前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「あ! キタノちゃん! 先生!」
教室に戻ってきたときにはヒフミちゃんがいつもよりは少しだけ機嫌良さそうにこちらに駆けてきた。手元には私を除く全員分の模試の結果。私はどうせ100点だからと、今回はヒフミちゃんが受けなくていいと言ってくれたのだ。
”遅れてごめんね。ところで、その手元のは何?”
「あ、はい! これは全員分の模試の結果なんです! 見てください!」
第二次補習授業部模試、結果――
ハナコ、 8点
アズサ、58点
コハル、56点
ヒフミ、88点
「紙一重の差だった……」
そうつぶやくアズサちゃんは、普段通りの表情でありながらも少し悔しそうだ。
「頑張ったねえ、アズサちゃん」
「そうですよ! アズサちゃん! 今回は本当に紙一重でした! すっごく惜しかったです……!」
私とヒフミ先輩でアズサちゃんを褒めると、今度はコハルちゃんがこっちに近づいてきて、ずいっと顔を近づけてきた。
「わ、私ももう少しだったんだけど!」
何だこのかわいい生き物。
いや、もしかして、アズサだけ褒められてたから自分も褒められたくなったのかな?
「うん。コハルちゃんも凄いよ。後ちょっとで合格できたのに、惜しかったね」
「うんうん! そうよね! やっぱり私には隠していた力があるのよ!」
ニコニコしているコハルちゃんはかわいい。これは真理だ。嬉しそうにはねたような声でこう言ってくるのだから、狙っているんじゃないか? と思うほどのあざとさ。
「今回、コハルちゃんも頑張りましたね! それで、次は、ハナコちゃん……」
「あら? なんで声量が小さくなるんです? 最初のテストは2点、前回4点、今回は8点なんですよ? そう考えれば、次は16点……三回繰り返せばきっと合格圏内です」
「そう考えれば、そうですが……」
もにょもにょ、と少しコメントを言いづらそうにしているヒフミ先輩を助けるように、先生は声を出した。
”とにかく! みんな頑張ったね”
それによって、空気はより一層弛緩する。みんなの口元に笑みがこぼれ、互いの頑張りを称え合うような空気だ。
「私は必ず任務を成功させて、あのかわいいやつを受け取らないといけない。それが今私がここにいる目的だから」
「アズサちゃん!? ここにいるのは落第しないためですよ!?」
少し焦ったように、ヒフミ先輩はアズサちゃんの発言を訂正する。そこに……
ぴんぽーん、と呼び鈴がなった。
「ごめんくださーい!」
呼びかける声が聞こえてくる。……あ、これ思い出した。
私は急いで駆け出す。
どーん! という爆発音とともに聞こえてくるのは悲鳴。ああ、可哀想に……
そうして、それで焦ってしまったのか、バタバタする音が聞こえ、また爆発音。不憫すぎない? まあ本当に侵入者なら、これくらいしても心が傷んだりはしないんだろうけれども。
「大丈夫?」
入り口に到達すると、そこは砂埃でまともに先も見渡せないほどだった。
「ごほっ! ごほっ!……わあ、ミスったかも。砂埃、思ったより……ごほ! とにかく、マリーちゃん……ごほっ! 大丈夫?」
「ごほっ! だ、大丈夫です……! キタノさん……」
「あー……ごほっ! だめかも……ふう……ひゅー……先に部屋に行っててくれる? ごほっ! 普通に進めば、もうブービートラップには引っかからないようにしておくからさ」
「あ、はい……本当に大丈夫ですか?」
「うん。気にしないで……」
心配そうに見つめてきているマリーちゃんを横目に、外に出ていく。今はちょっとこの中にいるのはね……
少し散歩するように、市街地から離れたこの場所の空気を堪能するかの如く深呼吸をしながら結構歩く。途中途中出る咳がきついけれど、まあしょうがない。突然あれだけの砂埃を吸えばこうもなるよね。
「ごほっ! がふっ! ごふっ! ゔぉふっ!」
ああ、駄目だな。また血が出た。でもここにはセリナから持たせてもらっていた吸入薬はない。
というか、割と結構な量出るようになってきたけど、大丈夫だろうか。健康的な食事を心がけてるし、貧血で突然倒れるとかはないと思いたいけど……
とりあえずきついし、たまたま近くにあったベンチに腰掛けた瞬間だった。
「き、キタノさん!?」
「あれ……? ナギサちゃん?」
「ど、どうしたんです!? こんなに血がたくさんついて、口元が……」
「ごほっ! ごほっ! あー……ほら、よくなってたでしょ? 喘息。今も偶に出てるの」
「そ、それにしても酷いです! 大丈夫ですか? なにかできることは……」
焦ったような表情をしたナギサちゃんは、慌てて私の近くによって、そっと胸に耳を寄せてくれた。
「酷い喘鳴……頼りのお医者さんなどは!?」
「あ……そう言えば。呼べばよかったね。救護騎士団の、セリ……」
「お呼びですか!?」
わーお、まだ呼び切ってないのに来たよ。凄いなあ。流石セリナ。
「あ、あなたはセリナさん!? キタノさんの事わかりますか!?」
「はい。もちろん。少しどいてもらっても?」
心配そうな顔をしたナギサちゃんがゆっくり私のそばから離れる。そこに変わるようにセリナが座って、懐から取り出した吸入薬をそっと私の口に近づけた。それをさっきの深呼吸みたいに吸いこんで、元の息は鼻からすっと吐く。
ああ、良かったこれでちょっとしたらマシになるだろう。
「ありがと……セリナ……」
「いえいえ。それにしても、最近なんどもなっているからか、少し悪化している様に思えます。その様子ですと、ここ以外でも喀血がありましたね?」
「うん……ごほっ!」
「そんな……ここ以外でも……!?」
ショックを受けたような表情のナギサちゃん。初めて人の喀血を見たのか、私がそうだからショックを受けているのか。
「これからは少し注意されてください。これ以上酷くなってしまうのは考えたくありませんので」
「うん。ごめんね」
「いえいえ。私は貴方のセリナです。いつでも呼んでください!」
セリナは少し忙しかったのか、すぐに薬などを片付けると、走って帰って行ってしまった。
「……そう言えば、ナギサちゃんは、ごほっ! なんでここに?」
「ここがセーフティハウスだからです」
「……あれ、そんなに歩いたかな……あと、裏切り者かもしれないのに言っちゃっていいの?」
「……キタノさんに嘘をついたりするほうが嫌です。今回目の前でキタノさんが倒れていた時、よくわかりました。やっぱり私は、愛が大切で、これ以上大切な人を誰一人として失いたくない、臆病な人間なんだと」
だから、そう置いたナギサちゃんは、ここに来て一番の強い目で言った。
「トリニティも壊させませんし、エデン条約も締結してみせますし、もし裏切り者がいたとしたらそれも排除してみせます。大切な人も死なせません」
「いい決意だね。それでこそナギサちゃん」
ナギサちゃんはゆっくり近づくと、両手でしっかりと包容をしてくる。力が入らなくて、上手く抱き返せないのがすごくもどかしい。それでも、しっかりと暖かさが伝わってればいいな。
「……キタノさん。こう言っても、まだあの部活を取り潰すことも出来ませんし、方針を変えるわけにもいきません。私は私の信念を達成するため、何かしらの介入はします。でもそれは、きっとトリニティの裏切り者をあぶり出すため。もしそれでキタノさん、ヒフミさんが大変なことになったら、しっかりと私が責任を取りますから……」
「そんなに気にしなくてもいいんだよ」
「……え?」
「もし何かがあったら、私達が責任を取るよ。それに、そんなに補習授業部は弱くないよ……ごほっ! みんな、負けず劣らずのいい子たちばっかりなんだからさ」