前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
師走は忙しすぎてなかなか時間が取れませんでした……
まあとりあえず1月上旬すぎれば一旦落ち着きますのでそれまでお待ち下さい!
もちろん、時間があれば上旬にも新話を投稿しますのでよろしくお願いします。
『それでは! さん、にー、いち……はい! ついに年が開けました! 新年の幕開けですよ!』
テレビの子達は言う。そのスタジオの映像に映る子たちは皆一様に楽しげな笑顔を見せ、新たな年の幕開けを祝っていた。
「……もう年も過ぎ去っちゃったね。今年もよろしく、先生」
その声が聞こえた方に目線を戻すと、そこには少し目を細め、ほんのり嬉しそうな顔をしたキタノの姿があった。
”あけましておめでとう。こうやって誰かと年を越すのも悪くないね”
「そうでしょ? この部屋に誘った甲斐もあったかな」
そう、私は今キタノの部屋に来ている。
はじめは私も、少し離れたところにある自宅に帰って、一人で年を越そうと思っていたのだけれども、昨日の業務後に誘われたのだ。「どうせなら、私の部屋で越そうよ」と。
キタノの部屋と言っても、自宅ではない。居住区内の、キタノ専用の部屋だ。それならまあ、自宅にお呼ばれするよりは問題が薄いかな……? と思ったので、受け入れた。シャーレから出たわけでもないからバレないだろうし。
「わ、もうこんなに……私でこれなら先生にはもっとかな。とりあえずお祝いメッセージの返信でもしよっか」
スマホのバイブレーションが鳴り、新たなメッセージの存在を主張する。キタノの言う通り、これを返さないと、と画面を開くと、無数の生徒たちからの個性的なメッセージの数々が。思わず頬を緩めてしまう。でもそれはキタノも同じみたいだ。
「せんせー」
”ん?”
「思ったんだけどさ、こんな夜遅くまで起きて、これからも仲良く居たい人たちに挨拶するのって、なんだかいいよね」
”……うん。たしかに。どうでもいい人にメッセージを送るためにこんな時間まで起きてはおかないしね”
「私も、先生も、それを自分から送る前にこんなにもらえたんだよ? これだけの子達がまたこの年も仲良く居たいってこうやってメッセージを送ってくれるなんて、幸せなことだなって」
”たしかにね。生徒たちみんなにも感謝して、もちろん来年もまたこうやってメッセージを送ってもらえるような『シャーレ』でありたいね”
キタノはくすっと笑った。そうして全員分の返答を終えたのか、スマホの電源を切って、お気に入りらしいノンアルコールのワインを一口小さく口に含んで、よく味わうように嚥下した。
「ふう……じゃあまあ、せっかく私達だけというわけだし、私達だけのささやかな新年のお祝いでもしよっか」
”お祝い?”
私が聞くと、キタノは少しニヤッとして私が飲んでいたワイングラスと、キタノがさっき飲んだグラスを取って、流しに持っていった。そうして、新しいグラスを机に用意する。
「私も少しためらったんだけど……」
そう言いながら、キタノがワインセラーから取り出したのは……
”っ! それ……”
「うん。最高級ワイン、キヴォトスだよ」
初めて見た……キヴォトス。
このキヴォトスという土地は、酒は禁止であるものの、ぶどうが多く取れる自治区も多いということで、昔から酒ではない物として、ノンアルコールのワインが多く生産されていたらしい。その中でも、特に権威が高いとされてきたのが、この世界の名を冠した、キヴォトスである。
キヴォトスは、その年の一番いいワインの産地で取れた、特に最高クラスのぶどうを使って仕込まれたワインたちであり、もちろんその年によって産地も違う。産地が違えば、味も、値段も違う。だが、キタノが持っているのは……
「六年前製だね。先生と飲みたくて、買ってから取ってたんだ」
”ろ、六年前製!? 最高傑作と話題のやつ……?”
「うん。この瓶の形……トリニティ校舎内の遺物がモチーフになってるのはこれだけだから」
これは、遺産と言ってもいい物だ。命を掛けて作り出されたワインに、命をかけて作り出された物を、命を掛けて模した瓶。
……値段は……六千万クレジットは硬いだろうか。ここまで来ると、もはや飲むものと言うより、コレクションするものなのでは? というほど。
「ささ、せっかくだから飲もうよ」
”わわ! キタノ、本当にいいの!?”
「いいのいいの。どれだけしても、ワインはワインなんだから飲まなきゃ損だよ。それに、シャーレのお手伝いで私は相当もらってるし」
”まあ、たしかに給料は良いけどさ……!”
「それに、私は先生と飲みたくてこれを買ったの。だから、遠慮せず、飲も?」
”……わかった”
キタノが注いでくれたワイン。色は深い紫に見える。あまり多くのワインを飲んできた訳では無いため、さっきのキタノのお気に入りと何が違うのか、見た目はさっぱりだ。だがキタノは、ほうほうとじっと楽しそうに眺めている。
キタノが私に促し、それを一口だけ口に含む。その瞬間広がるふわりとした香り。ああ、これが違いか。全く詳しくない私ですら、一瞬で気がついてしまうほどの素晴らしい芳醇な香り。
「ん……確かに、これはいいものだね」
キタノは、余計なことを言わず、ただうっとりとした表情でグラスを眺めた。
「……ね、先生。これから言うことはね? 私が酔ったから言ったことだからね」
”……え? これノンアル……”
「いいの。酔ったから言ったことだから」
少し強引なキタノは、わざわざ席を立って、私に近づいた。そうして、私の膝の上に座って、ゆっくりと私に赤い顔を見せるように私の顔を見つめた。
「私、去年は先生みたいな素敵な人と会えてよかったと思うよ。だから、これはそのお礼ね」
キタノは、さっきよりもっと顔を赤くして、私の方に顔を近づけてきて……そっと頬に柔らかい感触を感じた。
”……え? キタノ?”
「あー、だめだめ、なんだか酔いが冷めてきちゃった。ちょっと部屋の外に出てくるね。あ、先生は部屋の中で待ってること! じゃ!」
キタノは少し焦り気味に席を立つと、ドアに走り、そのまま出ていってしまった。
残されたのは、呆然と身動き取れずにいる私と、私とキタノのグラスに残るキヴォトス。それに、静かに始まっていった新年だけだった。
ああ、今年もきっと、キタノにこうやってからかわれるんだろうな。熱を持った自分の頬を触って理解した。