前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「……と、言うわけで、シャーレ所属になりましたー!」
目の前で紅茶を上品に飲んでいるナギサちゃんは、眉を少し震えさせて、努めて冷静に言う。
「……というわけで、ではなくて、もうちょっと丁寧に答えていただきたいのですが?」
「あはは、ナギちゃん怒ってる☆」
ぼすっとミカちゃんの口にロールケーキがぶち込まれた。南無……
「じゃあ、端折りながらだけど」
「はい。よろしくおねがいします」
えっと、あの日はたしか……
「まず、暇だったわけですよ。だから、行きつけの遠くのコンビニまで遠出しようと思って、シャーレ店のエンジェル24まで遊びに行ったんだよね」
「そこまでは普通ですね。……まあ、なんでわざわざシャーレ店まで行ったのかというのはありますけど」
「で、突然ビルが不良に囲まれて、一触即発みたいな雰囲気になったから、お友達の店員さんを安全なところに誘導して、私は立入禁止のところを荒らされないように、防衛目的で立ち入ったんですよ」
「……まあ、荒らされるよりはマシですか」
「そしたら、突然気絶して、起きたら先生がいたから、そのままシャーレに入れてもらいましたー」
そう端的に説明すると、ナギサちゃんは頭を抱えてしまった。
「はあ……だから、なぜシャーレに入ったのかということを聞きたいのです。一応、学園外の活動になりますから、聞いておかないと」
「それは……勘だね」
「そんな理由で?」
「そんな理由でだよ。……まあ、いつかはナギサちゃんもわかると思うよ」
勿論本当はもっとたくさんの理由があるのだけれど……まあ言うわけにはいかないし。
「まあ、いいでしょう。じゃあ次の話です。シャーレに立ち入った時、バリケードを作って、他の生徒の立ち入りを妨害したというのは本当でしょうか」
「あ」
記憶が蘇る。あの後、しばらく先生と雑談していたのだが、ユウカを始めとする初期生徒たちが怒って入ってきて、一瞬で銃口を向けられたんだよね。「先生の安全を確保して!」って。
そしたら、スズミさんとハスミさんに気づいてもらえて、先生からも弁解してもらったから大丈夫だったんだけど、「じゃあバリケードは?」って話になった。
作ったのは私だし、正直に私が作りましたって申告したら、主にユウカさんがキレて、
「アレの撤去、どれだけ大変だったと思ってるの!」
とひっぱたかれたのだ。勿論残りの四人も微妙な顔をしていて、あ、これ私が悪いやつだって思ったよね。
「あれは結果的に立ち入りを妨害する形になったけど、不良共が侵入してこない用に作ったもので、糾弾される謂れないよ!」
「しかし、侵入者……災厄の狐は、シャーレの中に侵入していたそうですが?」
「え? ほんと?」
「本当です。先生が話されたそうです」
そういえば、妨害できたのはユウカ達だけで、先生もあのバリケードを普通に乗り越えてきたってことだよね?
「あ、ああ……自信が喪失するう……」
「……あはは。ま、どんまい」
ミカちゃんが慰めてくれるけれども、ちょっとマジで自信が……あの二人が異常なだけの可能性もあるんだけれども、それでもね……
「と、言うわけで、こちらとしても流石にお咎めなしというわけにはいきません。……本当は、貴方の行動ですし、悪気がないこともわかってます。勿論先方も。でも、建前上の罰が必要なこともわかってください」
「まあつまり、あくまで建前上の罰だから、あんまり気にしないでってことだよね? いちいち言い回しが分かりづらいよ! ナギちゃん!」
一体、何が罰なんだろう……まあ、正直矯正局に入れられるとかじゃない限りは別にいいんだけれども。
「貴方を一ヶ月間シャーレに出向とします。まあ貴方のことなので心配はいらないと思いますが、成績も落とさないようにしてください」
「……え?」
聞き間違いかな? 罰というには罰になりえないようなことを今言われたような気がする……
「あの……」
「先生も仰っていたそうです。貴方といると、なんだか安心すると。……それに、私達は貴方の友人なのです。友人がしたいことを応援できないで、何がティーパーティーですか」
「勿論セイアちゃんからも許可は出てるから安心してね!」
「……というわけで、安心して行ってきてください。勿論、所属はトリニティのままですから、自由に遊びに来てくださって構いません」
「もう! 素直じゃないなあ。『寂しいから、たまには会いに来てね』って素直に言えばいいのに」
「ミカさんっ! その口中にマカロン詰め込みますよっ!」
「きゃー☆」
ミカちゃんは楽しそうに椅子を引いてナギサちゃんの攻撃を避けた。
「まったくもう……」
「まあとにかく、いつでも帰ってきてね。どうせいっつも私達は寮かここにいるしね」
ミカちゃんからの見送りの言葉。席を立ち、ドアまで歩いていく。
「じゃあ、精一杯働いてくるよ!」
そう言って外に出る瞬間ナギサちゃんとミカちゃんの口元には、たしかに微笑が浮かんでいた。
●●●
「ふう……」
キタノさんが出ていったドアから目を離し、紅茶を一口、口に含み、一息。
「ミカさん」
「ん?」
ニコニコとただこちらを見てきている幼馴染に問いかけます。
「悔しいですね」
「……」
私達が初めてキタノさんと出会ったのは、彼女が中等部一年生の頃。登校途中に涙目になって迷っていたキタノさんを、私達が案内したことが初めでした。
その頃の私達は、中等部の生徒会に入り、将来のティーパーティー候補と目され始め、自分自身を見てくれる人はいなくなっていった時期です。それでも……
「ナギサちゃん! ミカちゃん! セイアちゃん! 今度美味しいカフェ巡りしない?」
心からの笑みを浮かべてくれる彼女は、心の拠り所になっていきました。
ときには私とお茶を楽しみました。ときにはミカさんとショッピングに出かけました。ときにはセイアさんと小難しい話をしていました。
それでも……彼女は、常に何かを隠して生きています。
私は、彼女に聞かれれば、どのようなことでも打ち明けられるでしょう。それがたとえプライベートなことであろうと。それだけ、私は彼女に信頼を寄せています。
セイアさんもあまり人に言いふらさないはずの『夢』の中の話をしていました。ミカさんだって、あそこまで心を許している様子を見せるのは、私たちの前でだけです。
それでも、彼女はすべてを隠しています。彼女の殆どを知っている気になっても、それは一角に過ぎない。
これは私の勘に過ぎないのですが……彼女は、なにか大きなものを背負っているように見えます。それも一人で。
まだ中学生の時の話です。ある日、セイアさんが泣いたことがあります。
「キタノが死ぬ夢を見たんだ……私の夢は覆せない……」
そう語った時のキタノさんは、何一つ驚いたような顔を見せず、「大丈夫だよ」と、安心させるように撫でていました。私達はまだ中学生だったとはいえ、常日頃気丈な態度を崩すことはないセイアさんが泣くほどのことであったこと、本当にセイアさんの夢が外れることはなかったのですから、ひどく驚いていたのにです。
結局、全員でキタノさんに宥められ、落ち着きを取り戻したことを覚えています。思えば、その話題の張本人とは思えない落ち着き様でした。何故か聞いても、ごまかされるばかりで、踏み込めません。
ただ、私にはその姿がなんだか大人に見えたのです。
ただ、決して私達を信用していないようには思えません。
日頃の小さな悩みやらなんやらは、すぐに私達と一緒に話してくれますし、一緒にいて、憂いを帯びたような表情を見たこともありません。
それでもなお彼女が秘密を背負い続けるのは、きっと、信用とか、そういうのを置いておいて、自分の中に秘めておくべきことだからなのでしょう。
でも、願わくば……
「彼女の背負っているものを、少しだけでも分けていただけないのでしょうか」
「ねー……」
ともかく、キタノさんが遊び以外で、あんなに意欲的なところは見たことがありません。
実はキタノさんがしたことは、別に、建前でも罰を与えるようなことではありませんでした。なのに、彼女に罰であると嘘をついてまでシャーレへの出向を決めたわけは、彼女のやりたいことのお手伝いをしたかったからです。
彼女の目標である、「一生懸命、精一杯生きること」。何故か、その目標を彼女が掲げている間は、何があっても大丈夫なんじゃないかという、正体不明な安心感を感じるのです。だから、その手助け。
口惜しい。悔しい。これだけしかしてあげられない私達が。
だから……
「いつか、本当の意味で隣に立てるように、ならないといけませんね」