前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
ティーパーティーと別れて、私が次に向かったところは、とある部活の部室。そこは他の部活とも少し離れたところにあり、トリニティの中でも、いい意味で異質な雰囲気が漂っている。
ノックをして、少し待つと、中から騒がしい音が聞こえる。がたがた、がやがや。賑やかそうだ。やがて少し落ち着くと、ガタンという音とともに扉が開かれた。
「あ、キタノ。久しぶり。入って」
出迎えてくれたのはカズサ。私の顔を見ると、少し頬を緩めて中に誘導してくれた。
大きな机の上に、色とりどりの美味しそうなスイーツたちが並べられている。その机を囲むように並べられた四脚の椅子の正面には、小皿に盛られたスイーツが沢山。ここは放課後スイーツ部の部室だ。
「おお……! これはこれはキタノ。飴ちゃんいる?」
首を傾げながら、ナツが口元に飴を押し付けてくる。それをぱくりと食べると、満足げな顔で頷いた。
「それにしても、キタノが来るのは久しぶりね」
「はい。これまでは一週間に一回は来ていたような気がするんですが……」
ヨシミとアイリが不思議そうに聞いてくる。
「あはは、もともと私はこの部活に入っているわけじゃないんだけどね」
「まあね。でも、この中の全員と中学からの付き合いなんだから、実質ここみたいなものでしょ」
「まあね……今、私シャーレに出向してるんだ」
そう言うと、全員スイーツを食べる手を止めて、首を傾げた。あまりピンときていない顔だ。
「シャーレっていうのは、先生っていう人が中心となった、学園を問わない権力がある機関なんだけど……そこの先生のお手伝いをしてるんだよ」
「なるほど……それじゃあ来れなかったのも納得だね。それで、今日はどうかしたのかな?」
ナツは、もう見通したような顔でこちらをじっと見てくる。カズサも、ヨシミも、アイリも、優しげな顔で、私が言いやすいように。あったかい場所だなあ……
「あのさ、手伝ってほしいんだ」
「なにを?」
「とある人を助けたくて」
「ふうん……それくらいならいつでもいいけど……それだけじゃないんでしょ?」
「うん。相手は、カイザーPMC」
そう言うと、流石に部室内が静まり返った。
カイザーコーポレーション。この世界でも有数の会社だ。そして、この部活はこの世界でも有数の平和な部活。トリニティにいるのにも関わらず、政治的紛争を全く行っていないほど平和な部活だ。そこの差は、あまりに大きい。立ち向かってはいけない敵だと、私も思う。
「厳しいお願いだとはわかってる。でも、私だけじゃ、また怪我しちゃったり、やらかしちゃったりしそうで……みんななら信頼できるから……もちろん、危ないから断ってくれてもいい。何ならそっちのほうが賢明じゃないかとも思う……」
「……ちょっと待って。また? もしかして、怪我したの? キタノが?」
カズサはものすごく驚いたような表情でそう問うてきた。
「うん。私には相性が悪いんだ。すごく悔しいことだけど……」
キタノとしての体じゃなく、これは前世からの中身が原因になっている弱さだろう。だから、しょうがないのだ。
「……腕?」
首をふる。
「……足?」
首をふる。
「頭……じゃないよね」
カズサは机から立ち上がると、私の服をたくし上げた。そうしてよくその肌を見て傷跡をなでた。
「……ねえキタノ。これって、怪我で済む怪我だったの?」
それに、私は答えられなかった。嘘は吐きたくない。自分は怪我でしか無いと思っているけど、他の人達からすれば相当な大怪我だったみたいだし、どっちが正解なのか……。
答えに窮する私に、なにを思ったのか少し怒った声で、カズサは立ち上がった。
「わかった。行く」
カズサが私の目の前から退くと、いつも通りの様子の皆が、慌ただしく準備を始めた。
「そうだね……今回探す伝説のスイーツは……キタノ、どこ?」
「……皆、ありがとう。アビドスだよ」
「なるほど……砂漠だね。過酷な環境だけど、スイーツのためだし」
部活として行くには、相応の理由がいる。今日は砂漠にスイーツを探しに行くらしい。
「本当に、本当にありがとう……」
「今度また部室に来て、皆でスイーツたべようね!」
「それに、友達が傷ついてもほっておけるほど薄情じゃないから!」
「うんうん。……普段から色々言ってるけどさ、友達、親友っていうのもまたロマンだよ」
そうして、カズサは私を抱きしめて言った。
「……キタノが助けてって言ってくれたら、私はいつでも行くつもり。親友の頼みだから」
私を離すと、ニコリと微笑んで準備に入った。
「こっちから連絡しておくから、アビドスの校舎に向かってくれたら……」
「ん、分かった」
その言葉を聞いて、部室のドアを閉めた。
●●●
次に向かった場所は、数日前にも一度来た場所だ。
呼び鈴を鳴らすと、中から「はーい」という聞き慣れた声がする。どたどたという足音の後にガチャリと開いたそこには、私の顔を見て笑顔を浮かべてくれる、レイサの顔があった。
「あ! お久しぶりです!」
ニコニコと嬉しそうにしたレイサは私の手を握って家の方に引きずり込んでくる。
「さ、さ! 折角久しぶりですし、お話しましょう!」
「ごめん。それは今度電話でもいいかな……?」
「え? もしかして今お忙しいんですか?」
少し悲しそうにレイサは言う。
「いや、今日はお願いがあって。ちょっと危険だから断ってくれてもいいんだけど……」
「やります!」
私が要件を言い終わる前に、レイサは被せるように言ってくる。それに、少し機嫌良さそうに。
「折角キタノさんに頼っていただけたんですから! どんなことでもやり切ってみせます!」
「……ありがとう。手伝ってほしいことって言うのが、アビドスでカイザーと戦うことなんだけど……危ないから、やっぱり断ってくれても……」
「いえ! やります! 親友である貴方に頼まれた事です! きっと成功させてみせましょう!」
そう言うと、レイサはスマホを取り出し、電話をかけ始めた。
「あ、もしもし、スズミさんですか? 実は今、キタノさんから頼まれ事がありまして……アビドスでカイザーと戦うそうなんですが、いいですよね!……え? そうなんですか? ありがとうございます! では!」
そうして電話を切ったレイサは、
「スズミさんも来てくれるそうです!」
と嬉しそうにはにかんだ。
ああ、私はなんていい友人たちを持ったんだ。これじゃあ言葉が陳腐になってしまうけれど、皆が親友で、かけがえのない存在だ。
「……え? キタノさん? なんで涙が? す、すいません! 私なにか……」
「ち、違うの……その、嬉しくて……私が助けを求めたときに手伝ってくれる人がたくさんいて……」
その言葉にレイサは珍しくため息を付いた。
「はあ……いいですか? キタノさん。それはきっと、キタノさんの人望のおかげです。中等部で一人ぼっちだった私の親友になってくれたように、不良として恐れられていた杏山カズサに寄り添っていたように、未来のティーパーティー候補だなんて言われて遠巻きに見られていたお三方と対等な友人になったように、皆もキタノさんに返したいんですよ」
「返す、って……」
「それに! 友人って、助けて、助けられて。そんな存在じゃないですか?……あ、すいません友達も少ない私がこんな上からなことを……」
「いや、ありがとう」
ゆっくり立ち上がる。
「私、先に行ってくるね。後でアビドスで」
私がそう言うと、レイサは「いってらっしゃい!」と見送ってくれた。
本当に、本当に、私にはもったいないくらいの親友たちだ。