前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「ふーん? 結構良い建物じゃん」
その旧校舎を見ながらそう呟いた。
旧、と言っているが、まだまだ使えそうな綺麗さだ。人数が増えたらここを使ってもいいんじゃないかな? 誰も文句ないと思う。
シャーレにおいていた宿泊道具などを取りに行った関係で、みんなに遅れること数十分。私は補習授業部の合宿に合流した。
中に入り、広いその中を歩く。外は明るいのに、響く足音は一つだけ。その感覚が、なんとなく違和感。
階段を登って、少しずつ小さな声が大きくなってくる。がやがやと、少しうるさいと思うほどの声。でも、その賑やかさは私の好きなものだ。
扉の前に立つ。そうしてドアノブに手をかけて、ゆっくりと開いていく……
「おはようー」
「死刑ーーーーーー!」
「え? 早速?」
入って早々、死刑宣告されてしまった。先生はお腹を抱えて笑う。ヒフミ先輩は少し困ったように笑い、ハナコは相変わらず底の見えない微笑を浮かべている。アズサちゃんは無表情だし、宣告した本人であるコハルちゃんは例の目だ。
「……って、キタノ!? 今来たの?」
「ごめんね。宿泊道具の準備とかがあったからさ」
「ふうん……そうだ! キタノは寝る場所どうするの?」
「うーん、どうしようか。別部屋で先生と一緒でも、この部屋でみんなと一緒でも、どっちでもいいかな」
「え!? 同衾!? 駄目! 死刑!」
「いやあ、シャーレだし、大丈夫じゃない?」
「シャーレだから大丈夫って何!? わけわかんないんだけど!」
「まあ、一緒に寝たことあるし。二回目なんて誤差誤差」
自分でも暴論だと思うけど、まあそうじゃない? 少なくとも私はそう思うけど。大体一緒に寝たところで気にしないでしょ。先生も。
「まあ適当に寝るよ。先生とは色々話さないといけないこともあるし」
「は、話すって言ったって、そう言いながらあんなこととか、こんなこととか……」
「ねえ」
「な、何よ!」
「話さないといけないこと、合宿の学習の進め方とかなんだけど」
「……それは、ありがと」
だってしっかり考えないと退学なんだからさあー。まあまだヒフミ先輩と先生しか知らないんだけどね。真っ赤になって感謝を伝えてくれたコハルに、皆で温かい目を向ける。
「……こほん。あの、最初は掃除から始めませんか? 綺麗になった校舎で勉強をするほうが、効率もいいと思うんです」
「そう……ですね。今日のうちに済ませておけば、後で気になることもなさそうですし、そうしましょうか」
空気を変えるように、ハナコとヒフミ先輩が掃除を提案してくれる。
「やりましょっか。掃除」
「うふふ……じゃあ皆さん、汚れてもいい服装に着替えないといけませんね。汚れてもいい、服装に……」
ハナコは意味深に言うと、一足先にドアを開けて、着替えに出ていった。
「じゃあ、私も着替えてきますね」
「ヒフミ。私も行く」
それを追うようにヒフミ先輩とアズサちゃんが行くと、コハルも向かう。
「よ、汚れてもいい服って、体操服でいいのかな……?」
「うん。いいんじゃない? 私もそうするし」
「じゃあ、私も着替えてくる」
と、言うわけで、私と先生が残ったわけだけれども。
「先生。部屋貸して」
”え?”
「ほら、さっき言ったじゃん?」
”あれ本気だったの!?”
「そりゃあそうだよ。荷物とか先生の部屋に置かせてくれない?」
”ああ、荷物? いいよ。隣の部屋だから好きにおいて”
「ありがと。じゃあ着替えてくるね」
外に出て、隣の部屋に入ると、先生の私物がいくつか置かれた状態だった。
私のバッグはとりあえず先生のバッグの隣においておいて、その中から体操服を出す。ハーフパンツで動きやすいもの。私は体操服の種類で一番動き易いと思う。すこし余裕があるし。
上も着て、ハーフパンツも着て、一応ジャージも着ておく。着替え終わった服は……とりあえずおいておこうか。
「戻ったよー」
「おかえりなさい。じゃあこれで皆さん揃ったことですし、分担して掃除しちゃいましょうか」
「待て待て!」
「え?」
みんなで掃除に取り掛かろうとした時、コハルちゃんがそれを止めた。
「どうかした?」
「いや! おかしいでしょ! なんでハナコは水着なのよ!」
「うふふ……これも、汚れていい服……ですよね♡」
「そ、それはそうだけど! 破廉恥!」
「あら、ではコハルさんはプールのときは裸で泳ぐのでしょうか……それはそれでいいですけど」
「そういうことじゃない! 早く着替えて!」
ハナコが水着なのをスルーしようとしたからだ。ぷんぷんとした様子のコハルはハナコの背中をぐいぐい押していく。
「もう……しょうがないですね……では着替えてきますから、皆さんは先に掃除に取り掛かっていてください」
仕方ないといいつつも全く仕方なさそうにせずに楽しそうにしたハナコはからかうことに満足したようににっこりと笑みを浮かべて歩き去っていった。
「あ、あうぅ……では、皆さんで掃除をしましょう。まずは校舎周辺の雑草を抜いていきましょう。今日は暑いので、熱中症などには気をつけてください」
●●●
雑草刈りが終わったあと、それぞれの掃除は体育館をやることになり、皆が複数箇所する中、私はとにかく広い体育館をひたすら掃除した。そのおかげもあって、信じられないほどきれいになったけど。
と、皆でそれぞれの掃除が終わったということは、だ。例のイベントがやってくるわけで。
「プールの掃除ですし、濡れてもいい格好じゃないと♡」
「う、うう……わかったわよ!」
そう。プール掃除。この大掃除イベント最大のイベントと言っていいだろう。私も最近のこのあたりの暑さには参っていたから、ちょっと楽しみだったりした。
「私着替えてくるね」
「じゃあ私も」
「私も行こう」
ということで、皆で水着に着替える。指定のスク水は案の定動きやすく、どこのいいやつを使ってるんだろうというほど。
それにしても……私は相変わらず絶壁だなあ。まあ和服は着やすいからいいんだけど。女である以上、いつかは胸の心配もしてないといけないかと思っていたんだけど、そんなことなさそう。正直、私はこっちのほうがかわいいと思う。
スク水を着た私は、自分で言うのも何だけど、小学生みたいになる。髪を左右にまとめて、ツインテールにしているのもあるかもしれないけれど。気に入ってるからいいじゃん!
「先生は良かったの?」
着替え終わったことだし、と、影に座っている先生の後ろから声をかける。
”キタノ?”
「うんうん。キタノだよ?」
先生はぼーっとしたようにこちらをじっと見る。そうして、少し顔を赤くして、
”似合ってるよ”
と笑うのだ。
ははーん? さては先生、女の子の水着に慣れてないな?
「えい」
”ちょ、ちょっとキタノ!?”
「ん? なあに?」
”それはまずいって!”
「何がまずいの? 水着も濡れてないし、先生が濡れたりとかしないでしょ?」
私は先生の後ろの肩から、抱き付くように寄りかかっている。なんだかこういう反応をする先生は新鮮だ。いつもはもっと余裕がある感じだし。
「んふふ〜」
”ま、参ったよキタノ。だから勘弁して……”
先生の心臓の音が、こちらまでどくどくと聞こえてきている。すごく緊張してる。
「しょうがないなあ。許したげる」
ゆっくり離れて、先生の正面に立つと、顔を隠してちらちらとこっちを見てくる先生。そこに、声が聞こえる。
「エッチなのは駄目! 死刑!」
「あわわ……先生とキタノちゃんが……」
「あらあら♡」
「あれは後ろから制圧する制圧術か? 皆が着替えている時間にも訓練を欠かさない……流石ティーパーティーの寵愛を受ける者」
……なんだか私の顔まで真っ赤になってるような気がしてきた。ああ、あついなあ。