前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「ほ、本当にいいの……?」
「うーん、いいんじゃない? 私この前外に出たとき、ナギサちゃんに会ったし」
「それはキタノだから許されたんじゃないの……?」
コハルが心配そうに、少し後ろをついて来ている。
「ふふふ……せっかくのこういう機会ですし、皆さんで楽しい時間を過ごしたいですね」
「あはは……まあ、一回くらいは大丈夫ですよね?」
「この時間だしきっと大丈夫。それに、見つかったりしないように潜伏しておけばそう簡単には気づかれない」
それの少しだけ前を歩く私達は、夜の街を歩いていた。
「まあ、たしかに夜の街はいいよね」
見上げた空に星は浮かんでいなかったけど、それでもこのくらい世界に少しだけ浮かぶ明かりが街を照らして幻想的に彩っている。
”キタノは、夜が好きだね”
「うん。きれいでしょ? こんなに暗い中に、ぽつぽつと仄かな明かりがあって……全く光がないところでも、月や星が瞬いてるんだから」
”うん。これまではあまり夜が得意じゃなかったんだけど、キタノに会ってからは好きになったよ”
「そう? それなら嬉しい。やっぱり自分が好きな物は好きな人にも好きになってほしいからね」
”キタノはまたそんな事言う……”
少し顔を赤くした先生が、少しじとっとした顔で見てくる。なんかしたかな? その様子を見ていヒフミちゃんに目線を向けても、恥ずかしそうに「あはは……」というばかり。
「あら? やっぱりキタノさんと先生はアツアツなんですね」
「熱々? どうして?」
「それは、キタノと先生がとても仲が良さそうに見えるからだと思う」
すっと入ってきたハナコにぶつけた疑問に、アズサちゃんが答えてくれた。仲が良さそうに……? まあ私と先生は仲いいわけだしね。……あ、中高生あるあるの、男女が話してるのをからかうあれかな? いやあ、ハナコも可愛いとこあるんだなあ。
「……なんだか、少し不満な評価をされた気がします……」
「んふふ……やっぱり、ハナコも可愛いところあるんだなって」
「等身大の私を見てくださるのはとても嬉しいし、キタノさんらしいですけど……やっぱりちょっと勘違いしてませんか?」
「そんなことないって……ふふっ。さ、そんなことよりどんなお店に行くのか決めなきゃいけないでしょ?」
深夜の街を楽しむためとはいえ、どこかに入ってしまわないと落ち着かない。こうやって話しながら歩くのも悪くないけどね。
「うーん、どうします? 夜ってこともあるので、空いてる店も限られますよね」
ヒフミちゃんが言う通り、トリニティ市街地ということもあり深夜でも空いている店は多いが、それも昼間と比べれば少ない。
「あら? ここは……こういうお店も開いているものなんですね」
「ああ、ここは有名なスイーツ店で、いつまでも開いていることで有名なんだよ。本店以外は二十四時間営業しているから、その界隈じゃあ有名なんだ」
”キタノ、詳しいね”
「そうですね。もしかしてスイーツ部の方々と行ったことがあったり?」
「スイーツ部のみんなとは、このあたりの市街地にあるスイーツ店はほとんど回ったね」
そう言うと、感心したのか、乙女心的に羨ましいのか、どうも若干低く「へえ……」と言う声が。私は基本いくら食べても消費できるくらいカロリーを消費してるし……
「よし! じゃあここに入る?」
「私は賛成ですよ?」
「私もいいかなって」
「うん。私もみんなと一緒に話せるならそこでいい」
先生は私達がいいといえば付いてくるだろうし、今日あんまり話していないコハルちゃんの返事待ちになる。しかしながら、コハルちゃんは青い顔で小さくなって落ち着かない様子。
「コハルちゃん? ここで大丈夫?」
「う、うう……私はバレないなら大丈夫だからあ……」
「大げさだなあ。もしかして、ハスミちゃんのこと怖がってるの?」
「だって! この前怒ってるところに出くわしたとき、とっても怖かったもん!」
大げさも大げさだ。私も実際ハスミちゃんが怒っているところに出くわしたこともあるし、前世知識としてどんな怒り方をするかも知っている。だけど、実際怒られてもなんとかなったし、戦ってもなんとかなったし、そもそも理不尽に怒ったあとはきちんと謝ってくれたし。
しかも、ハスミちゃんは割とモブ生徒ちゃんたちにも気を配っている。みんなの名前も覚えているし、特徴もきちんと把握しているうえ、可愛がっているのだ。案外いい子なんだよね。ハスミちゃんも。
「まあまあ。ハスミちゃんなら大丈夫でしょ」
「だ、大丈夫って……」
「まあ、これ以上ダラダラ歩いて、徘徊しているところを見つかるよりは、店に入ってなんのために外に出てたのか明確な方がハスミちゃんも怒らないんじゃない?」
「た、たしかに。ハスミ先輩は今ダイエット中だって言ってたし、スイーツは食べに来ないはず……」
コハルちゃんがコクリと首を縦に振ったのを見て、ハナコたちは続々と店内に入っていく。原作ではたしかここにハスミちゃんがいたはずだが……どうも姿は見えない。まだ来ていないのか、もしくはもう帰ったあとなのか、そもそも店自体が違うのか。ともかく、コハルちゃんが焦るような事態にならなくてよかった。
店員に案内されて、席につく。なかなかおしゃれなテーブルを囲むように座り、隣に先生とコハル、向かいにはヒフミ先輩という布陣。そのとなりに着いたハナコ、アズサちゃんはメニューを少し楽しそうに見ている。二人共心から楽しい学生生活を楽しんでいるのだろうか?
「あ、ここって限定パフェなんかもあるんですね。美味しそうですね……」
「はい、美味しかったです。でも、今は深夜ですよ? あと、カロリーが半端ないから気をつけてくださいね」
私が一言そう言うと、アズサちゃん以外のみんながすっと目線をそのポスターから逸らした。
「あ! じゃあ、その他でおすすめはありますか? できれば、あんまりカロリーが高すぎないので……」
「それなら、プリン、ババロア、ムース辺り。それにマカロン、あと、少しカロリーは高めですけど、チーズケーキなんかも美味しいです。あ、限定パフェより小さい通常サイズのパフェもあるので、それくらいだったら大丈夫じゃないですか?」
おすすめの洋菓子を羅列していくと、ヒフミ先輩以外もうんうんと興味深そうに頷いている。そうしてメニューをじっと見てどれを頼むのかうんうん考えはじめた。
「先生はいつものでいいの?」
”うん。キタノは決めたの?”
「はい。楽しみにしててね?」
私の発言に、コハルちゃんがなにかいいたげな目線を向けてくる。もしかして、いつもので通じるくらい通っていることに少し思うところがあるのだろうか。
「まあ、ここは先生がこっちに来てくれたときに寄るのにちょうどいいからさ」
「そ、そっちじゃなくて! ま、まあいいけど……」
歯切りの悪いコハルちゃんが気になったのは違う話だったらしい。じゃあ何だろう? まあいいか。
全員で決めたものを頼んでいく。先生と私の分はどっちも私が代表で注文。少し談笑したあとに届いたのは、私のマカロン、それに先生のココアとビスケットのセット。それにコハルちゃんのババロア、ヒフミ先輩の小さなパフェ、ハナコのティラミス、アズサちゃんの焼きプリン。
「じゃあ、食べようか」
そう言うと、深夜の少し盛り上がったテンションのまま、甘いものを前に、女子ならではの少しだけ盛り上がった雑談が始まった。
楽しそうに笑うハナコと、表情はわかりにくいが嬉しそうな顔をするアズサちゃんの顔に、こっちまで頬が緩んだ。