前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
プール掃除を終わらせ、プールに水を入れた。みんなで遊ぼうということになったからだ。でも、それがたまり終わったのはもう日が沈んでからだった。掃除を始めたのも遅かったし、プールに水を貯めるのにも結構な時間がかかるからまあ当然といえば当然なんだけどね。
というわけで、私達はもう校舎の中に帰ってきた。コハルちゃんはうとうとしているし、することもないからね。
”これでとりあえず寝る準備はできたね。じゃあ、私は向こうの部屋にいるから。何かあったら声かけて”
「私も向こうだから心配しないで」
「え!? キタノ本当に先生の部屋に行くの!? エッチなのは駄目!」
「そんなんじゃないから……大丈夫だよ」
そう言うと、コハルちゃんは渋々と言った様子で納得してくれた。別に本当にエッチなことしようとしてるわけでもないし、問題ないよね。
先生の部屋に戻って来ると、私の着替えにバッグが被せられていることに気がついた。
「……なぜ私の着替えの上にバッグが?」
”ああ、それは……目に毒だったから……”
「え? ただの着替えじゃん」
下着とかは流石に脱ぎっぱなしにしてないし、置いていたのは制服と羽織だけ。まあ、先生なりの誠意なのかも。女所帯だしね。
「まあいいや。じゃあ、話そうか。これからのこと」
”……”
私は机に座って先生に向かい合う。先生は少しこわばった顔で固まってしまった。これじゃあ先生と会話したいのに、一方的に問いかけてるだけになってしまう。
というか、なんでこんなに難しそうな顔をしているんだろう。何かあったっけ……あ、もしかして!
「先生、私はトリニティの裏切り者については知ってるから大丈夫だよ」
”キタノ……どこで……”
「私だってシャーレ。それに、これまでティーパーティーに関わってきたんだよ? 何枚かエデン条約についての書類が目についたことがあるから、それが近いことは知ってる。そうして、いつも以上に厳重に姿を表さないティーパーティー、私と会ったときの態度。裏切り者探しなんて、ナギサちゃんが考えそうなことだよね」
”……キタノは、大丈夫なの?”
「何が? ナギサちゃんに裏切り者候補扱いされてること? それはなんとも思ってないよ。というか当たり前だよ。シャーレというトリニティの手が届かないところにいたし、ブラックマーケットに出入りしている。それに、覆面水着団の件も耳に入っているはず。あれだけ暴れれば流石に特定されるって」
全く何も思わないわけじゃないけど、私に伝えた時、相当応えてたみたいだからなあ……多分、私のことを結構大切に思ってくれていたんだろうなと。
だとすると、今回ナギサちゃんは、ティーパーティーであり、親友でもあるセイアちゃんを失い、愛しているとまで言ったヒフミ先輩を裏切り者として疑い、あまつさえ付き合いが長い私も疑わなければ行けない状態になったなんて、相当可愛そうだな。
「それに、私が警戒されてるのは、怪しいからだけじゃないし。……私は、もし裏切り者だったときの被害があまりに大きすぎるんだよ。たぶんね。……こう言うと申し訳ないけど、今の私を除いたシャーレじゃ、どうやっても私には勝てないくらいなんだよ。トリニティもそう。こう言うと自信過剰かもしれないけど、これでもついてきてくれる人はたくさんいるから。だから、危険因子なんだよ。私にその気がなくてもね」
おっと、喋りすぎてしまったかもしれない。先生が静かに難しい顔をしてうつむいてしまった。
”……ねえキタノ。キタノはそれでいいの?”
「うん、いいよ。これくらいで壊れる友情じゃないから。きっとナギサちゃんは心から私のことを疑いきれてない。私はナギサちゃんのことを信じてる。それでいいんだよ」
”そっか。キタノがそう思ってるならそれでいいかな”
先生はふっと表情を緩めると、私に優しげな目線を向けてきた。おそらく、これまでそれが引っかかっていたのだろう。
そもそも、本気で私のことを裏切り者だと思っていたら、おそらくこんな部活じゃなくて、地下の牢に入れられると思う。それどころか、ティーパーティーのバッジすら取り上げられてないのだからわかりやすい。
「さ、どうしよっか。まだ時間はあるし、ぶどうジュースでも飲みながらなんか食べる?」
私はわざわざトリニティの有名店から取り寄せたボトルを取り出して机においた。
”……お酒じゃないよね?”
「いやいや。……一応ノンアルコールだよ。ノンアルのワイン。でもこういう日にはぴったりじゃない? 私は学生だし、今は我慢するよ」
前は少し飲んでいたけれども、流石にこのキヴォトスで飲むのはまずい。でもこういうノンアルコールでも十分楽しみ方はあるもの。
私はバッグの中からハムとチーズ。それにクラッカーを取り出した。
「ちょっとまってて。今日の空き時間に作っといたの、食堂から持ってくるね」
食堂から持ってくるのは、大皿に数種類の合いそうなおつまみが乗ったプレート。夕食もあまり食べられなかったし、多めに作っておいて正解だった。先生もお腹へっているだろうしね。多分後で彼女も来るし。
「さ、これで揃ったね。じゃあ飲もっか。乾杯」
”ありがとう、キタノ。乾杯”
先生とグラスを合わせると、きれいな音がなった。私はとりあえず一口その中身を含むと、転がすようにその芳醇な香りを楽しんだ。
「うん、やっぱりぜんぜん違うね」
”うん、びっくりした。こんなにおいしいの飲ませてもらって良かったの?”
先生も少し目を見開いて驚いている。
「あはは、いいの。これは私がいつか大切な人と飲もうと思って取っといたやつだし」
”それもっと大丈夫なの!?”
「いいんだよ。先生はもう大切な人の一人だし。他の子にはノンアルコールとはいえ、ワインを勧めるのはちょっとはばかられるしね」
あ、いい感じにできてるね。おつまみもおいしい。先生も美味しそうにつまみを食べる。
「まあでも良かったね。こんなに月が綺麗なとこでさ」
ちらりと先生を見ると、先生は少し赤面してこちらをじっと見てきていた。
「どうした? 先生。もしかしてノンアルで酔ったとか?」
”いや、そういうわけじゃないんだけど……キタノ、誰にでもそういうこと言ってそうだなあと”
「どういうこと?」
聞いてみるけど、先生は微妙な顔をして応えてくれない。変な先生。
ぎい、という扉が開く音が聞こえる。
「まだ起きていらっしゃいますか?」
「あれ、ヒフミ先輩?」
あくまで知らなかった体で、ヒフミ先輩に挨拶する。
”どうかした?”
「いや、その、眠れなくて……」
”じゃあとりあえずこっちに来てみるといいよ。眠たくなるまでこっちで一緒にいようか”
「それがいいですね。この椅子に座ってください」
ヒフミ先輩の椅子を出しながら、先生に目配せする。だめ、という目が帰ってきたので、余りのグラスには、あまいジンジャーエールを注いで置いた。
「取皿はこっちのを使ってください」
「あの、これ、もしかしてキタノちゃんの?」
「はい、つまみに合いますよ」
「やったあ! 私、キタノちゃんの料理好きなんですよね」
「それは良かった。じゃあ、部長としてナギサちゃんに押し付けられただろう面倒事は、同じ面倒事を持っている私達三人で消化しちゃいましょう」
「……!? お二人も、あの話を!?」
”え!? ヒフミも!?”
先生とヒフミ先輩は驚いているけれども、私ならきっと、前世の記憶がなくてもこの二人に知らせてるんだろうなってわかるけどな。
「それだけ、お二人は信頼されてるんですよ」