前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「何度も何度も、私の邪魔をー!」
そんな声が遠くから聞こえる。きっと皆があいつらを足止めしてくれているんだろう。
「この先のバンカーです! そこにホシノ先輩が!」
「了解!」
全員で全力で走ってそこへ向かう。先生は私がおんぶして、無理やり連れて行く。
バンカーはかなり大きい。ドアは厳重に鍵がされ、どう頑張っても開きそうにはない。どうすればいいか言い合うが、なかなかいいアイデアは出ない。アヤネちゃんのヘリのミサイルも効かなかった。もしかしたら、私対策で、原作よりも強化されているのかもしれない。でも……
「皆、ちょっとどいてて」
ゆっくり刀を抜いていく。ゆっくり深呼吸。この先に、ホシノがいる。大事な大事な、ホシノが囚われてるんだ。
思い切り刀を振り抜く。その瞬間、そのバンカーに光が差し込んでいった。
支えのない切れたドアはゆっくりと倒れ、やがて中から小さな影が見える。
「ホシノ……」
泣いているような、嬉しくて笑っているような、そんな顔でこちらをじっと見る。
「おかえり! ホシノ先輩!」
セリカちゃんが真っ先にそう言う。
「セリカちゃん! 恥ずかしいって言っていたのにー! おかえりなさい! ホシノ先輩!」
「おかえりなさい!」
「おかえり。ホシノ先輩」
”おかえり。ホシノ”
ホシノは順番に全員を見回すと、私に目を向けた。
「助けに来たよ。言ったでしょ? 必ず助けるって。……おかえり。ホシノ」
ホシノの頬に、一筋の線が伝う。
「うへ~、これって、あの言葉が期待されてる感じ?」
「そこまで言うなら焦らさないでよ!」
セリカちゃんの言葉に、笑いが溢れる。そうして全員がホシノの方を向いた。
「……ただいま!」
●●●
「ホシノ」
「なあに?」
夜の校舎で、二人だけ。先生は一旦シャーレに帰った。私も帰ろうとしたのだけれど、ホシノから残ってほしいと言われたので、こちらに残った。ほかの皆はもちろん今頃家で寝ているだろう。
「私の膝の上に乗る必要はあるの?」
「うへー、ほら、あんまり体格が変わらないから、サイズがちょうどいいんだよねー」
向かい合って、膝の上に乗っているホシノは、前あったときより随分と頬を緩ませ、全身から親愛をにじませてくれていた。
「……あのさ、本当にありがとうね。皆に会わせてくれて。最後に皆に会いたいって思ったら、キタノが現れて……言ったとおりになったね。確かに、キタノは私を助けに来てくれた」
「そりゃあそうだよ。ホシノは大切な生徒で、私の大切な親友でもあるんだから」
「……うへ~、ずるいね〜」
ホシノは私に抱きつくように腕を回し、ぎゅっと抱き寄せてきた。
「本当に、ありがとう。……それと、おこがましいかもしれないけど、お願いしてもいい?」
「うん? なに?」
「……これからもよろしくね!」
その返答は、私からも抱き返すことで表現した。
●●●
「ねえ、いい景色でしょ?」
「クックックッ……否定はしませんよ」
「意外だね。こういうのは嫌いなものかと」
「私は、別にこういったものを嫌っているわけではないのです。ただ、あまりに効率が悪い」
黒服と一緒に、アビドスの前で話す。意外にもモモトークの返信が早く、朝起きてすぐに送った結果、まだ午前中なのにこうして談笑している。
目の前では、アビドス対策委員会で遊んでいる。これは私からの提案で、偶には遊ぶだけの日を作って、なにも考えずに楽しもう。というテーマのレクリエーションだ。それを見に来ないかと誘ったわけだ。
偶にホシノがこちらをチラチラと見る。が、その度に安心するように目線を向ける。その度に心配そうにこちらを見つめるが、そんなに心配しなくても、いざとなれば始末するから問題ないんだけどなあ。それに、利益にならないことはしないだろうし。
「効率って言うけど、じゃあなんでこの誘いを受けてくれたの?」
「……私にも興味が出てきたのですよ。先生、それに貴方がそこまでして希望を託すというものに」
「感想は?」
「……クク……悪くない。とでも言っておきましょうか」
「そう? それなら誘った甲斐もあったってものだね」
そう言うと、黒服はゆっくり立ち上がって背を向けた。
「……私がいたら、気になるでしょう。ですから私はこのあたりで失礼します。また誘っていただけたら……クク」
黒服は歩いて角を曲がる。背中が見えなくなり、校庭に目線を戻すと、そこにはホシノがいた。
「大丈夫だったの?」
「うん。私が呼んだんだしね」
「……え?」
「皆が楽しんでるのを見て、思ったよりも色々感じてくれたみたいだよ」
「黒服が……?」
「そう。黒服みたいなタイプの大人はみんな、一面だけじゃ構成されてないからね。色々な面があって、それが自分になってるんだよ」
「へえ……」
ホシノはさっきまで黒服が座っていた椅子に座った。
「いいの? 遊ばなくて」
「うん。ちょっと休憩」
そう言ったホシノのもとにボールが飛んでくる。
「ホシノ先輩当たった! ホシノ先輩が鬼だ!」
それにホシノはにやりとすると、立ち上がって私にぶつけた。
「キタノに当てたよー、皆逃げろ〜」
ぽかんとしていると、遠くから声が聞こえてくる。
「キタノさんですか!? うう……どこに隠れれば……」
「ん、このあたりならバレないと思う」
「いや、バレるでしょ……」
ちらっと草むらを見てみると、そこにはブロンドの髪があった。
そこに狙いを定めて、放り投げる。どん、と当たった音がして、ノノミちゃんが出てきた。
「ノノミちゃんに当てたよー!」
そう言って校舎内に逃げ込んでいく。そこには、楽しそうに汗をかきながら、ノノミちゃんから離れようとする皆の姿があった。
ああ、平和だ。
どん。
あ、シロコに当たった。