前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
キタノの絆ストーリー2つ目です!
――ねえ先生
――どうかした?
そろそろ寝ようかなと、ベッドに寝転がった瞬間、モモトークの通知がなった。
――この前、服を買ってくれたでしょ? あのとき、またお出かけしようって話だったじゃん?
――うん。そうだったね
――明日行かない? 今日で締め切りが近い書類は皆片付いたでしょ?
確かに、今日はキタノの手伝いもあって、かなり先の書類まで片付いてしまっている。あれならきっとユウカも怒らないだろうなというくらいだ。
――うん。わかった。こっちから向かった方がいい?
――ありがと! よろしくね
それなら、キタノとのお出かけなんて断る理由がない。ありがとうなんて、言いたいのはこっちだ。
●●●
「おはよう、先生。今日も早かったね」
”キタノとのデートだからね”
「そう? 誰にでもそう言ってるんじゃないのー?」
”……否定できない”
「刺されないように気をつけてね」
”キタノもね”
「私も? そんなことはないんじゃないの?」
キタノは不思議そうな顔をするけれども、私からすれば、私よりもだいぶ注意していないといけないのはキタノだと思う。
「それにしても、この格好を見てなにか無いの?」
”……かわいいよ”
「ありがと! 折角買ってもらったしね。結構気に入ってるよ」
キタノはこの前でかけて買った服を着ている。やはりフリルが映える。小柄な体に細身なのが、フリルで少しボリュームが足されて、よりガーリーな印象に見える。普段着ている制服もいいし、和装はもっと似合っているけれど、これもとても可愛らしいと思う。
「そう言えばさ、誘ったはいいけど具体的にどこに行くかは決めてないんだよね」
”そうなんだ? 結構用意周到なキタノにしては意外だね”
「先生と一緒だし、そういうのんびりしたのも楽しそうだなって」
そう言ってはにかむと私の手を取った。その顔はにこにこと楽しそうで、心から楽しんでくれてるのだろうなということが伝わってくる。きっと私も似たような顔をしているんだろう。
「そう言えばさ、そろそろお昼だけど、先生ご飯食べた?」
”まだだよ。一緒に食べようかと思って”
「そっか。私も食べてないし、折角だからご飯を食べてから行こう!」
キタノに手を引かれ、トリニティの繁華街を歩いていく。数多くのトリニティ生が歩き、店を覗き込んではああだこうだと話している。その中をすいすいと進んでいったキタノは、やがて一軒の定食屋さんの前で止まった。
「ここ。おすすめなんだよ。入ろっか」
ドアを開いて、店内に入る。お昼時にしてはすごく静かだ。メインの通りより少し離れているからだろうか。
キタノは店員の案内より先に、迷いなく奥に進み、最奥のボックス席に座った。元々店員さんも案内する気などなさそうで、そのままこちらにお冷をもってきてくれていたのだから、もしかするとキタノは常連で、この席はキタノの指定席みたいな扱いを受けているのかもしれない。
「さ、メニューだよ。ここは人は少ないけど、料理は美味しいから。どれでもきっと満足できると思うよ」
”……人は少ないなんて言ってもいいの?”
「あはは。ここはそういう営業をしてるお店だからね。店長さんが、多くの人に食べてもらうより、常連さんに安心して何度も来てもらえるようなところにしたいってコンセプトで建ててるんだよ。実際、リピーターはほとんど常連になってるしね。もちろん私も」
”へえ。キタノお墨付きなら安心だね”
メニューに目線をやると、よくある定食屋さんといった感じのメニューが並んでいた。食べたいと思うようなものはたいていあるかな、といった印象。
”キタノのおすすめは?”
「私の? ううん、そうだな…………焼き魚かな。鯖の塩焼きが出てくるよ。すごく美味しい」
”じゃあそれにしようかな”
キタノに伝えると、すぐに店員さんを呼んでくれた。そうして「焼き魚定食二人前で」と手馴れた様子で注文する。
他愛のない話を十分程すると、テーブルに料理が運ばれてきた。
大きさはさることながら、アブラのノリも素晴らしいものがありそうだ。現にパリパリの皮からいい匂いが漂ってきている。
頂きます、と二人で合掌して食べ始める。ものすごく美味しい。これを伝えられない語彙力が悲しくなってくるほどには美味しい。
「どう? 美味しい?」
”美味しすぎて言葉が見つからない”
「そっか。良かった」
優しげに微笑むと、キタノも美味しそうに頬張り始めた。
●●●
ご飯を食べ終わって、外へ出た。多少お昼時は過ぎて、大通りを通る生徒たちも落ち着いていた。
「美味しかったね」
”うん。また来たいくらいだね”
「あは、また今度も行こうよ」
のんびり、ゆっくりと歩きながら、色々な話をする。それだけでなんと楽しいことか。「あの店良さそうだね」とか、「今度来たら入ってみようよ」なんて次の話をしてながら歩いているので、次もあるのか、なんて少し舞い上がっているからかもしれないけど。
不意に手が握られた。指を絡めてだ。
”ちょ、ちょっとキタノ!?”
「んー? どうしたの?」
キタノはいたずらっ子のような顔でこちらをからかうように見てくる。
”この握り方はまずいんじゃないかな?”
「でも『デート』なんでしょ? これくらい当たり前だよ」
そう言うとキタノはにやりと意地悪な笑みを深めながら、少し体を寄せてきた。心臓の音は聞こえていないだろうか……
●●●
この前と同じように、キタノのファッションに関係するお店を巡ったり、私の服や身の回りの道具なども見て回った。
あらかた見終わって、少しずつ日が落ちてくる中、キタノと私はバスに乗った。なんでも、キタノは最後に行きたい場所があるらしい。
「あ、もう着くよ。降りる準備して」
”わかった”
バスが出たときは既に夕方だったこともあり、今はもう夜に近い時間だ。最後のバスまでに時間の余裕はありそうだけど、どうしてここまで来たのだろう。その疑問は、バスを降りた瞬間消し飛んだ。
「えへへ、綺麗でしょ?」
”うん。すごく……”
そこに広がっていたのは花畑……というより、ただ広い草原に無秩序に咲いた花たちだった。月明かりに照らせれて、幻想的な空間を演出しているこの場所は、まるでこの世とは思えないほどの神秘的な印象を与えてくれる。
「あの夜空に浮かんでる変な線は邪魔だけど、それはそれでこの世界っぽくていいでしょ?」
”キタノ……?”
「ああ、気にしないで。それよりさ。先生? 今日のデート楽しかった?」
その問いに、思い切り首を縦に振った。すると、キタノはいつものように楽しそうに笑って、「それは良かった」と言った。
「先生にもたまにはのんびりお出かけする時間が必要でしょ? 他の生徒達は、用事があったりすることが多いと思うから、私とのお出かけくらい、気楽にしてほしくて……」
そこまで言うと、キタノはなにかに気がついたようにハッとした表情を浮かべる。
「あ、そういえば渡したいものがあるんだった」
キタノはバッグから一つの包を取り出して、私に渡してくれた。
「さ、開けて」
”これって……財布?”
包みの中身は、上等な皮で作られていることがひと目で分かるほど、素晴らしい財布だった。自分じゃなかなか買わないようなものだ。
”これ、どうしたの?”
「オーダーしたの。私もよくお世話になってる革工房さんがトリニティにあってね? そこで、私が使ってるのと同タイプの財布をプレゼントしようと思って」
キタノが取り出したのは、私にプレゼントしてくれたものと同じ形だが、少し色の違うもの。色違い、と言うやつなのだろうか。
あまり大きくはないものの、開くと大容量だ。キタノはあまりカードを使って支払いをするところを見ないので、現金派ならではの工夫か。私も現金は持ち歩きたい派なので、ものすごくありがたい。
それに、カードがたくさん入る。それに、二枚だけ特に丈夫で、外から簡単に確認できて、財布に入れたままでも使えるようになっている。大人のカードと、シャーレの所属証明書にピッタリだ。
財布の外を見てみると、デフォルメされたキタノのバッジが付いていた。キタノの財布にはついていないので、きっと私の財布だとひと目で分かるようにつけてくれたのだろう。
「デザインと型紙は私が作ってるから、世界に二つだけのお財布だよ。大切にしてね」
私は、今の財布を見る。まだあまり使い込んではいないが、なんとなく使いにくいなと思っていたもの。それに比べ、キタノのものは、なんとなくあたたかく感じた。
”本当にありがとうね”
「いつもお世話になってるお礼だから。それに、私は先生にお揃いの財布を使ってほしかっただけ。これでいいでしょ? さ、あとは満足行くまでこの景色を楽しも?」
そうしてキタノと楽しい一日は過ぎていった。
●●●
――どう? 楽しかった?
――うん。もちろん。
――そっか。また休みができそうならどこか出かけよ?
あれ……? あまあま過ぎないか……?
それにしても妙だな……財布を見分けやすくするだけなら、キタノの財布にキタノのバッジか、先生の財布に先生っぽいバッジをつければいいはずだ。
しかし、キタノは先生の財布に自分のバッヂをつけた……ということは?