前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「ねえキタノ……ここなんだけど、どうだったっけ? いや! わからないわけじゃないんだけど、一応ね!」
「はいはいっと……そこはね、基礎からしっかりしなきゃ。そもそもの間違いは第1段階の簡単な計算にあるかも……ってこと」
「簡単な……って、あ! そもそもの通分が間違ってる……」
「そうそう。難しいことからやるんじゃなくて、簡単なことから確実にできるようにならなきゃね。じゃないと上手くいかないものだし」
「あ……その、ありがとう……」
「どういたしまして」
コハルちゃんが聞いてきてくれたことを、しっかりと教える。ただ間違いを教えるだけじゃなかなか定着しない。こういうときは、多少誘導を使っても、自分で間違いに気がつくことが大切だと思っているからだ。私もそうやってきたしね。もちろん前の世界でも。
あ、次はヒフミ先輩か。ものすごく唸っている。
「どうしました?」
「ああ、キタノちゃん。ここが分からなくて……」
「ああ、現代文ですか? これは簡単なんですよ。問われている文章に線を引いて、そこの近くで、かつその文章に言及している記述の中から、合いそうなものが答えです。さあ、この場合はどうなりますか? 一緒に考えてみましょう」
「えっと、「個性をヘイローに見出すというのはあながち間違いではない」の根拠……近くから……あ、これですか?」
「そうそう。分かったでしょう? 慣れてきたら線を引いたりはしなくてもいいかもしれませんが、考え方はだいたいこの通りで行きましょう。……まあ、ヒフミ先輩はモモフレンズのノベルやら小説やら、新書まで色々読んでいるところを見ますし、全文内容を読んでから解いてもいいかもしれませんね」
「え? よくBDでは全文読まなくていいと言いますけど、読んでもいいんですか?」
「定石じゃないだけで、時間が間に合うなら全然大丈夫だと思いますよ。現に、私はそうしてますし」
「へえ、そうなんですね……ありがとうございます! なんだか先生みたいですね」
「そうかな? そうあれたら嬉しいなあ」
先生みたい。それは私からすれば、かなり嬉しい類の褒め言葉だ。そうありたい自分、そして、その先生という存在に憧れる自分。どちらもが満たされるからかもしれない。当の先生といえば、全体を見ながらニコニコしているだけなのだけど。
ハナコはアズサちゃんに教えている。偶にアズサちゃんは私にも質問してくれるのだけれど、吸収速度が半端じゃないから楽しい。教えてないことはほぼ間違える代わりに、理解してくれた問題はほぼ間違えないのだから、教えがいがあるというものだ。
ちなみに、テストの範囲は非常に狭いもので、私は相当な問題が来ない限りは満点が確定している程。おそらく、ヒフミ先輩も原作と同じようにそこそこの点数取ることができるだろう。コハルちゃんもまあ大丈夫かなと思う。流石に合格まで行くかは運だけれども、やる気はあるように見える。アズサちゃんも同様だ。
となると、問題はあとひとり。ハナコだ。まあ、でも彼女の性格と、受けてきたものがある以上それも強制は出来ないし、するつもりもない。
「あ、あう……でも、良かったです。この範囲、皆もやる気がありそうで……これなら全員一発合格もありますよね。もし合格できなかったらどうしようかと……もしこれで落ちたら合宿をするようにティーパーティーに言われていますし……でも、これなら安心ですね!」
どう聞いてもフラグにしか聞こえないことを言うヒフミ先輩の肩に手を置く。
「駄目ですよ。先輩。こういうところでそんなことを言えば、それはフラグになるって自明じゃないですか」
「でも安心しちゃって……」
あはは、と笑うヒフミ先輩に、内心心配の目を向ける。こう笑っているけれども、前世の記憶を辿ると、明らかに合格確率なんて低いと思うんだけれど……。
「そ、それに、四回落ちたら……あ、あぅ」
「……ヒフミ先輩。安心してください。私がそんな事させませんから」
「……キタノちゃん?」
ヒフミ先輩はびっくりしたような表情を浮かべると、今度はごまかすように笑って頬をかいた。
「キタノちゃんに隠し事は無茶でしたか……」
「まあ、なんとなく。でも安心してください。きっと悪いようにはならないと思います」
「……そうですね! 私もみんなの心配するより自分もしっかり勉強しないと。ありがとうございます」
そう言うと、ヒフミ先輩は自分の机に向き直り、勉強を始めた。
これは、もしかしなくても……?
●●●
ああ、やっぱり簡単だ。
始まった瞬間、これは問題ないと判断。なぜかって、本当に、授業を受ける前の小テストを集めましたくらいの難易度しか無いからだ。いわば、本物の腕試しに過ぎないテスト。
それに、時間も過剰に取ってある。皆も少しは落ち着いて解けているみたいだ。
各教科ごとに、数問だけの問題を解いていく。国語系科目が文章系統のものが多かったこともあり、少しは時間がかかるかと思うけれども、それだけだ。
数学などに至っては、前世なら、下手すれば中学生の小テストに出てもおかしくないのではないかと思うほど。
なるほど、
基礎がきちんと出来ていれば、応用もできるようになるが、それが出来ていないなら論外だ、ということだろうな。
●●●
”学力テストが帰ってきたよ!”
先生が言う。学力テストが終わって本当に数日しか経ってないのに、なんだかんだこの部活も気にかけてくれてるんじゃないか。ナギサちゃんはさあ……。
”じゃあ、発表していくね? まず、満点! キタノ!”
「流石にね? 問題数的にも、間違える訳にはいかないしね」
「キタノちゃんすごいです!」
ヒフミ先輩ががパチパチと手を叩いて祝ってくれる。こういうのもいいな……
”次ね! 84点! ヒフミ!”
「よ、よし! 結構いい点数が取れました……!」
おっと、これは原作よりも点数が良くなっている? 私が教えたことは確かに無駄になっていないようだ。
”じゃあ次は57点! コハル!”
「え、ええ!?」
ヒフミ先輩は酷く驚いたような声を上げる。
「え、え? 不合格ですか?」
「な、なによ! 悪いっていうの!?」
「い、いえ、そんなことはないのですが……あのテスト、小テストくらいの難易度でしたよ? それに、キタノちゃんにもたくさん教えてもらってましたよね!?」
おっふ……流石に一定の壁を超えるのは無理だったか……。
”次は51点! アズサ”
「ふむ、こんなところか」
「こんなところか!? このままじゃ不合格ですよ!?」
”最後はハナコ! 2点!”
「2点!?!?!?」
おっと危ない。しゅーっと力が抜けていくヒフミ先輩を抱きとめる。
「だから言ったじゃないですか。ヒフミ先輩が言ったのはフラグだって」
回収してしまったヒフミ先輩は、なんだか力のない微笑みを浮かべたのだった。
第一回特別学力試験結果――
夜永キタノ――100点 合格
阿慈谷ヒフミ――84点 合格
下江コハル ――57点 不合格
白洲アズサ ――51点 不合格
浦和ハナコ ―― 2点 不合格
補習授業部 合宿決定