前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
ただ広い空間で、私は静かに座った。
「久しぶり」
「……それほど長く離れていたつもりはないんですけど」
「なんだか長く感じてさ。前はこんな事なかったのにね」
視界いっぱいが神秘的なここで、私は話していた。
「先生ったらすぐに無理をして……だからきっと長く感じてしまうんですよ?」
「そうです! セリナちゃんに迷惑ばっかりかけて……もうちょっと立派な先生らしくしてください!」
「……もう私は先生じゃないんだからいいでしょ?」
「ダメです。先生は先生のままでいてください。というかそもそもただの生徒で終わる気無いじゃないですか」
「普通の生徒はスマホの中にこんな空間も、人も住んでないと思うんですけど……」
相手はセリナと、青とピンクの髪が特徴的な彼女だった。二人は咎めるような目を向けてくる。居心地が悪くなってすっと目を逸したら、ぐいっと戻されてしまった。怖いよ……
「というか! あのとき! あの血の量をごまかすの大変だったんですからね!」
「やっぱり貴方のお陰でしたか……ありがとうございます。あのとき動けているのが奇跡みたいな状態でしたから」
「その折は迷惑をおかけしました……でもああするのが最善策だと思ったからさ。それが私のやるべきことならどんなことでもやるよ。そんな人間だって、喩え画面の向こうからでも、わかったでしょ?」
「……はい。だから私達は先生にこうやってついていっているわけですからね」
「だったら少しは手加減してほしいなって」
「……死んだら元も子もないんです。あのとき、治療にはなれているはずなのに、少し怖くなったんです。キタノ先生がもし死んでしまったらって。それくらい、私にとって大切な人なんです。それを理解してほしいです」
「もちろん、私にとっても大切な人ですよ。先生は。わかってますか? ここに先生が死んじゃったら悲しむ人が二人もいるんです。それに、外に目を向けたらもっといるはずです。……無理はしすぎないでくださいね」
今度は二人がかりで心配そうな顔を向けてくる。……こういう目線を向けられると流石にうんと言わざるを得ないよね。悲しませるわけにもいかないし。
「……じゃあ、二人とも、私のことをこれからも助けてね。二人がいれば、もう危険な目に合わないようにするからさ。それに、もしそうなったときも安心でしょ?」
「もちろんです! 私は貴方のセリナですから!」
「……私も、今は貴方のために生きていますから」
セリナは嬉しそうに。青髪の少女は少し恥ずかしそうにはにかみながら言った。あまりに正面からぶつけられた好意の感情に、こちらまで頬が赤くなってきそうだ。
彼女たちと一緒にいると、先生と一緒にいるみたいな安心感を覚える。なんだか懐かしい感じ。多分、彼女たちが正真正銘私が前世から知る二人にほかならないからだろう。
だから、この青髪の少女は私とかけがえのない相棒として長い時間を過ごしたことを覚えているし、セリナは私を献身的に支えてくれていた上に、ゲーム的に言えば編成に常に入れていた記憶を持っている。だからかもしれない。
まるで親友と一緒にいるみたいな、長く連れ添った恋人と一緒にいるみたいな、そんな脱力感を感じる。
私は立ち上がって、青髪の少女のもとに近づいて思い切りハグをした。
「ねえ、たしかにここにいるんだよね?」
「突然どうしたんですか? 先生。……いますよ。ここに。先生も、私も」
「もちろんセリナもいます」
「そっか」
そう言うと、私は思い切り吸った。
「え!? 先生!?」
「すぅーーーーーー」
抵抗してくるけど、無視して吸い続ける。落ち着く匂い、気持ちよくなる匂い。とにかくいい匂いだ。それは彼女を象徴しているようで、なんだか中毒性がありそうだ。
「せ、先生? そろそろやめて差し上げたほうが……」
「はい。捕まえた」
今度は止めようとしたセリナに抱きついた。そうして同じように思い切り吸った。
セリナはほんのり消毒液や病院のような匂いがした。でもその中にしっかりとセリナを感じさせる女の子らしい匂いがするのだ。
「んっ……せ、先生! どうしたんですか?」
髪の方を嗅ぐと、より一層セリナの匂いが濃くなった。やばい。こっちもクセになる……
「そろそろ……いいんじゃないですか?」
セリナの声に、ゆっくりと離れる。ああ、いい心地だった。
「突然どうしたんですか?」
「……あのね、二人を見ると、なんだかそうしたくなったの。確かにそこにあるんだって確かめたくて」
「先生……大丈夫ですよ。私達はしっかりここにいますから」
「はい。私はいつでも現れますよ!」
「ありがと。……なんかさ、二人には甘えたくなっちゃうな」
「先生がですか?」
「うん。普段はそんな事思うことも少ないんだけどね。二人の前だと、自然と甘えちゃって」
それに、少しだけ頬を緩ませて、青髪の少女は言う。
「それは、私達が先生にとって、癒やしの存在になれているということですか?」
「うん」
「そうですか。……じゃあ、これからも、癒やされたいときは気軽に来てくださいね。いつでも待ってますから」
「私でしたら、呼んでいただけたらすぐに来ますから!」
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「よし! 元気出てきた!」
彼女たちと話せてよかった。ああ、また匂いかぎたいなあ。いい匂いだったなあ。
スマホの中の世界。そこに住んだ青髪の少女はすっかり前みたいになってくれていてよかった。前回会ったときは思い詰めてそうな感じだったから。セリナも連れて行ったのは正解だった。
「彼女も元気になってくれてよかったなあ……」
私が守るべき生徒。その中にはしっかり青髪の彼女のことも入っている。
青髪の少女、まじでいいにおいしそう。吸いたい