前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
理由は、もともとは第二章を書かないつもりだったので、C&Cのアカネとの名前被りは深く掘り下げないつもりだったんですけど、予定が変わり第二章も書くことにしたのでその差別化のためです。
つまり作者のガバです。すいません!
これからはキタノちゃんを推してあげてね!!!
とにかく、ソラちゃんは守らねばならない。中に戻って、心配そうなソラちゃんを連れて、裏に入った。
「ソラちゃん。一応だけど、内側から鍵をかけて、私がメッセージを送るまで出てこないで。わかった?」
「っ! はい……!」
よし、この様子だと大丈夫でしょ。私は武器を持って外へ走った。
一応、シャーレはこの階までは登ってくることができる。だが、ここより上は入ってはいけない、となっている。入ってもバレることはないと思うけど……まあ、ここに来る人が少ない以上、わざわざ禁止されたこの上まで登るものはいなかったのだろう。
勿論私はこの上にシャーレのオフィスがあることを知っているわけだが……ここで、一応確認しておきたいこともあった。
階段を駆け上がるようにして登る。そこはシャーレのオフィス。立入禁止と書かれてはいるが、今はアロナもいない以上、侵入は容易だ。……あ、一応他の不良が入ってこれないようにバリケード作っておくか。
そうして扉を開けて、中に入った瞬間……視界は暗転した。
●●●
「私のミスでした……というのは、先生にとって、聞き慣れた言葉でしょうか」
ごとんごとん。電車が揺れながら、車内に夕日の影を落としている。それを語る彼女の顔は、見えない。
「結局言いたいことは、貴方の選択が正しかったことを悟ったということです」
何を言っているんだろう。私は先生じゃないのに。
「貴方は自分のことを、先生なんかではないと言うと思います。そんなことは、私もわかっています」
背景の湖は、波紋を作りながら世界を構成している。
「でも……こう言うと先生は不機嫌になってしまうかもしれませんが、言葉を借ります。……先生も、生徒も、所詮記号なんです。だから……」
「だから、この世界を一度経験して、そして愛した貴方ならば、きっと」
「先生を支えられる。いや、もうひとりの先生にもなれるはずです。……少なくとも、私にとっての先生は、貴方です。向こうの私にとっての先生はあの人でしょうが……」
声が出ない。どうにかして音を発しようとしているのに、空気すらもれないのだ。
「正直このまま貴方が私を忘れてしまうのか……それはわかりません」
「忘れない!」
思いっきり発した言葉が、ようやくその世界に響いた。少女は驚いた表情で私を見た後、安心したような顔で微笑んだ。
「……そうですか。それならきっと失敗した私を乗り越えて、新しい選択を……」
「自分の事を卑下しないで」
また驚いた様子の少女は、少しくすっと笑った。
「ほら。そういうところが“先生”なんですよ」
「君にとって、私は先生なんでしょ? なら……徹頭徹尾、先生である。それが、大人の責任、だから”
違和感に気が付き、体に目を向ける。
さっきまで小柄だった体は少し大きくなって、声が低くなっていた。
「……! あはは、きっと貴方なら、何でもできるんでしょうね。……先生は、この世界の特異点です。なにかが変わるとすれば、それはきっと先生の行動でしょう」
“……”
「でも、怖がることはありません。好きなように生きてください。前も言いましたね。『大切なのは、経験ではなく選択』。……きっと先生なら、正しい選択をしてくれるはずですから」
世界は薄れ始めた。いや、私が薄れ始めたのか。
“離れたくない”
本心が透けて出てしまう。少女は少し柔らかに微笑んで、
「そういう事を言うから、色々な子をたらしこんで、悲しませるんです。……でも」
「特異点である貴方なら……と、少し希望を持ってしまいます。だから、これは私のわがまま」
少女は、私のポケットを弄り、スマホを取り出した。そして少し操作をして、手渡して返してくれた。
“ありがとう”
「いえ、いいんです。さっきも言いましたが、あくまで、これは私のわがままですから」
視界が狭まっていく。
「何度も何度も面倒かもしれませんが……私が信じられる大人である貴方になら、この捻れて歪んだ終着点とは、また違う結果を……そこにつながる選択肢は、きっと見つかるはずです」
完全に視界が消える瞬間、手を伸ばすと、暖かな温度と血を感じる。そして少し顔を赤くしたその少女の顔が見えたような気がした。
●●●
声が聞こえる。大人の声だ。それも、落ち着く大人の声。
「ん、むぅ……」
徐々に鮮明になっていく頭の中を覚醒させるように、一つ伸びをした。
“あ、起きた”
大人の声がシャーレのオフィスに響く。
「誰……?」
そっちの方向を向いても、会ったことはない大人の男の人。誰なのか、大体の見当はついていたけれど、それを本人の言葉で聞きたかった。
“シャーレの先生だよ”
「なるほど、シャーレの……じゃあ」
私は寝かされていたソファから降りて、にこにこと笑みを絶やさない先生を、正面から見つめた。
「私をシャーレに入れてくださいませんか?」
“いいよ。シャーレ所属第一号だね”
「そ、即答!? もうちょっと悩むと……」
“生徒を助けるための組織だからね。君ならふさわしいと思った”
「お、おう……まだ初会話だと思うけど、随分思い切りがいいんだね、先生」
“なんだか初対面って感じがしなくて……”
先生はコーヒーを入れて、私にも一つ渡してくれた。
“じゃあ、入部する試験だと思って、一つ質問をしてみようかな”
「あ、うん。わかった」
“君の目標は?”
思わず口元が緩んだ。先生って、聞いてほしいことを、聞いてほしいときに言ってくれるんだなあ……
私はポケットに入ったまだ『あの子』のぬくもりが残ったスマホに触れながら、言う
「一生懸命、精一杯楽しんで生きること!」
先生は少し嬉しそうな顔をして、コーヒーを一口飲んだ。
“いい目標だね”
先生は机の引き出しを手当たり次第に開けて、一枚の紙を取り出し、それをこちらによこした。
シャーレへの入部届だ。案外簡素なそれに、心が跳ねた。遂に、ここからブルーアーカイブの物語が始まるんだな、と。
丁寧に、所属の学校と自分の学年名前、身体に関する情報を書き込んでいく。えっと、名前は夜永キタノで……身長は……
“そんなに気張らなくても、適当でいいよ”
「うるさい、先生」
せっかく心持ち新たに、緊張感を持っていたのに……先生はといえば、机で少し落ち込んでいた。……もう!
「はい! 書いたよ!」
“うん。ありがとう”
先生に紙を渡すと、承認の印を押される。特に実感はないが、これできっとシャーレの所属になったってことだろう。
“ようこそ、シャーレへ”
「ふふ……えへへ……なんか、嬉しい。じゃあ、今度からは私のことを頼ってね。じゃあ、連絡手段に、モモトークでも交換しようか!」
私がモモトークの画面を見せると、先生はあわあわしだした。
「もしかして、モモトークの使い方、知らない?」
先生は恥ずかしそうに頷いた。
「シッテムの箱、貸してくれる?」
“!?”
ひどく驚いた様子だったが、タブレットを手渡してくれる。……あ、シッテムの箱を普通の生徒が知っているわけはないのか。でも……
「我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を」
“!?!?”
先生は更に驚いた様子を見せるけど……
「しー……」
そっと口元に人差し指を当てると、なにか聞きたいことはありそうだけど、とりあえず飲み込んでくれたみたいだ。
「先生、どうかしましたか……って、ええ!?」
アロナは私を認識した瞬間、びっくりした声を漏らした。青い世界で飛び跳ねるように驚いている様が見える見える。
「アロナー、聞きたいことがあるんだけどいい? あ、私は新しくシャーレの所属になったキタノだよ。よろしくね」
「で、でも! キタノ先生は……!」
「アロナ。私は生徒だよ。ね? 先生を支えるための、生徒。だからさ、力を貸してほしいんだ」
「……わかりました! なにか聞きたい事が?」
「あー、そんな大したことないんだけど、モモトークってどうやるのかなって。シッテムの箱に入れておける?」
「一応入れておけますけど……多分、先生のスマホに入れておくほうがいいと思います」
まあそうだよね。シッテムの箱はもともとその用途じゃないし。
「そっか……じゃあ先生のスマホにモモトーク入れてくれない? あと、初期設定も」
「わかりました! 任せてください!」
“え!?”
先生が驚いたような声を上げながら個人用のスマホを見ると、既にダウンロードが始まっていたようで、目を見開いていた。仕事早いなあ……
「ダウンロード完了、初期設定も完了しました! もう使用可能です!」
「ありがとう、アロナ。一応、同じアカウントのモモトークをシッテムの箱にもいれといて」
「了解しました!」
よし、これでいい。先生からスマホを貸してもらい、モモトークを開く。先生に見せるように、自分のコードを出して、それを読み込み、友達になってチャットを開く。
「こうやってやるんだよ。結構やってる人がいるから、生徒とのやり取りも基本このアプリになると思うから、覚えてね?」
“わかったよ。ありがとう”
「どういたしまして。私はもう先生の生徒だし、なんにでも精一杯協力する。そのほうが楽しそうだしね! だから、何かあったらすぐに連絡してね」
先生はモモトークが入ったスマホを、大切そうにポケットに入れた。