前世の記憶が戻ったので、シャーレでハッピーエンドを手に入れたい 作:うどんそば
「先生、はい。口開けて?」
”うん”
少し口を開いた先生の口の中にマカロンを入れる。さくっという音とともに、ほのかに顔を綻ばせた。
”相変わらず美味しいね。このマカロンは”
「そうでしょ? じゃ、今度はコハルちゃんね」
「あー……んっ あ、美味しい」
「そうでしょ? これは私が考える中でも結構おすすめのメニューのひとつなんだよね」
マカロンを先生とコハルちゃんに食べてもらって、美味しさの共有をする。こういうお店に来たときの私のいつものクセみたいなもの。
私はスイーツ部のみんなや、先生とこういったお店に来ることが多いが、なんだかいつもこうしているような気がする。自分が食べている美味しいものを、他の人にも共有したいのだ。それが楽しみというところまで来ているかもしれない。
正面の三人は、各々微笑ましそうに、「あはは……」と言いそうに、不思議そうにこちらを見てくる。
「ヒフミ先輩もいりますか?」
「う、うーん……じゃあ、一つだけ」
ヒフミ先輩にマカロンを差し出すと、それをぱくっと食べた。すると、キラキラと目を輝かせ始め、弾んだ声で言った。
「これ、本当に美味しいですね! 私もこれにすればよかったかも……」
「次来たら頼んだらどうですか? 多分、今日これ以上食べると体に良くないと思うので」
「そうですよね……でも、またここに来たくなりました!」
そういった感じで、ハナコとアズサちゃんにも分けつつ、談笑をする。勉強が思うように進まないといった、勉強合宿中らしい話題から、先生と私が同じ部屋であることの追求まで……いろいろな話だ。
のんびりと談笑しながら、ゆっくりとスイーツを食べていると、結構時間は経っていくもので、全員が食べ終わったときにはすっかり一時間を超える時間ここにいた。
「流石にそろそろ出ましょうか。あまり長居しすぎても迷惑になるかもしれませんし……ね?」
「そうだね。この時間になってもそこそこお客さんはいるし」
退店を促すハナコの言葉に同意する。もう結構夜も更けてきたわけだが、有名店だけあって、この時間になっても相当の数のお客さんが入っていて、止まることのない注文に店員さんも右往左往している。外にも待っているお客さんがいるようで、少しにぎやかになった大通りに会話が響いているのが外近くの窓からも聞こえてくる。
全員で立ち上がって、会計に向かおうとしたその時だ。
「あれ? あなた達は……」
聞き覚えのある声が響いた。
「あ、ハスミ先輩……?」
そう。ハスミちゃんだ。来てないなとは思ってたけど、やっぱりこっちが早く来すぎてたみたいだ。そして、その机にはやっぱり特大な大きさの限定パフェが乗っていた。しかも二つもである!
「あなた達は確か……外出禁止なのでは?」
「はい……でも、ハスミさんだって、今はダイエット中なのでは?」
「それはそれとして……! って、キタノもいるんですか……それなら、お互いこのことは他言無用としましょう」
「あれ、いいんですか?」
「まあ、キタノもコハルもいるところを見ると、問題ないでしょうしね。それに、キタノはもうティーパーティーからも実質黙認されていると聞きましたし」
「どうやらそうらしいね。それはともかく、ありがとう、ハスミちゃん」
どうやら私がナギサちゃんから実質黙認されていることはすでに正実も知っている情報だったようだ。まあどちらにせよ見て見ぬふりしてくれるなら好都合だ。まあどちらにせよ、原作同様後輩想いのこの人なら見逃してくれてたと思うけども。
「……それにしても、コハルはしっかりその部で頑張っていますか?」
「あ、は、はい! コハルちゃんは随分成績も上がってきていて、このまま行けばもう少しで合格点なんですよ!」
「そうですか……コハル、よく頑張っていますね」
「はい……ありがとうございますっ!」
「前も言いましたが、コハルはやればできる子なのですから、これからも頑張って、こっちに戻ってきてくださいね」
「頑張ります!」
コハルは憧れの先輩の褒め言葉に、頬を緩める。コハルと話してて思うが、本当にコハルの一番の憧れの存在と言っても過言ではないくらい、ハスミちゃんはコハルちゃんにとって大切な先輩だ。そんな先輩から直接激励されたのだから、コハルも明日からはもっとやる気を出してくれるんじゃないかな?
「それと、キタノ。あなたはなんでその部に? まさか補習なんて言うイメージはありませんが……」
「まあ色々あって……表向きの理由は、シャーレに出向中のテストが受けてないことにされてたから、その分の補習かな」
「ほう……それはまた……お疲れ様です。ナギサ様もそろそろエデン条約が近しいことでより気が立っていらしゃるみたいなので、それもあるのかもしれませんね」
あなたがそれを言うのか? という強烈なブーメランを自らにぶっ刺すハスミちゃん。多分、一番気が立ってるのはあなただと思うけどなあ……
そうしていると、ハスミちゃんのスマホに着信が入った。
「……失礼します。もしもし、どうしましたか? は、暴れてる生徒がいる? どういうことですか?……ゲヘナ? まさか、エデン条約を邪魔しようと……! 許せません! 向かいます! 待っていてください!」
電話を切ると、ハスミちゃんはばっと椅子から立ち上がる。
「私達も行くよ」
「そうですか。それは心強いです」
”まあ、ちょっと大変なことになっていそうだしね”
先生は、少し困ったように眉を下げて、苦笑いしながら言った。
「じゃあ、早速向かいましょう!」
「その前に、パフェはいいの?」
机を見ると、一つは平らげられており、もう一つはきれいにまるまる残った状態でまだ置いてあった。
「む、むう……」
「もし持って帰るなら、お店の人に頼めば包んでもらえるよ。パフェだから。少し崩れちゃうかもだけど」
「ありがとうございます! では早速お願いしてきます!」
ハスミちゃんは、いいことを聞いたと言わんばかりの機嫌良さそうな顔で、店員さんを呼んだ。