないけどさ。仲間になるにはあまりに考え方が違いすぎるよ。私はみんなを助けなきゃいけないんだから」

 

「……左様ですか。……神秘と秘儀を手に入れられるこの提案を蹴ってまで、あなたはこのキヴォトスで、なにを追求するつもりなのですか?」

 

”私はただ、ホシノを返してもらいに来ただけ”

 

「クックックッ……あなたの行動には正当性がない。今のあなたは、どんな権限でそんな要求をされているのでしょう? ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていないんですか?」

 

”まだだよ”

 

 先生は断言するように言う。「ほう?」と言う黒服が怪訝そうな様子でいると、先生は続けて言った。

 

”「顧問」である私が、まだサインをしてない。……だからまだホシノは対策委員会の所属だし、まだアビドスの副生徒会長だし、今でも私達の生徒だから”

 

「……なるほど。あなたが先生である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要と。そういうことですか。なるほどなるほど……」

 

 少しのいらだちと、愉快さを混ぜた声で言う。

 

「学校の生徒、そうして先生。……ふむ、なかなかに厄介な概念ですね」

 

”あなたたちはあの子達を騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用した”

 

「ええ。仰るとおりです。他人の不幸よりも、私達は自分たちの利益を優先しました。それを否定はしません。善か悪かと問われれば、きっと悪でしょう。しかし、ルールの範疇です。そこは誤解しないでいただきましょうか」

 

「まあ、別に、アビドスの災害やらが、あなたたちのせいってわけじゃないしね。それをうまく利用しただけ。それはわかってるよ。……ただ、ちょっとそれは悪どすぎるんじゃないの?」

 

「しかし、それは世の中にありふれた話でしょう? なにも私達が特別心を痛め、すべての責任をとるべきことではありません。持つものが、持たざるものから搾取する。知識の多いものが、そうでないものから搾取する。大人なら誰でも知っている、厳然たる世の中の真実ではありませんか?」

 

 ふう、と一息吐いた黒服は、ゆっくりと顔を先生に合わせて、

 

「そういうことですから……アビドスから手を引いていただけませんか? 先生方。ホシノさえ諦めていただければ、あの学校については守って差し上げましょう。カイザーPMCのことについても、こちらで解決いたします。あの子達も、アビドス高等学校に通い続けることができるはずです。これはホシノさんも望んでいることでしょう? いかがですか?」

 

「ごめんね。黒服。私ホシノと約束してるから。絶対に迎えに来るって。だから、その要求、なにがあっても飲めないよ。契約を大事にするあなたならわかってくれるでしょ? 先生も……」

 

”断る”

 

「どうして? どうあっても私達を敵対するおつもりですか? キタノさんはともかく、先生に戦う手段など無いでしょうに!」

 

 先生は静かにカードを取り出した。

 

「……先生。確かに、それはあなただけの武器です。しかし、私はそのリスクも薄っすらとですが知っています。使えば使うほど削られていくはずです。あなたの生が、時間が。……そうでしょう? ですからそのカードはしまっておいてください。先生。あなたにも、あなたの生活があるはずです。食事をし、電車に乗り、家賃を払う。そういった無意味でくだらないことを、きちんと解決しなくてはいけないでしょう? ぜひそうしてください。先生。あの子達よりも、もっと大切なことに使ってください。放っておいてもいいじゃありませんか元々、貴方の与り知るところではないのですから」

 

”断る”

 

「……なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?」

 

 黒服は錯乱したような声を上げると、少しうなだれた様子で言葉を発する。

 

「理解できません。なぜ? なぜ断るのですか? どうして? 先生。それは何のためなのですか?」

 

”……あの子たちの苦しみに対して、責任を取る大人が誰もいなかった”

 

「なにがいいたいのですか? だから貴方が責任を取るとでも? あなたはあの子達の保護者でも、家族でもありません。あなたは偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子達に会った他人です。一体どうしてそんなことをするのですか? なぜ取る必要のない責任を取ろうとするのですか?」

 

”それが、大人のやるべきことだから”

 

「……ああ、そうですか。大人とは「責任を負う者」、そう言いたいのですか? 先生。その考えは間違っています。大人とは、望むとおりに社会を改造し、法則を決めて、規則を決め、常識と非常識とを決め、平凡と非凡とを決める者です。権力によって権力のないものを、知識によって知識のないものを、力によって力のないものを支配する。それが大人です。自分とは関係ない話、とは言わせません。……あなたは、キヴォトスの支配者にもなり得ました。この学園都市の権力と権限、神秘。その全てが一時的とは言え、その手の上にあったのです。しかし貴方はそれを迷わず手放した。理解できません。」

 

 黒服は、心底から理解できないのだろう。疑問を言葉端から滲ませんながら、言葉を紡ぎ続ける。

 

「一体その選択に、何の意味があるのですか? 真理と秘義、権力、お金、力……その全てを捨てるなんて言う無意味な選択を、どうして!」

 

”……言ってもきっと、理解できないと思うよ”

 

「まあ、そうだね。あれは経験したものだけが知る、尊いものだからさ」

 

「……いいでしょう。交渉は決裂です。先生方。私はあなた方のことを気に入っていたのですが……仕方ありませんね。先生方。彼女を助けたいですか?」

 

 迷わず、二人で首を縦にふる。

 

「ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます。「ミメシス」で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することができるか――そんな実験を始めるつもりです。そう、ホシノを実験体として。そして、ホシノが失敗したら、あの狼の神が代わりに、と思っていたのですが……ふう、どうやら、前提から崩れてしまったようですね」

 

 はあ、とため息をついた黒服は、若干投げやりに言った。

 

「そういうことですので、せいぜい頑張って生徒を助けるといいでしょう。微力ながら、幸運を祈ります。……先生方。ゲマトリアは、あなた方のことを、ずっと見ていますよ」

 

 その言葉を聞くと、先生はなにも言わず帰ってしまった。

 

「あーりゃりゃ。ありゃ少し怒ってるかも」

 

 少しのんきだったか、そんな事を言った私に、黒服は不思議そうな声を掛けてくる。

 

「あなたは帰らなくていいのですか?」

 

「いや、やることがあったからさ。先生にずっと話しさせてたし、私とはまだまともに話してないでしょ? だから少しだけ」

 

「ほう……? まだなにか?」

 

「うん。短くするために二つだけね……ひとーつ!」

 

「……! それは! クックックッ……! あなたもですか。つくづくわからない人だ」

 

 私は財布から、古ぼけた大人のカードを取り出した。

 

「私達のことを気に入ってるって言うんだったらさ、これを使わせないでほしいな」

 

「クックックッ……! 面白い人だ」

 

「じゃあ二つ目。……はい」

 

 私がスマホの画面を向けると、黒服は怪訝そうな顔をした。

 

「これは……なんです?」

 

「モモトークだけど? 知らないの?」

 

「それはわかるのですが……」

 

「あのさ、私、黒服自体のことは別に気に入らないわけじゃないから。やってることは気に食わないけど。だからさ、黒服にも見せてあげるよ。私と先生が守りたい世界の美しさってやつを。そのために」

 

 黒服はまた笑いながら、自分のスマホを取り出した。そうしてバーコードを読み取る。

 

「思った以上に面白い人だ。いや、狂っているとまで言ってもいいかもしれないですね。……おっと、ハッキングは弾かれてしまいました。シッテムの箱、もしくはそれ以上のセキュリティ、ですか。クックックッ!」

 

「じゃあ、これで私も帰るから。じゃあね」

 

 

 ●●●

 

 

”キタノ、遅かったね”

 

「まあいろいろ話してきたよ」

 

”なんにもなさそうなら良かった”

 

「うん。大丈夫だよ。さ、早く帰って、ホシノの居場所をみんなに報告しよう?」

 

”そうだね”

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